医科メディアから見た歯科医療界

医科系メディアから見た歯科医療界⑫完 日本医師会を軸に医療界「連携」の時代を/医科歯科連携を推進する環境に

日本医師会を軸に医療界「連携」の時代を/医科歯科連携を推進する環境に

本年2月7日、中央社会保険医療協議会が加藤勝信厚生労働相に2018年度診療報酬改定を答申。これを受け同日、日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会の三師会、および日医・四病院団体協議会の合同記者会見が開催された。主要団体のトップが顔をそろえ、今回の改定をおおむね評価したことは、今の医療界の状況を象徴していた。

厚生省と徹底対決して「ケンカ太郎」の異名を取った武見太郎会長時代の日医は、病院団体との関係も悪化していた。しかし、現会長の横倉義武氏は、病院団体はもとより医療関連団体との「連携」を重視してきた。横倉氏が会長になって初めて三師会会長がそろって診療報酬プラス改定を自民党に要望したり、三師会や四病協と合同記者会見を行ったりするようになった。横倉日医を中心にして医療界は調和が取れるようになってきたのだ。「医療界はバラバラのほうがコントロールしやすい」と言っていた政治家や官僚にとって、厄介な事態だろう。まして、横倉氏は安倍晋三首相や麻生太郎副総理兼財務相とは親しい関係にある。厚労族や霞が関を飛び越え、政権中枢と直接交渉できる。前回を上回る診療報酬プラス改定を主導し、日本人としては3人目の世界医師会会長に就いたことで、6月の日医会長選では四選確実と見られている。9月の自民党総裁選で安倍氏が3選すれば、麻生氏も財務相を留任するだろう。そうなれば、次回改定でも「安倍・麻生・横倉」の3氏が大きな影響力を持つ。医療界はこの流れに乗っているようだ。

合同記者会見の中で日歯の堀憲郎会長は、医科歯科連携に関して、患者の診療情報を共有する診療情報連携共有料の新設などを評価した。横倉会長も口腔の健康と全身の健康が密接に関係していることに理解を示した。さらに、日医と日歯は現在、糖尿病に関する連携を議論しているという。堀会長は、横倉会長の世界医師会会長就任祝賀会にも来賓として招かれ挨拶するなど、横倉会長とは良い関係を築いている。

このような中、日本歯科医師連盟の迂回献金事件で東京地方裁判所は1月、政治資金規正法違反の罪に問われた会計担当の元副理事長に禁錮2年、執行猶予3年の判決を言い渡した。2月には、元日歯連会長2名の論告求刑公判で検察は禁錮16カ月と同2年、団体としての日歯連に罰金50万円をそれぞれ求刑した。医療界が連携する中で足並みを乱すだけでなく、歯科医療界のイメージを大きく損なう事態だ。さすがに3回目はもう起きないだろう。

2019年10月には消費税率10%への引き上げが予定されている。横倉会長は控除対象外消費税問題の解決に向け、他団体の意向を確認した上で、医療界が一つになった提案としてまとめ、早期に政府・与党に要望する方針だ。医療界、歯科医療界が良い方向に向かうことを願ってやまない。

なお、本欄は今回が最終回。1年間ありがとうございました。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201831日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑪ 歯科界の存在感を示せなかった診療報酬改定の顛末/「要望」ではなく「提案」が欲しい

歯科界の存在感を示せなかった診療報酬改定の顛末/「要望」ではなく「提案」が欲しい

 次期診療報酬の本体プラス改定のキーマンは安倍晋三首相、麻生太郎副総理兼財務相、横倉義武日本医師会会長の3人だった。

今年6月の日医会長選で4選を目指す横倉会長にとって、前回改定(本体プラス0.49%)を上回るアップ率の確保はまさに至上命題であり、「最低0.6%増」を要求していた。

昨年秋の総選挙で組織を挙げて自民党を支援した横倉氏を、安倍首相は官邸に招き、「しっかりお礼をさせていただきます」と述べている。 

横倉氏は同じ福岡県出身の麻生氏とも気脈を通じており、麻生氏から電話で伝えられた「0.55%増」という数字の政治的メッセージを汲み取り、矛を収めた。その数字は、保険料の企業負担分増を嫌う財界が主張していた「0.5%増」との間を取ったものである。

▼首相との形式的な懇談

日本歯科医師会と日本歯科医師連盟も昨年12月中旬、首相官邸を訪れたものの、わずか15分ほどの、まるで供一見さん僑扱いのごとき懇談では、今回の本体プラス改定に貢献したとは思えない。

