教えて!会長!!

【教えて!会長!! Vol.58】F局の適用拡大

― 今次改定でF局の対象が変更になりました。

坪田有史会長:「エナメル質初期う蝕(傷病名:Ce)」は改定前からの変更はありませんが、う蝕多発傾向者(傷病名:C管理中)の対象年齢が引き上げられ、判定基準が緩和されました。したがって、う蝕多発傾向者に対する指導である「フッ化物洗口加算(F洗)」の対象年齢は、「4歳から13歳未満」が「4歳から16歳未満」となりました。また、「フッ化物歯面塗布処置(F局)」の対象年齢も、「0歳から13歳未満」が「0歳から16歳未満」に引き上げられました。F洗、F局ともに乳歯や萌出直後の永久歯のう蝕抵抗性を高め、う蝕予防の効果に高いエビデンスがあります。F局の場合、歯科医師や歯科衛生士が多く扱っているフッ化物歯面塗布剤は、フッ化物濃度として9000ppmと高濃度といえます。とくに低年齢時の使用時には、急性中毒を避けるため、使用量に注意が必要です。例として小児の場合、1回の塗布に使用する薬剤の量は2gとされています。多くの歯科医療機関で問題ないと思いますが、今次改定を機会に院内でF局の実際の処置について確認することをお勧めします。一方、対象年齢と判定基準を覚えられない私の場合、治療スペースに「2022年改定の要点と解説」の41ページの表をコピーしていつでも確認できるようにしています。

― 初期の根面う蝕のF局については?

坪田:初期の根面う蝕のある患者へのフッ化物歯面処置は、2014年度(平成26年度)改定で在宅などでの療養患者に限られていましたが、今次改定で外来受診の場合でも歯管を算定した65歳以上の患者であれば算定可能となりました。この適用拡大は、2014年度改定時から長年、在宅療養患者だけでなく外来での患者にも認めるべきであると本会は厚労省に要望してきました。そのほか、保団連を始め、各団体の臨床現場の声が認められ、日本歯科医学会から提出される医療技術評価提案書にはない項目として適用拡大されました。このことは65歳以上の口腔内の健康維持を図り、健康寿命の延伸のために歯科診療を行なっている歯科医療機関にとって、評価できる適用拡大といえます。
我が国の高齢化は、さらに一層進みます。高齢者の根面う蝕の罹患率は高く、さらに年齢が高くなるにつれて根面う蝕が増加することには複数の報告があります。また、日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン 第2版」では、根面う蝕の対応として「欠損の浅い初期活動性根面う蝕の場合は、まずフッ化物を用いた非侵襲的治療を行って再石灰化を試み、う蝕を管理するよう推奨される」と記載されています。したがって、各高齢者の様々な口腔内の状況に対し、定期的なメインテナンスを行うにあたり、初期の根面う蝕が重症化しないように予防・管理のため、適切なF局による処置が必要と考えます。今次改定で評価できる項目の一つであるF局について、理解を深め、正しい運用によって患者のう蝕予防に役立てましょう。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年5月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.57】歯科初・再診料の増点

― 2022年度診療報酬改定で初・再診料が増点されましたね

坪田有史会長:歯科初診料の注1(以下「歯初診」)の届出医療機関は、歯初診の施設基準を満たす院内感染防止対策の現行の研修項目に、新興感染症への対応および標準予防策が追加され、基本診療料である初診料が3点、再診料が3点、それぞれ増点され、初診料が264点、再診料が56点となりました。他方、歯初診の未届出医療機関の場合、初診料240点、再診料44点と変更されませんでした。その結果、届出の有無による差は初診料で24点、再診料で12点とさらに点差が広がりました。この扱いは、厚生労働省として院内感染防止対策を推進する観点から、すべての歯科保険医療機関が歯初診の届出を行うことを目指していると理解できます。
初・再診料を1点ずつ上げるには約40億が必要とされていますから、初・再診料を上げるには多くの財源が必要です。なお、今次改定の歯科の改定率は、プラス0.29%で前回改定時の改定率のプラス0.59%と比較すると0.3ポイントも下回った値になりました。なお、プラス0.29%は、概算で約90億円と言われていますのでかなり財源的に厳しい状態です。そこで厚労省は、初・再診料を増点するための財源に、歯周基本治療処置(P基処)10点の廃止・包括分で充てたのです。財源が少ない中、仕方がないという見方もありますが、日常診療の点数を犠牲にしたことには疑問があります。

