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マイナンバー制度で歯科医療機関はどうなる?/機関紙2015年8月1日号(№545号)より
≪協会顧問税理士 荒川俊之監修≫
◆そもそもマイナンバー制度とは?
質問① そもそもマイナンバー制度とは何か。
回答① 国民一人ひとりに、唯一無二の12ケタの個人番号(マイナンバー)を付番して、行政上の業務において個人を識別させるものです。また企業・官公庁などの法人には13ケタの法人番号を付番します。このマイナンバー準備手続きとして2015年10月以降に住民票がある住所の各世帯にマイナンバーの「通知カード」が郵送されます。通知カードには「氏名」「住所」「生年月日」「性別」「マイナンバー」が記載されます。なお、2016年1月からこの制度の利用が開始される見通しです。
質問② この制度の目的は何か。
回答② 政府は①行政運営の効率化、②公平・公正な社会の実現、③国民の利便性の向上―と説明しています。具体的には、①行政機関や地方公共団体において情報の照合、転記、入力等の手間が削減され国民に対してこれまで以上に対応する時間がとれる、②個人番号により、所得や行政サービスの受給の状況を把握しやすくなり、不正を排し、適正な課税やサービス受給につながる、と説明しています。このほか、「2017年1月から行政機関が保有する自己の情報を確認でき、自己に合ったサービスのお知らせを受け取ることができる」、という説明もしていますが、正式には現時点で未定です。
質問③ どういった場面でマイナンバーが利用されるのか。
回答③ 現段階では「社会保障」「税」「災害対策」の3分野に限定しています。また政府の説明では法人番号はマイナンバーと違い、誰でも自由に利用でき、例えば取引先情報の登録や更新作業の効率化、取引きでの添付書類の削減で事務効率が良くなるとしています。
◆ 秋以降に歯科医療機関で何が起きる?
質問④ 医療機関にはこの制度がどう関わるのか。
回答④ 現段階で最も大きな影響は、従業員の税務や労働保険・社会保険の手続きの書類に従業員の個々のマイナンバーを記載することが義務付けられていることです。そのため、パートやフルタイムを問わず従業員のマイナンバーを「取得」することがまず求められています。なお、従業員本人だけではなくその方が扶養している家族分も含めて取得します。
質問⑤ 個人立の医療機関で税務関係の書類を税務署に提出する際に院長(個人事業主)個人のマイナンバーを記載する必要はあるか。
回答⑤ 個人事業主の場合、事業主ご自身の確定申告書類には記入が必要ですが、それ以外には記載する必要はありません。
質問⑥ 従業員からマイナンバーを教えてもらうだけなら、簡単なのではないか。
回答⑥ 先生(事業主)が取得したマイナンバーが間違いなく従業員本人のものであるという本人確認が必要とされています。具体的には通知カードだけではなく運転免許証やパスポートなどで間違いなく本人のマイナンバーであることを確認するというものです。さらに、歯科医療機関を含めた事業者は法律上、「個人番号関係事務実施者」と位置付けられ、安全管理措置を行いながらマイナンバーの事務を行うのです。つまり「マイナンバーが絶対漏れないような対策を講じなさい」ということです。先生はマイナンバー取得のほか「利用提供」「保管」「廃棄」まで行うとされています。また、正当な理由なく特定個人情報ファイルを外部に提供した場合は「4年以下の懲役、または200万円以下の罰金(またはその併科)」という非常に重い刑罰が科されます。先生方は非常に大きな責任を負わされていると言わざるをえません。
質問⑦ マイナンバーの「利用提供」「保管」「廃棄」とは何か。
回答⑦ 税務署などの関係官庁に書類を提出する際にマイナンバーを記載することを「利用」といいます。この際に注意が必要なのが、目的外利用ができないことです。すなわち「回答③」でご紹介した「社会保障」「税」の手続きに限って利用できるわけであり、マイナンバーをそのまま従業員番号として利用するなどはできません。また「保管」に関しては、マイナンバーなどの個人情報を実際に取り扱う「事務取扱担当者」やそれを監督する「責任者」の選定が義務となっています。さらにマイナンバーが記載された書類をカギ付きロッカーに保管する、パソコンに入力する際は作業する場所が間仕切りやディスプレイに覗き見防止ガードを付けるなどの措置を講じなければなりません。また、利用目的が終了または法定保存期限(税務書類はおおむね7年)が来たら必ず廃棄するなどの措置が必要です。こうした措置についてかかるコストは、各事業所の持ち出しとなっています。
質問⑧ 当院は顧問税理士に税務を委託しているため関係ないのでは。
回答⑧ 税理士に委託する場合でも院長が委託先を監督する責任がありますのでご注意ください。
質問⑨ 当院は従業員を雇用していないが、関わりがあるか。
回答⑨ 講演会の講師や原稿執筆で報酬を受け取る先生は自身のマイナンバーを報酬の支払い者に伝え、その支払い者が先生の本人確認を行うことになります。