きき酒 いい酒 いい酒肴 No.30『日本の醸造と食文化/切っても切れない「麹」の話~トゥールーズで考えたことあれこれ』(機関紙2018年5月1日号/No.578号)
東京で桜が満開だった2018年4月の初め、フランスのパリ、トゥールーズに行ってきました。パリではワインコンクールの審査員として、トゥールーズでは、日本酒の講師としてお役目を果たしてきました。昨年、日本酒学講師という資格をとったのですが、これは日本酒利き酒師をとってから3年以上経過、その間に蔵元実習やティスティングの講習などを受けてから、受験できるものです。年齢とともに、覚えが悪くなってきています。とても難しかった試験です。
講師になると、日本酒ナビゲーター講座という授業を任されます。今回、初の講師としてのお仕事は、なんとフランスのトゥールーズでした。
フレンチと日本酒の組み合わせは、東京でもさまざまなレストランでみることができます。料理との相性もそうですが、果たして日本独特の「麹」のことがどこまで伝えられるか、少々不安でした。
「麹」は大きく分けて「黒麹」、「白麹」、「黄色麹」に分けられます。味噌、醤油、酒をつくるのが「黄色麹」です。「黒麹」や「白麹」は、クエン酸を多く生成するので、気温の高い地域で泡盛や焼酎を作る時に使われることが多いです。
醸造とは、酵母によって糖分がアルコールと二酸化炭素に分解されることです。ワインを作るときには、もともと葡萄の実に糖分があり、皮に天然の酵母があるので、自然とアルコール発酵を始めます。しかし、米のデンプンは、そのままでは糖になりません。そこで、「麹」の力が必要になってくるのです。デンプンを糖に変えていくのが麹の役目です。蒸した大豆や米に麹菌を振りかけ、温度や湿度を適切に保つことによって、きれいに均一に繁殖するのです。まるで米や大豆が、緑や黄色の絨毯のようなふわふわの状態になります。
◆「枯れ木に花を咲かせましょう」
まさに、花咲か爺さんのお話しのようなことが起こるのです。
「分かりにくいかな」と思っていた「麹」の話を、受講生の方たちは一番興味深く聞いてくれました。日本食は、発酵文化の集大成のようなものです。味噌、醤油、味醂、日本酒、納豆など、すべて発酵食品なのです。「だから、チーズとも相性がいいのですね」と聞かれました。まさにその通りです。同じ発酵食品ですので、さらりとして香りが高いタイプの日本酒は、シェーブル(山羊)の熟成が浅いあっさりとしたものとぴったりですし、熟成が進んだモンドール(冬季限定の濃醇なタイプ)などは、熱燗にうってつけです。
トゥールーズでの講習では、日本酒とともに、日本食や素材の話がとても人気でした。この時、日本からは酒粕や味醂も持っていき、酒粕と使った料理や、味醂と屠蘇散を用いて、お屠蘇を作り、皆さんに味わってもらいました。フランスのシェフの方や、ワインラベルデザインの方たちにも、無事に「日本酒ナビゲーター」の修了書を手渡しして、今度はワインコンクールの審査のためにパリに向かいました。パリでのワインコンクールで感じたことなどは、次の機会にいたします。
(協会理事/早坂美都)