広報・ホームページ部

医科系メディアから見た歯科医療界⑦ 厚労族議員に積極的に関与し育てる戦略を/政治的解決が必要な問題が多いが故に

厚労族議員に積極的に関与し育てる戦略を/政治的解決が必要な問題が多いが故に

 消費税率の引き上げに反対でも、社会保障財源の確保のため三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)は総選挙で、消費税増税を前提に教育費無償化等の公約を掲げた与党を応援せざるを得なかった。野党の主張は増税の「凍結」「中止」か「延期」だったからだ。

まして次期診療報酬・介護報酬同時改定を控え、与党政治家の理解が必要な時期でもある。小池百合子東京都知事が代表を務める希望の党の動向が注目されたが、三師会に動揺はなかった。結果は与党の大勝だ。

◆力が弱まる厚労族

『集中』の取材で、中央社会保険医療協議会委員の猪口雄二・全日本病院協会会長は「衆参の厚生労働委員会の議員は重要。政治でないと解決できない問題がたくさんあるから」と話す。

業界のロビイストのような族議員は問題だが、社会保障政策に関する知識や調整能力に長けた族議員は必要だと思う。

しかし、官邸主導の政策決定が続く上、厚労族の力も落ちているのではないか。厚労族ドンの丹羽雄哉氏は引退、尾辻秀久元厚労相も以前のような力はないという。医師の鴨下一郎元環境相は安倍晋三首相と自民党総裁の座を争った石破茂氏の側近で日医にも近く、微妙な立ち位置にある。田村憲久元厚労相、厚相を務めた橋本龍太郎元首相の二男である橋本岳自民党厚生労働部会長はまだ若い。

ある病院団体役員は「厚労族の力が落ちている中、政界も病院界も厚労族議員を育成することを真剣に考えるべきだ。病院団体の役員も政治家との付き合い方が下手な人が多い。現職の団体トップで、唯一、上手なのは、日医の横倉義武会長だ。政治家といかにうまく付き合うかも考える必要がある」と話す。

◆貴重な歯科系議員の会

10月5日、参議院厚生労働委員会委員長に就任した島村大自民党参院議員(歯科医師)を励ます会が、都内のホテルで開かれた。会場には医師会や歯科医師会、企業人らが詰めかけた。会場には、世耕弘成経産相、河野太郎外務相、加藤勝信厚労相、中川雅治環境相の四大臣が挨拶し、参加者を驚かせた。島村参院議員は、同じ横浜を選挙区とする菅義偉内閣官房長官に近いといわれているが、衆院議員である河野、加藤両大臣が、自らの選挙もある中、会場に駆け付けたことに対し、参加者の一人は「それだけ自民党の危機感を感じた」と話す。

島村氏は現在、参議院厚生労働委員会委員長という要職にあり、また、元日本歯科医師連盟の理事長を務めた経験もある。貴会としても、積極的にアプローチしてはいかがか。

人間関係は「モノの交換」という考え方が心理学にある。モノとは、良い意味で遣り取りしているすべての事柄を指す。顔を出すことで相手に満足を与え、次は相手がモノで応えてくれる。日本の政治家は義理堅い面があるので、ここは大事だ。釣り合いが取れている状態を「衡平」という。与えなければ、相手の心理的負債となる「不衡平」すら生じない。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201781日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑥ 治療効果上げ、信頼関係作る「笑い」の効用/対外的には看板倒れの歯科も

治療効果上げ、信頼関係作る「笑い」の効用/対外的には看板倒れの歯科も

 医療費抑制や健康寿命の延伸を目指し、予防医療の重要さが指摘されている。その割には、国は診療報酬で予防医療に対しインセンティブを付けず、「医師は治療するのが医療」と考えている。予防薬は有効性の証明が難しい上、予防医療は製薬企業の商売敵になるので製薬企業は協力しない。患者の中にも健康意識の高い人と低い人がいる。健康長寿を目指す中高年なら、せめて予防医療以前のウォーキングやヨガなどの運動をしたり、セルフメディケーションで軽度な不調は自ら手当てしたり、多少奮発して人間ドックを受けたりしたいものだ。

◆医学的効果検証研究も

これらに加え、注目されているのが「笑い」だ。今年の2月、近畿大学と吉本興業が笑いの医学的な効果検証研究を始めたと報じられた。もとより笑いは心や体に良いことが医学的に実証されつつあり、病気の予防や治療でも効果が期待されている。以前取材した土浦協同病院では「笑い」や「癒やし」を通じて、患者の自然治癒力や免疫力を高めるプロジェクトを展開していた。当時の病院長が、「笑い」の医学的効果に着目する医師の高柳和江「笑医塾」塾長と出会ったのがきっかけだった。

職員はプロジェクトの研修を通じ、患者を元気づけたり、笑顔を引き出す対応や言葉のかけ方などを身に付けることで、自身や職場、家庭の雰囲気も明るくなる副産物があったという。

医師の資格を持つ落語家の立川らく朝さんは「健康落語」を売りにしているほどだ。また、林家きく麿さんの「歯ンデレラ」は、大企業のトップがガラスの靴ならぬ入れ歯を落とした女性を探すのだが、それは求婚でなく、上手な入れ歯を作れる歯科医師を紹介してもらうため。医科に関しても、こんな小噺がある。「お隣の奥様が交通事故で顔がグチャグチャになったそうよ」「あら、お気の毒」「でも、最近の医療はすごいわね。手術したら、元の顔に戻ったそうよ」「あら、お気の毒」。

◆「笑い」を売りにする

歯科テレビや劇場でお笑いを頻繁に見るわけにはいかないが、要は心の持ちようなのだろう。日常生活の中で笑いの素を探しながら、プラス志向で過ごす。医師と患者もリラックスしてコミュニケーションを取り、信頼関係を作るのが大切だ。

電車の中で偶然、子どもたちが笑う写真とともに「歯医者で笑うなんて」とのキャッチが書かれたポスターを見た。歯科医師が子ども目線のコミュニケーションを重視して治療に当たっているという。興味を持ち、取材を申し込んだが、事務方により門前払い。取材趣旨をいくら説明しても、以前ひどい目にあったことがあるのだろうか、雑誌にはマイナスイメージを持っているようだった。こんな歯医者、笑えない。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201781日号6面掲載

就任後あいさつと医療をめぐる情勢/2017年度第2回(通算63回)メディア懇談会を開催

就任後あいさつと医療をめぐる情勢/2017年度第2回(通算63回)メディア懇談会を開催

7月21日、第2回メディア懇談会を開催した。協会からは坪田有史会長と広報・ホームページ部担当部長の早坂美都理事が出席した。

今回は第45回定期総会で新会長となった坪田会長の就任後のあいさつと今後の当協会の活動の方向、来月実施予定の東京都の次年度予算に対する要請、医療・歯科医療をめぐる諸情勢などを話題のほか、6月24日にB型肝炎弁護士団が開催した「歯科の感染対策を考えるシンポジウム」の模様など、参加メディア四社との意見交換が行われた。

冒頭、坪田会長はあいさつで、「前執行部が取り組んできた事業を継続し、着実なものにしていく。また会員数は6月18日の定期総会時点で5236名。会員を増やし、新規事業のデンタルブックと合わせて、さらに広めていく」と意気込みを語った。

参加者からは、中医協の社保審で検討されている次期診療報酬の改定については、「厚労省も認識していると思うが、『かかりつけ』のイメージが厚労省と患者で、大きく異なっているように思える。『かかりつけ』の定義を明確にすべきと思う」との意見が出された。

また、医療情勢でレセプトを電子化してAIを活用しようという動きについては、「審査会を飛ばしてしまおうという話は、昔からあった。審査会は『地域差』があるらしいと言われていて、保険者からも不満があった。そのため、機械化することで審査にムラがないようにしたのではないか」「機械的に審査をしようというのはムラを防ぐためだろう。電子化が進められてきたときから、いつかはこうなることだろうとわかっていた。ただ、電子化することで手書きの方などはあぶれてしまう人もいるだろう」などの意見が続いた。

 

 

 

医科メディアから見た歯科医療界⑤ 会長交代相次ぐ医療関係団体事情/時代が求める変革型リーダーとは

会長交代相次ぐ医療関係団体事情/時代が求める変革型リーダーとは

 

◆「会長への道」

「会長への道」という落語がある。鈴々舎馬風の十八番で、ブラックジョークを交え、落語協会会長を目指す自身の立身出世伝だ。ところで、医療団体ではトップの交代が相次いでいるが、こちらはなりたくてなったというより、周りの要請でなった感がある。

