私たちの年代が役に立つとしたら…今なお歯科医療に熱意(松井裕子さん【後編】)
私たちの年代が役に立つとしたら…今なお歯科医療に熱意
松井裕子さん―後編
前編はこちら
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。
今回は、宮内庁病院で勤務医として34年にわたる歯科医師キャリアを過ごした松井裕子先生(73歳)の後編。今後も何らかの形で歯科医療に携わり続けたいという松井先生にお話を伺った。(前編から読む)
―退職してもなお歯科医師を続けたいとのことですが、勤務形態や時間など具体的にどのような形をイメージしていますか。
模索中ですが、退職直前は週1回勤務のリズムできたので週に1~2回、あるいはもっとフレキシブルな働き方ができればと思います。先進技術は専門の先生に任せ、診断と治療の方針についての相談に応じ、歯周組織や義歯のメインテナンスを中心に関われたらと考えています。体力次第の部分もあるし、歯科医師としての収入はあまり期待できないでしょうが、これまで50年弱培ってきた歯科治療のスキルを無理のない自分のペースで還元していければと思います。
―歯科医療への熱意を持ち続けているのですね。
そうですね。今や歯科で扱う範囲も拡がり、それぞれの歯科医師が何らかの特徴を打ち出さないといけない時代になってきているかもしれません。一方で、医科のように専門分化が進んだ末に総合診療の必要性が浮上してきている時代変化もあります。もし私たちの年代が役に立つとしたら、総合的な対応ができる点にあると考えています。それをどのような形で実現できるか、同じような意志を持っている方たちと協力して明確にしていければと思うこともあります。
―「今なおスキルを活かしたい」、その原動力はどこから。
学生時代から歯科医療の世界で生きてきて、折角今まで培ってきたスキルを無駄にせず、人のために役立てたいと感じています。以前、中学生時代の友人に頼まれて口腔状態を診た時の経験がとても印象に残っています。咀嚼も十分にできないほど悪い状態だったので、すぐに治療を開始すると、口腔状態がみるみるうちに改善し、顔色も良くなり若々しく元気になりました。人の役に立っていることが実感でき、そうした姿を見られるのは歯科医師冥利に尽きます。
診療続ける同世代の先生へ
―プライベートはどのような過ごし方を?
大学時代から硬式テニスを続けていて、年に一度しかラケットを握れない期間もかなりありましたが、今は週に1度、夕方2時間ほどプレーしています。定年近くなってから新しいことに挑戦したいと思ってゴルフを習い始め、月に1~2回、東京近県のコースを仲間たちとラウンドしています。外出しない日は、幅広い分野の本を読んだり、手抜きをしてきた家の修繕などもしたりしながら過ごしていますね。
―ところで、松井先生が協会に入会したきっかけは。
病院勤務になってからは、常勤の歯科医師が1名だけだったので、歯科の情報が入ってきませんでした。そこで開業している同級生に相談すると、「保険医協会が良いから入りなさい。セミナーをしっかりやってくれるし、役立つ情報も届けてくれるから」と勧められました。入会後は学術研究会などに参加しましたが、内容が勉強になるし面白く、受講するのが楽しみでした。接遇講習会も良い内容だと思ったので受講して、電話対応や患者さんへの話し方などを学び、病院に戻って看護師たちにアドバイスすることもできました。また、機関紙の紙面を切り抜いて事務方に渡して情報共有していましたね。保険医年金など、歯科医療以外の面でもとても助けられました。
―最後に、同年代で診療に従事し続けている先生方にメッセージを。
頭が下がるばかりです。同年代の友人たちは閉院を検討したり、引退してしまったりするケースが増えています。自ら閉院を決めるのは非常に決断力を必要としますが、診療を続ける判断もまた重いものです。材料や治療法も進化を続けている中、たゆまぬ精進が必要とされる歯科医師という気の張る仕事を続けておられることに敬意を払います。この年代になると思いもかけない不調が出てくることもあるかと思います。体調管理をしっかりとしながら歯科医療に携わっていただけることを願っています。
―本日はありがとうございました。(完)
#インタビュー #連載 #退き際の思考