理事会声明
「評価できるが、安心・安全な歯科医療提供には総額拡大が不可欠」
今次診療報酬改定は、団塊の世代が後期高齢者を迎える2025年に向けて地域包括ケアシステムを構築するため、医科に加え歯科・薬局の「かかりつけ機能」を新たに評価した。
歯科においては、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」の施設基準を設け、「地域完結型歯科医療」として子供からお年寄りまで生涯にわたる長期管理を担う役割を規定した。う蝕に対してはエナメル質初期う蝕フッ化物歯面塗布、歯周病に対しては対象の拡大と歯周病安定期治療(Ⅱ)、在宅の患者には在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料が新設された。しかし、多くの点数が包括化されたため、見かけ上高点数となった。施設基準は11項目と厳しい内容であるため、届出を行える歯科医療機関は限られたものとなり、十分に機能するかが危ぶまれる。
また、この歯科診療所の機能分化の狙いが進めば、初・再診の問題と患者の囲い込みとしてのヨーロッパ型の登録制導入が危惧される。
改定率は、本体が+0.49%、薬価及び材料価格が-1.33%のなか、歯科は+0.61%とされた。改定率に対し「口腔疾患の重症化予防・口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の充実」の項において、日常臨床で行われる基本技術が多くの項目で少ないながらも点数が引き上げられたことや、少なくない項目で臨床の実態に適応した運用に見直しがされたことなどは評価できる。また、関係学会から提出される医療技術評価提案書による保険収載や再評価が進んだことは今後への足掛かりとして重要である。しかし、歯科疾患管理料の文書提供を切り離した10点は影響率0.6%であり、引き上げ幅と同等である。必要に応じた文書提供は、患者の現状認識・治療への理解・行動変容に有用であり財源調整の道具とすべきではない。
訪問歯科診療においては、外来診療以上に機能分化が図られた。歯科訪問診療料3は大幅に引き下げられ、訪問専門の診療所も解禁された。代わりに在宅で行われる歯科訪問診療料1は算定用件が緩和され、外来診療を中心に行いそれに加え訪問診療を行うスタイルの診療所にはインセンティブが働くと思われる。しかし、訪問診療を行う医療機関に「歯科訪問診療を行った患者数の割合」が95%未満であるかの届出を義務付けたのは誠に遺憾である。この施策が現場に混乱をきたし、在宅患者に必要な医療が提供されない事態を招かないようにしなければならない。
2015年改定の消費税引き上げ分を除く+0.12%に比べ+0.61%とされたことは大きいが、この引き上げは、1歯科医療機関あたり月2万円ほどの増加にすぎない。中医協調査で今年度は前回に比べ所得が増えたこととなっているが、その実態は人件費・設備投資・技工料を削減した結果であり、歯科医療が危機的な状態であることには変わりはない。協会は引き続き総額拡大を求める運動を推進してゆくものである。
2016年3月10日
東京歯科保険医協会 第22回理事会