日本医学会の役員選挙では、副会長の門田守人氏(がん対策推進協議会会長、堺市立病院機構理事長)が、「医学界のドン」髙久史麿氏を破った。日本病院会では「名経営者」といわれる副会長の相澤孝夫氏(相澤病院理事長・院長)が、全日本病院協会では副会長で中央社会保険医療協議会委員の猪口雄二氏(医療法人財団寿康会理事長)が、それぞれ会長に選ばれた。この他、日本看護協会も会長が交代した。

◆節目の18年を乗り越えるため

2018年度は医療・介護施策の節目の年だ。6年に1度の診療報酬・介護報酬同時改定をはじめ、第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画がスタート。また、国民健康保険の財政運営の都道府県単位化、さらに、2020年度からの本格運用を前にした医療等ID制度の段階的な運用が始まる。これらに加え、新たな専門医制度も始まる予定だ。

これだけの大波を乗り越えるため、医療界では、国との議論はもとより、医療界内や医療機関自身の変革も進めていける人材が求められている。ある医療関係者は「日本医学会の場合、高久氏は86歳。変革はトップが高齢だと難しい。門田氏は人柄が良く、保守的で厚労省とも仲がいい。関西の医療人は喜んでいるだろう」と解説。病院団体については「相澤氏、猪口氏とも論客。時代の要請だ。病院団体は日本医師会に押されていたので、今後は両者のバトルが予想される」と話す。

◆国とのパイプ作りを

貴会でも、618日の第45回定期総会で副会長の坪田有史氏が新会長に就任された。メディア懇談会で記者にはお馴染みの顔だ。活発な意見交換をするなど協会活動への熱心さは感じていた。坪田氏は54歳と若いが、副会長陣も若返った。目を引いたのは、前会長が副会長、元会長が理事に就いたことだ。病院団体なら名誉会長とか顧問とかに就くところだろう。

会員の一人は「会長経験者に能力を発揮して働いてもらうということ」という。風通しのよさは感じるが会長候補者が坪田氏一人とはどうしたことか。国とのパイプにも心もとなさを感じた。機関紙に自民党国会議員が登場しているのは承知だが、総会終了後の懇親会に来賓として来た国会議員は民進党と共産党で、与党議員がいなかったからだ(与党都議がお一人おられたが、途中で退席された)。

会員数では東京都歯科医師会に迫りつつある勢いを持つ貴会だけに、今後の変革と発展に期待している。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201771日号6面掲載

医科メディアから見た歯科医療界④ 日歯記者会加盟審査で見たメディアとの旧態依然な関係

日歯記者会加盟審査で見たメディアとの旧態依然な関係

今村雅弘前復興相を激高させた記者会見で、一時話題となった記者クラブ制度の弊害問題を思い出した。

あの会見での質問者はフリージャーナリストだ。一般的には省庁ごとに記者クラブがあり、クラブに加盟していないと会見に参加できない。ところが復興庁の場合、クラブがなかったので会見に参加できたようだ。日本の会見では発表する側も記者側も丁寧で礼儀正しくあろうとする。特に、親睦組織的な側面を持つ記者クラブにはその傾向が強い。しかし、一匹狼的なフリージャーナリストには、そのような予定調和は通用せず、約七分間も粘り強く厳しい質問を繰り出した。

記者クラブをめぐっては、以前からフリーランスや外国メディアなどから「排他的な権益集団」と批判的な声があがっており、長野県知事時代の田中康夫氏が「脱・記者クラブ宣言」をしたり、民主党政権が官庁の記者クラブオープン化を進めようとしたりした。現在も徐々にではあるがオープン化は進んでいる。

◆半年以上検討中の日医

実は、弊社が日本医師会プレスクラブに加入申請した際、半年以上待たされた。今村聡日医副会長が日医への理解を得ようと本を出した際、弊誌のブックレビューで紹介記事を載せ、その中で「日医のイメージは行政とメディアによって歪められたという指摘は納得しかねる」と書き、「半年以上、検討中」の事実を述べ、「どのメディアにもオープンであってこそ『医師の代表機関』ではないのか」と指摘。後日、立食パーティーで著者の今村氏にお会いした際、思い切ってそのことを話したところ、直後に加盟できた。

◆1年後審査の歯科記者会

弊誌では、日医と執行部に対し厳しい記事を載せているが、横倉義武日医会長は「日医に対する激励だと受け止めている」と話す。厚生労働省には、一般紙やテレビ局が加盟する厚生労働記者会と、専門誌が加盟する厚生日比谷クラブがあり、その会員は日医プレスクラブに自動的に加盟できる。しかし、それ以外のメディアが入会するには、企業に所属し、媒体を持っていることが前提だ。

この連載を持ったこともあり、日本歯科医師会の歯科記者会にも加盟しようとした。日歯に連絡すると、クラブ幹事社に連絡を取ってくれとのこと。そうすると、近々開く総会で幹事社が交代するので、新幹事社に連絡を取ってほしいという。新幹事社に連絡を取ると、加盟の趣旨書、発行媒体、会社概要を送ってくれとの要望。送った後に連絡すると、記者会の加盟社は現在、歯科メディアだけで、加盟審査は来年春の総会まで待たないといけないと言われた。日歯は、今後も日本の歯科医療を進めるために牽引力を発揮しなければならない。その際、メディアの存在は重要かつ大切と考えるが、如何だろうか。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201761日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界③ 高額な自由診療は技術力と患者への説明力が必要/経営には地域特性を考慮すべき

高額な自由診療は技術力と患者への説明力が必要/経営には地域特性を考慮すべき

近年、歯科医師過剰が問題視されている。一方で、歯科医師の免許は持っているが実際は大学に勤めている、女性の場合は家庭に入っているなどの事情で、診療をしていない人たちも少なくないので、「現実的に過剰というほどではない」との声もある。また、歯科診療所数もコンビニエンスストアの店舗数を上回り、過当競争の激化が指摘されているが、こちらも地域によって歯科診療所過疎地もあるので、一律に過剰とはいえないとの指摘がある。

少なくとも首都圏、特に都内では歯科診療所の看板がよく目に入る。以前、診療報酬債権を供担保僑として現金を得る診療報酬債権ファクタリングの取材をした際、先方が「ファクタリングを利用するのは歯科医院と介護事業者に多い。歯科医院は自転車操業に近い経営だったり、結局、廃業に至るケースも少なくなかったりする」と話していた。

▼患者が自由診療を選ぶ時

最近の取材経験でいえば、競争が激化する状況下でも経営が好調な歯科診療所はある。自由診療を主軸に「短期集中治療」「マイクロスコープを使った最先端治療」「完全個室制」をウリにする東京・港区の歯科診療所では、自由診療と保険診療の両方の内容を提示するが、患者が主体的に自由診療を選ぶケースが大いという。診療所長はブログやメディアを通じて口腔ケアと健康に関する積極的な情報発信や啓発活動も行っており、患者は各地の富裕層や駐日外国人が多いそうだ。千葉市内の歯科診療所では、口腔内カメラで撮った画像をモニターに映し、患者に症状の説明をしながら治療の了解を得るようにしていた。診療所長は「歯科診療というと、高額な自由診療を押し付けがちなイメージがあるかもしれないが、患者さんと、とことんコミュニケーションを取って、患者さんも私も納得できる治療を選択している」と話す。さらに、スタッフが歯に関する院内便りを作成したり、地元のイベント情報を院内に掲示したりするなど地域密着型の歯科診療所づくりに取り組んでいた。

▼健康意識と要求の違い

歯科医師の説明と患者の納得が重要だ。納得できれば、高額な自由診療でも患者は自らが選ぶ。結果的に、歯科診療所の収益安定につながる。ただし、その順番が逆になってはいけない。もちろん地域特性を見据えた経営は重要だ。患者の健康意識や学歴、所得、治療要求によって保険診療・自由診療のいずれかが主軸になる。

どちらにせよ、ベースにあるのは歯科医師自身の技術力。そして患者と向き合って説明して納得を得る説明力。さらに人間性が欠かせない。その上で、優れた接遇やサービス、先進機器が、付加価値として患者から評価されるようだ。逆に、このレベルが低いと、口コミやサイトで批判されることになる。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201751日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界② 見落とせない今後の日歯の対応/問われる堀会長の力量・手腕・底力

見落とせない今後の日歯の対応/問われる堀会長の力量・手腕・底力

団塊の世代全員が後期高齢者になる2025年を目標に地域包括ケアシステムの構築が進められている。2018年度は、医療・介護施策の大きな節目となるだろう。6年に1度の診療報酬・介護報酬同時改定だけでなく、第7次医療計画、第七期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画がスタートするからだ。