国会議員に対しては、日歯は昨年11月下旬、国民歯科問題議員連盟総会で「健康寿命の延伸に向けて」と称する要望書を提出した。「歯科医療や口腔健康管理による医療の財政面での効果」を説くのはいいのだが、後半「歯科界の抱える現状の課題」として経営状況の厳しさを縷々挙げており、読む側に経営能力について疑問を持たれかねない。最後に、同時改定に向けた要望事項として、①必要な改定財源の確保、②在宅歯科医療のさらなる推進、③医科歯科連携、多職種連携の推進―の3項目を掲げているが、漠然としている感は否めない。「要望」ではなく、厚労族はもとより現場経験のある厚労省幹部が食い付きたくなるような具体的な「提案」を出すべきではなかったか。

▼主導権握れない検討会

前回改定で導入された「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」に関しては、次期改定で「かかりつけ歯科医」、「かかりつけ歯科医機能」という呼称や点数新設が、その定義や法律上の位置付けとは関係なく、点数表に新設され、歯科界内外から疑問の声があがっていた。

 懸案の「かかりつけ歯科医」については、厚労省の「歯科医師の資質向上等に関する検討会」が昨年12月下旬にまとめた「歯科保健医療ビジョン」中間報告で言及されており、「歯科診療所は、歯科医療の前提として医療安全等を担う義務がある」と明記された。それもあって、次期改定で感染防止対策が新たに設けられたのだろう。同ビジョンは歯科保健医療の提供体制の目指すべき姿を描いている。重要なビジョンなのに、構成員14人中、歯科医療機関経営者はわずか3人。主導権を握れず、現場の実状に沿った内容を盛り込めなかったようだ。

改定の前哨戦となった提言の段階で、すでにやり込められていたのではないだろうか。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201821日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑩ 開業医にも求められているパラダイムシフト/医科に先行する歯科の「開業」

開業医にも求められているパラダイムシフト/医科に先行する歯科の「開業」

 次期診療報酬改定については、全体の改定率はマイナス、人件費などに充てる本体部分はプラスとすることで決着した。財務省は本体もマイナス改定を求めていたが、安倍政権を支持する日本医師会のプラス改定の主張を政権が受け入れた。

ところで、改定率も重要だろうが、長期的なトレンドに目を向ける必要がある。それは、人口と財政と技術の変化である。

◆長期的なトレンドに注視する必要が

人口は、少子高齢化により税や社会保険料を払う世代が減少する一方、高齢化で急性期より慢性期の疾患が増える傾向にある。対策として、地域包括ケアシステムの構築が進められている。

財政では、法人税収の大幅減収に伴い、社会保障費の安定的財源として消費税に頼らざるを得ない状況だ。201910月に、消費税率を現在の8%から10%へ引き上げることが予定されているが、教育無償化の財源を社会保障費のカットで捻出すれば、社会保障が圧迫されるだろう。

技術では、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を活用し、がんゲノムや再生医療などの基盤を整備、コストなどを最小限に抑制できる体制作りが進められている。

少子高齢化についていえば、高齢化で医療ニーズが増える一方、医療に従事する働き手が減少する。その結果、医療機関では採用難となる。

◆社会の変化踏まえた経営者としての課題

トレンドとしては病院数が減少し、診療所数は微増している。医師数は国家試験により新規参入数はあまり変わらないので、病院に就職できない医師が増え、開業したり大型診療所に就職するケースが増える可能性がある。開業医や大型診療所のトップは社会の変化を見据え、医療マーケティング、ブランディング、採用やマネジメント、自由診療などが重要課題となる。

医科で今後起きそうな事態は、歯科ではすでに起きているだろう。元々、総合病院で働く歯科医師はほとんどおらず、開業がキャリアパスのメインとなっている。「予防」や「審美」の観点から、自由診療も進んでいる。医科の開業医にとっては供お手本僑になるだろう。

以前、『集中』で取材した医療法人社団ナイズの白岡亮平理事長は、医科の開業医の成功例だ。32歳で開業。38歳の現在、診療所を都内5カ所に展開、ICTを活用したりして多拠点運営を成功させている。「社会に適応した診療所は、患者さんの納得を得られ、社会保障制度的にも妥当性のある医療を提供でき、かつ継続可能性の高い経営をしている」と話す。開業医にもパラダイムシフトが求められている。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201811日号5面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑨ 普段からの付き合いが物を言う外部を巻き込んだ活動/政治的解決が必要な問題が多いが故に

