理事会声明

談話「6月施行に変更した診療報酬改定の効果・検証を確実に」

6月施行に変更した診療報酬改定の効果・検証を確実に

2024年度診療報酬改定は、診療報酬改定DXの推進に向けて、医療機関・薬局等やベンダーの集中的な業務負荷の平準化を目的にこれまでの4月の施行から6月施行に後ろ倒しされた。中医協総会の中では、「後ろ倒しの恩恵を受けるレセコンのベンダー等が保守費用やリース料を大幅に引き下げる等により、これまで医療機関が負担してきたコストの低減が目に見える形で実現されることが望まれる」という発言もあった。そのような発言があったにも関わらず、疑義解釈においては、施行間際の5月末まで発出が続き、ベースアップ評価料の特設ページも定まることなく、随時更新され続ける事態であった。加えて、医療機器の保険適用とする通知も日付は531日であるが、公表されたのは6月に入ってからで、特に、光学印象の施設基準は、提出締切日に物理的に間に合せることが厳しい事態が生じている。

新規技術や重症化予防、継続的な管理等が新たに保険収載され、要件が緩和された内容については一定評価できる。一方で、施設基準の新設、再編、細分化が行われ、さらに複雑化が増したことは残念である。加えて、人材確保や賃上げと称して新設されたベースアップ評価料は、医療機関にとっては、評価や届出方法の複雑さに加え、次期改定時に維持されるのか不透明な項目であり、他方、患者には一部負担金の増加を強いるものである。

オンライン資格確認の導入義務化を皮切りに、レセプトのオンライン請求の実質的な義務化、健康保険証を廃止する方針の表明、診療報酬改定時期の後ろ倒しも加わり、様々なことを一気に変化させてしまったため、現場は混乱している。安心安全な歯科医療を国民に提供できなくなってしまっては、本末転倒である。

確かに6月施行になったことで時間的なゆとりができ、作業の負担は軽減したが、たくさんの施設基準の新設や算定要件の複雑化、通知等の遅れが6月施行のメリットをかき消してしまっているように感じているのは私だけではないと思う。

6月施行が当初の目的であったレセコンのベンダーや医療機関の負担軽減等のメリット、患者の利益にどれだけ繋げることができたかは疑問が残る。

国は、医療機関等の関係団体に向けて十分かつ丁寧なヒアリングを行い、複雑な施設基準や改定内容を含め、今回行われた6月施行の具体的な効果・検証が行われることを期待したい。

2024年618

東京歯科保険医協会

社保・学術部長

本橋 昌宏

第52回定期総会「決議」

52回定期総会「決議」

2024年度の改定率は、診療報酬本体がプラス0.88%および薬価等がマイナス1.00%となり、全体でマイナス0.12%と6回連続の実質的なマイナス改定となった。歯科の改定率はプラス0.57%となったが、賃上げ対応分を除けば前回の改定率(プラス029%)を下回る僅かな引き上げである。これでは、患者が望む歯科医療の享受、かつ継続的な提供を可能にする体制整備は進まない。

今次改定では医療従事者の賃上げ対応が行われたが、診療報酬の評価および届出方法の複雑さに加えて、2年後の改定時も評価が維持されるのかが不透明であり、賃上げを恒久的に行うための方策を国は示すべきである。また、多数の施設基準の見直しおよび点数の細分化によって算定要件などが複雑化し、現場は混乱している。必要な歯科医療が円滑に患者に提供できるよう、複雑な改定は止め、算定要件は簡素化すべきである。さらに、本年10月より後発医薬品のある先発医薬品の処方において、その差額を患者に追加負担として求める選定療養の施策が実行されようとしており、負担増を理由とした受診控えにより、歯科疾患の重症化が懸念される。

国は、本年122日に健康保険証の新規発行を終了するとしているが、マイナ保険証の利用率は4月時点で僅か6.56%と低迷している。全国保険医団体連合会が行った調査では、過半数を超える59.8%がマイナ保険証やオンライン資格確認システムでトラブルがあったと回答しており、総点検後もトラブルは全く解消していない。そもそも医療現場では現行の健康保険証で資格確認を行っており、これを廃止する理由がない。

また、歯科の約半数が電子媒体で診療報酬を請求する中、本年10月を目途にオンライン請求の義務化が進められている。電子レセプトの提出をオンライン化する審査上の必要性は殆どなく、経験豊富なドクターの閉院を助長し、国民の受療権を奪う意味のない制度といえよう。医療機関にコストを負担させる施策は中止して、従来の方法を残すべきである。

協会は、安心安全な歯科医療の提供を脅かす動きに強く反対し、人の命を奪う戦争や核兵器使用で諸国を威嚇するいかなる行動にも断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ推進するために、以下の要求を国民、政府および歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

一.国は、現行の社会保障制度を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度をさらに充実させること。

一.国は、歯科医療の充実や医療従事者の処遇改善が進むよう、診療報酬を抜本的に引き上げること。

一.国は、さらなる患者負担増を止め、長期収載医薬品の選定療養化を撤回すること。

一.国は、本年122日以降も健康保険証の新規発行を行い、オンライン資格確認システムおよびオンライン請求の導入義務化を撤回すること。

一.私たち歯科医師は、平和を妨げるすべての動きに反対する。

2024年616

東京歯科保険医協会

52回定期総会

【談話】 患者を最期まで診るために求められること

地域医療部長談話「 患者を最期まで診るために求められること」

患者を最期まで診るために求められること

いわゆる「団塊の世代」が75歳を迎え、約3,500万人が後期高齢者となる。社会保障費の負担は増加し、少子化の進む日本では働き手不足などの問題が生じる。今次改定はこの「2025年問題」を迎える前の最後の改定である。さらには生産年齢人口が急激に減少し、85歳以上の人口が急増する「2040年問題」を見据え、高齢者になっても住み慣れた地域で生活を続けられるような地域包括ケアシステムのさらなる深化と推進のための改定とされている。

今次改定の在宅歯科医療において、歯科訪問診療料120分の時間要件が撤廃されたことにより診療時間を気にせず診療できるようになったことは評価したい。しかし「単一建物と同一建物の違い」や「医療保険と介護保険との給付調整」などの煩雑な算定方法が歯科訪問診療を行う上で大きな弊害になっている。歯科訪問診療料45の追加に伴い、人数区分が細分化され、より一層、算定方法が煩雑になってしまった。これらの改定で歯科訪問診療が推進されるかどうかは疑問である。

また、他職種との連携を推進させる観点から、他の保険医療機関等からの情報提供に基づき、在宅歯科医療に係る管理を行った時の評価である「在宅歯科医療連携加算」や介護報酬において、歯科医療機関との連携体制を築くことで介護事業所が算定できる「口腔連携強化加算」が新設された。

生活の質(QOL)の向上には、最期まで自分の口から栄養を取ることが欠かせない。さらに誤嚥性肺炎の予防のためには、専門的口腔ケアはもとより、日常的な口腔ケアを実施し、口腔内を衛生に保つことが必須である。そのためには口腔衛生管理に歯科医師が積極的に介入し、多職種との連携を図ることが不可欠である。歯科訪問診療を行っていたとしてもケアマネジャーや施設職員、栄養士などの多職種と連携しない歯科診療所や歯科訪問診療に全く取り組まない歯科診療所は地域包括ケアシステムの枠組みから大きく外れてしまうかもしれない。

多職種連携の第一歩として、まず文書を提供することから始め、次に顔の見える関係を築き、密に患者の情報を共有することを心掛けてほしい。また、歯科訪問診療を行ったことがない先生はまず一度、歯科訪問診療に行ってみよう。体制的に歯科訪問診療が難しいのであれば、歯科訪問診療を行う歯科診療所との連携を強化することでもよい。患者を最期まで診られるように、積極的に取り組んでほしい。

2024年425

東京歯科保険医協会

地域医療部長

森元主税

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

低い診療報酬本体の改定率

2024年度診療報酬改定は診療報酬本体がプラス0.88%で医療従事者の賃上げ対応分を除くとわずか0.18%の引き上げに過ぎない。歯科改定率はプラス0.57%で賃上げ対応分を除くと、引き上げ分は前回のプラス0.29%を下回る。

改定財源のほとんどが、医療従事者の賃上げを目的として新設された「外来・在宅ベースアップ評価料」などに割り振られた。この評価料の収入は全額賃上げ充当が要件であり、診療報酬の使途を限定していることは問題である。

さらに、マイナ保険証の利用促進を主目的とした「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」などが新設されたことによって、純粋な診療報酬の引き上げ分はさらに少ない。患者や医療機関の多くが望んでいないマイナ保険証推進に改定財源を費やされたことは歯科医療自体が軽視されたと感じざるを得ない。

継続性が担保されないベースアップ評価料

職員の確保、医療従事者としての正当な評価のために賃上げが必要であることは医療界の総意であり、賃上げ分の収入を職員に支払うことに誰も異議を唱えることはない。

しかし、対象者や賃上げ方法が不明瞭なうえ、職員全員を賃上げするための原資が担保されず、次期2026年度改定時に賃上げ分が確保される保証がないことは不合理である。

また、ベースアップ評価料の対象職員と対象外の職員との間で不要な摩擦が起きる可能性や、患者から会計窓口で説明を求められるなどの混乱が生じることも想像に難くない。

このような継続性が担保されていない財源に加え、煩わしさや不安感が強いため、届出・算定に二の足を踏んでいるのが現状である。賃上げを恒久的に行うための方策を示すべきである。