◆施策関与弱い歯科

節目の年を前に、歯科医療界の施策への関与の度合いはどうか。3月に歯科医療関連のメディアが集まる会合の中で、その現状を垣間見る機会があった。肝心な、社会保障審議会介護保険部会に歯科医師委員がいないため、歯科抜きの議論となっていること。そもそも公的な検討会や審議会などに歯科医師の構成員が少なく、歯科の視点から意見を述べる場があまりないこと。さらに、日本歯科医師会(日歯)は2000年の介護保険制度スタート時に介護分野への関与に関心が低かったこと。過去の歯科への厳しい診療報酬改定に対する対応に追われ、将来に向けた布石が後手に回ったことなどだ。地域包括ケアシステムの当初案では、歯科の存在は無視されていた。現在は口腔関連の在宅医療や介護予防において歯科の役割が位置付けられているが、実際は心もとない。貴会が先月開催したメディア懇談会で、政策委員長談話と地域医療部長談話が紹介されたが、前者では「医科歯科連携にインセンティブを与える施策」、後者では「混合介護に反対」という意見が述べられている。現実は、医科や介護との関係構築ができていないのだろう。

日歯の堀憲郎会長は今年1月、「今年の最大の課題は平成30年度の診療報酬と介護報酬の同時改定だ」と発言。その実直な性格は評価され、中央社会保険医療協議会委員を務めた経験から診療報酬に精通している点も期待されているという。

◆なすべきことをなす義務が…

しかし、人柄がいい人が必ずしも成果が出せる人とは限らない。ましてや、これから本格的に動くには、遅きに失した感がある。年内には同時改定の柱が決まってしまうからだ。同時改定が2025年体制に向けて肝になることや、そのために公的な検討会や審議会の構成員にもっと多くの歯科医師を送るため根回しが必要なことは、数年前から分かっていたはずだ。

もちろん、日本歯科医師連盟の相次ぐ不祥事のため、行政が歯科医師を構成員に就けさせなかったり、日歯も遠慮して積極的に動かなかったりした面もあっただろう。しかし、歴代の執行部は少なくとも会員のために「なすべきことをなす」義務があったはずだ。その観点からの批判は、会員からあがってこないのだろうか。

 

筆者:元 月刊「集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201741日号5面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界① 逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

医科向けの医療情報誌の編集をしているが、数年前から貴会のメディア懇談会に参加している。事務局の方からこのほど、貴紙への執筆を依頼された。歯科は詳しくないとお断りしたが、自由に書いて良いとのことで、お引き受けした。

編集長として携わる「集中」でも、医療だけでなく、政治・経済・社会分野の記事も載せており、広い視野で歯科医療から歯科医療界、そして貴会を見てほしいとの意図と受け止めている。

取材者側にとり、懇談会スタイルは通常の記者会見と異なり、本音を聞けるのが良い。貴会のメディア懇談会と同様、病院団体では日本病院会の記者懇談会が病院経営の苦労や医療人自身が考える医療政策の問題点などが分かり、記事の企画や内容を深めるのに役立つ。

◆欠かせぬ国民の理解

単なるストレートニュースのような記事だけでは、一般の人たちに病院経営者や医療人の問題意識や苦悩まではなかなか伝わらない。医療政策が政治的な思惑で左右される中、業界としては国民の理解を得ることが欠かせない。貴会や日本歯科医師会でも一般向けに情報発信やイベントを行っているが、国民の中には過去のイメージにとらわれている人が少なくない。例えば、日本医師会に対しては、「喧嘩太郎」の異名を取った武見太郎氏や圧力団体としてのイメージ。日歯に対しては、日本歯科医師連盟事件に象徴されるイメージだ。

◆歯科に望ましい状況が

そんな中、歯科医療界にとって望ましい状況が起きている。顔を見せないボーカルグループ「Greeeen」の代表曲「キセキ」の誕生秘話を描いた映画「キセキ」の大ヒットだ。メンバー4人が歯科医師ということで観に行った。人気若手俳優の出演もあり、映画館内は若い女性やカップルが多く気が引けたが、単なる青春ドラマやグループの成功譚でなく家族の物語でもあり、中年男の胸をも打つ内容だった。ちなみに、メンバーが顔出ししない理由は、歯科診療の障害にならないため。リーダーは東日本大震災時、被災遺体の身元確認に貢献している。「キセキ」は、ぴあ映画初日満足度ランキングでトップになり、上映館も拡大中だ。

2014年3月、北海道の農業高校を舞台にした学園漫画「銀の匙」の実写映画が公開された際、農業高校の志望者が急増した。「13歳のハローワーク」の人気職業ランキングでは、歯科医師は100位に入っていないが(医師は7位)、「キセキ」のヒットが歯科医療界と歯科医師の人気につながる可能性は高い。しかし、業界団体が歯科医療界の印象に疑問符を打たれるような状況を招く一方で、商業映画が結果として業界のイメージアップに寄与するのは皮肉だ。

 

筆者:元 月刊「集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201731日号6面掲載

歯科医療界の現状と協会の対応状況を説明・議論/2017年度第1回(通算62回)メディア懇談会を開催

歯科医療界の現状と協会の対応状況を説明・議論/2017年度第1回(通算62回)メディア懇談会を開催

協会は本日5月12日、会議室に置いて2017年度第1回メディア懇談会を開催した(2008年3月の第1回開催以来、通算で62回目)。メディア側の参加は5社。協会からは、来月開催する協会の第45回定期総会の主催案内の件もあることから松島良次会長が列席して説明に当たり、司会は広報・ホームページ部の坪田有史部長が務めた。

今回の話題は、①第45回定期総会の案内、②4月20日の国会行動での松島会長による島村大議員(自民党参議院議員)、自見はなこ議員(同)、青木愛議員(自由党)との懇談について、③4月から協会会員に導入が始まったデンタルブックについて、④第110回歯科医師国家試験の合格者数と歯科医師需給問題、⑤最近の歯科医療情勢と協会の対応状況―などとした。

このうち、②の3議員との懇談に関してはメディア側から、今回のように与党議員とのコンタクトを取った場合の今後の対応の重要性、国政・都政に携わる議員との日常的な対応の重要性などが指摘されるなどした。また③に関しては、メディア側から他の歯科医療団体を含め、このような事業を開始した団体は初めての可能性があることや、その仕組みや編集内容などについて質問が続き、協会からは可能な範囲での回答を行った。

当日は、福岡で13日までの日程で日本歯周病学会第60回春季学術大会に参加するメディアが多数ある中で、歯科学図書を専門に発行する社からの参加もあり、話題をめぐる議論は定刻を過ぎても続いた。

第2回広報・ホームページ部会を開催しました

第2回広報・ホームページ部会を開催しました

5月8日(月)午後8時~9時40分まで、今年度第2回広報・ホームページ部会を開催しました。議事は、①機関紙5月号の批評、②この1カ月間の医療、歯科医療、社会全般の情勢、③機関紙6、7月号の編集予定、④ホームページの現況、⑤5月12日開催の2017年度第1回メディア懇談会(通算62回目)の開催時準備―などでした。

◆機関紙5月号は自見、島村、青木の各議員との懇談がメインの記事に

5月号では、1面に4月20日実施の国会行動に松島良次会長が同行し、議員会館の議員事務所において、自民党参議院議員で日本医師会推薦の自見はなこ氏、東京歯科大OBで神奈川選挙区当選の島村大氏、自由党の青木愛氏の3氏と懇談したことを大きく取り上げました。また、前号に引き続き第45回定期総会への参加案内をおこなっています。また、協会の情報開示請求で開示された2017年度指導計画の内容と高点数などの特色、今後の協会の姿勢などを解説しています。「患者トラブル110番⑤」を掲載しましたが、この連載は6回連載のはずでしたが、会員、そして役員からも好評のため、広報・ホームページ部会としては、12回まで延長して連載するよう、医事相談部に相談することとなりました。

ことになりました。そのほか、「共謀罪」の問題点を協会顧問弁護士の前川雄司氏にご寄稿いただいているほか、「使いこなせ!デンタルブック」の連載がスタートしています。

◆アベレージが着実に向上している協会ホームページ

協会ホームページに関しては、週末にかけて閲覧数がギュッと向上し、月曜日にストンと落ちる傾向がありますが、過去3年間の毎月の閲覧数を比較すると、最低数そのもののアベレージが上がっており、会員内外に着実に閲覧されている状況がわかりました。

2017年度第1回広報・ホームページ部会を開催しました

2017年度第1回広報・ホームページ部会を開催しました

4月5日(水)午後8時~9時30分、2017年度第1回広報・ホームページ部会を協会会議室で開催しました。議事は、①機関紙4月号の批評、②機関紙5、6月号編集予定、③協会ホームページの閲覧数と特色、④ダウンロード状況、⑤3月10日に開催した2016年度第5回メディア懇談会の模様の確認と、2017年度第1回メディア懇談会の準備―などについて議論、検討を加えました。

