第17回 コロナに強い医療制度はどこにあるか?

【各国の医療システム運営の違いで長・短所が如実に】

新年早々、首都圏の四都県に「緊急事態宣言」が再発令されました。「このままでは医療崩壊が現実化する」という危機感が医療従事者の間で共有されていますが、「なぜ、はるかに感染者数が多くて病床が少ない他国で、医療崩壊が報じられていないのか?」と疑問を呈する意見も見られます。なぜ、日本は危機的な状況に陥ったのでしょうか。

◆病床の割り振りが難しい背景には

地域によって、「コロナ患者を収容する病床が不足している」と連日報道されます。周知のように、コロナ前の日本では、病床の偏在、過剰が問題になっていました。

しかし、余っていると思っていた病床の多くが、肝心な時に使えないことが分かったのです。中小病院や精神科病床が多い日本では、コロナ禍に即応する機能を持つ病床が限られていたことが問題だとされています。

これに対して、歴史的経緯から公的機関や慈善組織が所有する病院が多いアメリカや、ほとんどの病院が国営医療のNHSで運営されているイギリスでは、緊急事態での政府との連携が図りやすく、病床の割り振りが効率的だったという側面は無視できません。

かといって、「だから日本はダメなのだ」という話にはなりません。病床配分が効率的な欧米のほうが、民間病院主導の日本、韓国、台湾などよりも、コロナ対策の面で成功してい

るとは、到底、言えないからです。

今回のコロナ禍で、「日本の弱点が露呈した」と言われていますが、日本に限らず「医療先進国」といわれる国々が予期せぬ感染症に脆弱だったことは否めません。

すでに指摘(第9回)したように、日本を含めた先進国の公的医療システムが、NCDs、高齢化といった課題に対応してきた反面、ややもすると感染症を「過去の病気」かのように

軽視してきたためだと言えます。

結果、コロナ禍のような緊急事態で、医療提供が逼迫する事態となりました。

かくいう私も、がんの再発に備えて定期的な検査を受けていますが、常に「病院機能がマヒしたらどうしようか?」と、コロナ感染以外にも不安を覚える毎日です。

◆かかりつけ医制度とコロナ禍

一方、「かかりつけ医(歯科医)機能」とコロナ対策を関連づける意見もあります。強制力のある「かかりつけ医制度」がない日本は、効果的に感染者を隔離・収容するシステムが上手く機能しなかったとの批判です。

日本では、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」に代表されるように、一部の医療機関が届出をして保険制度上の優遇を受けられるようになっていますが、地域住民のすべてが決められた歯科診療所を受診することを強制されるわけではありません。

これに対して、かかりつけ医が医療制度にビルトインされている欧州諸国では事情が違います。

スウェーデンやイギリスといった、税金を主な財源とする公的医療システムの国の場合は、地域住民すべてが決められた「かかりつけ医」(家庭医)を通さないと、公的医療を受けられない仕組みです。

患者さんの選択肢は狭まりますが、かかりつけ医が地域の状況を把握しやすいメリットがあるとされます。しかし、「かかりつけ医制度がコロナを防いだ」とする信頼性の高いエビデンスはありません。

医療経済学者の二木立氏(日本福祉大名誉教授)は、70歳以上で8割もの人がかかりつけ医を持っていることに着目(日医総研、2020年10月調べ)。強制力のある制度がなくても、人々が必要に応じてかかりつけ医を見つけていることから、安易に「かかりつけ医制度が未整備だ」と、日本の弱点のように考えるのを戒めています。

このように、公的医療システムの問題点は、「簡単に結論の出る話ではない」、ということでしょう。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。