きき酒 いい酒 いい酒肴 No.29『蒼い氷河の氷でオンザロック―パタゴニアのペレト・モレノ氷河にて』(機関紙2018年3月1日号/No.574号)
何万年もの歴史を刻む氷河。その氷で美味しいオンザロックを楽しめたら、どんなに素晴らしいでしょう。そんな夢をかなえるべく、日本の裏側、南米のパタゴニアに行きました。
パタゴニアは南北に連なるアンデス山脈を境に、チリとアルゼンチンの両国にまたがる南緯四十度より南の地域のことをいいます。面積は日本の二倍、域内には五十を超える氷河があり、秘境として世界的に知られています。年間を通して気温が低く風が強く、一九五〇年代にこの地に足を踏み入れた英国の探検家、エリック・シプトンは「嵐の大地」と呼んだそうです。大西洋と太平洋と南極、三方向からの強い気流の影響を受けています。
日本から十二時間かけて北米ダラスに到着。六時間の乗継ぎの時間を経て、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスまで十時間、その先の南極大陸に向かう船が出る港町ウィシュアイアに行ってから、マゼラン海峡を渡って陸路八百キロを移動。氷河ツアーやトレッキングの拠点となる南緯五十度の「エルカラファテ」という小さな町に到着しました。ここから、世界で三番目に大きい「ペレト・モレノ氷河」へ向かいます。参考までに、世界で一番大きい氷河は南極の氷河、二番目はアイスランドの氷河だそうです。
ペリト・モレノ氷河は、別名「生きた氷河」と呼ばれており、世界中の氷河がどんどん収縮していく中、珍しく崩壊と成長を繰り返している氷河なのです。あまりにも美しい澄み切った蒼い色に、皆、言葉を失っていました。アイゼンを装着して、いよいよ氷河トレッキングです。ところどころにクレバスがあり、信じられないくらい蒼い色の氷河の水が流れていました。雪山とは違う足の感触です。「大きな粒のかき氷を踏むような」といえば少しは近い表現でしょうか。想像よりも柔らかく、アイゼンが食い込んでいきます。風の大地としてはとても珍しい晴れた穏やかな天候で、美しい青空と氷河の蒼さが織りなされ、まさに絶景としかいえない風景が広がっていました。
氷河トレッキングの後は、ガイドさんがピッケルを使って氷河を割り、スコッチウイスキーで最高のオンザロックを作ってくれました。グラスの中で、太古の空気を閉じ込めて何万年も生き続けていた氷河の氷はどこまでも透き通っていて、陽の光に輝いています。
パタゴニアの大自然の中に、未来の地球を救うかもしれないヒントが隠されているそうです。強い風を利用した風力発電で、水から二酸化炭素を出さないエネルギー「水素」を作り出し、それを日本へ運ぶという構想があるそうです。水の惑星の地球の原子番号一番の水素。そのエネルギーが地球温暖化を防ぐキーワードの一つになるかもしれないのです。そんなロマンを感じながらの氷河オンザロックでした。
(協会理事/早坂美都)