◆カラー面に一工夫しましたが…

機関紙4月号は1・4・5・8面をカラー編集とし、協会の活動状況を際立たせる目的で、・1面には、関東信越厚生局との懇談の模様を掲載し、2面には懇談の詳細な内容を配しました。併せて、厚生労働省本省に対する歯科診療報酬改善を求める3月16日の厚労省要請の模様も掲載しています。一般紙はもとより、医療関係、歯科医療関係の専門誌におきましても、指導・監査関連の報道はほとんど行われないため、会員の先生方には、ぜひともお目通し願いたいところです。同じく1面には、6月19日に開催いたします第45回定期総会開催のお知らせのPR第1段を掲載しました(なお、5月号、6月号にも引き続き掲載いたします。また、5月上旬にはA4版の「第45回定期総会議案書」を別途、お届けいたします)。

また、4面には通常はモノクロでお届けしております研究会、講習会などの行事の報告記事を4面に集中させ、すべてカラー写真で紹介しました。未だ、協会の研究会等にご参加されたことのない先生方にも、ぜひご参加いただきたい気持ちを込め、題字も一工夫しております。また、今年度から導入致しました「デンタルブック」のご利用に一役買わせていただくため、新たな連載として『使いこなせ!デンタルブック』の第1回をカラー編集で掲載いたしました。

カラー5面には、映画紹介「PRECIOUS TIME」と集中出版(株)編集長の鈴木義男氏による連載「医科メディアから見た歯科医療界②」を掲載いたしました。

その他のモノクロ面では、マイナンバーに関する経営管理の相馬基逸部長の「談話」。好評の「患者トラブル110番」は4回目。第110回歯科医師国家試験合格者発表記事は、当日、厚生労働省のフロアで写真を撮影、掲載しております。

歯科医療情勢めぐり盛んに議論/第5回メディア懇談会を開催/2008年3月開催から通算61回目

歯科医療めぐり盛んに議論/第5回メディア懇談会を開催/2008年3月開催から通算61回目

協会は、本日3月10日午後6時30分から第5回メディア懇談会を開催した。2008年3月の初開催以来9年、開催回数は通算で61回目を迎えた。話題提供と説明は同部長で政策委員長を務める坪田有史副会長。司会は、協会広報・ホームページ部担当の早坂美都理事が務めた。この人前9日は、日本歯科医師会の臨時代議員会が開催されたこともあり、その取材を済ませて駆け付けた参加者からは、メディア懇談会の話題とリンクする臨時代議員会での議論内容も紹介されるなど、盛んな議論、意見交換などが行われた。

今回取り上げた話題は、①3月1日付け政策委員長談話、②3月1日付け地域医療部長談話、③最近の歯科医療情勢と当協会の対応、検討状況、④「保険で良い歯科医療」の実現を求める請願署名、④東京都後援を得た「第1回地域医療研究会/かかりつけ歯科医が実施する高齢者への食事支援~診療室を核にした在宅支援と摂食機能の着眼点~」の紹介と取材案内—の4項目となっている。

◆社保審介護保険部会には歯科代表が入っていない

参加者からは、政策委員長談話との関連からか強診に関し、「口腔リハビリテーションの100点は低いと思うが、厚生労働省はどのように説明しているのか」「100点であっても、まずは点数がついたことを評価してもらいたいのではないか。これが将来、500点などになったら状況はかなり変わる」などの指摘があった。また、地域医療部長談話に関しては、「指定料というが、実は指名料。別途にお金が支払えない人は、より良いサービスは受けられないということではないか」「社会保障審議会の介護保険部会には、歯科医療界からの代表が入っていないが、そこを指摘する意見はまったく聞かれない」「2018年度の次期診療報酬改定は介護報酬改定と重なっており、地域包括ケアシステム構築との関連で歯科にとって《在宅・連携・管理》は一番大事。そのため、日歯も必死だ」などの意見が続いた。

次回のメディア懇談会は、5月12日(金)午後6時30分からの開催予定。

歯科医療点描⑱完 1人の歯科医師では限界の時代/グループ開業制の可能性について

1人の歯科医師では限界の時代/グループ開業制の可能性について

毎月のこのシリーズも今回が最後になりました。最終回らしく、私が常に考えていることで、先生方にとっては抵抗感がありそうな話題に触れたいと思います。

それは個人開業制、自由開業制です。日本では医師や歯科医師は誰でも自由に診療所を開設できます。先生方にとってはそれが日本の長所でしょうが、患者側からいえば問題があります。

それは、「一人の医師、歯科医師の診療には限界がある」ということです。私が医療記事を書き始めたのは一九六八年ですが、この間の医療技術の発展、進歩は想像以上です。自分の専門とする病気の新しい治療法を会得し、実践するのは何とかできそうです。しかし、隣接診療科が新型装置で自分の専門の病気の治療を始めたとしたらどうでしょうか。自分の治療では改善しないが、新治療では改善するタイプの患者がいるかも知れません。

そのうえ、今は診療科を越えた連携が大切です。高齢社会ではいくつもの病気をもった患者が増えてきています。複数の病気治療には最適な順序があるかも知れません。さらに、栄養や看護、リハビリの効果も期待できます。医科歯科連携の重要性からいえば、すべての病院は歯科を併設すべきです。多数の専門家が必要なアドバイスや治療を加えてこそ、質を高めた医療になり、患者にとっても最大の効果をあげることができます。日本を代表する国立がん研究センター中央病院でさえ、他の病気の専門家が少なく、重度の重複患者を受け入れられなくなっています。

そう考えると、医療は病院が原則です。大学病院で十五年も心臓手術だけをやっていて、父親の病気で内科、老人科の診療所を継いだ友人もいました。一人の医師が自由に、しかもほとんどやっていない診療科まで開けるのは、まさに質を無視した制度です。

腕自慢医師による白内障手術の診療所や透析診療所も疑問です。他の病気の専門家がいませんし、1つの技術に特化することに利益優先の傾向を感じるからです。

厚生労働省は日本医師会や歯科医師会、薬剤師会などに弱く、根本的な医療改革をしてきませんでした。しかし、医療の質が重要だと国民が理解していけば、将来は変わる可能性があると思います。

個人でなく、歯科なら3人、医科なら5人とか7人とかのグループ開業制はどうでしょうか。予防・管理、義歯、インプラントの得意な歯科医が揃えばより質の高い治療ができそうです。多数の医師、歯科医師がいれば夜間診療も可能です。家族薬局では毎夜遅くまで営業するのは困難ですが、グループ開業であれば可能です。

いかがでしょうか。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201721日号6面掲載

【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科をはじめ最近の医療めぐる諸情勢を議論/今年度第4回メディア懇談会を開催/通算で60回迎える

歯科をはじめ最近の医療めぐる諸情勢を議論/今年度第4回メディア懇談会を開催/通算で60回迎える

 

協会は本日1月13日、第4回メディア懇談会を開催した。同懇談会は、2008年3月に第1回を開催以来、今回で60回目を迎えた。メディア側参加者は5社・5名で、司会は協会の坪田有史広報部長で、今回は年初ということもあり松島良次会長が参加した。

今回の話題は、2017年の「会長年頭所感」、昨年12月に発表した「政策委員長談話」、およびこの1カ月間の医療・歯科医療をめぐる諸情勢に対する協会の議論、検討、対応状況とした。

特に情勢の関連では、最近の中医協での議論の状況や、経済財政諮問会議での社会保障制度や医療に関する課題が俎上に乗っていること年の議論の方向などについて意見が交わされた。また、政府や関連学会で「高齢者」の年齢定義を65歳ではなく70歳あるいは75歳に変更を示唆する見解が出ていることなども話題となり、「少子高齢化と人口減少問題とも相まって、社会保障では年金制度から影響を受けるのではないか」「医療保険制度も影響を受ける問題だ」などの意見があった。

歯科医療点描⑰ いろいろ感じました医科歯科連携研究会/歯科医師は医師の依頼で初めて…

いろいろ感じました医科歯科連携研究会/歯科医師は医師の依頼で初めて…

先月初め、四ツ谷駅前の会場で開かれた「医科歯科連携研究会2016」に参加、というか見学させてもらいました。11月のメディア懇談会で副会長の山本鐡雄先生から案内があり、テーマの「睡眠時無呼吸症候群」 (無呼吸症)には関心があったからです。

かなり昔、新聞記事としてCPAP(シーパップ=持続陽圧呼吸)療法を紹介したことがあります。ところが今は、歯科医が製作するマウスピースで十分対応できるという話です。正直なところ、口腔内装置 (OA)治療は知りませんでした。

