後発薬不祥事や毎年薬価改定に学ぶ必要/技工物などの安全性と報酬改定に備えよ【連載】私の目に映る歯科医療界②

国民の最大関心事は新型コロナワクチン

 現在の日本国民の最大の関心は、いつ新型コロナウイルスの感染症が収束するのか、自分にいつワクチン接種の順番が回ってくるのかだ。大阪などで、第四波ともいわれる感染拡大の動きが出ているだけになおさらだ。
 ただ、ワクチンへの盲信は禁物だ。どのくらい長くワクチンが効くか、副作用など安全性がどうなのかは、実際に多くの人に接種してみないとわからない部分があるのは確かだ。
 この原稿執筆時点では未確定だが、英アストラゼネカや米J&Jのワクチンで接種後に報告されている血栓の副反応と、ワクチンとの因果関係が疑われている。
 コロナウイルスの常だが、新型コロナでも変異しやすい問題もある。日本でも実際に英国型などの変異株が増えつつある。これが感染拡大やワクチンの有効性などに、どう影響を及ぼすのかも注目していくべきだろう。
 要するに、ワクチンが入ってきました、ハイ解決です…。とはいかないということだ。 
 医科もそうだが、歯科業界にもまだしばらく新型コロナ感染症の悪影響が残ることを前提に、経営や今後の対策を組み立てていく心構えが必要になる。

安全性と薬価が医科と製薬業界で問題化

 隣接する医科や製薬業界では、そうしたコロナ禍に加え、いま大問題になっているのが安全性と薬価の問題だ。
 小林化工に続き後発薬最大手の日医工が、承認された手順に違反した医薬品の製造・出荷を長年してきたことが相次ぎ発覚、業務停止処分を食った。小林化工では、その薬を使った患者から死者まで出ている。
 また、2021年は、薬価改定が2年に1回から毎年となった初年度にあたるが、その改定内容は、「ほとんど全面改定」といわれるほどの広い対象品目、引き下げ幅で決着し、今年四月に実施された。
 医療機関や製薬企業・卸会社にとっては経営への打撃も大きいだけに、敗北感も漂っている。

歯科も「対岸の火事」ではない

 ところで歯科は、後発品の安全性と薬価の問題は「対岸の火事」といいたいところだが、そうともいえない。
 後発薬の製造不正は小林化工など個別企業の体質問題に加え、厚生労働省の監査・監督の欠陥を露呈させた。海外工場にまで査察官が乗り込み、厳しい監査をする米国に比べ、日本の医薬品監査は甘い。査察官の数など陣容体制も貧弱だ。

歯科技工士問題にも関係あり

 歯科で気になる点は、前回も書いた歯科技工士問題だ。インレーやクラウンなど補綴物などは、事実上、大半が歯科技工士の匠の技になるものだが、その劣悪な労働環境や低い技工料、技工士全体人員の減少、歯科医師とのあいまいな契約も側聞する中で、果たして品質を確保できているのか、という点だ。
 思い過ごしならばいいが、厚労省がここでの品質問題にあまり注意を払ってきた気配がないのも気になる。技工物に限ったことではないが、歯科を受診する患者さんたちに、品質への意識向上が起き、問題が浮上することはありうる。
 転ばぬ先の杖、個々の歯科関係者のみならず、歯科業界全体としても注意を払ったほうが良いと、個人的には考えている。
 先述した製薬会社などにとり、厳しい結果に終わった中間年薬価改定は、ひとり厚労省のみならず、日本政府のほぼ総意(ついでにいえば、財界・保険支払側が応援団)だ。医療費抑制にギアを入れる姿勢を鮮明にしたことにほかならない。

歯科診療報酬の「2年に1回改定」の保証はない

 これは、来るべき歯科診療報酬の改定でも出てくると考えるべきだ。薬価が毎年改定される中、医科や歯科の診療報酬だけが従来のまま2年に1回で済む保証は、どこにもないだろう。

最悪な状況を前提とした対策立案が必要

 少なくとも、最悪のシナリオを前提にした対策は怠らないほうが良い。薬価改定での製薬業界の轍を踏まないためにも、与野党の国会議員などへの働きかけは強めるに越したことはないが、それだけでは不十分だ。
 もし、歯科業界が「安すぎる診療報酬」と考えるならば、国民にその根拠と、引き上げた場合のメリットを理解してもらい、支持を得る運動を用意周到に準備しておく必要がある。

筆者:東洋経済新報社 編集局報道部記者 大西 富士男

(東京歯科保険医新聞2021年5月号10面掲載)