― そこまでして初・再診料を引き上げる理由は

坪田:長年、歯科側は、医科との基本診療料の格差是正を望んでいます。そこで、院内感染防止対策、および新興感染症への対策を理由として、18年度改定から今次改定まで、初・再診料の増点が行われています。なお、医科は21年から消費増税への対応のみの増点で、実質初・再診料は据え置かれています。しかし、未だ医科歯科格差は解消されていないのが現状です。
歯科初・再診料は、点数だけみると12年の初診料218点、再診料42点から、10年経過した今次改定で初診料264点、再診料56点と各46点、14点増点していますが、その内、初診料30点、再診料6点は、消費税率引き上げへの対応です。したがって、院内感染防止対策および新興感染症への対策のための今次改定までの増点は、初診料16点、再診料8点となります。

― それを聞くと、引き上げ幅が少ないような…

坪田:その通りです。10年間で院内感染防止対策および新興感染症への対策を理由とした増点は、初診料で16点、再診料で8点です。この増点を院内感染防止対策のコストに限ってみると、そのコストについては、2007年の中医協では、268.16円や、19年に中医協で出された意見が約568円ですから、実際にかかっている院内感染防止対策のコストに見合っているとは思えません。
結局、改定財源がなければ、院内感染防止対策のコストを十分に補完することはできません。したがって、「歯科医療費の総枠拡大」が進まなければ、希望は叶わないのです。
国民医療費に占める歯科医療費の割合は、私が歯科医師になった平成元(1989)年では10%ありました。それが30年後の令和元(2019)年では6.8%です。この間、高齢化が進んで国民医療費の全体が増加しましたが、その中で歯科医療費の割合が減少していったのです。もし、10%のまま維持できていたならば、現在の歯科医療費の3兆円は、4兆円になっていたはずです。今更ながら残念なことです。
しかし、過去は変えられません。よりよい未来にするために声をあげていきましょう。声が小さくても、集まれば大声になります。現在全国の協会とともに取り組んでいる署名を含め、協会活動にさらなるご理解、ご協力をお願いします。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年4月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.56】CAD/CAMインレー

― 4月の診療報酬改定でCAD/CAMインレーが保険収載されますが。

坪田有史会長:本紙2・3面(※)に、2022年度診療報酬改定の主なポイントを掲載しました。その内容は、本稿の執筆時点と同じく、2月9日の中医協総会で「答申」が佐藤英道厚生労働副大臣に提出された段階のものです。なお、3月24日開催予定の第1回新点数説明会の前に本会会員に送付させていただく「2022年改定の要点と解説」を全国の協会・医会の担当者・事務局員とともに、現在、鋭意作成中です。今次改定の新規項目や変更点を分かりやすく解説し、会員の先生方の理解が深まる内容となるよう議論し、編集を進めております。今しばらくお待ちください。
なお、今次改定で新たに保険収載されるCAD/CAMインレーについて、すでに協会や私にも多くの質問が寄せられており、注目されている項目といえます。臼歯部1歯につき技術料は750点ですが3月上旬に保険医療材料、すなわちCAD/CAMインレー用に使用できるレジンブロックの材料料が通知されるため、現時点では合計点数は示すことができません。また、拘束力はありませんが、大臣告示(1988年5月)による歯科技工士の製作技術料7割、歯科医師の製作管理料3割からみると、歯科技工士への委託製作技工料は5250円となり、歯科医師側は2250円になります。歯科技工士に委託しないで歯科医師自身がレジンインレーを製作すれば、レジンインレーの複雑な点数が、改定後も材料料が同じと仮定すると、今次改定で220点(2200円)と同等になります。厚労省の担当者は、そこまで考えて技術料を決めているのでしょうか。
現在、特定保険医療材料の機能区分として、CAD/CAM冠用材料は小臼歯部、大臼歯部および前歯部により、ⅠからⅣまでに区分されていますが、CAD/CAMインレー用材料がどの区分のレジンブロックを使用できることになるかは、まだ分かりません。一方、すでに市販され、保険治療で使用されているCAD/CAM冠用のレジンブロックの複数製品の添付文書を調べると、多くの製品で使用用途に「インレーの歯冠修復物」の記載があります。すべての市販の製品は調べられませんでしたが、保険医療材料の多くの製品がすでに「インレーの歯冠修復物」として薬機法の承認を得ていると推測されます。