連携研究会は東京歯科保険医協会と、東京保険医協会と千葉県保険医協会の三つの保険医協会主催でした。山本先生から協会の取り組みを軸に連携治療の総説的な紹介があった後、虎の門病院睡眠センター長の成井浩司氏が専門医の立場から、古畑いびき睡眠呼吸障害研究所長の古畑升氏が歯科医の立場から、無呼吸症の原因や症状、連携の具体的な方法、問題点などの詳しい解説がありました。

へえーと思ったのは、欧米人の無呼吸症は肥満が多いのが、アジア人、日本人は骨格からなりやすく、面長で平ら顔、小さなあごの人が要注意との人種差でした。身近かで無呼吸症の何人かを思い浮かべて、なるほどと納得しました。

◆OAの有効率は80

成井先生、古畑先生ともOAの効果がCPAPと大きく変わらないとのデータを出されたのにもびっくりでした。虎の門病院のOAの有効率は80%でした。

もっと驚いたのは、OAには把握できないほど多くの種類があることです。素人ですから写真だけでは違いがよくわかりませんでしたが、効果の違いはあるのでしょうか。

◆一番驚いたのは…

そして一番驚いたのは、医師と歯科医の差でした。患者の様子、いびきが大きい、といった話から意外と簡単に無呼吸症が疑えるのですが、歯科医は診断や治療ができない。     

病気の診断はあくまで医師の仕事で、歯科医は医師の依頼で初めてOAを作ることができるとの決まりです。歯科医は作ったOAがうまく機能するかどうかも医師に依頼して検査してもらう。自分で簡易検査をしても保険で請求できない、ということでした。

OA製作後の検査は歯科医がするほうが患者は助かります。問題があればすぐ直せますし、わざわざ医師を受診するのも面倒です。医師主導だと、OAをよく知らない医師、知っていても自分でやれるCPAPしか患者に説明しない医師もいそうです。待たされ一方の歯科医に同情します。

ところで、インターネットで無呼吸症を調べると、睡眠中に挿入する鼻チューブの情報が出てきました。おそらくは有効性のデータがまだなく、治療法の選択肢には入っていないのでしょう。しかし、素人にはOAよりさらに簡便で、魅力的に見えます。

どんどん進歩する技術を習得したり、理解するのも本当に大変と実感しました。

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201711日号5面掲載

  【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑯ どう考えても非合理ふしぎな消費税/医療費が非課税となった背景

どう考えても非合理ふしぎな消費税/医療費が非課税となった背景

外から見ると、医療界には理屈に合わない非合理的なことがまかり通っています。米国式医療の沖縄県立中部病院で腹部手術のガーゼ交換の話を聞きました。

患者の回復を遅らせるとわかり、すでに米国では30年も前にやめたのに、日本の病院ではまだやっているというのです。似たような話を集めて1999年秋、連載「ふしぎの国の医療」を始めたところ、十数回の予定が62回にも延び、1冊の本になってしまいました。日本では昔、偉い先生が決めたことを下の先生はなかなか変えることができないのです。

非合理の代表「消費税」もこの連載で取り上げました。89年の3%から始まり、97年の5% 、2014年の8% と上昇中です。消費税は一定のルールで、買う人が払う税金です。医療を買うのは患者ですが、国は患者の支払いを増やさないためとの名目で医療費を非課税にしました。今でもそうですが、なぜか医療費を決める時の窓口は日本医師会なのです。 実は、当時の医師会の担当理事は消費税の仕組みを全く知らずにこれを了承。

その結果、医療機関が薬や器具、材料などを買う時に上乗せされる消費税は病院や診療所が負担することになり、診療所では年100万円単位、病院では1千万円から数億円単位の減収になり、増税のたびに増えます。

財務当局は常に医療費の切り下げを要求しますが、医師会は応じず、いつも最後は政治決断でした。そのしっぺ返しの意図もあったようで、当時の大蔵省は予想される負担増を医師会に伝えず「医療費を非課税にした」と思われます。診療所よりも負担が大きい病院は大蔵省からも医師会からも特に説明を受けていませんでした。

消費税は国内売買なので輸出品は非課税です。しかし、輸出企業が負担した消費税は国税庁が払い戻しする「戻し税」の制度ができています。医療機関とはえらい違いです。

さて、その後の対応です。厚生労働省は診療報酬の改定のたびに、一部の報酬に色を付けて消費税分を補填したと称する政策をとってきました。私はそれで医療界が妥協したのに驚きました。薬品などの購入額は医療機関で違い、払う消費税額も違います。建築費にも消費税がかかりますが、病棟を新改築した病院とそうでない病院では大変な差です。公平で損得なしなら払った税額を個々に払い戻すしか解決法はないはずです。

税務当局はおそらく戻し税に絶対反対でしょう。医療機関は数が多すぎ、事務量が増え、チェックも困難です。大きい声ではいいにくいですが、それをいいことに、買っていない器具、していない工事の領収書などを揃えて消費税を水増しし、不正請求するような医療機関が考えられます。

結局は医療費にも消費税をかけ、チェックを厳しくするしかないかも知れません。

 

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」2016121日号6面掲載

  【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えますこんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑮ 歯磨きは歯科の二大疾患を左右/どんな歯ブラシがいいのか知りたい…

歯磨きは歯科の二大疾患を左右/どんな歯ブラシがいいのか知りたい…

◆必ず爪楊枝を…

この歳になって、実は歯磨きに苦労しています。10年くらい前から毎日、朝食と夕食後に電動歯ブラシで磨いています。胃の全摘手術を受けた後ですが、いつからか、歯磨きの後、必ず爪楊枝を使うようになりました。

というのは、歯を磨いても隙間に入った食べ物のカスが取りきれないからです。家内が「デンタルフロスを使ったらいい」というので、付き合い上、時々は使うのですが、若い頃にあまり使ったことのない道具はなかなか親しめない感じです。爪楊枝では結構、大きなカスが取れます。

◆どんな歯ブラシを使えばいいのか

一番知りたいと思うのは、よい歯磨きの仕方、具体的にいえば、どんな歯ブラシがいいのか、ということです。

新聞や雑誌の記事にいろんな歯ブラシが出ています。電動歯ブラシのほかに、従来の手磨きの歯ブラシもあります。

電動歯ブラシに限っても、たくさんのメーカーからいろんな製品が出ているようです。歯ブラシの形が長方形、四角、丸い、あるいは特殊な形のもの、往復運動のほか、回転しながら磨くものもあります。

◆電動歯ブラシのランキングまで

私が使っているのは普通の電動歯ブラシですが、高速の水流でプラークを除去し、細菌を壊す音波歯ブラシ、もっと細菌の破壊力が強いという超音波歯ブラシなどの高級品も登場しているそうです。さらにびっくりしたのは、「電動歯ブラシ売れ筋ランキング」といったサイトがあり、1位から80位まで紹介されていたことです。値段も大きな違いです。

電動も手磨きも効果に大差はない、とのネット記事がいくつか目につきました。そうなると、職人手作りの微細加工製品、日本の発明というローラー型回転式など、手磨き歯ブラシの広告にも目を引かれました。

◆消費者はどうやって商品を選ぶのか

改めて、消費者はどうやって製品を選んでいるのか興味がわきます。歯科医の先生の多くは治療専門で、予防や管理が得意でないはずですが、適切にアドバイスできるのでしょうか。頼まれて親しいメーカーさんの製品を勧めるのか、歯科衛生士さんに応対させるのでしょうか。

◆いや、やっぱり…

歯磨きは歯科の二大疾患を左右します。それなのに、歯科の学会や団体は専門家として歯ブラシを評価せず、メーカーの広告や消費者の好みに任せていればいいのでしょうか。

いや、やっぱり今より患者が減ったら…という話でしょうか。

 

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」2016111日号6面掲載

  【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑭ かかりつけ医、かかりつけ歯科医、そして「か強診」のこと/アンケートでも「か強診」への根強い不信は明らか

かかりつけ医、かかりつけ歯科医、そして「か強診」のこと/アンケートでも「か強診」への根強い不信は明らか

◆待合室ポスターが語ること 

「かかりつけ医をお持ちですか?」との赤い太字の見出しが目につきました。九月初めの日本医師会ニュース添付「健康ぷらざ」です。診療所の待合室に掲示するポスターのようなものです。

 「かかりつけ医」とはどんな医師でしょうか。それには「何でも相談でき、必要な時には専門医や専門の医療機関に紹介してくれる身近で頼りになる医師」とありました。

◆頼りがいある医師になることは大変

高齢社会になり、患者はがん、循環器、認知症など診療科の異なるいくつもの病気を抱えています。患者の身近にいて、多くの病気の最新知識を持ち、相談できる医師がいれば患者は本当に助かります。

とはいえ、医療の範囲は非常に広いので、頼りがいのある医師になるのは大変なことです。 このポスターでは、日本医師会がそのための研修をしていることを紹介しています。また、こうした医師が一定の条件を満たせば、国は診療報酬で優遇しようとしています。

