№283:2012.11:510号
質問1
当医院ではマイカー通勤を禁止しているが、足のケガをきっかけにマイカーによる通勤が常習化した勤務医がいる。先日、この勤務医が通勤途中に事故(加害者)を起こした。このような場合、通勤災害と認定されるのか。また、診療所が損害賠償責任を負うことはあるか。
まず通勤災害の認定について説明します。就業規則などでマイカー通勤が禁止されているにも関わらず、勝手にマイカー通勤して交通事故に遭った場合、そのマイカー通勤という通勤方法が、客観的に合理性ありと認められれば、通勤災害として労災認定されます。認定の可否については、労使間の労働契約内容に影響されません。つまり、マイカー通勤が就業違反だとしても、労災認定の判断基準の要素とはなりません。
次に、診療所の損害賠償責任について。この件では、診療所が損害賠償責任を負う根拠となりうるのは「使用者責任」(民法第715条)が考えられます。使用者責任は、「他人を利用する者」(使用者)が「被用者がその事業の執行について」第三者に損害を加えた場合、使用者が損害を賠償する責任がある―とするものです。この件では、診療所と勤務医の間に使用関係はありますから、勤務医が事業を執行するにあたって加えた損害といえるか否かが問題となります。
訪問診療などのため、診療所が勤務医に対してマイカーの業務利用を指示するなど、医院が従業員のマイカーを積極的に使用させていた場合、通勤中の事故であったとしても、医院は損害賠償責任を負わされる可能性があります。本来、通勤という行為自体は仕事ではありませんが、この場合の通勤という行為は、マイカーを業務に利用するために、医院まで運搬している行為とも考えられます。マイカーは通勤に利用するだけで、業務利用をしていない場合は、従業員の通勤中の事故に関して診療所には損害賠償責任はありません。
質問2
時折、自宅以外の某所から出勤してくる従業員がいる。その際に通勤災害が起こってしまった場合、労災認定されるか。
通勤とは、就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法によって往復することをいいます。また「住居」とは、一般的に「自宅」をいいますが、通達では、親の介護等でやむを得ず実家に戻ったり、台風などの事情により住居以外の場所に宿泊する場合は、やむを得ない事情により一時的に居住の場所を移していると認められています(昭和48年11月22日基発644)。
したがって、そのような状況のもとで起こった場合は、通勤災害として認定されることになります。しかし、友人宅などで一夜を過ごし、そこから早朝、直接に出勤した場合などは、労災認定されません。
なお、一時的な住居から通勤した際の交通費については、労基法上の支払義務はありません。