普段からの付き合いが物を言う外部を巻き込んだ活動/政治的解決が必要な問題が多いが故に

医療界をリードしている人物は誰か。政府、厚生労働省が医療政策におけるカウンターパート(対応相手)と見ている人物は誰か。それは日本医師会(日医)の横倉義武会長というのが衆目の一致するところだろう。日医と病院団体は、以前は関係が疎遠な時期もあったが、現在は緊密な関係を築いている。

◆安倍首相や他業界とも親密な横倉日医会長

日医の横倉会長は日本歯科医師会(日歯)、日本薬剤師会(日薬)とともに称される「三師会」をもリードし、記者会見を主導したり、学術大会で積極的に発言したりしている。

また、安倍晋三首相とメールのやり取りができる個人的な関係を築いていることでも知られる。2018年度診療報酬改定についても、安倍首相と面会し、医師らの技術料に当たる本体部分のプラス改定を求めている。

一方、歯科界を牽引している人物は誰か。政府、厚労省が歯科医療政策におけるカウンターパートと見ている人物、歯科医師であれば誰もが思い浮かべる人物は誰か。それは、日歯の堀憲郎会長か。

堀会長は日医の横倉会長のように安倍首相と面会したことがあるのだろうか。横倉会長の後塵を拝することなく、歯科診療報酬のプラス改定に向け、首相に働きかけなければいけない立場のはずだが、ここ数年、歯科界を駆けめぐった状況では、それは難しいと思われる。

◆貴会の対外活動もより一層の奮闘を

安倍首相は2014年、当時の大久保満男日歯会長らと会食しているが、その際、高齢社会における歯科医療の役割を力説していた高木幹正・日歯連会長(当時)は、翌2015年に政治資金規正法違反で逮捕され、現在、公判中の身である。逮捕の数カ月前には、日歯会長にも就いていた。

このような状況では、日歯側から首相側にコンタクトをとることは、かなり難しいものと考える。まして、2004年に続く2度目の日歯連事件だ。

次期診療報酬改定をめぐる議論が大詰めを迎えている。貴会でもホームページで「診療報酬の引き上げと患者窓口の軽減を求める要請署名」の協力を求めている。しかし、会員の署名は一割ほどしか集まっていないと聞く。会員の危機意識、関心はどうなっているのか。坪田有史会長に求心力が求められる時である。国会議員や厚生労働省などとの日常的な付き合いや駆け引き。会員や市民との接触は、これまでにも増して、強くすることが必要なのではないか。

会長以下、自院を経営しながらの協会活動であることは承知している。各種の活動には自ずと限界があるものと察する。しかし、それでもあえて、今後のより一層の奮闘を求めたいところだ。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」2017121日号6面掲載

医科メディアから見た歯科医療界⑧  歯科医療政策をサポートするシンクタンク機能の強化を

歯科医療政策をサポートするシンクタンク機能の強化を

歯科診療所が歯科用ハンドピースを使い回し、院内感染のリスクが生じているとの報道があった。厚生労働省は医政局歯科保健課長名で、各都道府県の医務主管部局長などに対し、使用後の滅菌などを医療機関に指導するよう通知を出した。

滅菌には多額の費用がかかることもあり、歯科医療界からは「歯科医院から院内感染が発生したなど聞いたことがない」「医科でも使用後の内視鏡はアルコールで拭いているのに、おとがめなしか」などの不満や批判の声が聞こえる。

◆厚労省歯系技官を動かす秘策とは

それだけにとどまらず、歯科を医科より低く見ていることによる、いじめや脅しの措置と受け取る向きもある。だが、それは歯科医療界の力のなさだけが招いたのではない。

厚労省の医系技官は301人(本年1月時点)。うち、歯科医師免許保有者は2030人と、医師免許保有者と比べて人数が圧倒的に少ない。ポストに関しても、医師は次官級の「医務技監」にまでなれるが、歯科医師は歯科保健課長止まり。つまり、歯科医療政策に関わる人材の層が極端に薄く、歯科系技官の省内における発言力も弱いのだ。

医療政策は政府や厚労官僚の方針だけでなく、国会議員の活動、審議会における有識者の発言、メディアの報道などによって少しずつ形付けがなされていく。

このような外部の動きには、厚労官僚も新たな情報や知恵を得られる利点がある。歯科医療界も外部の力を通じ、医系技官に知恵や情報を与えたり、揺さぶりをかけたりするといい。