◆かかりつけ歯科医そして「か強診」

その歯科版が、治療も予防もできる「かかりつけ歯科医」で、その拠点となる診療所が「か強診」というわけです。

「か強診」をテーマにした7月号の本コラムでは触れませんでしたが、「か強診」は歯科医師、歯科衛生士が各1名以上か、複数の歯科医師がいることも条件になっています。歯科医師のほとんどは義歯などの治療専門家ですから、予防のプロの歯科衛生士がいたほうが患者に役立つのは確かでしょう。それだけではかかりつけ歯科医が増えすぎると考えたのか、業者への返礼か、口腔外バキュームやAEDの設置を加えたことが、厚生労働省の挙動を怪しげに見せています。

◆会員アンケートから

先日、協会から98日現在、約5200名の会員のうち返信のあった476名の会員アンケートの内容をうかがいました。

それによると、「か強診」には203名(43%) が「反対」で、「やむを得ない」192名(40%)、「賛成」は45名(9%)でした。

また、「届出しない」107名、「できない」170名を合わせると277名(59%)で、「届出した」36名(8%)、「未定」156名(12%)。

今後の対応については、「施設基準の改善」234名(49%)、「廃止」145名(30%)に対し、「このままでよい」は51名(11%)にとどまりました。

1割にも満たない回答率の段階で、会員の意向とまでいっていいのかどうかはありますが、「か強診」への根強い不信は明らかです。

 

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」2016101日号6面掲載

  【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

 

歯科医療点描⑬ だれのための専門医制度なのか/「医科を見習って」などという愚は避けて…

だれのための専門医制度なのか/「医科を見習って」などという愚は避けて…

お医者さん対象の会で私がいつも強調するのは「だれのために医療をするのか」です。もちろん、患者さんのためです。しかし、現実にはそうなっていないのではないかと感じることが少なくありません。

たとえば、いま日本専門医機構で議論中の新専門医制度です。現在の専門医は学会まかせでレベルもまちまち。機構が統一して認定し、質を高める新制度は、予定が1年延びて20184月からになりました。日本医師会などの反対の声に配慮したようです。

医学部を卒業し、国家試験に合格した医師は2年間の初期臨床研修が義務づけられています。機構の新制度では、その後の後期研修から専門医をめざします。

3年間で内科、外科、救急科、総合診療科など19領域の1つの基本専門医になれます。養成するのは大学病院と地域の協力病院群です。「心臓血管外科」など、より専門的な領域の専門医にはさらなる研修が必要です。

日本医師会はこれでは研修医が大学病院に集中し、地方病院の医師不足が進むと指摘しました。機構の学会代表の大半は大学教授で、医局制度復活の狙いを感じます。

専門医とは何でしょうか。機構は「十分な知識・経験を持ち標準的な医療を提供できる医師」としています。外科であれば、内臓全般にわたって標準的な手術ができる総合外科医、です。したがって、現在の臓器別専門医よりも広く学ぶ必要があり、多くの医師がいる大学病院が中心になります。

一方、国民・患者が考える専門医とは何でしょうか。私は、卓抜した技術を持つ「神の手」だと思います。普通の外科医では無理な難しい手術も成功させる医師です。

機構の2段階目の専門医は「がん」「消化器外科」など29領域ですが、やはり広すぎます。「膵臓がん」「心臓バイパス手術」など病気や手術名のほうが適切だと思います。

専門医の分類にも首を傾げます。基本は外科、整形外科、脳神経外科、形成外科だけで、心臓血管外科、消化器外科などは2段階目です。その結果、脳神経外科専門医は3年間でなれるのに心臓血管外科はさらに何年かかかります。なぜ違いがあるのか、外からは不思議なことです。また、現在の専門医の多くは2段階目になり、その分、取得が遅くなるのも気がかりです。

機構の示す専門医は、専門医の負担を増やすうえ、国民・患者のためにもなっていない気がします。

歯科でも専門医制度が検討されているようですが、「医科を見習って」などという愚は避けてもらいたいものです。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201691日号5面掲載

  【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑫ 歯周病カンジダ菌説の経緯は/患者が治ってももうけになりません

歯周病カンジダ菌説の経緯は/患者が治ってももうけになりません

最近よく「イノベーション」という言葉を耳にする。「技術革新」の意味で、政府は日本発の新規技術に着目し、世界に売り出せるよう支援していく方針のようだ。

ホントかな?と思う。記者時代から私は患者のためになると確信した新しい医療を報道するよう努めてきた。ところが、紙面に載せるのは簡単ではなかった。すばらしい技術と思っても、日本の権威ある学会は無視するか、疑問や否定のコメントに終始する。

一方、お役所は権威者のいうままに研究費の申請を却下し、研究の進展や普及の邪魔をするのが常だった。世の中の空気が一変したのなら、それはとてもいいことだ。

この6月、私は著書『お医者さんも知らない治療法教えます・完結編』(西村書店刊)を出版した。四十余項目のほとんどはイノベーション医療だ。このうち歯科関係は、歯周病のカンジダ説、3Mix-MP法、不定愁訴などのかみあわせ治療、の3項目だ。

歯周病は昔から細菌が原因、といわれてきた。神奈川県の歯科医、河北正さんがかびのカンジダ菌に着目したのは、口内炎患者に抗かび剤で歯磨きさせたところ、歯周病症状も改善したからだ。微生物検査では歯ぐきや歯垢からカンジダ菌が見つかる一方、歯周病菌は検出されなかった。また、抗かび剤歯磨きで何人もの歯周病が治ってしまった。

河北さんは学会や歯科専門誌に論文を投稿したが、すべて却下された。「随筆なら」と歯科雑誌に載ったのが19983月。河北さんからコピーが届いたが、当初は私も信じられなかった。何度か聞くうち、細菌説の科学的根拠も同レベルとわかり、ひょっとしたらと思うようになった。「歯周病、抗かび剤が効く?」の見出しの社会面三段の記事になったのは翌年の996月だった。

カンジダ菌説に賛同する歯科医も今は何百人かに増えているらしい。しかし、どんな不利益があるのか、日本歯周病学会は一貫して論文で「非科学的」と批判しているし、ネットではPg菌などの情報があふれている。比率から見てもおそらく歯科保険医協会の先生方の大部分は歯周病菌説だろうと思う。

病気の原因追究が大事なのは治療のカギになるからだ。患者からいえば、治りさえすれば原因は何でも構わない。歯周病菌説の歯科では手術と歯石除去、歯磨き指導ぐらいで直接の細菌対策はなさず、治る患者は少ない。

一方、カンジダ菌説では抗かび剤や抗生物質が処方され、河北さんや賛同者によると、治る患者は多い。歯科医ならせめて家族を相手に試みてほしいものだ。

産業界ではいい製品が出れば競争企業は追いかけるが、医療界は学びも真似もしない。「患者が治ってももうけになりませんから」ということらしい。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201681日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑪ 「か強診」の施設基準に首をひねる/「設置義務」と聞くと違和感が…

「か強診」の施設基準に首をひねる/「設置義務」と聞くと違和感が…

◆「カキョウシン」と「エーイーディー」

最初は先生方が話す「カキョウシン」がよくわからなかった。4月からの診療報酬改定で、新たに「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」が登場した。この長い長い呼び名を略したものが「か強診」。なるほど、知恵者がいる、と納得した。

「エーイーディー」もてっきり歯科用の装置だろうと聞き流していたら、何と、救命救急用の除細動器の「AED」のことだった。

X先生によると、「か強診」として認められる歯科診療所には、AEDの設置が義務付けられている。「離れたところにポツンとある歯科診療所ならともかく、メディカルビル内で、同じフロアの医科診療所やビルの廊下にAEDが設置されていても必要だと説明を受けました」。

AEDが出始めの頃、私も何回か新聞記事にした。人工呼吸法を学んだ人でも、近くの人が急に倒れたら、さっと人工呼吸をしてあげる、というのは難しい。いまの時代、うまくいかないと、やり方が悪かったからと責任を押しつけられる可能性もある。その点、手順を指示してくれるAEDがあると便利だし、安心感がある。

しかし、設置義務と聞くと違和感がある。AEDは医師など医療者がいない場所での救命装置ではなかったのかな、という気がしたからだ。医師や歯科医や看護師などがいれば、その人たちが駆けつけるのが一番だろう。AEDのその先の薬だって診療所には備えているはずだ。

いや、人工呼吸法がまったくできない医師や看護師がいるかも知れない。まして歯科医は…、ということだろうか。そういえば大きな病院の廊下でAEDを見たことがある。さては、あそこで倒れたら多忙な医師は来ず、患者同士でAEDをやれ、ということなのか。

