教えて!会長!!

【教えて!会長!! Vol.53】PEEKによる大臼歯歯冠修復物

<東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載>

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【教えて!会長!! Vol.77】「PEEK」について 

― 医療技術評価提案書の最初の段階の結果が出されたそうですが。

坪田有史会長:11月4日に医療技術評価分科会が開催され、来年4月の診療報酬改定に向けて今年の6月に日本歯科医学会から厚生労働省に提出された日本歯科医学会所属の専門分科会、認定分科会が作成した医療技術評価提案書の第一段階の結果が出されました。この結果で、歯科関係全体では76項目が「評価の対象となるもの」とされ、来年の改定に向けて、学会が作成した医療技術評価提案書を初めて確認できました。なお、通常、最終結果は来年1月に発表されます。したがって、今回の「評価の対象となるもの」とされたすべての項目が、診療報酬で評価される訳ではありません。最大の障害は改定財源といえます。しかし、今回の結果により、各学会が保険治療で評価を望んでいる項目・内容の詳細が判明することと、行政側が考えている方向性を知ることができ、注目すべき結果といえます。
また、前回の最終結果で「評価の対象となるもの」の中には、4月の診療報酬改定時ではなく、その後に期中収載された「チタン冠」「前歯CAD/CAM冠」「磁性アタッチメント」がありました。これらは、材料自体が保険適用材料でないため、企業から各材料を保険適用材料として認可するように要望がなされ、中医協総会で審議・承認を得る必要がありました。そのため、4月の診療報酬改定から月日が経過して、保険収載されています。

― 今回、「評価の対象となるもの」の中で「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」がありますが。

坪田:今回の結果、(公社)日本補綴歯科学会から提出された医療技術評価提案書「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」が「評価の対象となるもの」とされました。この結果をみた複数の会員から「PEEK」とは?との質問を受けたので、ここで解説します。

PEEK材は、高機能プラスチックと称されています。まず、医療技術評価提案書に記載された内容の一部を紹介します。
医療技術の概要の項には、「大臼歯歯冠の歯質を大きく喪失した患者に対し、生体安全性が高く、高強度で破折リスクがない非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料として、CAD/CAMシステムを用いて歯冠修復物を製作し、治療する医療技術である(一部省略)」と示されています。
有効性・効率性の項では、「既存のハイブリッドレジンによる大臼歯CAD/CAM冠は、適用条件があるが、PEEKはハイブリッドレジンに比較して高い靭性値があり、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、歯質削除が少なくてもよく、咬合面やマージン部の厚みが小さくても使用できる。大臼歯CAD/CAM冠が使用できない最後臼歯においても、また第2大臼歯が欠損している場合にも、第1大臼歯に使用可能である。物性値としての硬度(ビッカース)はハイブリッドレジンより小さいが、摩耗性は同等であるというデータもあり、対合歯に対しては摩耗させにくく、過度の咬合力に対して緩衝作用もあるという特徴を有し、歯根に過度の負担がなく生理的で歯の寿命に有利であることが期待できる。さらに、吸水性が低く、変着色のリスクも少ない。PEEKは生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、医科分野では医療機器やカテーテル、体内インプラントなど生体埋入の実績もある(一部省略)」として、期待できることが記載されています。

― 実際にはどうですか?

坪田:実際に研究が進み、学会で様々な報告がありますが、臨床研究では、最後臼歯を含む大臼歯にPEEKによる冠を20症例に装着し、6カ月間の観察の結果、問題は生じなかったとの広島大学病院での報告があります。20症例、6カ月間の臨床研究の結果が、国民に広く臨床応用することを認めるエビデンスとして十分かどうかは賛否両論があるでしょう。現在、さらに複数の機関で臨床研究が進んでいると聞いています。
国内では、2019年にULTI-Medicalが薬事認証を取得し2021年から松風が販売を開始しています(商品名:松風PEEK)。現在は保険適用外ですが、PEEK材によるインプラントのアバットメント、あるいはインプラントの上部構造、クラウンのコーピング、ブリッジのフレームなどで、すでに臨床応用されています。しかし、現時点でPEEK材自体が保険適用材料でないため、来年4月の改定時での保険収載は時間的制約があり、難しいと思いますし、財源的視点から期中収載が望ましいと考えています。高機能プラスチックであるPEEK材の保険収載によって、金パラ原価割れの問題への一助、歯科用金属アレルギー患者への歯冠修復など、間接法歯冠修復の選択肢が増えることに期待します。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.52】あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割

