A DANGEROUS METHOD~危険なメソッド~
2011年 イギリス・ドイツ・カナダ・スイス/デヴィッド・クローネンバーグ監督
「私は君を担当するユングだ」
「精神病じゃないわ」
映画はフロイトとその後継者と目されていたユングとの決裂がどのようにして起きたのかを解明しようとするサスペンス作品です。 舞台は1904年、チューリッヒのブルクヘルツリ病院。
29歳の精神科医ユングは、フロイトの「談話療法」を運び込まれた「統合失調症」の若いロシア系ユダヤ女性を治験します。
「毎日君の話を聴こう」
「1、2時間だ」
「聴くだけだ」
フロイトの談話療法(精神分析治療)は、意識の下に眠っている抑圧された性的な願望や激しい感情、道徳観に背く考えを患者自らの自由連想で見付だし、それを言葉に出せば、病気は改善方向に向かうというものです。一種のカタルシス(解除反応、浄化)療法です。
「4歳くらいの時、お皿かなにかを割って」
「父親は怒って、お尻を叩いたわ」
「すごく怖くておもらしをしたら」
「またぶたれたわ」
「それに興奮し、とても気持ちよかった」
女は幼少期の体験を吐露し、意識下にあつた性的トラウマを引き出すことに成功します。この解除反応のあと、彼女の統合失調症は劇的に治癒していきます。
一方、映画では、ユングが自分が編み出した言語連想実験で妊婦の深層の心理を探ろうとする実験映像を見せてくれます。
連想実験は簡単な単語を用意し、性的単語に対して「男」などと被験者に連想してもらい、応答にかかる時間の測定をします。
「夫の関心を失うのを恐れている」などの深層心理を引き出します。
元精神科医で患者のドクター・グロスはユングに乱暴な提案をします。
「一夫一婦制が性の抑制の片棒をかついでいる」
「思うがままに快楽に身を委ねろ」
「そうすれば神経症もヒステリーも治る」
そしてドクター・グロスはユングに尋ねます。
「患者と寝たことは?」
ユングはグロスの提案を取り込んで、医師と患者の一線を超え、この医者志望のロシア女患者と秘密の情事を重ねてしまいます。
貞淑な妻よりもはるかに魅惑的な患者との危険なメソッドに囚われ、欲望と罪悪感の狭間で激しく揺れ動きます。
フロイトはユングに警告します。
「神秘主義に迷うのは危険だ」
ユングもフロイトに反発します。
「なんでもかんでも性衝動一辺倒では幅が狭い」
フロイトとユングの決裂にはふたりの理論の違いが大きいが、他にも違いが対比的に描かれます。
フロイトは小柄でアパート住まい。八人の子供。貧しいユダヤ人。ユングは長身で大富豪の家柄。レマン湖畔の豪華な家。赤い帆のヨット。豊かなアーリア人でした。
この映画は名優たちの演技の気迫が見るものを圧倒し、フロイトやユングを身近かなものにしてくれます。
(協会理事/竹田正史)