協会ニュース

歯初診・歯援診・か強診の施設基準 見直し

 126日の中央社会保険医療協議会で、次期改定の個別改定項目が提案された。新型コロナウイルスの感染拡大から、院内感染防止対策を評価した「歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準」(歯初診)の研修項目が追加され、医療機関に1年の猶予期間を設け、対応を求める。在宅療養支援歯科診療所(歯援診)では、施設基準にある訪問診療の実績要件を変更する。

 かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)では、施設基準にある歯周病安定期治療の実績要件に歯周病重症化予防治療を加えることを可能とし、連携体制の要件の選択肢が増えて、施設で行われる定期的な歯科健診への協力が追加される。また、歯周病安定期治療()が、現状の歯周病安定期治療()の加算と毎月算定できる要件に加わる形で統合される。

―初期根面う蝕のフッ素塗布が外来でも可能に

 初期の根面う蝕に対するフッ化物歯面塗布処置が、一定以上の年齢であれば、外来患者でも算定できるようになる。

 また、施設基準を満たせない医療機関でも、糖尿病や血液凝固阻止剤投与中などの患者の主治医から情報提供を受けて管理を行った場合、歯科疾患管理料に総合医療管理加算が加算できるようになる。新しい技術として、CAD/CAMインレー、口腔細菌定量検査および歯科部分パノラマ断層撮影が保険導入される。メタルコア加算および歯周基本治療処置(P基処10点)は廃止される。

―医療技術評価提案

 なお、1月19日の中央社会保険医療協議会で、学会からの提案書などに基づき次期改定で評価すべき医療技術が議論された。歯科では、CAD/CAMインレー修復、NiTiロータリーファイルによる根管形成加算、チタンおよびチタン合金による前歯部レジン前装金属冠など17技術が「優先度が高い技術」となった。

 一方、代替材料である「金属アレルギー患者へのジルコニアによる前歯部CAD/CAMブリッジ」「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」は保険収載が見送られた。

医療経済実態調査に提言 歯科診療所の感染対策を訴え/第5回メディア懇談会

山本鐵雄副会長

診療報酬改定、医療経済実態調査など議題に

 協会は1月14日、第5回(通算87回)メディア懇談会をWEB開催。山本鐵雄副会長が説明、広報・ホームページ部長の早坂美都理事が司会を務め、メディア各社が参加した。今回は①中医協関係、②談話、③要請、④医療経済実態調査、⑤次期診療報酬改定率などを中心に意見交換した。

感染症対策…歯科診療所の窮状訴え

 歯科用貴金属材料の提起では、歯科診療所にとって望ましい随時改定の在り方について懇談。逆ザヤ解消に向けた方策に関し、現場の声を届けた。
 診療報酬のプラス改定に向けた談話についての話題では、歯科診療所における経営のひっ迫状況に関して、現場の声を交えながら言及。スタンダードプリコーション(標準予防策)の考えに基づく綿密な感染症対策を行っているため、マスクやグローブ、アルコールなどの備品費がかさむ傾向にあること、行政からの補助金等ではまかないきれていない現状を共有した。
 また、厚生労働省が公表した第23回医療経済実態調査のテーマでは、調査対象となった医療機関(サンプル数)が少ないという論点で問題を提起。メディア側からは、「調査対象として個人経営の診療所を増やしていくべき」という意見があがり、調査方法の在り方を議論した。

早坂美都理事

中医協公聴会 感染防止対策 麻酔の評価を

 1月21日に、次期改定に向けた中央社会保険医療協議会(中医協)の公聴会がオンラインで開催され、12名の意見発表者がそれぞれ意見を出した。歯科に関しては、大杉和司氏(大杉歯科医院理事長、三重県)が意見発表を行い、感染防止対策の評価が不十分でなく初・再診料で恒久的に評価すべき、麻酔を算定できないことが多く明細書に記載もないため分かりやすく見直すべき、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所や在宅療養支援診療所の訪問診療の実績の要件は応需体制の要件に留めるべき、周術期口腔機能管理の連携は伸び悩んでおり、取り組みやすい制度作りが必要、金パラは依然として赤字になる現状があり早い解決を求めたい、などの考えを述べた。