※参照=東京歯科保険医新聞3月号

― 関連する点数を。

坪田:3月の通知を待たなければいけませんが、歯冠形成は修形120点、あるいはKP「単純なもの」60点、「複雑なもの」86点、印象採得料は、連合印象で64点、咬合採得料は18点、装着材料料と現行のメタルインレーやレジンインレーと同じと考えられます。装着時の装着材料料は、歯科用合着・接着材料Ⅰ(接着性レジンセメント)になるので17点、装着料45点に加え、装着前に接着面に対して内面処理(アルミナ・サンドブラスト処理とシランカップリング処理)を行った場合、内面処理加算1.45点が算定できます。余談になりますが、この内面処理加算1は、今次改定でCAD/CAD冠、高強度硬質レジンブリッジ、そしてCAD/CADインレーのみで認められることになりますが、レジンインレー、硬質レジンジャケット冠の装着時にも通常行っている処理なのに、これらの修復物には算定が認められていない点には疑問があります。認めないのならば、その理由を明確に示すべきです。

― 窩洞形成での形成量はどうなりますか。

坪田:特定非営利活動法人日本歯科保存学会が医療技術評価提案書(保険未収載技術用)で「CAD/CADインレー修復」を作成し、昨年6月に日本歯科医学会から厚労省に提出されました。したがって、通称「学会ルート」による保険収載となります。その提案書には、「従来通りの間接法による2日法および口腔内スキャナーでの光学印象採得で行う1日法も可能である」と記載されています。すなわち、「CAD/CADインレー」と併せ、口腔内スキャナーによる光学印象採得の保険収載も希望した文章になっています。
ご質問の窩洞形成での形成量は「レジンインレーと同様にインレー歯冠形成を行い…」と記載されているのみです。レジンインレーに使用する材料よりも既存のCAD/CAD冠用レジンブロックの機械的強度は高いので、レジンインレーよりも形成量が少なくて済むことはあっても、増えることはないでしょう。なお懸念される歯髄症状に対しては、その対策として有効な象牙質レジンコーティングが、歯冠形成の生PZのみでの算定で、修形やKPでは算定できず、窩洞形成後に象牙質レジンコーティングを行っても無償サービスとなることは問題です。
歯学教育の教科書である「保存修復学21 第3版」(永末書店)のコンポジットレジンインレー修復の章には、「メタルインレー修復窩洞よりも深めに形成し、小窩部で1.5mm、インレー体に平均2mmの厚みを持たせる。特に、Ⅱ級窩洞ではイスムス部で破折しやすいので、十分な厚みを与える」と記載されています。なお今まで保険に新しい技術が収載された際は、日本歯科医学会から臨床指針が発表されています。したがって、4月の改定時前後にCAD/CADインレーの臨床指針が示されると思われますので、参考にしてください。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年3月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.55】パブリックコメントの報告

― 1月14日からパブリックコメントの募集があったそうですが。

坪田有史会長:2年ごとの診療報酬改定が実施される年に、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)からパブリックコメントの募集(意見公募)が行われます。今回も1月14日付で中医協からの募集要項が厚生労働省のホームページに掲載され、電子メールで1月14日〜21日と約1週間の期間に提出するように示されました。これは中医協で2022年度診療報酬改定に向けて議論されてきた改定の基本方針や内容について、医療関係者や患者をはじめとしたすべての国民が、意見できる機会を与えられているのです。国民である我々が正式なルートで、中医協の議論の内容について、自分の意見を中医協や行政側に直接言えるのは、パブリックコメントの提出が唯一の機会といっていいでしょう。しかし、健全な民主主義を掲げる我が国にとっては当然のこととはいえ、周知方法、募集期間・方式など、すべての国民に低いハードルで広く意見を募集しているのかは、少々疑問があります。
協会は、1月14日の募集要項の発表を待って、同日の夜8時過ぎにデンタルブック・メールニュースで会員の先生方にパブリックコメントについての詳細な情報を配信し、意見の提出をお願いしました。メールには、「現場からの声をパブリックコメントとして提出してください。改定への意見をあげることができる最後のチャンスです。1件でも多く意見を出せば、反映される可能性は大いにあります。ぜひパブリックコメントをお出しください」と記載いたしました。
協会では、全国組織の保団連とともに会員の声を国会議員や行政側に伝えるため、署名活動を行っています。活動をご理解のうえ、毎回たくさんのご協力をいただき心から感謝しています。国民や歯科業界にとって、歯科医療の様々な問題に改善要求を行う署名活動も重要なツールです。一方、診療報酬改定時のパブリックコメント提出も非常に重要な位置付けと考えています。すでに提出していただいた会員の先生方に感謝申し上げるとともに、今回は提出できなかった先生方には、2年後の機会にぜひお願いしたいです。

