医科系メディアから見た歯科医療界① 逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

医科向けの医療情報誌の編集をしているが、数年前から貴会のメディア懇談会に参加している。事務局の方からこのほど、貴紙への執筆を依頼された。歯科は詳しくないとお断りしたが、自由に書いて良いとのことで、お引き受けした。

編集長として携わる「集中」でも、医療だけでなく、政治・経済・社会分野の記事も載せており、広い視野で歯科医療から歯科医療界、そして貴会を見てほしいとの意図と受け止めている。

取材者側にとり、懇談会スタイルは通常の記者会見と異なり、本音を聞けるのが良い。貴会のメディア懇談会と同様、病院団体では日本病院会の記者懇談会が病院経営の苦労や医療人自身が考える医療政策の問題点などが分かり、記事の企画や内容を深めるのに役立つ。

◆欠かせぬ国民の理解

単なるストレートニュースのような記事だけでは、一般の人たちに病院経営者や医療人の問題意識や苦悩まではなかなか伝わらない。医療政策が政治的な思惑で左右される中、業界としては国民の理解を得ることが欠かせない。貴会や日本歯科医師会でも一般向けに情報発信やイベントを行っているが、国民の中には過去のイメージにとらわれている人が少なくない。例えば、日本医師会に対しては、「喧嘩太郎」の異名を取った武見太郎氏や圧力団体としてのイメージ。日歯に対しては、日本歯科医師連盟事件に象徴されるイメージだ。

◆歯科に望ましい状況が

そんな中、歯科医療界にとって望ましい状況が起きている。顔を見せないボーカルグループ「Greeeen」の代表曲「キセキ」の誕生秘話を描いた映画「キセキ」の大ヒットだ。メンバー4人が歯科医師ということで観に行った。人気若手俳優の出演もあり、映画館内は若い女性やカップルが多く気が引けたが、単なる青春ドラマやグループの成功譚でなく家族の物語でもあり、中年男の胸をも打つ内容だった。ちなみに、メンバーが顔出ししない理由は、歯科診療の障害にならないため。リーダーは東日本大震災時、被災遺体の身元確認に貢献している。「キセキ」は、ぴあ映画初日満足度ランキングでトップになり、上映館も拡大中だ。

2014年3月、北海道の農業高校を舞台にした学園漫画「銀の匙」の実写映画が公開された際、農業高校の志望者が急増した。「13歳のハローワーク」の人気職業ランキングでは、歯科医師は100位に入っていないが(医師は7位)、「キセキ」のヒットが歯科医療界と歯科医師の人気につながる可能性は高い。しかし、業界団体が歯科医療界の印象に疑問符を打たれるような状況を招く一方で、商業映画が結果として業界のイメージアップに寄与するのは皮肉だ。

 

筆者:元 月刊「集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201731日号6面掲載