きき酒 いい酒 いい酒肴⑤/上面発酵と下面発酵 和食にラガーは合わせにくい?
ラガーというのは、大手メーカーのビールの商品名ではありません。「貯蔵する」という意味で、下面発酵ビールのことをいいます。
ビールを作る時に、必ず必要なのがイーストという菌ですが、その活動できる温度帯や副産物によって、味わいが違ってきます。
ラガーイーストは下面発酵酵母で、4~10℃で活動し、発酵が進むにつれて発酵タンクの下に沈んでいきます。エールイーストは上面発酵酵母で、16~21℃の温度帯で活動し、発酵中に表面に浮かび上がってきます。
歴史的にみていくと、紀元前6000年ほど昔、自然に浮遊していた野生酵母を使った上面発酵のほうが先です。下面発酵酵母の発見は15世紀になってからです。
下面発酵酵母のビールをラガーといい、日本のビールの主流になっていますが、実は案外和食に合わ ないのです。
ラガーには硫化化合物が含まれることが多いのです。そして、醤油にはさまざまな旨味成分のひとつに、メチオノール(硫化化合物)があげられます。そして、生魚にもメルカプタンや硫化水素が含まれています。お刺身に醤油とラガービール…。硫黄臭が増強されてしまうのです。
大豆製品も案外、相性がよくありません。ビールに枝豆は定番ですが、青臭く感じたりしやすいです。
「じゃあ、何が合うのですか?」
ということになりますが、エールがぴったりします。エールビールには、副産物として硫化化合物はほとんどありません。わりと手に入りやすいのは、ヒューガルデンというベルジャンホワイトエールです。エールのもつフルーティな香りや乳酸が、醤油のもつ旨味成分とぴったり合ってくるのです。「ラガーと枝豆」よりは「エールと枝豆」がぴったりです。
実は、和食におすすめなのは上面発酵ビール。でも、これも各自の好みなので、和食のときにラガーとエールと、どちらがマッチするか、飲み比べてみるのも楽しいのではないかと思います。
(早坂美都/通信員/世田谷区)