― では会長が提出した内容について教えてください。

坪田:私は、全部で10本のパブリックコメントを提出しました。紙面の都合で、すべては紹介できませんが、参考までに下記にて、いくつか概要をお示しします。

・現在の院内感染防止対策の評価は全く十分ではないため、実際の院内感染防止対策のコストにか
 かる調査を多施設で行った上で、その結果と相当な評価を基本診療料で評価されなければならな
 い。裏付けのない評価には反対する。
・国民の健康ならびに将来の歯科において、歯周病安定期治療および歯周病重症化予防治療は重要
 な項目であるため、歯科保険医療機関が取り組みやすく継続しやすい要件と評価にするととも
 に、同一初診内の1回のみといった算定回数の制限を緩和するべきである。さらに、同項目の重
 要性を広く国民に周知をする必要がある。
・歯周基本治療処置(P基処10点)の廃止により、歯周基本治療処置の所定点数を基本診療料に包
 括するならば、従前の歯周基本治療処置の所定点数に相当する額を基本診療料に加えるべきであ
 る。
・歯科用金銀パラジウム合金の随時改定は、中医協で示された論点に加え、実際には歯科医療機関
 は市場価格で歯科用金銀パラジウム合金を購入している。したがって、素材価格を参考にした随
 時改定を行うことは全く理解できず、市場価格を参考に改定を行うべきである。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年2月号4面掲載)

【教えて!会長!! Vol.54】2022年度診療報酬改定に向けて

― 中央社会保険医療協議会で歯科医療(その2)について、議論されたとのこと。

坪田有史会長:8月4日の歯科医療(その1)に引き続き、2022年度診療報酬改定に向けて12月10日に歯科医療(その2)が中医協で取り上げられました。そこで協会では、公表された中医協資料を読み解き、現時点での改定の方向性や内容について議論し、問題点を検証するために12月19日にZoomを使用して、ハイブリッド方式で役員・部員・事務局員による政策学習会を開催しました。本政策学習会は、2022年度診療報酬改定が歯科保険医にとって、悪影響を及ぼすことがないか検証し、混乱を招いたり、問題となる可能性がある改定内容があったりする場合、歯科医療の現場の声として、厚労省サイドに改善を求めることを目的としています。

― 歯科医療(その2)の内容について、教えてください。

坪田:12月10日の中医協の資料を紹介します。その内容は、3大項目に分類されています。その3大項目とは、「1.歯科医療を取り巻く状況について」「2.地域包括ケアシステムの推進について」「3.生活の質に配慮した歯科医療の推進など」です。
 「1.歯科医療を取り巻く状況について」は、4年前の改定で用いられた図を使って、歯科治療の需要の将来予想として、治療中心型から、治療・管理・連携型へのシフトの必要性が再度示されています。その上で、「地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関などの役割」「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」「具体的な医科歯科連携方策と歯科疾患予防策」について詳細な目標などが明示されています。
 「2.地域包括ケアシステムの推進について」は、新型コロナウイルス感染症の発生を受けて、地域における歯科医療機関と施設・行政など関係機関との連携の必要性があることから、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準の見直し、特に要件の一つである自治体が実施する歯科保健に係る事業への協力について、介護老人保健施設などにおける歯科疾患に対する取り組みの推進などと関連付けながら明確化するなど、改定を進めようとしていることが窺えます。
 医療機関間の連携の一つとしては、障害者歯科治療を推進するための連携に関係する歯科診療特別対応連携加算の施設基準の見直しなどが行われそうです。
 また、安心・安全で質の高い歯科医療の推進のためにICTの活用として、歯科衛生士が訪問による訪問歯科衛生指導を実施する際に、遠隔の歯科医師が口腔内の状況を確認することで、より詳細な指導ができるとし、オンライン診療の一つとして評価されそうです。
 「3.生活の質に配慮した歯科医療の推進など」は、いくつかの項目があります。一つには歯周病安定期治療(SPT)と歯周病重症化予防治療(P重防)の包括範囲の区別と整理が行われるようです。また、う蝕の重症化予防として、訪問診療の患者に限定されていた根面う蝕に対してフッ化物歯面塗布が外来にも適応拡大が検討されています。
 一方、各ライフステージに応じた口腔機能の評価として、小児口腔機能管理料と口腔機能管理料の対象年齢が見直されそうです。
 歯周基本治療処置(P基処)について、比較的簡単な処置であり、平均所要時間が比較的短いとしており、改定の財源確保のために包括化するのではないでしょうか。
 中医協資料を読み解いた上で、2022年度診療報酬改定の内容について検討しましたが、まだ決定したわけではなく想像の域に過ぎません。しかし、この段階で疑問があれば、現場の声を行政側に伝えることが望まれます。その結果、歯科医療と国民のために、よりよい改定になることを願っています。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年1月号4面掲載)