複雑な施設基準の増加

「かかりつけ歯科医機能強化型診療所(か強診)」が廃止され、「口腔管理体制強化加算(口管強)」が新設された。名称が変更されたものの、か強診の施設基準の要件が引き継がれ、口腔機能の管理を一部評価したに過ぎない。一方、歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に分離されるなど、施設基準が増加し複雑になった。

また、エナメル質初期う蝕処置、根面う蝕処置が、管理料と処置料に改編されるなど、複雑な体系となり、算定要件などの熟知が求められる改定となった。

危険な歯冠補綴物の保険外し、選定療養に反対

クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象から歯科用貴金属材料(金パラ・銀合金)の単冠が外れ、2年以内に再製作が必要になった場合でも再製作にかかる費用が請求できることになったが、再製作の必要性を判断する歯科医師の診断がより重要となった。

歯科用貴金属材料を使用した歯冠補綴物が補管の対象から除外されたことは、金属材料を使用した歯冠補綴物が選定療養の仕組みに導入される、いわゆる「保険外し」につながることが危惧される。保険適用の歯冠補綴物を選定療養とすることについて、断固反対する。

今次改定で、先発医薬品と後発医薬品の差額の一部を選定療養として患者負担とする取扱いが10月から施行されることについても撤回を強く求めるものである。

適応拡大や要件緩和など評価すべき項目

CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の適応拡大、ブリッジ支台の5番にレジン前装金属冠の適応、接着ブリッジの支台歯1歯のみの延長ブリッジ適応、歯科訪問診療1の20 分の時間要件撤廃、義歯新製6カ月以降から義管が算定可能に緩和、実地指に対する口腔機能指導加算の新設、咀嚼能力検査・咬合圧検査が6カ月に1回から3カ月に1回に要件緩和、薬局への情報提供依頼に電話、FAX、メールが認められ、診療情報を医科へ返書した場合の算定が可能に、生活歯髄切断と抜髄を行う際に使用した麻酔薬剤料が算定可能になるなど、当協会や全国保険医団体連合会で要望していた項目が反映されたことは一定評価できる。

診療報酬本体の大幅な引き上げが必要

診療報酬は公定価格の中で公的に提供されることから、国が医療の質に責任を持つべきであり、それを担保するものである。

しかし、今次改定の改定率では物価高にも対応できず、歯科医療の改善のための診療報酬改定が不十分である。物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減と歯科医療費の総枠拡大、診療報酬本体への大幅な改定率の配分をあらためて求めるものである。国民に必要な医療を提供できる診療報酬改定を切望する。

2024年4月11日

2024年度第1回(暫定)理事会

【談話】歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る/歯科技工士問題検討委員会委員長

歯科技工士問題検討委員会委員長談話「歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る」

歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る

2024年度診療報酬改定では、医療機関の職員や歯科技工所で従事する者の賃上げを実施すること等の観点から、初・再診料や歯冠修復・欠損補綴の技術料の引き上げ、ベースアップ評価料の新設などが行われる。また、歯科医師と歯科技工士が連携することにより、歯科技工物の修正・再製作の減少傾向が認められたと中医協で紹介され、新たに歯科技工士連携加算も設けられる。当該加算の活用も含め、より一層の連携を行っていく必要がある。就業歯科技工士数の減少、歯科技工所の閉所など、歯科技工士を取り巻く状況は大きく変化している。当協会では、歯科技工所の実態を把握すべく、昨年9〜10月上旬にかけて、都内の歯科技工所1,000件に対して、アンケート調査を行った。その中で、80%以上の技工所で「後継者がいない」と回答、「将来展望がない」という理由で閉所を考えている技工所が50%を超えていた。また、今後望む方向として、「技工所が保険請求を直接請求できるシステムの構築」が最も多く、「技工料金の明確化」、「7対3の徹底」が続いた。一方、「今のままで良い」という回答は5%未満と少なく、現状の診療報酬体系における製作技術料(製作技術点数)の曖昧な位置付けや労働環境に対する不満が多い結果となった。
これまでも委託技工取引についての施策は様々な議論がなされ、1988年に「7対3」の大臣告示が示された。しかし、今日も自由競争の名の下に放置されており、現場で徹底されていない。
歯科医療の担い手として、「国民の歯と口の健康を守る」ことを目標に歯科技工士、歯科医師の双方が日々研鑽していることは言うまでもない。今後も同じ方向にベクトルを向けるためにも今回の改定の主旨と技工所のおかれている状況を歯科医師が十分に理解し、適正に対応することが求められている。歯科医師の良識が試されている改定であることを認識しなければならない。
2024年3月26日
東京歯科保険医協会
歯科技工士問題検討委員会委員長

森元主税

【談話】細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定/政策委員長

細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定

中央社会保険医療協議会(中医協)総会は214日、2024年度診療報酬改定案について、厚生労働副大臣に答申書を手渡した。今回の改定は、一つの項目で幾通りかの算定や似たような加算があり、算定方法を見出すまでに時間を要する。保険請求が複雑すぎるため、患者側・医療提供側双方が理解できるように簡素化する方針だったが真逆の結果となった。今回の改定内容を読み解くと、診療体制や個々の診療行為に適正な評価をつけようとした結果なのかもしれない。ただ、手当たり次第に施設基準で縛る仕組みは、かえって混乱を招く。まして、医療を受ける患者の立場で考えた場合、明細書を見ても自身が受けた診療行為が分からないだろう。

▼個別改定項目の評価

物価高騰に対応する医療従事者の処遇改善を初・再診時に算定するベースアップ評価料は、たった1.2%の賃金アップを図るためのもので、医療従事者の人材確保に繋がるとは思えない。また、医療DX推進のために、ばらまかれる加算点数に財源を使われることにも違和感を覚える。

歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、医療安全対策と感染対策に分けられた。初診料の注1との棲み分けに注目していきたい。周術期の口腔管理を推進するために対象患者が追加され、回復期の口腔機能管理料も新設された。しかし医科からの依頼がなくては算定できず、歯科疾患管理料等と併算定できないという致命的な要件も改善されておらず、算定率は伸び悩むことだろう。

在宅歯科診療に関しては、居宅への評価を推進する傾向は変わらず、施設への評価は薄利傾向に拍車がかかった。訪問診療の質を上げる議論をするべきではないだろうか。

それでも、当協会が要求してきた歯科医師による歯科訪問診療1の20分要件が廃止されたほか、医科保険医療機関への返書に対しても診療情報連携共有料が認められ、口腔機能管理の評価に対しては一定の前進が認められる。ICTの推進も今後の歯科医療のスタイルに変化を与える一歩になるやもしれない。

今回、最も衝撃を受けたのは金属(金パラ・銀合金)による単冠がクラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象外になったことである。金パラ・銀合金のみ補管による縛りが無くなり、その他のチタンによるクラウンやCAD/CAM冠には、2年間の保証が残ることになったが、補管以前に起きた様々な問題が再燃しないことを望みたい。

また、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」の施設基準は、「口腔管理体制強化加算」に名称変更された。その役割が分かりにくいための名称変更が目的にもかかわらず、改定後の内容では役割が明確になったとは言えない。

2024年度診療報酬改定の施行が6月となった経緯は、システムベンダーに配慮したとされているが、これを機に、改定毎に複雑多岐にならないように注視していきたい。施行までに通知や疑義解釈で見直しが図られることを期待する。

▼抜本的な見直しが必要

多くの歯科医療機関の収入の中心は保険診療であるが、保険診療は算定ルールが定められているため、個人の努力では打開策や診療体制の充実も図れない。2024年には85歳以上の高齢者が1,000万人を超え、在宅医療のニーズが大幅に上昇すると言われている。その一方で医療を担う医師・歯科医師不足の問題も指摘されている。にもかかわらず、改定財源が不十分であり、医療の担い手不足の解消などには繋がらない。医療崩壊の危機打開には、抜本的な改定財源の見直しによる診療報酬の大幅な引き上げ、そして物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減措置を同時に実施していくことが必要だ。国民に必要な医療を提供できるような診療報酬改定の評価を切望する。

2024年2月27日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

 

【談話】プラス改定を実感できる実態に見合った診療報酬改定を切望する/政策委員長

プラス改定を実感できる実態に見合った診療報酬改定を切望する

厚労省は1220日、2024年度診療報酬の改定率について、診療報酬本体は0.88%(国費約800億円)となったことを発表した。前回の2022年度診療報酬本体の改定率はプラス0.43%で、前回より僅かに0.45ポイント上回ったが、診療報酬全体の改定率は薬価等と材料料が1.0%引き下げられた結果、0.12*のマイナス改定になった。
武見敬三厚労相はこの間、医療・福祉分野の労働者約900万人の賃上げの必要性を主張してきた。だが、この改定率では、物価高騰への対策や人材確保、医療・福祉分野に従事する者の処遇改善には程遠い診療報酬改定率と指摘せざるを得ない。

 ▼歯科は0.57%と低い改定率に抑えられる

今回の歯科改定率は0.57%となった。歯科は2014年以降1%にも満たない低い改定率に抑えられてきた。そのため、当会は政府・行政に歯科医療費の総枠拡大を要望してきた。しかし、政府官邸と財務省が主導する医療抑制政策により、厳しい改定率となった。長期化する医療用物資の高騰や患者の受診抑制が慢性化し、現場からは歯科医院経営の苦しい声が挙がっている。それでも医療現場では処遇改善に努めてきた。だが今回の改定率のうち、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の処遇改善に対する措置分はわずか0.28%程度しか含まれていない。これではこれ以上の処遇改善を続けることは困難である。