◆日医総研から学ぶ体制と政策企画力

医療政策に関しては、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が注目すべき存在だ。所長には日本医師会(日医)の横倉義武会長自らが就く。研究員は部長以下18人で、この他に客員研究員16人、海外駐在研究員四人の陣容だ。

年間約20本の研究成果を公表しているほか、日医の医療政策案の下地や各種資料を役員向けに作成。これらをもとに、日医は政府やメディア、さらに国民に対して自らの考えを積極的に発信しているのだ。時には日医と利害が対立する病院団体の幹部でさえ「日医総研のシンクタンク機能の凄さにはかなわない」と言う。

一方、日本歯科医師会(日歯)の日本歯科総合研究機構(日歯総研)は研究員が常勤1人、非常勤が数人という。研究報告は年間数本。日医総研に及ぶべくもない。

以前、日歯会長が「政策実現集団のシンクタンクにする」などと発言していたが、このままでは掛け声倒れになってしまうのではないか。

歯科が適切な口腔ケアを行えば、身体の病気を予防し、健康寿命を延ばし、ひいては医療費の節約につながる。厚労省も取り込みたくなるような歯科医療政策案の企画や効果的な情報発信、人脈の構築などのため、この時期だからこそ、日歯は日歯総研の強化に本気で取り組むべきではないか。

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」2017121日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑦ 厚労族議員に積極的に関与し育てる戦略を/政治的解決が必要な問題が多いが故に

厚労族議員に積極的に関与し育てる戦略を/政治的解決が必要な問題が多いが故に

 消費税率の引き上げに反対でも、社会保障財源の確保のため三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)は総選挙で、消費税増税を前提に教育費無償化等の公約を掲げた与党を応援せざるを得なかった。野党の主張は増税の「凍結」「中止」か「延期」だったからだ。

まして次期診療報酬・介護報酬同時改定を控え、与党政治家の理解が必要な時期でもある。小池百合子東京都知事が代表を務める希望の党の動向が注目されたが、三師会に動揺はなかった。結果は与党の大勝だ。

◆力が弱まる厚労族

『集中』の取材で、中央社会保険医療協議会委員の猪口雄二・全日本病院協会会長は「衆参の厚生労働委員会の議員は重要。政治でないと解決できない問題がたくさんあるから」と話す。

業界のロビイストのような族議員は問題だが、社会保障政策に関する知識や調整能力に長けた族議員は必要だと思う。

しかし、官邸主導の政策決定が続く上、厚労族の力も落ちているのではないか。厚労族ドンの丹羽雄哉氏は引退、尾辻秀久元厚労相も以前のような力はないという。医師の鴨下一郎元環境相は安倍晋三首相と自民党総裁の座を争った石破茂氏の側近で日医にも近く、微妙な立ち位置にある。田村憲久元厚労相、厚相を務めた橋本龍太郎元首相の二男である橋本岳自民党厚生労働部会長はまだ若い。

ある病院団体役員は「厚労族の力が落ちている中、政界も病院界も厚労族議員を育成することを真剣に考えるべきだ。病院団体の役員も政治家との付き合い方が下手な人が多い。現職の団体トップで、唯一、上手なのは、日医の横倉義武会長だ。政治家といかにうまく付き合うかも考える必要がある」と話す。

◆貴重な歯科系議員の会

10月5日、参議院厚生労働委員会委員長に就任した島村大自民党参院議員(歯科医師)を励ます会が、都内のホテルで開かれた。会場には医師会や歯科医師会、企業人らが詰めかけた。会場には、世耕弘成経産相、河野太郎外務相、加藤勝信厚労相、中川雅治環境相の四大臣が挨拶し、参加者を驚かせた。島村参院議員は、同じ横浜を選挙区とする菅義偉内閣官房長官に近いといわれているが、衆院議員である河野、加藤両大臣が、自らの選挙もある中、会場に駆け付けたことに対し、参加者の一人は「それだけ自民党の危機感を感じた」と話す。

島村氏は現在、参議院厚生労働委員会委員長という要職にあり、また、元日本歯科医師連盟の理事長を務めた経験もある。貴会としても、積極的にアプローチしてはいかがか。

人間関係は「モノの交換」という考え方が心理学にある。モノとは、良い意味で遣り取りしているすべての事柄を指す。顔を出すことで相手に満足を与え、次は相手がモノで応えてくれる。日本の政治家は義理堅い面があるので、ここは大事だ。釣り合いが取れている状態を「衡平」という。与えなければ、相手の心理的負債となる「不衡平」すら生じない。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201781日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界⑥ 治療効果上げ、信頼関係作る「笑い」の効用/対外的には看板倒れの歯科も