― 厚生労働省で歯科医療の提供体制に関して、定期的に検討会が開かれているそうですね。

坪田有史会長:10月7日、オンラインによる「歯科医療提供体制等に関する検討会」が開催されました。本検討会は、第1回(2月19日)、第2回(6月2日)、第3回(7月29日)に開催されており、今回の検討会は第4回の開催です。主に「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」が議論されました。われわれ歯科医師にとって重要な将来の歯科保健医療の提供のあり方について検討しています。
これらの議論は、社会保障制度のあり方にも通じ、次期診療報酬改定にも影響すると考えられ、当会も同検討会の議論に高い関心を持って注視しています。 

― この検討会の目的を教えてください。

坪田:2017年(平成29年)12月にまとめられた「歯科保健医療ビジョン」において、高齢化の進展や歯科保健医療の需要の変化を踏まえ、これからの歯科保健医療の提供体制について、歯科医療従事者などが目指すべき姿を提言されました。その中身は、地域完結型歯科保健医療の提供のため、「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」「歯科疾患予防策」「具体的な医科歯科連携方策」「地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関などの役割」について検討されました。
その2017年に「歯科保健医療ビジョン」でまとめられた提言は、その後、少子高齢化などのわが国の将来を考慮すると、高齢化による医療の需要拡大への対応、生産年齢人口が減少する中での地域医療の確保、健康寿命の延伸へ向けた取り組みを進めることが重要とされ、歯科保健医療の提供のあり方について、改めて検討することを目的としています。

― 検討会が議論する論点を教えてください。

坪田:歯科医療提供体制等に関する検討にあたっては、以下①~⑦の論点および「歯科医療提供体制等事業」における調査結果をふまえつつ、具体的に議論を行うこととしています。
まず、歯科医療提供体制については、①歯科疾患の予防、重症化予防の推進とかかりつけ歯科医の役割、②歯科医療機関の機能分化と連携、かかりつけ歯科医の機能、③地域包括ケアシステムの構築における歯科の役割(食べる機能の維持・回復への支援)、他の関係職種(医療・介護)との連携、要介護高齢者などへの在宅歯科医療の推進など、④地域における障がい者(障がい児)への歯科医療提供体制、⑤行政の取り組み―等です。
次いで歯科専門職の需給については、⑥今後の歯科医療のニーズを踏まえた歯科医師の需給、⑦今後の歯科衛生士の業務のあり方と需給―です。
今後の歯科医療提供体制の検討スケジュールは、歯科医療提供体制に関する議論に関しては進捗状況により、必要に応じて開催することとしており、2022年(令和4年)3月ごろまでに新たな歯科保健医療ビジョンをとりまとめる見込みです。歯科医師、歯科衛生士の需給に関する議論は、歯科医療提供体制に関する議論の状況をみつつ、2022年3~4月ごろに検討会を開催する方向です。
 歯科技工士の業務のあり方と需給については、別途議論を行う場で検討することとしており、9月30日に第1回歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会が開催され(3面)、歯科技工所の業務形態改善について、「歯科技工所におけるテレワークのあり方」「歯科技工所間の連携のあり方」等を議論することとしています。開催回数を重ね、議論がある程度進んだ段階で、歯科技工士に関する検討会の内容を紹介します。