▼点数の付け替えでは解決しない

今までも、財源を補填するために既存の点数を下げて新たな項目に付け替えるのみで総点数は変わらず、プラス改定の実感を味わうことはなかった。2024年度診療報酬改定でも、既にその方向性が示されている。材料費や賃料、人件費はうなぎ上りであり、経営維持のためには休日返上または診療時間を延長しなければならない状況である。歯科医療を目指す若者に夢を抱かせ、患者さんに必要な歯科医療を提供できるような診療報酬改定を望む。

*=協会試算

2023年1222
東京歯科保険医協会
政策委員長 松島良次

【談話】次期診療報酬は 大幅なプラス改定が不可欠である/政策委員長

次期診療報酬は 大幅なプラス改定が不可欠である

財務省の財政制度等審議会(以下「財政審」)は11月20日、来年度予算案の編成に向けた提案にあたる「秋の建議」の中で、2024年度診療報酬改定について初・再診料を中心に診療所の報酬単価を引き下げ、「マイナス改定」を提言した。
しかし、財政審がマイナス改定の根拠とした機動的調査による診療所における収益・費用・利益の状況は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、医療機関の収益が落ち込んでいた2020年を土台に比較することで収益の上昇率を強調し、社会保障費を削減したい財務省の意図が反映された合理性を欠いた比較データである。建議の中で用いるには実態を反映したデータではないため、不適当である。
診療報酬改定を巡っては、国の低医療費抑制策が敷かれ、前回の本体の改定率はわずか0.43%に抑えられ、歯科においては2014年度以降の改定率は1パーセントにも満たない状況である。財務省が示す医療費の伸びは高齢人口の増加や、医療費の高度化等による医療費の自然増を示すものに過ぎず、医療機関の経営実態を示したものではない。それにも関わらず、恣意的なデータを持ち出して「極めて良好な経営状況」とすることは、誤った方向に誘導することに他ならない。
現在、歯科材料費、水道光熱費等、物価高騰が歯科医院経営に与えている影響が前回改定時よりも増して大きい。現場からは歯科医院経営の苦しさに耐え切れないという声も上がっている。また建議では新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に変更され、「経済情勢は平時に戻った」と主張しているが、医療機関においては感染症対策が不要になったわけではなく、感染対策にかかる物品の購入や人材確保等の費用の支出が継続するなど「有事」の対応が求められている。
新型コロナの影響や物価高騰で疲弊している医療機関に対してマイナス改定を求めることは、国民に対して安心できる歯科医療の提供を阻むだけでなく、岸田首相が民間企業と同様に求める医療・介護従事者の賃上げの実現は不可能である。地域医療を守り、国民が安心して医療にかかれるためにも次期診療報酬改定は大幅なプラス改定が不可欠である。
よって診療報酬の大幅なプラス改定を強く要望する。
2023年11月27日
東京歯科保険医協会
政策委員長 松島良次

※参考:歯科改定率の推移/20140.99%、160.61%、180.69%、200.59%、220.29

【談話】次期診療報酬改定に向けて~診療側の視点に立った適切な評価を〜/社保・学術部長

次期診療報酬改定に向けて~診療側の視点に立った適切な評価を〜

7月12日に開催された中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の2024年度診療報酬改定に向けた「歯科医療について(その1)」の議論の中で、支払側より「予防的な部分に保険診療の領域が拡大していくことに強い問題意識を持っている」という発言があった。

確かに、国民健康保険法の第二条には、「国民健康保険は、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする」とある。そのため、健康保険は疾病等、あくまで診断に至ったものに対して給付されるべきものという考えが根強いのだろう。また、保険医療機関及び保険医療養担当規則の第一条 療養の給付の担当の範囲に「診察、薬剤・治療材料の支給、処置・手術その他の治療」とあり、これも疾病を前提にした記載である。

しかし、歯周疾患や口腔機能低下症など、「歯科疾患の重症化予防」が重要視されていることは周知の事実である。これからの歯科医療には、疾病の進行を抑制するためにも「重症化予防」の視点を積極的に取り入れていくことが求められている。

診療側より出された意見について、「施設基準の重複」の整理が必要なこと、口腔機能や口腔疾患に大きな影響を与える全身的な疾患等において医・歯・薬のより深い「医療連携を深める」ことができるよう検討すること、また要件の緩和はあったものの、1998年より長期にわたり評価が据え置かれていた「歯科衛生実地指導料」についても、この間の社会情勢の変化や人件費の高騰に対応した適切な評価をすべきである。

前述の「重症化予防」にも繋がるが、口腔機能管理の中で行われる機能の獲得や維持、機能が低下した場合には、回復および向上のための「訓練に対する評価がない」ことに対しても意見が出されている。また、歯科用材料については、支払側も診療側も市場価格に左右されない非金属の新しい材料を積極的に活用すべきと意見が一致しているようである。これらの診療側の意見は、今後の歯科保険医療を充実させるために重要な視点ばかりである。

これからの歯科医療は「重症化予防」を抜きに、国民に対する歯科医療提供体制の構築はできないのではないか。また診療側から出された意見も、国が推進する地域包括ケアを含めたこれからの歯科医療には不可欠な検討課題であり、より歯科保健医療を充実させることを念頭に置いた議論を今後の中医協に期待したい。

2023年7月28

東京歯科保険医協会

社保・学術部長 本橋昌宏

第51回定期総会「決議」

国は、医療DX(Digital Transformation)を進めており、マイナンバーカードの導入を理由に2024年秋に健康保険証を廃止するマイナンバー法等の一部改正法案を成立させた。自動的に交付される健康保険証と異なり、施設に入居している患者などマイナンバーカードによる資格確認を受けることができない方は資格確認書の申請が必要であり、申請漏れによる無保険者を続出させる危険性をはらんでいる。国民皆保険制度の根本をゆるがす問題であり、国民誰しもが保険診療を受けられるように健康保険証の廃止はするべきではない。

また、当協会も実施した全国保険医団体連合会のアンケートでは、「他人の情報が紐づけられていた」ケースが少なくとも37件あるなど、オンライン資格確認システム自体にも深刻なトラブルが発生していることが明らかになった。不完全なシステムであれば検証と修正をするべきであり、改善されないまま導入義務化を継続するべきではない。

さらに、歯科の半数以上が電子媒体で診療報酬を請求している中で、20244月よりオンライン請求の義務化が検討されている。しかし、電子レセプトの提出方法を郵送ではなくオンラインに限定する審査上の必要性はなく、医療機関側には移行に伴うコストが生じる一方で、利点としては審査機関側の事務コスト削減しかない。このように、医療機関側のみに不利益を生じさせる施策は直ちに止めるべきである。

他方、医療機関の経営をみれば、物価高が深刻な影響を及ぼしている。コストを踏まえた診療報酬の引き上げを、次期診療報酬改定で行うことが必須である。

国が推し進めている安心安全な医療の提供を脅かす動き、そして人の命を奪う戦争や核兵器使用で諸国を威嚇するいかなる行動に断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ、推進するために、以下の要求を国民、政府及び歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

一.国は、現行の社会保障を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度を更に充実させること。

一.国は、健康保険証を存続させ、オンライン請求およびオンライン資格確認システムの導入義務化を撤回すること。

一.国は、物価高騰を踏まえ、診療報酬の引き上げを行うこと。

一.私たち歯科医師は、平和を妨げるすべての動きに反対する。

 

2023年6月18日

東京歯科保険医協会

第51回定期総会

第51回定期総会会場の風景

談話「オンライン請求義務化の撤回を求める ~現場の声を反映し、医療機関側に裁量権を与えよ~」

3月の社会保障審議会医療保険部会において、厚労省は「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ案」を提示した。

その内容は、2024年4月以降は光ディスク等の電子媒体による請求の新規適用を認めず、現行の電子媒体でレセプト請求をしている医療機関に対して、2024年9月末までにオンライン請求への移行を原則「義務化」するものである。10月以降も電子媒体で請求(自院でレセコンを未所有で外部委託により電子媒体で請求している場合など)を継続する場合は、オンライン請求への移行計画の提出を求めて1年単位の経過措置にするとされている。また、紙レセプト請求については、レセコン未使用時の新規適用を20244月で打ち切り、4月以降も紙レセプトで請求するには要件を満たす旨の届出を改めて求めるとされている。加えて、「義務化」を強行するために2023年度中に診療報酬に関する請求省令を改正することも示している。

東京都において、オンラインで請求をしている歯科医療機関は26%に過ぎない。このような状況でありながら、昨年5月にはオンライン請求システムの不具合により、レセプト請求が一時的にできない状況が生じた。オンライン請求が一斉に施行されることになれば、システムのオーバーフローが危惧される。

このような懸念があり、現行の運用に何ら問題がないにも関わらず、診療報酬の請求方法を限定する実質的な義務化の強要は、医療機関に混乱を招くだけである。診療報酬の請求ができないとなれば、地域医療の崩壊を加速させ、医療提供に影響を及ぼす可能性があり、最終的に患者・国民へ波及しかねない。