治療効果上げ、信頼関係作る「笑い」の効用/対外的には看板倒れの歯科も

 医療費抑制や健康寿命の延伸を目指し、予防医療の重要さが指摘されている。その割には、国は診療報酬で予防医療に対しインセンティブを付けず、「医師は治療するのが医療」と考えている。予防薬は有効性の証明が難しい上、予防医療は製薬企業の商売敵になるので製薬企業は協力しない。患者の中にも健康意識の高い人と低い人がいる。健康長寿を目指す中高年なら、せめて予防医療以前のウォーキングやヨガなどの運動をしたり、セルフメディケーションで軽度な不調は自ら手当てしたり、多少奮発して人間ドックを受けたりしたいものだ。

◆医学的効果検証研究も

これらに加え、注目されているのが「笑い」だ。今年の2月、近畿大学と吉本興業が笑いの医学的な効果検証研究を始めたと報じられた。もとより笑いは心や体に良いことが医学的に実証されつつあり、病気の予防や治療でも効果が期待されている。以前取材した土浦協同病院では「笑い」や「癒やし」を通じて、患者の自然治癒力や免疫力を高めるプロジェクトを展開していた。当時の病院長が、「笑い」の医学的効果に着目する医師の高柳和江「笑医塾」塾長と出会ったのがきっかけだった。

職員はプロジェクトの研修を通じ、患者を元気づけたり、笑顔を引き出す対応や言葉のかけ方などを身に付けることで、自身や職場、家庭の雰囲気も明るくなる副産物があったという。

医師の資格を持つ落語家の立川らく朝さんは「健康落語」を売りにしているほどだ。また、林家きく麿さんの「歯ンデレラ」は、大企業のトップがガラスの靴ならぬ入れ歯を落とした女性を探すのだが、それは求婚でなく、上手な入れ歯を作れる歯科医師を紹介してもらうため。医科に関しても、こんな小噺がある。「お隣の奥様が交通事故で顔がグチャグチャになったそうよ」「あら、お気の毒」「でも、最近の医療はすごいわね。手術したら、元の顔に戻ったそうよ」「あら、お気の毒」。

◆「笑い」を売りにする

歯科テレビや劇場でお笑いを頻繁に見るわけにはいかないが、要は心の持ちようなのだろう。日常生活の中で笑いの素を探しながら、プラス志向で過ごす。医師と患者もリラックスしてコミュニケーションを取り、信頼関係を作るのが大切だ。

電車の中で偶然、子どもたちが笑う写真とともに「歯医者で笑うなんて」とのキャッチが書かれたポスターを見た。歯科医師が子ども目線のコミュニケーションを重視して治療に当たっているという。興味を持ち、取材を申し込んだが、事務方により門前払い。取材趣旨をいくら説明しても、以前ひどい目にあったことがあるのだろうか、雑誌にはマイナスイメージを持っているようだった。こんな歯医者、笑えない。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201781日号6面掲載

医科メディアから見た歯科医療界⑤ 会長交代相次ぐ医療関係団体事情/時代が求める変革型リーダーとは

会長交代相次ぐ医療関係団体事情/時代が求める変革型リーダーとは

 

◆「会長への道」

「会長への道」という落語がある。鈴々舎馬風の十八番で、ブラックジョークを交え、落語協会会長を目指す自身の立身出世伝だ。ところで、医療団体ではトップの交代が相次いでいるが、こちらはなりたくてなったというより、周りの要請でなった感がある。

日本医学会の役員選挙では、副会長の門田守人氏(がん対策推進協議会会長、堺市立病院機構理事長)が、「医学界のドン」髙久史麿氏を破った。日本病院会では「名経営者」といわれる副会長の相澤孝夫氏(相澤病院理事長・院長)が、全日本病院協会では副会長で中央社会保険医療協議会委員の猪口雄二氏(医療法人財団寿康会理事長)が、それぞれ会長に選ばれた。この他、日本看護協会も会長が交代した。

◆節目の18年を乗り越えるため

2018年度は医療・介護施策の節目の年だ。6年に1度の診療報酬・介護報酬同時改定をはじめ、第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画がスタート。また、国民健康保険の財政運営の都道府県単位化、さらに、2020年度からの本格運用を前にした医療等ID制度の段階的な運用が始まる。これらに加え、新たな専門医制度も始まる予定だ。