▼口腔外バキューム

「口腔外バキュームの設置も義務なのがおかしいんです」とX先生。

歯の治療時は口腔内バキュームを使うが、空中に飛び散る粉や粒子がある。これを吸い込む大型掃除機が口腔外バキュームらしい。音が大きく、設置しても実際はほとんど使わない診療所も多いそうだ。

診療所設備の充実のための基準はわかる。しかし、安全や環境の改善に本当に役立つことが肝心で、X先生が納得していないことは明らかだった。AEDは街中の至る所にあればいい、というものでもあるまい。歯科診療所でAEDが役立つ頻度や、室内空気の清浄度、健康にどう寄与するかといったデータが見たいものだ。

▼特定の装置の普及…

100万円前後を投資して基準を満たせば多少は有利な診療報酬が得られるらしい。ちょっとひねくれた部外者には、厚生労働省なのか、あるいは審議会の先生方かが、加算をエサにして、特定の装置の普及・販売を助けているように見えて仕方がない。

 

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201671日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑩ 治療中断・未受診が多いのは問題/保険医療の範囲についても議論を

治療中断・未受診が多いのは問題/保険医療の範囲についても議論を

日本も貧しくなったなあ、と感じることがこのごろ多い。バブル期は威勢がよかった企業も、儲けのために、いまやなりふり構わずごまかす。生活保護、貧困家庭、下流老人といった言葉が日常紙面にあふれ、身内や近所での理解しがたい事件が続発している。

昨年1月、保団連の懇談会で医療や介護現場にも貧困が予想以上に大きな影を落としていると知ってびっくりした。治療中断が増え、大阪では9割の歯科医師が経験しているという。また、宮城、長野、大阪の学校の歯科健診で「要治療」といわれた小学生の5割、中学生の67割は受診しない。

東京歯科保険医協会のその後のメディア懇談会でも、関連の話題がいくつか出た。東日本大震災の歯科医療支援の際、東北には東京で見たことのないほどひどい歯のお年寄りがいた、などの話が印象に残っている。

お金は山ほどあるが、子どもには歯科治療は禁じている親がいるとは思えない。中断や未受診の理由はいろいろ出ているが、結局はお金、貧困に行き着く。2015年の報告では、日本の子どもの貧困率はOECD(経済協力開発機構)34カ国中の11位だった。子どもの貧困の背景には、離婚による母子世帯の増加、元夫の養育費の不払い、派遣労働・低賃金労働の増加などが考えられる。国民皆保険制度でありながら、保険料が払えずに枠外に追いやられている人もいる。

調査だけにとどまらず、保団連が子ども医療費助成制度拡充運動を展開し、成果を上げているのは素晴らしい。また、一方で、「保険で良い歯科医療を」運動も重要だ。必要な治療は保険で受けられるべきだし、高額な窓口負担は受診抑制や治療中断につながる。

先日、『日本歯科新聞』のコラムに書いたことだが、超高額薬の保険適用が大きな話題になっている。分子標的薬と呼ばれる月30万円、60万円といった抗がん剤が次々登場、ついに月290万円、年3500万円のがん免疫薬が一部肺がんに認められた。対象患者5万人が使えば17500億円にもなり、保険制度の崩壊を懸念する声も出ている。

薬価はなぜか原材料費や製造費と関係がなく、同じ目的の従来薬との比較で決まっている。抗がん剤は治す力はないが、企業の開発意欲を刺激するために、もともとかなり高く設定されていた。最近のように効く薬が出てくると、驚くほど高くなる。

高品質材料の義歯など、歯科医療の一部が保険外になったのは、価格が高いとの理由からのはずだ。しかし、薬ならどれだけ高くてもいいというのはやはりおかしい。保険制度全体が危うくなれば、歯科には無関係な薬、とはいっておれない。

保険医療財源の配分をめぐる駆け引きだけでなく、保険医療の範囲など、より根本的な議論が必要な時期が来ている。

 

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」2016年61日号6面掲載

 

【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑨ 「質管理官」か「質相談医」を作ったら/患者側からみれば歯科医師の腕=質が大事

「質管理官」か「質相談医」を作ったら/患者側からみれば歯科医師の腕=質が大事

前回の本欄で、私は「医療の質」を強調した。これは医科に限ったことではなく、歯科も同様だ。これまでの歯科は予防や内科系よりも外科系、技術系の要素が強かった分、一層、重要だといっていい。

病気の治療体験はつい最近までなかった私だが、歯磨きがいい加減だったせいか、虫歯は何本も削って詰めてもらった。歯周病にもなり、結局、3本か4本は抜歯せざるをえなかった。勤務中に受けられる会社の診療所が多かった。当時は会社を信用し、気には留めてもいなかったが、先生方の技術力は果してどうだったのかはわからない。

難しい病気にかかると、患者さんはどこの病院へ行ったらいいか悩む。とはいえ病院は国立、県立、日赤など、ある程度評判が高い病院が地域にはある。医師の腕が一番わかるのは“医師”だが、病院には多くの医師がいる。特に、診療科が同じか近い医師の目はごまかせない。次いで看護師だろうか。評判のいい病院内で「うちは○○科はダメね」などの噂が流れたりする。

ところが歯科はどうか。ほとんどが診療所で、しかも一人歯科医が多い。研修を短かくし、親の診療所に入れば、他の歯科医の目に触れる機会もほとんどない。患者さんが歯科医の腕を知ることは医科以上に難しい。結局、歯科診療所は腕とは無関係に選ばれる。一番いいのは近くて通いやすいところ。地域の古い診療所ではいつの間にか、息子さんや娘さんの代にかわっている。

以前、合わない入れ歯の話がNHKテレビで報道された。お年寄りは「合わない入れ歯をいくつも持っているが、痛いので食事時は外している」という。8020運動のきっかけでもあるが、日本の高齢者の残存歯数は北欧などより少ない。医科以上の歯科の質のバラツキがこれらに関係しているのではないか。

厚生労働省や歯科医師会、歯科関係学会がこの“質の問題”に関心を持たないのは、外側の人間には本当に不思議に思える。学会は専門技術ごとにできている。インプラント治療などの最新技術を習得する機会を提供することは重要だが、医療の目的からすれば、それが患者さんのプラスになることがもっと重要だ。技術の未熟な歯科医の治療が横行すれば、学会や歯科医全体の信用を落とす。講習料を払えば全員合格、といったシステムならば明らかに問題がある。

保険医療は事実上、厚労省が運営しているようなものだ。ズサンな虫歯や歯周病治療に保険医療費を払うのはおかしい。

私は、質の確保はさほど難しいことではない、と思っている。第一歩として、厚労省や学会が一定の専門家を確保し、患者さんからの問い合わせ・相談窓口を設置する。厚労省なら「医療の質管理官」「医療の質相談医」といった役職を作る。

目に余る医療機関があれば、自然に浮かび上がってくるはず、ではなかろうか。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201651日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑧ 質を無視の制度に疑問/誰のため何のために医療は行われるのか

質を無視の制度に疑問/誰のため何のために医療は行われるのか

日本の保険医療制度は世界一、と医療関係者の多くが信じている。本当だろうか。

私は以前、秋田市で開かれた日本臨床内科医学会で疑問を述べたことがある。同じくシンポジストだった日本医師会理事が「日本の平均寿命は世界一。これは国民皆保険制度の成果だ」と胸を張られた。

若気の至りで、冷やかし半分の気持ちもあって余計な発言をした。「国は病院や医師に丸投げして、医療レベルはバラバラ。でも日本人は優秀な遺伝子と食生活のおかげで、先生方の医療で多少削られても何とか耐えて、いまの平均寿命を保っているのではないでしょうか」というような。

すぐにインターネットに名指しで「こんなひどい発言をした記者がいる」と批判記事が出た。しかも、長い間、私の名前を打つと最初に出てくるのがこの記事だった。 今回、正確に表現しようと調べたが、いつの間にか消えて見つからなくなっている。

医療で最も大事なことは何か。私は「医療の質」と確信している。病気を治す医療、症状や苦痛を和らげる医療でなければ、わざわざやる意味がない。

ところが、ご存じのように、保険医療制度の親である厚生労働省は、医療費の請求額ほどには、医療の効果や内容、質に関心を持っていない。病名に対応した検査や治療法は決めてあるが、手順、使う器具や材料、具体的なやり方の多くは病院や医師任せになっている。 その結果、治さない医療も改善しない医療も堂々とまかり通っている。これが世界一の制度とはとても思えない。

腹腔鏡手術による死亡が大きな話題になり、厚労省は昨年、群馬大学病院の特定機能病院資格を取り消した。しかし、保険医療制度上は死亡率が高くても問題がないはずで、おそらくは群馬大病院より成績の悪い病院さえ、あるに違いない。

世界一を目指すなら、何はともあれ、質の確保が不可欠ではないか。医療ごとに必要に応じ、常勤専門医、一定の技術や知識、設備などの条件を付ける。あまりにひどい成績の場合は、保険診療での支払いを認めない、といった対応も必要になるだろう。

誰のため、何のために医療は行われるのか。病める患者さんの苦痛解消や軽減のためである。しかし、いまの制度や実態を見る限りでは、厚労省や医療者がそう考えているとは思いにくい。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201641日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描 ⑦ 予測はずれ?の「8020」/あと20年で8割の高齢者が「8020」に到達!?