当協会の会員からも「裁量権のない強制的な義務化は閉院を意味する」、「一方的な押し付けには断固反対する」など、義務化の撤回を求める声や裁量の自由を求める声が多く寄せられている。

国や国保連合会、支払基金などの審査等の業務効率化やレセプトデータの利活用などばかりを強調し、現場をあずかる医療機関側には全く裁量権を与えない強制的な義務化方針の撤回を強く求める。

2023年5月26
東京歯科保険医協会
社保・学術部長
本橋 昌宏

談話「診療報酬のオンライン請求義務化撤回を求める」

厚生労働省は322日、社会保障審議会(医療保険部会)において、光ディスクなどで診療報酬を請求する医療機関に対して、原則20249月末までにオンライン請求に移行することを事実上義務付けるロードマップを提案した。また紙レセプトにより請求する医療機関に対しては、2024年度以降の新規適用を認めず、既存の紙レセプト請求医療機関にはあらためて要件を満たしているかの再届出を求めるとしている。医療機関の置かれている実態を顧みず、レセプト請求に対する新たな義務を法律ではなく、2023年度中に請求省令のみを改正し、強引に推し進めようとしている。

2023年2月末現在、歯科においては、全体の約6割にあたる約4万件の歯科医療機関が光ディスク請求を選択している。義務化となれば、現在光ディスクを選択している歯科医療機関への影響は大きい。医科でも約2割にあたる約1,8000件の医療機関に影響が及ぶ。厚生労働省が行ったアンケートでも、オンライン請求について「開始する予定がない」と回答した医療機関が47%あり、移行に要する期間も「わからない」と回答した医療機関が56%もある。この状況を前提にオンライン請求への移行を強引に進めれば、地域医療を支えている医師・歯科医師を閉院・廃院へと追い込むことになりかねず、かかりつけ医師・歯科医師を失うことは国民にとって不利益を被ることになる。

政府はこの間、医療DXの実現に向けて、オンライン資格確認システムの原則義務化など医療機関に煩雑な対応と維持費などの費用を押し付けている。また医療機関がオンライン化に消極的な理由の一つに、セキュリティ面の課題がある。医療情報はプライバシー性が高く、センシティブな患者の個人情報であるため、他の情報以上に安全性が求められる。患者の機微情報を守る観点からも、国の責任で医療機関が安心してオンライン化できるセキュリティの構築を先に行うべきだ。また、政府の方針どおり、いち早くオンライン請求を始めた医療機関からは、返戻に関わる操作が分かりづらく、国が用意したサポートセンターに問い合わせをしても電話がつながらず、対応の不備が露呈した。このように、医療機関に対応ばかりを急がせ、肝心の医療行為に支障を招く恐れがある。患者・国民への不利益、セキュリティ面、医療機関へのサポート面からも、診療報酬のオンライン請求義務化撤回を求める。

2023年425

東京歯科保険医協会

政策委員長

松島良次

声明 政府は健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を

政府は健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を

政府は3月7日、健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと健康保険証を一体化(以下、マイナ保険証)するとしたマイナンバー法など関連法改正案を閣議決定し、本日、4月14日の第211回通常国会に提出した。2023年4月から医療機関にオンライン資格確認システムの導入を義務化し、2024年秋には健康保険証を廃止するとしている。デジタル改革の推進のもとに行われているマイナンバー法やオンライン資格確認システム導入の義務化、現行の健康保険証の廃止は、取得が任意であるはずのマイナンバーカードを事実上義務化させることになり、選択の自由と国民皆保険制度を壊しかねない問題である。

そもそも、国民皆保険制度は、「いつでも」、「どこでも」、「誰でも」、日本国内で等しく医療が受けられるものである。健康保険証を廃止し、マイナ保険証を取得しない国民は、「資格確認書」を申請しなければ、公的医療が受けられなくなる。さらにマイナ保険証で資格確認ができない場合に患者の窓口負担金が増加することも公的医療の平等性から問題である。

昨年11月に全国保険医団体連合会が実施したオンライン資格確認システムに対する調査(回答:8,707件)では、「有効な保険証でも『無効』と表示された(62%)」、「カードリーダーの不具合があった『41%』」など、システムトラブルが多く発生している。システムトラブルにより資格確認ができない場合に、健康保険証の提示がないと、患者には窓口負担金を一時的に10割で支払いをしてもらうことになるなど、患者も不利益を被っている。また、全国世論調査(読売新聞社2022年11月4日~6日)では、2024年秋に健康保険証を原則としてマイナンバーカードに一本化する政府の方針について、「賛成」44%、「反対」49%と意見が分かれている。

国民、医療現場での理解が十分に得られないまま、健康保険証を廃止することはやめるべきだ。国の責務として国民の声を受け止め、健康保険証廃止法案の撤回を求める。

 

2023年4月14

東京歯科保険医協会 理事会

 

20230414理事会声明(健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を)

談話 「防衛費ではなく医療・社会保障を充実させ平和な日本を」

12月5日岸田首相は、防衛費を5年間で総額43兆円とするよう指示しました。現行の防衛費予算を倍にしようというもので、相手国のミサイル発射拠点をたたく反撃能力の整備などにあてるとしています。専守防衛を国是としてきた日本が、相手国を射程範囲に含める戦力を保持するということは、相手国に脅威を与え、ひいては果てしない軍拡競争に突入してしまう恐れがあります。

防衛費増額の財源は、歳出改革、剰余金や税外収入の活用、税制措置などを挙げています。実際に政府の有識者会議では財源の一つに国立病院機構と地域医療機能推進機構の積立金合わせて約1,500億円の早期返納を挙げています。歳出の削減では医療費や社会保障関連費用が狙われています。自民党幹部からは「社会保障の水準を切り下げも議論」という意見も出ています。首相も2027年度約1兆円強の増税を示しました。東日本大震災からの復興予算にあてるため、所得税に上乗せされている「復興特別所得税」の一部を活用する案も出ています。

世界銀行が公表したデータによれば、2022年9月現在の合計特殊出生率世界ランキングで日本は187カ国中174位です。このままでは少子化で日本が亡びてしまいます。内閣府の子育て予算国際比較(対GDP比)ではスウェーデン2.9%、フランス2.8%、イギリス2.2%、ドイツ1.9%、日本0.6%となっています。防衛費を増やすより、少子化対策や医療・社会保障の改善が急務です。今が岐路の時です。私たちの医療や社会保障を守る運動は本当の意味で「国を守る」ことにつながっていくのです。

東京歯科保険医協会は命と健康を守る医療人としての立場から、あらゆる戦争に反対します。引き続き、憲法を守り、社会保障の充実、平和な日本を目指す活動を行っていきます。

 

2022年1214

東京歯科保険医協会

反核平和担当理事 矢野 正明

談話 健康保険証の廃止は今後大きな禍根と問題を生じさせる

政府は2024年秋に、健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一本化するとの方針を発表した。確かに、国民全てが所持している健康保健証を一本化すれば、一気にマイナンバーカードを普及させることができるであろう。

歯科保険医の中でもその評価は分かれている。時代の流れであるとして賛成する意見が散見される一方、今の健康保険証には問題が無く廃止する意味が解らないなど様々である。

しかし、健康保険証は、医療機関の窓口で提示をすれば、いつでも、どこでも、だれもが、日本国内で等しく医療が受けられる大切なものとして広く国民に定着している。これをマイナンバー普及の手段として利用し、いきなり廃止するということは、国民の命と健康の維持に重大な影響を与えることになる。国はその重要性を認識するべきだ。

そもそもマイナンバーカードは普及が進んでいない。その背景には、政府に個人情報管理を委ねることに対する不信感がある。2024年秋までに全国民に取得させるのは、時間的にもあまりにも無理な計画である。

河野デジタル大臣は1013日に記者会見でマイナンバーカード未取得者への医療提供を問われ「広報する」と回答した。その後1028日には岸田首相が「新たな制度を用意する」と方針を変更した。しかし、新生児の健康保険証発行の問題、要介護者がマイナンバーカードを取得できるのかなど、これから検討する課題も多く、まずは試験運用を行い、多くの問題を解消してもらいたい。

国民の医療を受ける権利を保証する健康保険証を拙速に廃止してマイナンバーカード取得を実質義務化のために一本化する政府方針は、今後に大きな禍根と問題を生じさせることは明らかである。我々医療人はこの問題を注視して行く必要があり、健康保険証廃止には反対である。

 

20221028

東京歯科保険医協会 

政策委員長 松島良次

理事会声明 オンライン資格確認システム導入の義務化撤回を

 中医協総会で、医療等におけるオンライン資格確認システム導入が、20234月から原則義務化される方針案が了承され、厚生労働大臣に答申された。

 この義務化は、療養担当規則において紙レセプト請求以外の医療機関にオンライン資格確認システムの体制整備を義務付けるとともに、診療報酬の変更、補助金の内容を見直して体制整備を強制する内容である。

 システム導入普及率の遅れを取り戻すべく政府・行政は、「電子的保健医療情報活用加算」から「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」に10月から再編するなど、医療機関から提供する医療サービスへの対価であるべき診療報酬の在り方を歪めた。

 現在、全医療機関における運用段階に至った割合は現状26%、医科診療所では17.5%、歯科診療所では18.1%である。20233月末までに義務化となれば、その導入準備は困難を極める。

