どう考えても非合理ふしぎな消費税/医療費が非課税となった背景
外から見ると、医療界には理屈に合わない非合理的なことがまかり通っています。米国式医療の沖縄県立中部病院で腹部手術のガーゼ交換の話を聞きました。
患者の回復を遅らせるとわかり、すでに米国では30年も前にやめたのに、日本の病院ではまだやっているというのです。似たような話を集めて1999年秋、連載「ふしぎの国の医療」を始めたところ、十数回の予定が62回にも延び、1冊の本になってしまいました。日本では昔、偉い先生が決めたことを下の先生はなかなか変えることができないのです。
非合理の代表「消費税」もこの連載で取り上げました。89年の3%から始まり、97年の5% 、2014年の8% と上昇中です。消費税は一定のルールで、買う人が払う税金です。医療を買うのは患者ですが、国は患者の支払いを増やさないためとの名目で医療費を非課税にしました。今でもそうですが、なぜか医療費を決める時の窓口は日本医師会なのです。 実は、当時の医師会の担当理事は消費税の仕組みを全く知らずにこれを了承。
その結果、医療機関が薬や器具、材料などを買う時に上乗せされる消費税は病院や診療所が負担することになり、診療所では年100万円単位、病院では1千万円から数億円単位の減収になり、増税のたびに増えます。
財務当局は常に医療費の切り下げを要求しますが、医師会は応じず、いつも最後は政治決断でした。そのしっぺ返しの意図もあったようで、当時の大蔵省は予想される負担増を医師会に伝えず「医療費を非課税にした」と思われます。診療所よりも負担が大きい病院は大蔵省からも医師会からも特に説明を受けていませんでした。
消費税は国内売買なので輸出品は非課税です。しかし、輸出企業が負担した消費税は国税庁が払い戻しする「戻し税」の制度ができています。医療機関とはえらい違いです。
さて、その後の対応です。厚生労働省は診療報酬の改定のたびに、一部の報酬に色を付けて消費税分を補填したと称する政策をとってきました。私はそれで医療界が妥協したのに驚きました。薬品などの購入額は医療機関で違い、払う消費税額も違います。建築費にも消費税がかかりますが、病棟を新改築した病院とそうでない病院では大変な差です。公平で損得なしなら払った税額を個々に払い戻すしか解決法はないはずです。
税務当局はおそらく戻し税に絶対反対でしょう。医療機関は数が多すぎ、事務量が増え、チェックも困難です。大きい声ではいいにくいですが、それをいいことに、買っていない器具、していない工事の領収書などを揃えて消費税を水増しし、不正請求するような医療機関が考えられます。
結局は医療費にも消費税をかけ、チェックを厳しくするしかないかも知れません。
医療ジャーナリスト 田辺功
「東京歯科保険医新聞」2016年12月1日号6面掲載
【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。