これだけの大波を乗り越えるため、医療界では、国との議論はもとより、医療界内や医療機関自身の変革も進めていける人材が求められている。ある医療関係者は「日本医学会の場合、高久氏は86歳。変革はトップが高齢だと難しい。門田氏は人柄が良く、保守的で厚労省とも仲がいい。関西の医療人は喜んでいるだろう」と解説。病院団体については「相澤氏、猪口氏とも論客。時代の要請だ。病院団体は日本医師会に押されていたので、今後は両者のバトルが予想される」と話す。

◆国とのパイプ作りを

貴会でも、618日の第45回定期総会で副会長の坪田有史氏が新会長に就任された。メディア懇談会で記者にはお馴染みの顔だ。活発な意見交換をするなど協会活動への熱心さは感じていた。坪田氏は54歳と若いが、副会長陣も若返った。目を引いたのは、前会長が副会長、元会長が理事に就いたことだ。病院団体なら名誉会長とか顧問とかに就くところだろう。

会員の一人は「会長経験者に能力を発揮して働いてもらうということ」という。風通しのよさは感じるが会長候補者が坪田氏一人とはどうしたことか。国とのパイプにも心もとなさを感じた。機関紙に自民党国会議員が登場しているのは承知だが、総会終了後の懇親会に来賓として来た国会議員は民進党と共産党で、与党議員がいなかったからだ(与党都議がお一人おられたが、途中で退席された)。

会員数では東京都歯科医師会に迫りつつある勢いを持つ貴会だけに、今後の変革と発展に期待している。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201771日号6面掲載

医科メディアから見た歯科医療界④ 日歯記者会加盟審査で見たメディアとの旧態依然な関係

日歯記者会加盟審査で見たメディアとの旧態依然な関係

今村雅弘前復興相を激高させた記者会見で、一時話題となった記者クラブ制度の弊害問題を思い出した。

あの会見での質問者はフリージャーナリストだ。一般的には省庁ごとに記者クラブがあり、クラブに加盟していないと会見に参加できない。ところが復興庁の場合、クラブがなかったので会見に参加できたようだ。日本の会見では発表する側も記者側も丁寧で礼儀正しくあろうとする。特に、親睦組織的な側面を持つ記者クラブにはその傾向が強い。しかし、一匹狼的なフリージャーナリストには、そのような予定調和は通用せず、約七分間も粘り強く厳しい質問を繰り出した。

記者クラブをめぐっては、以前からフリーランスや外国メディアなどから「排他的な権益集団」と批判的な声があがっており、長野県知事時代の田中康夫氏が「脱・記者クラブ宣言」をしたり、民主党政権が官庁の記者クラブオープン化を進めようとしたりした。現在も徐々にではあるがオープン化は進んでいる。

◆半年以上検討中の日医

実は、弊社が日本医師会プレスクラブに加入申請した際、半年以上待たされた。今村聡日医副会長が日医への理解を得ようと本を出した際、弊誌のブックレビューで紹介記事を載せ、その中で「日医のイメージは行政とメディアによって歪められたという指摘は納得しかねる」と書き、「半年以上、検討中」の事実を述べ、「どのメディアにもオープンであってこそ『医師の代表機関』ではないのか」と指摘。後日、立食パーティーで著者の今村氏にお会いした際、思い切ってそのことを話したところ、直後に加盟できた。

◆1年後審査の歯科記者会

弊誌では、日医と執行部に対し厳しい記事を載せているが、横倉義武日医会長は「日医に対する激励だと受け止めている」と話す。厚生労働省には、一般紙やテレビ局が加盟する厚生労働記者会と、専門誌が加盟する厚生日比谷クラブがあり、その会員は日医プレスクラブに自動的に加盟できる。しかし、それ以外のメディアが入会するには、企業に所属し、媒体を持っていることが前提だ。

この連載を持ったこともあり、日本歯科医師会の歯科記者会にも加盟しようとした。日歯に連絡すると、クラブ幹事社に連絡を取ってくれとのこと。そうすると、近々開く総会で幹事社が交代するので、新幹事社に連絡を取ってほしいという。新幹事社に連絡を取ると、加盟の趣旨書、発行媒体、会社概要を送ってくれとの要望。送った後に連絡すると、記者会の加盟社は現在、歯科メディアだけで、加盟審査は来年春の総会まで待たないといけないと言われた。日歯は、今後も日本の歯科医療を進めるために牽引力を発揮しなければならない。その際、メディアの存在は重要かつ大切と考えるが、如何だろうか。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201761日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界③ 高額な自由診療は技術力と患者への説明力が必要/経営には地域特性を考慮すべき