【教えて!会長!! Vol.53】PEEKによる大臼歯歯冠修復物

<東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載>

▼他、PEEKに関する記事はコチラからチェック
【教えて!会長!! Vol.77】「PEEK」について 

― 医療技術評価提案書の最初の段階の結果が出されたそうですが。

坪田有史会長:11月4日に医療技術評価分科会が開催され、来年4月の診療報酬改定に向けて今年の6月に日本歯科医学会から厚生労働省に提出された日本歯科医学会所属の専門分科会、認定分科会が作成した医療技術評価提案書の第一段階の結果が出されました。この結果で、歯科関係全体では76項目が「評価の対象となるもの」とされ、来年の改定に向けて、学会が作成した医療技術評価提案書を初めて確認できました。なお、通常、最終結果は来年1月に発表されます。したがって、今回の「評価の対象となるもの」とされたすべての項目が、診療報酬で評価される訳ではありません。最大の障害は改定財源といえます。しかし、今回の結果により、各学会が保険治療で評価を望んでいる項目・内容の詳細が判明することと、行政側が考えている方向性を知ることができ、注目すべき結果といえます。
また、前回の最終結果で「評価の対象となるもの」の中には、4月の診療報酬改定時ではなく、その後に期中収載された「チタン冠」「前歯CAD/CAM冠」「磁性アタッチメント」がありました。これらは、材料自体が保険適用材料でないため、企業から各材料を保険適用材料として認可するように要望がなされ、中医協総会で審議・承認を得る必要がありました。そのため、4月の診療報酬改定から月日が経過して、保険収載されています。

― 今回、「評価の対象となるもの」の中で「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」がありますが。

坪田:今回の結果、(公社)日本補綴歯科学会から提出された医療技術評価提案書「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」が「評価の対象となるもの」とされました。この結果をみた複数の会員から「PEEK」とは?との質問を受けたので、ここで解説します。

PEEK材は、高機能プラスチックと称されています。まず、医療技術評価提案書に記載された内容の一部を紹介します。
医療技術の概要の項には、「大臼歯歯冠の歯質を大きく喪失した患者に対し、生体安全性が高く、高強度で破折リスクがない非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料として、CAD/CAMシステムを用いて歯冠修復物を製作し、治療する医療技術である(一部省略)」と示されています。
有効性・効率性の項では、「既存のハイブリッドレジンによる大臼歯CAD/CAM冠は、適用条件があるが、PEEKはハイブリッドレジンに比較して高い靭性値があり、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、歯質削除が少なくてもよく、咬合面やマージン部の厚みが小さくても使用できる。大臼歯CAD/CAM冠が使用できない最後臼歯においても、また第2大臼歯が欠損している場合にも、第1大臼歯に使用可能である。物性値としての硬度(ビッカース)はハイブリッドレジンより小さいが、摩耗性は同等であるというデータもあり、対合歯に対しては摩耗させにくく、過度の咬合力に対して緩衝作用もあるという特徴を有し、歯根に過度の負担がなく生理的で歯の寿命に有利であることが期待できる。さらに、吸水性が低く、変着色のリスクも少ない。PEEKは生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、医科分野では医療機器やカテーテル、体内インプラントなど生体埋入の実績もある(一部省略)」として、期待できることが記載されています。

― 実際にはどうですか?

