きき酒 いい酒 いい酒肴⑨/江戸の地酒 豊島屋「金婚正宗」「屋守」
東京の地酒、というと、何を思い浮かべるでしょうか。
現在、東京都酒造組合には10軒の蔵元が登録しています。その中でもお気に入りが「金婚正宗」「屋守」を代表銘柄とする、東村山市の豊島屋さんです。私が所属している「女唎き酒師軍団」では豊島屋さんにお力を借りて、年に3回「軍団酒」なるものを出荷しています。限定品なので、店頭で見ることはほとんどないかも知れません。先日、豊島屋さんの酒蔵へ、冷おろしの瓶に軍団ラベルを貼る作業に行ってきました。作業のあと、蔵見学させてもらい、モロミ発酵の勢い、蒸しあがったばかりの酒米の奥深い旨みを楽しみました。
豊島屋さんが発祥の江戸文化には、鏡割りや蕎麦と酒の組み合わせがあげられます。
豊島屋さんの歴史の始まりは、関ケ原合戦(1600年)以前にさかのぼります。慶長元年(1596年)初代豊島屋十右衛門は、神田・鎌倉河岸(現在の神田橋付近)に「豊島屋」の屋号で酒屋兼居酒屋を始めました。これが豊島屋本店創業に当たります。時代は豊臣秀吉から徳川家康へと政権が移ったとき。全国から集まった武士や商人、職人たちで江戸が活気を帯び始めた頃です。
結婚式やお祝い事で行われる「鏡開き」もその始まりは豊島屋さんです。当時としては、相当斬新なアイデアだったのではないでしょうか。現在でも「金婚」の名前が入った樽はよく使われます。
また、当時の江戸っ子に人気だった蕎麦に酒を合わせることを勧めたのも豊島屋さんだといいます。蕎麦にふくまれるルチンという物質は有名ですが、良質なたんぱく質とナイアシンも豊富なのです。酒と一緒に楽しむことで、胃壁を守ってくれますし、なにより蕎麦の歯ごたえや歯触りなど物理的要素と酒のもつ旨味が合うのです。豊島屋さんはこのふたつの組み合わせを江戸で最初にすすめたせいなのか、今でも豊島屋さんのお得意先には蕎麦屋さんが多いのです。私のお気に入りの蕎麦屋さんにも、「屋守」が置いてあります。
豊島屋さんのお酒は、「鬼平犯科帳」「銭形平次」など人気時代小説にもさまざまな場面で取り上げられており、江戸文化の一つといってもいいでしょう。そして、「金婚正宗」は、明治神宮や神田明神、日枝神社の御神酒として使用されています。素晴らしいですね。蔵見学も予約すれば快く引き受けてくださいます。酒蔵で映画会なんて企画もあります。
東京の地酒めぐり、というのも、休日の楽しい過ごし方だと思います。
(早坂美都/通信員/世田谷区)