高額な自由診療は技術力と患者への説明力が必要/経営には地域特性を考慮すべき

近年、歯科医師過剰が問題視されている。一方で、歯科医師の免許は持っているが実際は大学に勤めている、女性の場合は家庭に入っているなどの事情で、診療をしていない人たちも少なくないので、「現実的に過剰というほどではない」との声もある。また、歯科診療所数もコンビニエンスストアの店舗数を上回り、過当競争の激化が指摘されているが、こちらも地域によって歯科診療所過疎地もあるので、一律に過剰とはいえないとの指摘がある。

少なくとも首都圏、特に都内では歯科診療所の看板がよく目に入る。以前、診療報酬債権を供担保僑として現金を得る診療報酬債権ファクタリングの取材をした際、先方が「ファクタリングを利用するのは歯科医院と介護事業者に多い。歯科医院は自転車操業に近い経営だったり、結局、廃業に至るケースも少なくなかったりする」と話していた。

▼患者が自由診療を選ぶ時

最近の取材経験でいえば、競争が激化する状況下でも経営が好調な歯科診療所はある。自由診療を主軸に「短期集中治療」「マイクロスコープを使った最先端治療」「完全個室制」をウリにする東京・港区の歯科診療所では、自由診療と保険診療の両方の内容を提示するが、患者が主体的に自由診療を選ぶケースが大いという。診療所長はブログやメディアを通じて口腔ケアと健康に関する積極的な情報発信や啓発活動も行っており、患者は各地の富裕層や駐日外国人が多いそうだ。千葉市内の歯科診療所では、口腔内カメラで撮った画像をモニターに映し、患者に症状の説明をしながら治療の了解を得るようにしていた。診療所長は「歯科診療というと、高額な自由診療を押し付けがちなイメージがあるかもしれないが、患者さんと、とことんコミュニケーションを取って、患者さんも私も納得できる治療を選択している」と話す。さらに、スタッフが歯に関する院内便りを作成したり、地元のイベント情報を院内に掲示したりするなど地域密着型の歯科診療所づくりに取り組んでいた。

▼健康意識と要求の違い

歯科医師の説明と患者の納得が重要だ。納得できれば、高額な自由診療でも患者は自らが選ぶ。結果的に、歯科診療所の収益安定につながる。ただし、その順番が逆になってはいけない。もちろん地域特性を見据えた経営は重要だ。患者の健康意識や学歴、所得、治療要求によって保険診療・自由診療のいずれかが主軸になる。

どちらにせよ、ベースにあるのは歯科医師自身の技術力。そして患者と向き合って説明して納得を得る説明力。さらに人間性が欠かせない。その上で、優れた接遇やサービス、先進機器が、付加価値として患者から評価されるようだ。逆に、このレベルが低いと、口コミやサイトで批判されることになる。

 

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」201751日号6面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界② 見落とせない今後の日歯の対応/問われる堀会長の力量・手腕・底力

見落とせない今後の日歯の対応/問われる堀会長の力量・手腕・底力

団塊の世代全員が後期高齢者になる2025年を目標に地域包括ケアシステムの構築が進められている。2018年度は、医療・介護施策の大きな節目となるだろう。6年に1度の診療報酬・介護報酬同時改定だけでなく、第7次医療計画、第七期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画がスタートするからだ。

◆施策関与弱い歯科

節目の年を前に、歯科医療界の施策への関与の度合いはどうか。3月に歯科医療関連のメディアが集まる会合の中で、その現状を垣間見る機会があった。肝心な、社会保障審議会介護保険部会に歯科医師委員がいないため、歯科抜きの議論となっていること。そもそも公的な検討会や審議会などに歯科医師の構成員が少なく、歯科の視点から意見を述べる場があまりないこと。さらに、日本歯科医師会(日歯)は2000年の介護保険制度スタート時に介護分野への関与に関心が低かったこと。過去の歯科への厳しい診療報酬改定に対する対応に追われ、将来に向けた布石が後手に回ったことなどだ。地域包括ケアシステムの当初案では、歯科の存在は無視されていた。現在は口腔関連の在宅医療や介護予防において歯科の役割が位置付けられているが、実際は心もとない。貴会が先月開催したメディア懇談会で、政策委員長談話と地域医療部長談話が紹介されたが、前者では「医科歯科連携にインセンティブを与える施策」、後者では「混合介護に反対」という意見が述べられている。現実は、医科や介護との関係構築ができていないのだろう。