 オンライン資格確認システムを導入した医療機関からは、システムの不安定さや情報漏洩のリスク、院内ネットワークの障害、患者への窓口対応、医療機関での導入コスト、ランニングコストの問題も指摘されるなど、問題点は残されたままだ。

 ほかにも訪問診療や生活保護の患者さんへの対応もできておらず、システム改善が行われない状況では、導入を義務化すべきではないという意見が上がっている。

 政府・行政は場当たり的な施策によって医療機関、また国民に負担を強いるのではなく、コロナ禍で疲弊した医療機関等の立て直しに向けて施策すべきだ。医療機関と国民に疑念を抱かせたことに猛省を促したい。オンライン資格確認システム導入の義務化の撤回を求める。

2022年98

東京歯科保険医協会

10回理事会

第50回定期総会 「決議」

第50回定期総会「決議」

厚生労働省に行った歯科用金銀パラジウム合金の材料費が診療報酬の告示価格を上回る問題に関する改善要求から、今次診療報酬改定において、変動幅に係らず3カ月毎に告示価格を改定する仕組みが新設された。しかし、ウクライナ侵攻などから歯科用金銀パラジウム合金の市場流通価格は日々高騰を続けており、問題は一向に解決していない。医療機関の経営は更に厳しさを増しており、歯科医療に従事する人材を維持・確保できなくなる恐れがあるなど、医療提供体制の崩壊が懸念される。

長期化する新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、医療用物資の高騰や患者の受診抑制が慢性化している。今次診療報酬改定で初診料および再診料が僅か各々3点しか引き上げられておらず、そもそもコロナ禍以前より院内感染防止対策に係る評価は十分とは言えず、国は速やかに院内感染防止対策の適切な評価を行うべきである。

なお、感染拡大を受け、厚生労働省は今年度も高点数による個別指導を実施しないこととした。これは、協会が廃止を求めてきた成果の1つであり、必要性が乏しいことを厚生労働省は認めたと言える。萎縮診療にもつながる当該指導は、速やかに廃止すべきである。

国は、一定の収入がある75歳以上の国民の負担割合を、今年10月から1割から2割に引き上げる。健康寿命の延伸や在宅医療の医療提供が喫緊の課題となる中で、その患者の負担割合を引き上げる動きには反対である。

「経済財政運営と改革の基本方針2022」の原案において、国民皆歯科健診の検討が盛り込まれた。疾病の早期発見および健康寿命の延伸に繋がると期待され、実現に向けてできる限り協力したい。なお、実施の際には患者が負担を気にせず健診が受けられるよう、適切な制度設計が検討されるべきである。

2月24日に開始されたロシア軍のウクライナ侵攻は、国連憲章および国際法を踏みにじる行為であり、いかなる理由であっても許されるものではない。国民の命と健康を守る団体、そして唯一の被爆国として、人の命を奪う戦争や核兵器使用で世界の諸国を威嚇するいかなる行動にも断固として反対する。

また、政府が推し進めている今後増加する高齢者のために一人当たりの社会保障費を削減する動きや、患者への安心安全な医療の実現を妨げる動きに断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ、推進するために、以下の要求を国民、政府及び歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

一.国は、現行の社会保障を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度を更に充実させること。

一.国は、これ以上の患者負担増計画は中止し、医療保険や介護保険の自己負担率を引き下げること、または公費助成を充実させることにより、国民負担を軽減すること。

一.国は、患者が負担を気にせずにかかりつけの医療機関で健診が受けられるよう、国民皆歯科健診の適切な制度設計を行うこと。

一.国は、院内感染防止対策の評価を更に引き上げるなど診療報酬の諸問題を改善すること。

一.国は、歯科用金銀パラジウム合金の材料費が診療報酬の告示価格を上回ることのないよう、さらなる制度改善を行うこと。

一.国は、高点数の保険医療機関を対象とした指導を廃止すること。

一.私たち歯科医師は、平和を妨げるすべての動きに反対する。

 

2022619

東京歯科保険医協会

50回定期総会

 

 

 

 

 

理事会声明 オンライン資格確認システムの導入“義務化”に反対する

 マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認システムの運用を開始した医科・歯科医療機関及び保険薬局数は2022年5月22日時点で44,284機関、参加率は19.3%となっている。そのうち、全国の歯科医療機関数は9,263機関、同13.1%、東京の歯科医療機関数は903機関、同8.4%にとどまっている。協会には実際に導入している歯科医療機関からオンライン資格確認システムの利用者は月1~2人の利用者しかいないという声も寄せられている。

 導入した医療機関には毎月のランニングコストの負担や受付の患者対応などの負担がかかる。そのため、診療報酬改定で、電子的保健医療情報活用加算が新設された。

 しかし、政府は患者負担が増えることが報道されると、同加算の廃止を早々と打ち出した。加算が廃止されればオンライン資格確認システムのランニングコストなどは完全に医療機関側が負担することとなる。また、診療報酬の諮問機関である中医協を飛び越えて、政府が方針を打ち出すのはいかがなものだろうか。

 また、患者負担があるため、オンライン資格確認システムの利用者が少ないという声もあるが、そもそもマイナンバーカードの全国普及率は5月1日時点で44.0%であり、東京では47.8%である。健康保険証利用登録が済んでいるのは全人口でわずか7%未満に過ぎない。いったい、マイナンバーカードを健康保険証として持ち歩く国民がどの程度いるだろうか。

 現行システムでは、資格確認以外の薬剤情報や特定健診記録などの医療情報へアクセスするためにはマイナポータルでの登録が必要である。マイナポータルの利用規約にはすべてのトラブルについて「自己責任」での解決をすることが定められており、全ての責任を利用者に押し付ける内容となっている。医療機関にあるオンライン資格確認システムのカードリーダーはその場で健康保険証とマイナンバーカードの紐づけができるため、医療機関で紐づけを行えば、医療機関側がマイナポータルの利用規約への同意を促してしまうことになる。また、一旦紐づけが完了してしまえば取り消すことはできないため、取り消しを希望する患者さんとの間で新たなトラブルともなりかねない。

 さらに、昨今の半導体不足の影響で、オンライン資格確認システムに使用する機器なども不足しており、導入まで半年以上待たされているという医療機関も存在する。半導体の世界的需要の高まりやウクライナ情勢の影響で、物資供給が不安定な中で優先的に導入を進めていくべきものなのかは甚だ疑問である。

 オンライン資格確認システムの最大のメリットは健康保険の資格確認がその場でできることとされてきたが、2021年10月より支払い側で資格喪失後のレセプトの振替などの作業を行っており、返戻は減りつつあるため歯科での導入のメリットは少ない。導入を義務化すれば、必要のない新たな負担を強いられるなどのデメリットが大きくなる。

 コロナ禍で経済的に打撃を受けている医療機関に対し、マイナンバーカードの普及率の低さを解消するため、オンライン資格確認システムの導入を“義務化”し、負担を強いることが今求められていることなのか。マイナンバーカードの普及については、政府が正しく運用するのであれば、新型コロナウイルスに係る給付金などに活用をすることができることなどから、推進をしていく必要性もあると思われるが、現状ではさまざまな点で不安が払しょくできない。そもそも医療をマイナンバーカード普及の出しに使うことについて、国民に理解を得られているとは到底考えられない。

以上よりオンライン資格確認システムの導入“義務化”に反対する。

2022年6月9日

東京歯科保険医協会 第5回理事会

理事会声明「プラス改定を感じられない」

全体でみればプラスにならない

 今次改定では、かかりつけ歯科医機能、訪問診療及び医科歯科連携の拡充が行われ、わずかだが基礎的技術料が引き上げられた。しかし、歯科の改定率は+0.29%と近年まれにみる低い改定率となっており、初・再診料を引き上げるために日常診療の点数が犠牲になるなど、点数の付け替えが行われた。

 「一物二価」との批判のあった歯周病安定期治療の() ()が統合されたが、これまで歯周病安定期の治療に真摯に取り組んできた歯科医院の努力を置き去りにした改定の手法には納得がいかない。

 長期化する新型コロナウイルス感染症により、治療の中断あるいは受診を手控える状況が頻繁に起きている。その結果、徐々に患者が減少し、医院経営をあきらめざるを得ない会員も出ている。

 今次改定は、感染対策によりコストがかかる歯科医院経営からみて、不十分と言わざるを得ない改定である。

金銀パラジウム合金の原価割れが解消されていない

 金銀パラジウム合金(以下、金パラ)の原価割れの解消を求めて、協会は改善を求める署名を厚生労働省に提出した。今次改定では乖離幅に係らず3か月ごとに歯科用貴金属価格が改定されるほか、その元となる素材価格の参照時期のタイムラグが改定の3ヶ月前から2ヶ月前までに短縮される。タイムラグの短縮により市場価格との乖離は多少改善されるが、会員が求めていたのは原価割れが生じない仕組みである。

 今次改定で償還価格が1g当たり3,149円に引き上げられるが、ロシアによるウクライナ侵攻などによって特にパラジウムが高騰し、医療機関での金パラの購入額はこれを超えて赤字のままである。改定があっても赤字が解消されない異常事態だ。

 厚生労働省は、今次改定の附帯意見の中に、随時改定の見直し後の影響を検討することを盛り込まなかった。消極的である。まずは、7月の随時改定を待つことなく、早急な対応を図る必要がある。