坪田:実際に研究が進み、学会で様々な報告がありますが、臨床研究では、最後臼歯を含む大臼歯にPEEKによる冠を20症例に装着し、6カ月間の観察の結果、問題は生じなかったとの広島大学病院での報告があります。20症例、6カ月間の臨床研究の結果が、国民に広く臨床応用することを認めるエビデンスとして十分かどうかは賛否両論があるでしょう。現在、さらに複数の機関で臨床研究が進んでいると聞いています。
国内では、2019年にULTI-Medicalが薬事認証を取得し2021年から松風が販売を開始しています(商品名:松風PEEK)。現在は保険適用外ですが、PEEK材によるインプラントのアバットメント、あるいはインプラントの上部構造、クラウンのコーピング、ブリッジのフレームなどで、すでに臨床応用されています。しかし、現時点でPEEK材自体が保険適用材料でないため、来年4月の改定時での保険収載は時間的制約があり、難しいと思いますし、財源的視点から期中収載が望ましいと考えています。高機能プラスチックであるPEEK材の保険収載によって、金パラ原価割れの問題への一助、歯科用金属アレルギー患者への歯冠修復など、間接法歯冠修復の選択肢が増えることに期待します。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.52】あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割

― 厚生労働省で歯科医療の提供体制に関して、定期的に検討会が開かれているそうですね。

坪田有史会長:10月7日、オンラインによる「歯科医療提供体制等に関する検討会」が開催されました。本検討会は、第1回(2月19日)、第2回(6月2日)、第3回(7月29日)に開催されており、今回の検討会は第4回の開催です。主に「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」が議論されました。われわれ歯科医師にとって重要な将来の歯科保健医療の提供のあり方について検討しています。
これらの議論は、社会保障制度のあり方にも通じ、次期診療報酬改定にも影響すると考えられ、当会も同検討会の議論に高い関心を持って注視しています。 

― この検討会の目的を教えてください。

坪田:2017年(平成29年)12月にまとめられた「歯科保健医療ビジョン」において、高齢化の進展や歯科保健医療の需要の変化を踏まえ、これからの歯科保健医療の提供体制について、歯科医療従事者などが目指すべき姿を提言されました。その中身は、地域完結型歯科保健医療の提供のため、「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」「歯科疾患予防策」「具体的な医科歯科連携方策」「地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関などの役割」について検討されました。
その2017年に「歯科保健医療ビジョン」でまとめられた提言は、その後、少子高齢化などのわが国の将来を考慮すると、高齢化による医療の需要拡大への対応、生産年齢人口が減少する中での地域医療の確保、健康寿命の延伸へ向けた取り組みを進めることが重要とされ、歯科保健医療の提供のあり方について、改めて検討することを目的としています。

― 検討会が議論する論点を教えてください。

坪田:歯科医療提供体制等に関する検討にあたっては、以下①~⑦の論点および「歯科医療提供体制等事業」における調査結果をふまえつつ、具体的に議論を行うこととしています。
まず、歯科医療提供体制については、①歯科疾患の予防、重症化予防の推進とかかりつけ歯科医の役割、②歯科医療機関の機能分化と連携、かかりつけ歯科医の機能、③地域包括ケアシステムの構築における歯科の役割(食べる機能の維持・回復への支援)、他の関係職種(医療・介護)との連携、要介護高齢者などへの在宅歯科医療の推進など、④地域における障がい者(障がい児)への歯科医療提供体制、⑤行政の取り組み―等です。
次いで歯科専門職の需給については、⑥今後の歯科医療のニーズを踏まえた歯科医師の需給、⑦今後の歯科衛生士の業務のあり方と需給―です。
今後の歯科医療提供体制の検討スケジュールは、歯科医療提供体制に関する議論に関しては進捗状況により、必要に応じて開催することとしており、2022年(令和4年)3月ごろまでに新たな歯科保健医療ビジョンをとりまとめる見込みです。歯科医師、歯科衛生士の需給に関する議論は、歯科医療提供体制に関する議論の状況をみつつ、2022年3~4月ごろに検討会を開催する方向です。
 歯科技工士の業務のあり方と需給については、別途議論を行う場で検討することとしており、9月30日に第1回歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会が開催され(3面)、歯科技工所の業務形態改善について、「歯科技工所におけるテレワークのあり方」「歯科技工所間の連携のあり方」等を議論することとしています。開催回数を重ね、議論がある程度進んだ段階で、歯科技工士に関する検討会の内容を紹介します。

