№284(2012年:1月1日号:512号6面)
交通費を全額支給として従業員を募集した。採用したところ通勤手当としてガソリン代を請求された。自宅と当院の距離は約1㎞で、スクーターで通勤したいという。支払うべきなのか。なお、当院には就業規則はなく、通勤手当について明確な規定はない。
ご質問のケースでは、2つの側面で考える必要があります。まずは雇用契約の点です。交通費を全額支給として募集し、かつ、就業規則等で通勤手当に関する制限を定めていなければ、原則的に従業員の申請に基づく交通費を支給する必要が出てくると考えられます。もう1つは税法上の扱いです。所得税法では、マイカーやスクーターなどの交通用具を使って通勤する場合、その距離が2㎞未満については、通勤手当を支給したとしても全額が課税対象となります(所得税法施行令第20条の2)。この趣旨は、足が不自由など特殊な理由がない限り、2㎞未満は通勤費用を要しない。すなわち、徒歩で通勤可能な範囲と考えられています。したがって、支給したとしても、全額が給与所得として課税されることが前提になります。以上の2点を考慮した上で労使双方が支給について話し合われたらいかがでしょうか。
距離2㎞未満の最寄り駅までバスや自転車で行き、電車に乗り換え通勤する場合、通勤手当の税務上の取り扱いで注意することはあるか。また、駐輪場を借りている場合には、通勤手当として支給しても問題はないか。
バスや鉄道といった公共交通機関を使用する場合は、距離に関係なく月額で10万円までが非課税交通費となっています。したがって、最寄り駅までが2㎞未満であったとしてもバスを利用した場合は課税されません。しかし、先の回答と同じく、最寄り駅までスクーターや自転車を利用した場合、その分について通勤手当を支給すると給与所得として課税対象となってしまいます(乗り換えた電車代については非課税)。また、駐輪場代金を支給した場合には、通勤手当とみなされますので、最寄り駅までが距離2㎞未満であれば課税対象となります。
距離2㎞未満の通勤交通費については、バス代は支給しなくて済むようにしたいのだが、どうすればよいか。バスの定期代を通勤手当として請求していながら、実は徒歩で通勤しているなどというケースもあると聞くが。
就業規則などでその旨を記しておく必要があります。また、雇用する上で面接時などに予定される通勤経路の確認や、距離2㎞未満については、徒歩を原則とすることを事前に伝える必要があります。通勤交通費の支給範囲を明確にしていない状態で雇用した後に、バス代の支給をめぐる問題解決の方法として従業員の承諾のないままに就業規則などを追加・変更すると、就業規則の不利益変更と判断される場合がありますのでご注意ください。