日歯の堀憲郎会長は今年1月、「今年の最大の課題は平成30年度の診療報酬と介護報酬の同時改定だ」と発言。その実直な性格は評価され、中央社会保険医療協議会委員を務めた経験から診療報酬に精通している点も期待されているという。

◆なすべきことをなす義務が…

しかし、人柄がいい人が必ずしも成果が出せる人とは限らない。ましてや、これから本格的に動くには、遅きに失した感がある。年内には同時改定の柱が決まってしまうからだ。同時改定が2025年体制に向けて肝になることや、そのために公的な検討会や審議会の構成員にもっと多くの歯科医師を送るため根回しが必要なことは、数年前から分かっていたはずだ。

もちろん、日本歯科医師連盟の相次ぐ不祥事のため、行政が歯科医師を構成員に就けさせなかったり、日歯も遠慮して積極的に動かなかったりした面もあっただろう。しかし、歴代の執行部は少なくとも会員のために「なすべきことをなす」義務があったはずだ。その観点からの批判は、会員からあがってこないのだろうか。

 

筆者:元 月刊「集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201741日号5面掲載

医科系メディアから見た歯科医療界① 逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

逆境下で求められる情報発信とイメージアップ戦略/映画「キセキ」ヒットの意味

医科向けの医療情報誌の編集をしているが、数年前から貴会のメディア懇談会に参加している。事務局の方からこのほど、貴紙への執筆を依頼された。歯科は詳しくないとお断りしたが、自由に書いて良いとのことで、お引き受けした。

編集長として携わる「集中」でも、医療だけでなく、政治・経済・社会分野の記事も載せており、広い視野で歯科医療から歯科医療界、そして貴会を見てほしいとの意図と受け止めている。

取材者側にとり、懇談会スタイルは通常の記者会見と異なり、本音を聞けるのが良い。貴会のメディア懇談会と同様、病院団体では日本病院会の記者懇談会が病院経営の苦労や医療人自身が考える医療政策の問題点などが分かり、記事の企画や内容を深めるのに役立つ。

◆欠かせぬ国民の理解

単なるストレートニュースのような記事だけでは、一般の人たちに病院経営者や医療人の問題意識や苦悩まではなかなか伝わらない。医療政策が政治的な思惑で左右される中、業界としては国民の理解を得ることが欠かせない。貴会や日本歯科医師会でも一般向けに情報発信やイベントを行っているが、国民の中には過去のイメージにとらわれている人が少なくない。例えば、日本医師会に対しては、「喧嘩太郎」の異名を取った武見太郎氏や圧力団体としてのイメージ。日歯に対しては、日本歯科医師連盟事件に象徴されるイメージだ。

◆歯科に望ましい状況が

そんな中、歯科医療界にとって望ましい状況が起きている。顔を見せないボーカルグループ「Greeeen」の代表曲「キセキ」の誕生秘話を描いた映画「キセキ」の大ヒットだ。メンバー4人が歯科医師ということで観に行った。人気若手俳優の出演もあり、映画館内は若い女性やカップルが多く気が引けたが、単なる青春ドラマやグループの成功譚でなく家族の物語でもあり、中年男の胸をも打つ内容だった。ちなみに、メンバーが顔出ししない理由は、歯科診療の障害にならないため。リーダーは東日本大震災時、被災遺体の身元確認に貢献している。「キセキ」は、ぴあ映画初日満足度ランキングでトップになり、上映館も拡大中だ。

2014年3月、北海道の農業高校を舞台にした学園漫画「銀の匙」の実写映画が公開された際、農業高校の志望者が急増した。「13歳のハローワーク」の人気職業ランキングでは、歯科医師は100位に入っていないが(医師は7位)、「キセキ」のヒットが歯科医療界と歯科医師の人気につながる可能性は高い。しかし、業界団体が歯科医療界の印象に疑問符を打たれるような状況を招く一方で、商業映画が結果として業界のイメージアップに寄与するのは皮肉だ。

 

筆者:元 月刊「集中」編集長 鈴木 義男

「東京歯科保険医新聞」201731日号6面掲載