◆歯科医療界が自ら変革の風を起こす時に来た
歯科医師数の過剰はマスコミがこぞって取り上げるテーマだが、地域偏在の問題については、これまであまり触れられることはなかった。そのような中、「日経新聞」の2019年4月29日~30日の朝刊で「医師偏在是正できるか」という記事が上・下2回にわたって掲載された。
主に医科系にスポットを当てる内容だが、上編を担当した印南一路・慶応大教授(専門は医療政策)が歯科系の問題にも次のように言及している。
「歯科医師数は一般医師に先行して長い間、全体数で過剰であり、地域偏在は一層著しい状態が続くが、新規開業は首都圏と近畿圏になお集中している。開業に当たり患者が来るかどうかの不安を抱え、子弟の教育環境や自分の生活の質を考えれば、人口の多い都市部に新規開業が集中するのは自然だ」。
◆小児歯科が少ない沖縄
厚生労働省による「医師・歯科医師・薬剤師調査」の集計データを用いて、さらに詳しい分析をしているのは、厚生労働統計協会が発行する月刊誌「厚生の指標」の2017年2月号だ。
「診療科別歯科医師の地域偏在」と題し、一般歯科、矯正歯科、小児歯科、口腔外科それぞれについて比較検討を行っている。
人口10万人対一般歯科医師数(2014年、以下同)がもっとも少なかったのは福井県。一方、もっとも多かったのは東京都で、2.2倍の差があった。矯正歯科は最少が青森県、最多が東京都で6.5倍。小児歯科は最少が沖縄県、最多が福岡県で9.2倍。口腔外科は最少が埼玉県、最多が新潟県で2.7倍だった。同誌は、歯科医師数が多い都道府県は歯科大学(歯学部)があるところだったと分析している。
これらの結果の中で気になるのは、格差がもっとも大きかった小児歯科。しかも、最少が「子どもの貧困問題」が顕在化している沖縄県だったことである。歯科医師はそうした地域を敬遠していると、世間の目には映るのではないだろうか。
◆行政と業界の団結を
では、どうすればいいのか。以前と比べて、決して経済的に恵まれているとは言い難い歯科医師たちが、自身の生活を真っ先に考えたとしても、誰も責めることはできない。個人に責任を押しつけるレベルではないのである。やはり、行政と業界が一致団結することが不可欠なのだ。
医科系では2004年に新しい臨床研修制度がスタートするなど、大きな変革が起こっている。普段は反目し合う与党の坂口力厚労相(当時)と、共産党の小池晃参院議員がタッグを組んだ結果だった。2人とも、もともとは医師である。
◆このままでは子どもたちが不幸に
歯科医療界でもそろそろ、変革の風を自ら進んで起こす時が来ている。ずるずると後退していたら、歯科医療を必要とする幼い子どもたちまで不幸になってしまう。そうならないためにも、強い信念と行動力を持ったリーダーの登場が望まれるのである。
【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。