― 開業医の立場からは、「かかりつけ歯科医」が気になります。

坪田:ここでの「かかりつけ歯科医」は、保険制度上での限定的な「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」を直接的には議論はしていません。通常、「かかりつけ歯科医」は、患者側からみて「定期的に歯科健診を受けるなど、自分の歯や口の状態を管理してくれている歯科医」「困った時に診てくれる歯科医」であるとされています。
しかし、行政側が示している「かかりつけ歯科医」とは、地域包括ケアシステムの推進を前提としていることから、「歯科保健医療サービスを提供する時間帯、場所、年齢が変わっても、切れ目なくサービスを提供できる」「患者が求めるニーズにきめ細やかに、安心、安全な歯科保健医療サービスが提供できる」とされています。このことを背景として、かかりつけ歯科医自体を評価するのではなく機能を評価するとし、歯周病安定期治療(Ⅱ)(SPT(Ⅱ))、エナメル質初期う蝕管理加算などを行政誘導として用い、多数の施設基準を満たす医療機関を「か強診」として評価しています。「か強診」は、その施設基準から、複数回の在宅歯科診療を行い、積極的に地域包括ケアシステムに参画する歯科医療機関に対しての評価といえます。
現在、中医協において、この「か強診」の現状、特に訪問診療の実績の要件が低いことに対して疑問視する発言が見受けられます。
そのため、「か強診」、そして「か強診」以外の「かかりつけ歯科医」が行う長期管理について、次期診療報酬改定で何らかの措置を講じてくる可能性があると考えています。その際、国民側・歯科側の双方にとってより良い改定になることを強く望んでいます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年11月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.51】2022年度 診療報酬改定に向けて

― 2022年4月の「2022年度診療報酬改定」まで6カ月ですが、改定はどうなりそうですか。

坪田有史会長:現在までに、中央社会保険医療協議会総会(以下、「中医協」)で、「歯科用貴金属価格の随時改定について」「歯科医療(その1)」「在宅(その1) について」が議論され、9月15日に「診療報酬改定に係る議論の中間とりまとめについて」で中医協委員から出された主な意見がとりまとめられています。
8月4日の中医協で厚生労働省側は、「歯科医療に係る歯科診療報酬上の評価について」として、下記のようにまとめています。
これらの論点を受けての中医協委員の発言を踏まえ、私見を述べさせていただくと、以下のようになります。

▼かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)や在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の役割
 や要件が、行政側の目指している地域包括ケアシステムの推進に対して十分でないとの意見があ
 り、現在の施設基準などの見直しが行われる可能性があります。
▼歯科側は、さらなる重症化予防や口腔機能の継続管理について評価を求めていて、一定の成果は
 認識されている。しかし、治療と予防の境界線を明瞭にすべきとの意見があり、将来の歯科医療
 を考えれば、継続管理の重要性をさらに訴える必要があります。
▼歯科矯正治療は、原則保険給付外ですが、小児の口腔機能の改善を含め、必要性が認められ、保
 険での矯正治療の適用範囲拡大が議論される可能性があります。
▼歯科用貴金属の代替材料について、現時点ではその範囲は限定的であるため、さらなる代替技
 術・材料への推進が必要とされています。今回の改定には難しいですが、PEEK材などの研究を産
 学臨の協働により進め、高いレベルでのエビデンスを構築した上で保険適用が望まれます。

 紙面の都合上、そのほか多くを記せませんが、行政側が明確に決めていることは、まだないと考えています。今後、「歯科医療(その2)」などの中医協の議論に注視する必要があります。

― より良い改定になるためにできることはありますか。

坪田:協会は、今月から保団連が全国で行う「疲弊した医療提供体制を立て直す診療報酬改定を求める医師・歯科医師要請署名」に賛同して会員の先生方に署名をお願いします。より良い改定を求めるため、日々歯科医療を提供している先生方のご意見をぜひお寄せください。多くの先生方の声を集め、行政・立法側に要請しますので、よろしくお願い申し上げます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年10月号8面掲載)