 金パラの高騰で患者負担も増えるため、国が責任をもって金パラの配給を行うなどの対策を講ずるべきである。今次改定でレジン前装チタン冠が導入されたが、製作は鋳造に限られているため、鋳造欠陥が発生しやすい。粗悪な補綴物を提供できないため歯科技工士を悩ませている。また、チタンによるブリッジは保険適用外であり、レアメタルを含む金パラを使用することは、心も懐にも痛みを感じる。

 CAD/CAMインレーの導入も金パラの代替としての評価はするものの、金パラに比べ耐久性が劣る。再製作となればその分医療費が増えることや患者の信頼を損なうことに繋がる。

医科歯科連携や訪問診療の推進が小幅

 医科歯科連携では、総合医療管理加算の施設基準の廃止及び対象疾病にHIVを追加、ならびに医科が歯科に訪問診療を依頼する際の診療情報提供料()の加算の対象拡大などが行われた。しかしながら、総合医療管理加算の対象疾病の追加は1疾病のみ、さらに周術期等口腔機能管理料に関する推進策がないなど、改善は小幅である。

 訪問診療では、在宅療養支援歯科診療所2の施設基準の要件が引き下げられたが、訪問診療に取り組む医療機関を推進する策は示されていない。

総枠拡大をしなければ、歯科の展望は開けない

 今次改定で歯科改定率が0.29%と低値であったが、重要項目に十分な評価がされなかった。歯科が国民に果たす役割を発揮させるためには、相応の財源を確保した上で、評価の充実を行う必要がある。

 本声明は、歯科の低い改定率で不十分な評価がされていない問題を指摘し、根本的な問題である歯科医療費の総枠拡大を求めるものである。

 

2022年310

22回理事会

決議

 2022年度歯科診療報酬の歯科改定率は、僅か0.29%の引き上げに留まった。改定財源の確保のため、歯周基本治療処置、SPTⅡなどの点数の廃止ならびに点数の付け替えが行われた。今次改定では、院内感染防止対策をさらに推進するための初・再診料及び抜髄などの基礎的技術料の引き上げなど、個々では改善が図られているが、全体でみればとてもプラスを実感できる内容ではない。

 また、金銀パラジウム合金(金パラ)の原価割れの解消を目指し、歯科用貴金属価格の随時改定の仕組みが変更されるが、市場価格と保険償還価格の差額が発生するという根本的な問題は全く解消されていない。この不十分な対策をあざ笑うかのように、ロシアのウクライナ侵攻を起因としたパラジウムの著しい高騰を受け、既に多くの医療機関で原価割れに陥っている。適切な医療を提供するために公的資金を導入してでも価格の安定を図るべきである。

 一方、患者の受診状況は、コロナ禍も加わり、経済的な理由による治療の中断あるいは受診を手控える状況が多数起こっている。こうした状況の中、政府は今年10月から「75歳以上の医療費窓口負担2割化」を実施しようとしている。

 私たちは、診療報酬の引き上げとともに、患者負担増の中止及び患者窓口負担の軽減を求め、以下の事項を要望する。

一、歯科医療費の総枠拡大を行い、安心安全な医療を提供できるよう診療報酬を改善すること

① 歯科保険医の診療対価としての基礎的技術料を更に引き上げること

② 診療報酬の複雑すぎるルールを是正すること

 

一、金銀パラジウム合金の原価割れを公的資金導入により解消すること

 

一、「75歳以上の窓口負担2割化」の方針を撤回し、患者窓口負担を軽減すること

2022年3月 東京歯科保険医協会 新点数説明会

参加者一同

談話 都内全域への「子ども医療費助成制度」の拡充を求める

 この度、東京都が「子ども医療費助成制度」の対象を所得制限付きで中学3年生から高校3年生までに拡大すると発表した。協会はこれまで保険で安心してきちんとした診療を受けられるようにという目的と、急速に超高齢社会が進む日本において、将来を担う子ども達を健全に成長させることは社会が果たすべき責任であるという理由から10年以上にわたり東京都へ子ども医療費助成制度の拡大を要望し続けてきた。この度我々の想いがついに実った。

 全国保険医団体連合会が2020年に全国的に実施した「学校健診後治療調査」でも、健診後に「要受診」と判断された生徒の未受診率が全診療科で特に高校生において顕著に表れた。大半の市区町村が、15歳の年度末までを医療費助成の対象としており、対象外である高校生において、受診抑制が生じていることがこの結果からうかがえる。

 この対象年齢の拡大は、「高校生の未受診率」の減少や「高校生になると一部負担金が3割になることから、中学生のうちに治療を終わらせるように案内を出しているという」現場の意見の解消にも繋がり、大いに評価できるものである。

 そのような前進がある一方で、多摩地区の多くの市・町では、子どもの一部負担金が1回の外来受診について200円を負担しなければならない問題は、いまだに解決されていない。

 2017年に当協会が実施した「学校歯科治療調査」では、学校歯科健診で「要受診」と診断された後の歯科医院の受診率は、一部負担金の有無により、大きな差が表れている。また、一部負担金が課せられている地域の養護教諭からは、「要受診」と学校で診断されても、「一部負担金があることで受診勧奨をしにくい」等の声も多く挙がっていた。

 協会は、居住地によって子どもが必要な医療を受けられないような医療費助成制度ではなく、すべての子どもたちがいつでも安心して必要な医療を受けられるよう、今後も一部負担金の廃止を求めていく。

2022年3月10日

東京歯科保険医協会

地域医療部長 横山靖弘

声明 ロシアのウクライナ侵略を断固非難する

 ロシアのプーチン大統領は、2月24日、ウクライナ各地へロシア軍を侵入させて攻撃を開始した。主権国家に対する武力による侵略は国連憲章、国際法を踏みにじる行為であり、いかなる理由であれ許されるものではない。

私たちは、罪もなき一般市民を殺傷し、いわれの無い理屈で一方的に戦争を仕掛けたプーチン大統領を断固非難する。ロシア軍は即刻、軍事行動を中止し、ウクライナから撤退すべきである。

私たちは、国民の命と健康を守る団体、唯一の被爆国として、人の命を奪う戦争や核兵器使用で世界の諸国を威嚇するいかなる行動にも断固として反対する。

2022 年 3 月 4 日

東京歯科保険医協会 理事会

 

声明「ロシアのウクライナ侵略を非難する」PDF

談話 大多数の保険医はがっかりしている

中央社会保険医療協議会(中医協)総会は2月9日、2022年度診療報酬改定案について、厚生労働副大臣に答申を行った。改定案の中身を見て多くの保険医は、肩を落とした。

コロナ禍でリスクの高い場所だと敬遠され、赤字収支となった企業はたくさんあり歯科医院も例外ではない。多くの歯科医療機関の収入の中心は保険診療である。保険診療は算定ルールが定められているため、個人の努力では打開策や診療体制の充実も図れない。2年に1度の診療報酬改定だけが是正のチャンスであり、コロナの影響をはねのけるような改定を期待していた。

先般、厚労省に寄せられたパブリックコメント数では、歯科医師からの意見が49.4%と半数を占めた。これをみても保険医の診療報酬に対する不満の大きさが現れている。しかし、改定率がプラス0.29%に留まり前回(プラス0.59%)の約半分となっていることも影響しているが、改定内容に対する工夫が乏しすぎる。

新興感染症に対する対策の研修を行った歯科医療機関に対して初・再診料にプラス3点となったが、歯周基本治療処置10点が廃止になったためトータルでは実質減点となる。 また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所におけるSPT算定時の加算がプラス120点しかなく大幅なダウンとなる。これでは、施設基準を辞退する歯科医療機関が増える恐れもある。 口腔機能管理の対象範囲の拡大を行ったが、一番必要だと思われる対象年齢での算定率をみても、増える気配は全く感じられない。外来でのフレイル予防が進まなければ、施設や在宅での口腔機能低下は悪化の一途を辿るであろう。口腔機能管理料は、対象年齢の範囲を広げることで推進を図るのではなく、管理料を算定しやすくするべきではないだろうか。

そして、総合医療管理加算に至っては、HIV感染症の患者さんだけを対象患者に追加したが、もっと総合的医療管理が必要な患者はたくさんいる。総合医療管理加算の対象疾患を患者・国民のため、HIV感染症だけでなく広く認めるべきで、この項目が医科歯科連携の突破口のはずなのに周術期の口腔管理とともに算定率は伸び悩むであろう。 ただ、財源が少ない中、根管治療等の基礎的技術料に僅かながら加点して戴いたことは評価したい。

2025年には4人に1人が75歳以上となり、在宅医療のニーズが大幅に上昇するだろうと言われ、その備えとなる地域包括ケアの確立は急務だ。しかし、在宅訪問診療や医科歯科連携の推進も今次改定の内容では期待できない。中医協のメンバーや厚労省の担当者は、もっと現場に降りてきて保険医の苦悩を見てほしい。歯科診療現場の実態、臨床の場に立つ保険医の声に合致した診療報酬にするため、机上の空論ではなく実態に即したより一層の創意工夫を熱望する。

2022年225

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

会長年頭所感/2022年1月1日

2017年6月の総会の日に会長を拝命し、5回目の年頭所感として、新年のご挨拶をさせていただきます。日頃、会員の先生方には本会会務に対してご理解とご協力をいただき、心から感謝申し上げます。