予測はずれ?の「8020」/あと20年で8割の高齢者が「8020」に到達!?

今の新聞社では、なかなか考えられないことだが、私は好きなことを書いてしゃべって卒業できた。ほとんどは正しかったと確信しているが、まずかったかも…、と反省気味のことがいくつかある。その一つが歯科関係研究会全国大会での「8020」発言だ。

「80歳で失う歯を10本以下にしよう」と提唱されたのが1985年で、逆計算で「80歳で20本の歯を残す」という8020運動になったのは1989年らしい。大会はおそらくその23年後ではなかったか。

◆8004時代

手書きのスライドには雲がかかった高山の横に「8848」「8020」「8004」の数字がある。8848は世界の最高峰エベレスト(チョモランマ)の標高を指す。8004は、当時、80歳の平均残存歯数の4本の意味だ。8020はそれを一挙に5倍にしようとの目標だった。

◆つい口をすべらし

この大会に講師で招かれた私は「いくら何でも無理でしょうね。ヒマラヤ登山並みの難しさ。80歳までに20億円貯めようというのと同じです」と、つい口をすべらせてしまった。

私はずっと「日本の医療は科学的でない」と感じてきた。特に歯科はひどい。虫歯や歯周病は細菌による感染症だと解説しながら、治療は細菌に無力な外科的なものだった。虫歯部分を削った後、詰め物と歯の隙間は100ミクロンもあった。これでは、1ミクロン幅の細菌は自由に虫歯部分に到達する。再治療のくり返しで、やがて抜歯になる。

歯学教育にも責任がある。入れ歯を作る補綴講座が3つも4つもありながら、虫歯を防ぐ予防歯科、感染症に対応の公衆衛生学科がない大学が多かった。

虫歯や歯周病は人生の必然で、仕事は入れ歯作りだと、歯科医は学生時代から教え込まれてきたのではなかろうか。だから、「8004は歯科医療の成果であり、絶対に8020は実現しないだろう」と、私は確信していた。

ところが、である。厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、残存歯数がジワジワと増えてきている。2013年は80歳で平均残存歯数13.9本で、20本超を達成した人は38.3%と推定されている。20年前とくらべると2.4倍だ。歯科医療はこの30年の間に予想以上に改善したといえるだろう。

この調子があと20年続けば、8割の人は8020になれるかも知れない。「80歳で20億円」は「80歳で2000万円」くらいに値下げしたほうがよさそうだ。

 医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201631日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑥ 歯科技工士制度の崩壊/「歯科療費増で技工士待遇改善を」なら国民も納得

歯科技工士制度の崩壊/「歯科療費増で技工士待遇改善を」なら国民も納得

私は学生になってすぐ、歯科技工士という職業を知った。初めての下宿にはもう一人下宿人がいて、それが近くの歯科医院に勤務する技工士さんだったからだ。教養部の2年間は一緒だったと思う。東北地方の出身でなまりがあり、朝食の時に入れ歯作りや歯科医院の話を聞いた覚えがある。

新聞記者になってから技工士の取材も何度かしたが、一番に浮かぶのは「海外委託」問題だ。たった4ページだが、著書『ドキュメント医療危機』に関連話題として載せてある。私は20066月、脇本征男さんら技工士グループが、地位保全と損害賠償を求めて裁判を起したとの記事を書いた。国が資格制度のない外国で作られた入れ歯輸入を認めているのは歯科技工士法に違反し、制度の根幹をゆるがしているとの主張だ。

この記事は東京と西部に載り、西部版が収録されている。ということは大阪版はボツで、東京版は一部がカットされたことを意味する。国に逆らうような訴訟は、一般紙では『朝日』だけしか載せず、それもかなり冷たい扱いだったわけだ。

海外委託は04年頃から出てきたらしい。技工士は歯科医の指示が不可欠だが、海外ではそれも不要で、コンピューター機器が日本よりずっと安く作ってくれる。これを放置すれば、技工士制度が崩壊していくのは当然ともいえる。

裁判は08年の東京地裁、09年の東京高裁で敗訴、11年最高裁は上告却下だった。日本の司法制度下では国相手だと分が悪い、の定評通りの完敗だった。これでは海外委託は止まるはずがなかった。

昨年夏、「保険で良い歯科医療を」国会内集会に参加し、何年ぶりかで日本歯科技工士会代表の悲惨な訴えを聞いた。 いまや技工士の低賃金、長時間労働は常態化し、耐えられずに卒業後五年以内に75%もが離職している。66%が週70時間以上働き、37%はほとんど休みが取れない状態でありながら、38%は可処分所得が300万円以下。海外委託の影響は大きく、国家資格の職種そのものが存亡の危機に瀕している、と。

その通りだと思う。厚生労働省のお役人は軽い気持ちか、医療費削減策からか、海外委託を歓迎した。コンピューターやロボット技術の発展で、医師や歯科医の診療行為の一部も自動化される可能性がある。

集会で指摘されたように、保険による歯科医療費が伸びないことが問題の背景にある。いろいろな医療職が協力し、よりよい医療をめざすチーム医療を考えれば、歯科医師は、弱者である技工士の待遇改善にもっと目を向けるべきだったのではなかったか。

「技工士や歯科衛生士の待遇改善のために医療費を増やせ」との主張は、歯科医の収入増の要求より、ずっと国民を説得しやすい。

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201621日号6面掲載

 【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えますこんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。

歯科医療点描⑤ 不合理・不公正な消費税/ 益税・損税は税の公平性を逸脱

不合理・不公正な消費税/ 益税・損税は税の公平性を逸脱

軽減税率の範囲を巡って「消費税」が連日の紙面を賑わせた。改めて思うのだが、これほど不合理、不公平な税金は珍しい。 

税金は原則、公平でなくてはならない。ところが、1989年に導入された日本の消費税は、明らかに損をする業種、得をする業種を生んでいる。

物を売買する時、売り上げ額にかかる消費税は買う人が売る人に払い、売る人は受け取った消費税から自分の仕入時に払った消費税を引いた分を国に納める。最後に買う人(消費者)は、今なら価格の8%を余分に払う。 

ところで、なぜか税金や授業料、医療費等が非課税になった。その他、外国で売られる輸出製品は原理的に消費税を取れない。

医療界の窓口の日本医師会は、医療費が上がると患者が減るから非課税がいいと誤解していたようだ。医師会は消費税の仕組みを理解しておらず大蔵省(当時)は特に説明しなかった。おそらくは医療費改定での対決のシッペ返しだったのではないだろうか。この結果、医療機関は薬や器具を買う時に消費税を払うが、非課税なので患者からは取れず、持ち出す破目になった。 税金や授業料は自由に値上げできる。しかし、公定価格の医療費は自由にならない。似た立場の輸出産業には、国は輸出振興策として消費税分を還付する「戻し税」制度を用意した。結局、医療機関が一番の「損税」を抱え込むことになった。

逆の「益税」もある。手続き簡素化を名目に商店が消費者から受け取った税金を概算で済ませ、しかも小規模店は納税を免除した。軽減税率の導入時には計算機器類が間に合わず、益税が増えるもやむなし、とされている。サラリーマンは給料から所得税を天引きされているが、いわば小企業は天引きした税金をそのままいただいてもよい、という制度だ。諸外国ではきちんと計算して納税する仕組みを作っている。教育が普及し、真面目だった日本人のレベル低下はひどい。

国は診療報酬の改定で医療機関の損税を補填している建前だ。しかし補填は一部分に過ぎないし、第一、医療機関ごとに異なる税額を一律の加算で補えるはずがない。

高額の医療機器が多く、建設費のかかる大規模病院ほど損税額は大きい。薄利の病院に次の消費税2%増は厳しい。医療誌『ロハス・メディカル』は「消費税の危険なワナ、良い病院が潰れる!」と、特集(201512月号)で警告している。

ともかく、益税・損税は税の公平原則を逸脱し国民をバカにしているとしかいいようがない。損税の解決法も医療費の課税か、戻し税のような制度の新設しかありえない。

私は何年か前から同じ主張をくり返しているが医療界の幹部は物分かりがよいのか悪いのか、いつの間にか政府と妥協し、問題は先送りになっている。

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201611日号7面掲載

 

【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。