交通手段と交通費支給対象はどこまでか

№265:2011.6.1:492号

質問1

人身事故により交通機関が止まってしまった従業員が、タクシーで出勤した。そしてタクシー代の支払いを要求された。従業員は、「診療に影響を与えないためにタクシーを使った」と説明している。その費用は診療所が払わなければいけないのか。

従業員が自主的にタクシーを利用した場合は、原則的に負担する義務はありません。しかし、今回のケースは、「診療に影響を与えないためにタクシーを使った」とのことです。そこで考えなければいけないことは、もし、その従業員が遅れたことで、明らかに被害が発生する場合は、そのタクシー代は診療を行う上での必要な費用であったと考える必要があります。このような状況から生じたタクシー代は、診療所で負担することが望ましでしょう。しかし、今回の対応を機に、日頃からタクシーの使用が横行しても困りますので、診療所の中でタクシー使用のルール作りをした方が良いでしょう。
その際の留意点としては、タクシー使用の判断は、診療所長が行うこととし、事前許可制にすることが望ましいでしょう。

質問2

従業員が自宅以外のところから出勤してきた。このような場合、「通勤」に該当し、その分の交通費を支給する必要はあるか。

通勤とは労働法上、就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法により往復することをいいます。
一般的に「住居」とは「自宅」を言いますが、親の介護等でやむを得ず実家に戻ったり、交通機関のストライキでホテルに宿泊したりするような場合の実家やホテルも「住居」に含まれます。したがって、これらの住居から出勤した場合は、通勤に該当するため交通費は支給をすることが望ましいといえます。
ただし、前の質問と同じく、事前許可制とすると良いでしょう。

質問3

求人広告誌に「交通費を全額支給」と記載して従業員を募集した。面接等を行った結果、学生を歯科助手として雇うことにした。診療所は通学経路の途中にあり、通学定期で通うことができるが、それでも交通費は支給すべきか。

募集要項として「交通費を全額支給」と記載していたのですから、通学定期を持っていたとしても支給する必要があります。また、これは実際に診療所で運用している就業規則の記載の如何に関わらず、全額支給の義務があります。
ご質問のケースの場合、先生と従業員が話し合い、双方が合意した上であれば、交通費を支給せずに、通学定期を利用してもらうことが可能になりますが、募集要項と労働条件が変わりますので、あらためて文書による交通費の取扱いを通知する必要があります。くれぐれも、ご注意ください。