4年前の年頭所感で本会会員数5277名とご報告し、その後2018年度診療報酬改定での施設基準の要件などを背景として、3年前は前年比431名増の会員数5708名、一昨年は5815名、昨年は5900名、今年は5937名(12月1日付)と、本会会員数は順調に増加しております。この会員増の一因には、既会員の先生方からの多くのご紹介があり、この場をお借りしまして先生方のご協力に厚く御礼申し上げます。

2021年は、2020年初頭から続いた新型コロナウイルス感染症への対応に追われた年といえます。この約2年間、多くの歯科医療機関は新型コロナウイルス感染症に対応しながら、歯科医療に従事されたと存じます。第5波は、9月上旬に新規感染者数の減少があり、その後ピークアウトしたとされました。しかし、本稿執筆時(2021年1219日)には、海外から入国された方から新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染者が複数確認され、水際対策として濃厚接触者とみなされる人が増加し、待機宿泊施設が足りないとのニュースさえ流れています。

日本では、冬場、年末年始の人の移動などを理由に、第6波の発生が心配されています。その対策のため、希望される方への3回目のワクチン接種が進められ、すでに2021年4月に優先接種した医療従事者の3回目のワクチン接種が12月から始まっています。今後、新型コロナウイルスの感染が早期に収束へと向かい、人類にとって脅威とならない感染症になることを心から願っています。

協会の大きな事業の一つとして、2年ごとに実施される診療報酬改定に対する「新点数説明会」があります。2020年度診療報酬改定時には急遽、集合型を中止し、動画配信に切り替え、改定内容の周知に努めました。この対応は、簡単なことではなかったですが、結果的に大きな混乱とならず、会員の先生方に感謝しております。

現在、本年4月の診療報酬改定に向けて、「新点数説明会」の準備を鋭意進めています。可能であれば、4年前のように集合型で「新点数説明会」を開催したいところですが、コロナ禍の状況が読めないため、ハイブリッド開催、動画配信など、全方向で検討を行っています。会員の先生方には、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会の目的は、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ること」です。その目的を達成するために、会員の先生方とともに役員、部員、事務局員は会務を行っています。コロナ禍により、理事会や部会をWEB開催、研究会などもハイブリッド形式などで対応して、ネット環境やデジタル化が急速に進みました。今後も様々な情報を適時、詳細に、デンタルブックメールニュース、協会ホームページ、FAX、機関紙などで発信していきます。特に、スピードが必要な情報発信では、デンタルブック登録者へのメール配信が大変有効なツールです。今後、さらに多くの会員にデンタルブックの登録を済ませ、様々な情報を入手していただくことを望んでいます。

今年も会員の先生方の訴えや要望などを各方面に届け、改善を図ることを協会活動の大きな柱と考えて積極的に行っていきます。会員の皆様のご支援、ご協力を賜りますよう、何卒、よろしくお願い申し上げまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

 

 2022年1月1日

東京歯科保険医協会会長

坪田 有史

談話 医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を

2022年度診療報酬の改定率が、診療報酬本体はプラス0.43%(国費約300億円)とされた。前回の2020年度診療報酬の改定率はプラス0.55%で、前回より低い水準の引き上げとなっている。わずかな引き上げに加え、政策的配分が行われてきた結果、医療従事者の処遇改善、およびコロナ対応で疲弊した医療提供体制を立て直すには程遠い診療報酬改定となった。

 

―歯科は0.29%

歯科においては、わずか0.29%のプラス改定に止まった。このような改定率は歯科の現状を見ていないばかりか、歯科軽視の結果である。第23回医療経済実態調査では、歯科診療所(個人)の損益率は、前年度に比べマイナス1.2%で、コロナ補助金を加えても、医業収益の落ち込みは明らかである。歯科材料費は前年度より6.8%増加し、衛生材料をはじめ院内感染防止対策に関わる資材、金銀パラジウム合金などの高騰が医院経営の重荷となっている。

コロナに対して歯科は、標準予防策を遂行し、感染拡大を抑えるなど国民の健康に貢献してきた。しかし、飛沫による感染リスクが高い職種だと言われ、医療従事者の離職や患者離れが発生した。患者減は未だに改善できず、閉院に追い込まれた歯科医療機関も出るなど、深刻な状況が続いている。

 

―社会保障費の自然増を定量的に抑制

財務省は、国のコロナ補助金投入の影響で「経営実態は近年になく好調」と主張してきた。だが、実態は経費が増加し医業収益が減少したため、経営状況は厳しい。これは医療経済実態調査に現れている。にもかかわらず、補助金投入で「好調」だとする財務省は、医療に対する意識が乏しいだけでなく、実態に目を背けていると言わざるを得ない。

また、社会保障費については、精緻化・適正化のもとに、定量的に抑制をしてきた。今回改定においても、国費を約1300億円削減し、概算要求で示された社会保障費の自然増約6600億円を約4400億円程度に抑えようとしている。国民の福祉を忘れた財源ありきの政策により、国民のいのちが危機にさらされている。

 

―「国家の福祉」とは国民の生活の安定を図ること

国家が目指すべき福祉とは、社会保障制度の整備を通じて国民の生活の安定を図ることだ。このまま社会保障費の抑制政策と削減が続けば、医療提供体制はおろか、地域医療体制、国民のいのちと健康は守れない。

歯科はこれまで8020達成や、高齢者への口腔ケアを重視してきた。その結果、高齢者の入院リスクを減少させるなど、総医療費の削減にも貢献をしてきた。今後、高齢者の増加に従い健康寿命の延伸が重要となるが、歯科はこの点において大きな役割を担うことが明らかになっている。歯科が重視される医療提供体制を構築するためには、まずは実態に即した診療報酬の引き上げが必要不可欠である。

今後、議論は財源の配分に移っていく。今回の改定率では、歯科の窮状は改善を望めないが、医療技術評価分科会で日本歯科医学会から提案された76項目の新規技術導入と、重症化予防の推進について、適切に評価されることを強く望みたい。医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を改めて強く求める。

2021年1223

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

談話 医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める

20211124日に発出された『第23回医療経済実態調査』はコロナ禍での調査となっており、今回の調査では新型コロナ関連の補助金を除いた医業収益まで調査をしている。

医療経済実態調査に関しては、以前より、恣意的な調査であることが問題となっている。歯科医療機関全体の調査結果では調査施設数が298機関、平均医業収益が約7,300万円となっており、保険診療を中心とした大多数の開業医の経済実態を対象としているとは到底考えられない。また、東京23区に限れば、歯科医療機関数約10,600機関中、調査施設数は27機関(約0.3%)、平均医業収益が約6,000万円となっている。適正な調査を行うためにはサンプル数を増やして実施することを検討すべきではないだろうか。

以上を踏まえたうえで、今回の調査結果では、東京の歯科診療所は新型コロナ関連の補助金を含めても、医業収益の伸び率は-2.2%となっており、医業経費の伸び率が-1.1%となっている。恣意的にも思える調査結果であっても、医業収益はマイナスとなっており、患者の受診抑制による、診療収益の減少をこれまで以上の経費削減をすることで何とか持ちこたえていることがわかる内容である。実際に会員からは「補助金がないと経営が厳しい」「感染対策の経費は増え、補助金で何とかしのいでいる」といった声が寄せられており、一時的な財政支援である補助金も医療機関の存続の一助となっている。しかし、今後も感染防止対策の補助金が交付されるかは不明である。

一部ではコロナの補助金により多くの医療機関が黒字化しているためマイナス改定になるという報道がされているが、以上の調査結果からすれば、東京の歯科医療機関は補助金があっても苦しい状況にあることは明確である。

12月3日に行われた中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の「医療経済実態調査の結果に対する見解」の資料(診療側・2号側委員)では「地域歯科医療を担う約 8 割を占める個人立歯科診療所の経営は、コロナ関連補助金を加味しても依然として厳しい状況が続いている」「既に経営努力や経費削減努力は明らかに限界に達している」と歯科医療機関の置かれている状況の記載がみられる。また、2021年5月に行った協会の会員アンケートでは、コロナ禍以前よりも医業総収入が減少したと答えた会員は約61%であった。会員アンケートの結果と、医療経済実態調査の結果、中医協の資料を踏まえれば、国民の健康を守る歯科医療機関が安定した経営を行うために、診療報酬の引き上げは不可欠である。

以上より、国に対し、医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める。 

20221213

経営管理部部長
相馬 基逸

談話 地域医療体制を維持するには診療報酬のプラス改定は不可欠

 財政制度等審議会は、「令和4年度予算の編成等に関する建議」の中で、2022年度診療報酬改定について、改めて「診療報酬本体のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と強調した。財務省は、「躊躇なくマイナス改定をすべき」との姿勢を崩しておらず、相当な決意がうかがえる。

 しかし、診療報酬(医療費)の伸びは高齢人口の増加や、医療費の高度化等による医療費の自然増を示すものに過ぎず、医療機関の経営実態を示したものではない。また、コロナ禍が経営に与えている影響も大きい。新型コロナウイルス感染症の感染者数は減少傾向にあるが、医療機関においては感染症対策が不要になったわけではなく、引き続き、感染対策にかかる物品の確保や人材確保等の費用の支出が見込まれ、診療報酬のプラス改定は不可欠である。