― 開業医の立場からは、「かかりつけ歯科医」が気になります。

坪田:ここでの「かかりつけ歯科医」は、保険制度上での限定的な「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」を直接的には議論はしていません。通常、「かかりつけ歯科医」は、患者側からみて「定期的に歯科健診を受けるなど、自分の歯や口の状態を管理してくれている歯科医」「困った時に診てくれる歯科医」であるとされています。
しかし、行政側が示している「かかりつけ歯科医」とは、地域包括ケアシステムの推進を前提としていることから、「歯科保健医療サービスを提供する時間帯、場所、年齢が変わっても、切れ目なくサービスを提供できる」「患者が求めるニーズにきめ細やかに、安心、安全な歯科保健医療サービスが提供できる」とされています。このことを背景として、かかりつけ歯科医自体を評価するのではなく機能を評価するとし、歯周病安定期治療(Ⅱ)(SPT(Ⅱ))、エナメル質初期う蝕管理加算などを行政誘導として用い、多数の施設基準を満たす医療機関を「か強診」として評価しています。「か強診」は、その施設基準から、複数回の在宅歯科診療を行い、積極的に地域包括ケアシステムに参画する歯科医療機関に対しての評価といえます。
現在、中医協において、この「か強診」の現状、特に訪問診療の実績の要件が低いことに対して疑問視する発言が見受けられます。
そのため、「か強診」、そして「か強診」以外の「かかりつけ歯科医」が行う長期管理について、次期診療報酬改定で何らかの措置を講じてくる可能性があると考えています。その際、国民側・歯科側の双方にとってより良い改定になることを強く望んでいます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年11月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.51】2022年度 診療報酬改定に向けて

― 2022年4月の「2022年度診療報酬改定」まで6カ月ですが、改定はどうなりそうですか。

坪田有史会長:現在までに、中央社会保険医療協議会総会(以下、「中医協」)で、「歯科用貴金属価格の随時改定について」「歯科医療(その1)」「在宅(その1) について」が議論され、9月15日に「診療報酬改定に係る議論の中間とりまとめについて」で中医協委員から出された主な意見がとりまとめられています。
8月4日の中医協で厚生労働省側は、「歯科医療に係る歯科診療報酬上の評価について」として、下記のようにまとめています。
これらの論点を受けての中医協委員の発言を踏まえ、私見を述べさせていただくと、以下のようになります。

▼かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)や在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の役割
 や要件が、行政側の目指している地域包括ケアシステムの推進に対して十分でないとの意見があ
 り、現在の施設基準などの見直しが行われる可能性があります。
▼歯科側は、さらなる重症化予防や口腔機能の継続管理について評価を求めていて、一定の成果は
 認識されている。しかし、治療と予防の境界線を明瞭にすべきとの意見があり、将来の歯科医療
 を考えれば、継続管理の重要性をさらに訴える必要があります。
▼歯科矯正治療は、原則保険給付外ですが、小児の口腔機能の改善を含め、必要性が認められ、保
 険での矯正治療の適用範囲拡大が議論される可能性があります。
▼歯科用貴金属の代替材料について、現時点ではその範囲は限定的であるため、さらなる代替技
 術・材料への推進が必要とされています。今回の改定には難しいですが、PEEK材などの研究を産
 学臨の協働により進め、高いレベルでのエビデンスを構築した上で保険適用が望まれます。

 紙面の都合上、そのほか多くを記せませんが、行政側が明確に決めていることは、まだないと考えています。今後、「歯科医療(その2)」などの中医協の議論に注視する必要があります。

― より良い改定になるためにできることはありますか。

坪田:協会は、今月から保団連が全国で行う「疲弊した医療提供体制を立て直す診療報酬改定を求める医師・歯科医師要請署名」に賛同して会員の先生方に署名をお願いします。より良い改定を求めるため、日々歯科医療を提供している先生方のご意見をぜひお寄せください。多くの先生方の声を集め、行政・立法側に要請しますので、よろしくお願い申し上げます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年10月号8面掲載)