今回は、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいことを紹介させていただきます。
(1)保険診療には「算定ルール」が存在すること
保険診療においては、療養担当規則、診療報酬点数表に係る算定告示、留意事項通知、疑義解釈資料に示されたいわゆる「算定ルール」がありますので、それに従う必要があるとともに、その内容は改定されることも多いので、日頃よりご確認いただければと考えております。
特に、歯科診療報酬点数表は、個々の診療行為ごとに細かい要件に加えて算定単位が設定されています。なお、算定単位や算定回数は診療行為によって異なりますので、「算定ルール」として示されている、例えば「1歯につき」「1顎につき」「1口腔につき」「月1回に限り」などのルールを良く確認した上で請求することが重要ですので、よろしくお願い申し上げます。
また、支払基金では審査の透明性をより高めるため、審査における一般的な取扱いについて「審査情報提供事例」として取りまとめ、支払基金のホームページで公表しておりますので、これも参考にしていただければと思います。
(2)医薬品には適応疾病が定められていること
審査にあたっては、医薬品の処方について、医薬品添付文書に記載されている効能、または効果の欄の適応疾病との不一致が問題視されます。特に、ジェネリックも普及しているなかで、有効成分が同じでも、効能又は効果の適応疾患が異なることが多々あり、歯科医学的には効果があり妥当性があっても、保険診療では適応外と審査されることもあり得ます。そのため、医薬品の添付文書は今一度良くご確認をお願いできればと思います。
(3)「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な診療行為は請求内容が認められない場合があること
本来、個々の患者の病態や個人差などによって診療内容はバリエーションがあるはずにも関わらず、ある特定の歯科医療機関では他の歯科医療機関と比較して、「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な処置の実施などが際立つ場合などがあり、「返戻」を行ない、その妥当性を確認したうえで、請求内容が認められないことがありえます。
(4)提出されたレセプト からの情報で審査が行われること
審査委員は、提出されたレセプトに記載された情報のみで審査を行っており、カルテに記載されている個々の診察の詳細がわからない状況にあります。審査は同じ専門性をもつ歯科医師によるピア・レビュー(同僚評価)ですので、個々の患者の口腔内の状況に合わせた診療かどうかを「症状詳記」という形でご提出いただくことで、妥当性を認めることがあります。
(5)審査委員は、診療側と支払側との板挟みになっていること
査定に関しては、「一連」や「同一部位」といった文言などの厚生労働省の定めている一部の算定ルールに曖昧さがあることなどが、診療側(歯科医療機関)と支払側(保険者)との間で常に問題となっています。
支払側(保険者)は、歯科医学的な知識や経験を必ずしも持ち合わせていません。そのため、支払側の再審査請求は、文書等に記載されたルール等との整合性について厳密さを求める傾向にあり、審査委員が苦労されることが多いことにご理解をいただければと思います。
次回は、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について、紹介させていただきます。
山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事
やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。