 厚生労働省が11月24日に公表した病院や医療機関の経営状況を調べた第23回医療経済実態調査の結果でも、医科・歯科ともに新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除いた医業収益が悪化している。歯科においては、医業収益が「個人」でマイナス1.2%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合はマイナス3.0%で、保険診療収益はマイナス1.9%となった。医療法人を含めた「全体」でも、医業収益がマイナス0.1%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合マイナス1.2%で、 保険診療収益はマイナス1.5%と前年度よりも下回っている。さらに歯科材料費は前年度よりも全体で3.9%上昇しており、医療機関の厳しい経営をさらに圧迫している。一時的な補助金や支援金ではなく、診療報酬本体の引き上げなくして、安定した地域医療の維持は困難であることは瞭然たる現実だ。

 遠からずして政府は2022年度診療報酬の改定率を閣議決定する。当協会では、引き続き実態に即した改定と地域医療体制を維持するために、診療報酬のプラス改定を求めていく。

2021年12月7日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

第49回定期総会「決議」(機関紙2021年7月1日号<No.616>掲載予定)

第49回定期総会「決議」(機関紙2021年7月1日号<No.616>掲載予定)

決議 

協会が厚生労働省に行った歯科用金銀パラジウム合金の原価割れに関する改善要求から、昨年7月に歯科用貴金属に関する「随時改定Ⅱ」が新設された。しかし、原価割れは依然続いており、問題は一向に解決していない。医療機関の経営は更に厳しさを増しており、歯科医療に従事する人材を維持・確保できなくなる恐れがあるなど、医療提供体制の崩壊が懸念される。

昨年から続く新型コロナウイルスの感染拡大や度重なる緊急事態宣言で、医療用物資の高騰や患者の受診抑制が続いている。4月から「歯科外来等感染症対策実施加算」が新設されたが、従来株よりも感染しやすい変異株が蔓延しつつある状況では、診療間隔を空けて密を避けるなどの対策を徹底・強化している。そもそもコロナ禍以前より院内感染防止対策に係る診療報酬の評価は十分とは言えず、さらに当該加算は今年9月診療分までの時限的な対応となっている。国は速やかに院内感染防止対策の適切な評価を行い、当該加算の算定期間を延長するべきである。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省は、今年度の集団的個別指導に選定した医療機関に対して、高点数による個別指導を実施しないことにした。これは、協会が廃止を求めてきた成果の1つであり、必要性が乏しいことを厚生労働省は認めたと言える。萎縮診療にもつながる当該指導は、速やかに廃止すべきである。

国は、一定の収入がある75歳以上の国民(約370万人)の負担割合を、1割から2割に引き上げる。2025年には団塊の世代が75歳に至り、在宅医療の医療提供や健康寿命の延伸が喫緊の課題となる中で、その負担割合を引き上げる動きには反対である。

世界保健機関(WHO)憲章に掲げられた、人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権の1つであるとの理念を踏まえ、健康と平和を脅かす動きに反対する。

また、政府が推し進めている今後爆発的に増える高齢者のために一人当たりの社会保障費を削減する動きや、患者への安心安全な医療の実現を妨げる動きに断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ、推進するために、以下の要求を国民、政府及び歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

 

 

一.国は、現行の社会保障を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度や自治体が実施する歯科保健に関する事業などを更に充実させること。

一.国は、これ以上の患者負担増計画は中止し、医療保険や介護保険の自己負担率を引き下げること、または公費助成を充実させることにより、国民負担を軽減すること。

一.国は、院内感染防止対策の評価がコストに見合っていないなど診療報酬の問題を改善すること。

一.国は、歯科用金銀パラジウム合金の原価割れが生じないよう、制度改善を行うこと。

一.国は、高点数の保険医療機関を対象とした指導を廃止すること。

一.私たち歯科医師は、命と健康や平和を妨げるすべての動きに反対する。

2021年6月13日

東京歯科保険医協会 第49回定期総会

 

理事会声明「今こそ歯科界全体として歯科技工士問題に取り組むべきである」(機関紙2021年4月号<613号>2面掲載)

理事会声明

「今こそ歯科界全体として歯科技工士問題に取り組むべきである」

歯科技工士を取り巻く環境は、長時間労働・低賃金などの諸問題が長らく放置され、養成学校への入学志願者も減少している状況である。そこで、東京歯科保険医協会は、改めて実態を把握するとともに、問題解決に向けた方策を検討すべく、歯科技工士問題検討委員会を立ち上げた。

20209月に東京都23区に所在する歯科技工所に対し実施した「歯科技工所アンケート」では、長時間労働、低賃金の過酷な状況が改めて示された。週の労働時間が、過労死ラインといわれる60時間を超えているとの回答が48%あり、60%が週1日以下の休日と回答した。また、可処分所得は200万円以内が22%と最も多く、特に個人開業では54%が300万円以内であると回答している。歯科技工物の価格が安くなる原因と思われるものでは、「歯科技工所間のダンピング競争」「補綴関連の低診療報酬」「歯科医療機関による値下げ圧力」「歯科医療機関の経営悪化」全ての項目で半数以上が「そう思う」と回答しており、歯科技工所の置かれている状況の厳しさが浮き彫りになった。また、保険診療制度に対して今後望む方向として、「保険請求の技工所直接請求」が65%と最も多く、特に 二十代~五十代で技工所が保険請求を直接行うことを求める声が多かった。

歯科技工所、歯科技工士が抱えている問題点については、長時間労働、低賃金だけでなく、歯科技工士の社会的評価の低さや、歯科技工士の業務範囲の狭さ、歯科技工物の低診療報酬、歯科技工士のなり手の少なさや離職率の高さなど多岐に渡っている。

現状のままでは、個人開業の歯科技工士がいなくなる未来もありえる。そうなれば、地域に根差した歯科医療の提供が難しくなる。歯科保険診療の中で歯冠修復、欠損補綴に関わる治療は40%前後を占めており、歯科技工なくしての歯科治療は存在しない。歯科技工所、歯科技工士を取り巻く環境改善には、業務範囲の拡大、保険請求の技工所直接請求や73問題の改善などの診療報酬の仕組みの見直し、教育機関の充実などが考えられる。

 根本的な問題は、約20年間ほとんど増点されず消費税増税分を考慮すると逆に減点されている歯科補綴関連の診療報酬の低さにある。新規技術が保険導入されたとしても、低い点数での導入であり、小規模ラボでは機材購入に踏み切れず技工物の製作が不可能である。そもそも、日本の歯科保険診療報酬は低く抑えられており、世界と比較しても5分の110分の1程度しかないことが問題である。

東京歯科保険医協会は、以前より要求しているように次期診療報酬改定でも、歯科補綴関連の技術料の引き上げを中心とした診療報酬総枠拡大を引き続き求めていく。また、歯科医師のパートナーである歯科技工士、歯科技工所とより一層の対話を深めながら、チェアサイドや訪問診療などでの業務範囲の拡大、診療報酬の仕組みの見直しなどに取り組んでいく。

今こそ歯科界全体が一丸となり、歯科技工士問題に取り組むことこそが解決の一歩になると確信している。

2021年3月26日

東京歯科保険医協会

第21回理事会

地域医療部長談話「新型コロナウイルス感染症蔓延下でもニーズに応える歯科訪問診療体制の整備を」(機関紙2021年1月号<610号>2面掲載)

新型コロナウイルス感染症蔓延下でもニーズに応える歯科訪問診療体制の整備を

2020年4月、新型コロナウイルス感染症に対する「緊急事態宣言」発出に合わせ、厚生労働省の「歯科訪問診療を含む歯科に対する診療の自粛(延期)を促す」通達が出され、メディアからも「歯科の受診は新型コロナウイルスへの感染リスクを高める」と報じられた。その影響により、外来診療をはじめ、歯科訪問診療でも受診控えが広がり、患家や施設への外部からの立ち入りを禁止されるケースもあった。

そこで、東京歯科保険医協会地域医療部では、歯科訪問診療の抑制による在宅患者または施設入所患者の口腔内への影響を把握すべく、部内関係者が歯科訪問診療を行っている東京近郊の在宅または施設(有料老人ホームや特別養護老人ホーム等)を対象にアンケート調査を行った。

アンケート結果では、口腔内のことで困った利用者が「いた」、「少しいた」との回答が約90%、「緊急事態宣言」の発令とともに歯科訪問診療の中止を余儀なくされたものの、「歯科訪問診療の必要性を感じた」との回答が約90%に及んだ。また、施設のスタッフから「患者の口腔内に変化があった時に即座に対応できないことへの不安」の声や「継続的な歯科訪問診療を必要」、「食形態の判断が難しかった」との声が多いことが特徴的であった。

さらに、個々の患者の口腔内に目を向けると、歯周病の悪化や嚥下機能の低下、歯の動揺の増加や歯根破折により抜歯になるケースがあった。これまで継続的に行っていた歯科訪問診療を自粛(延期)したことが少なからず患者の口腔内に悪影響を与えたことが窺えた。

歯科医師・歯科衛生士の行う専門的口腔ケアは、QOLの維持・向上をもたらすことや、誤嚥性肺炎やインフルエンザの予防に効果があるとのエビデンスがある。歯科訪問診療の中断は、歯科疾患の重篤化や誤嚥性肺炎をはじめ、新型コロナウイルス感染への悪影響が懸念される。今回のアンケート結果からも継続的な歯科訪問診療の必要性が示された。

地域医療を担う歯科医師として、第3波に屈することなく、ニーズに応える歯科訪問診療体制の整備が必要である。

2021年1月1日

東京歯科保険医協会

地域医療部長 横山靖弘