 中医協委員からは、「医科歯科連携の実例を教えてほしい」などの声があり、大杉氏は地域の歯科医師会と医師会の取り組みなどを紹介した上で、地域での取り組みだけでは不十分であり厚生労働省も働きかけをしてほしいと述べた。

 そのほか、秋山実氏(日本航空健康保険組合理事長)、松井道宣氏(京都九条病院理事長)、宿野部武志氏(一般社団法人ピーペック代表理事)、黒瀬巌氏(ケイアイクリニック理事長)、森嶋和宏氏(三重県名張市役所福祉子ども部長)、小林弘祐氏(内科系学会社会保険連合理事長)、田中達也氏(メイトク株式会社代表取締役)、小林妙氏(JAM総務グループ長)、青木浩朗氏(保険調剤薬局つつみ薬剤師)、兒玉和歌子氏(不妊・不育治療の環境改善を目指す当事者の会)、山田佐登美氏(川崎医科大学総合医療センター看護部長付参与)が意見を発した。

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)1月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)1月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)1月1日 第622号

1面】

    1.夜明けの序曲(新春特別企画・石原正道先生投稿写真)

    2.年頭所感

    3.次期診療報酬改定率 本体0.43%

    4.ニュースビュー

    5.「探針」

2面】

    6.談話 医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を

    7.中医協 感染対策の評価 支払側が反対意見

    8.事業復活支援金

    9.政策委員長談話 経営管理部長談話を発出

3面】

    10.インタビュー 森八・中宮千里さん「400年の伝統ある老舗の心構え “職人”若女将が考える地域との結びつき」

    11.新春特別企画 会員数投稿写真(谷本幸司先生)

    12.新春特別企画 会員数投稿写真(矢島昇悟先生)

4面】

    13.経営&税務相談Q&A No.389

    14.トラブル回避の問診等のコツ解説/豊福氏が医事相談研究会で

    15.新規開業医講習会を開催/1年ぶりに再開した新規個別指導に対応

    16.踏み出そう!歯科訪問診療!/歯科訪問診療講習会を開催

    17.改正電子帳簿保存法/電子データ保存義務2年間の猶予設ける

    18.施設基準講習会を開催/「開業前に協会から情報得られて良かった」

5面】

    19.研究会・行事案内

    20.会員優待サービス

    21.ネガティブな口コミへの対応策No.1

    22.電子書籍デンタルブック

6面】

    23.インタビュー 日本歯科大学・奈良陽一郎さん「『MID』含め 接着なくして成り得ない」

7面】

    24.謹賀新年名刺広告

    25.新春特別企画 会員数投稿写真(川本弘先生)

    26.新春特別企画 会員数投稿写真(植村元喜先生)

8面】

    27.支援補助金(8万円)申請締め切りは1月31日まで

    28.2022年度診療報酬改定に向けて/教えて!会長!!Vol.54

    29.法律相談、経営&税務相談

    30.共済部だより

9面】

    31.症例研究/周術期等口腔機能管理について

10面】

    32.連載/私の目に映る歯科医療界⑩(東洋経済新報社・大西富士男)

    33.協会活動日誌 2021年12月

    34.理事会だより

11面】

    35.坪田会長が衆院議員3氏と懇談/2022年度診療報酬改定 プラス改定を訴える

    36.2021歯科総行動集会/220会場から500人参加

    37.神田川界隈/一緒に声を挙げませんか?(濱﨑啓吾/練馬区)

    38.新規個別指導 12月から再開/緊急事態宣言による延期で開業から2年後の指導が多発

    39.医療提供体制支援補助金 迅速な交付を求めて要望書提出

    40.通信員便り No.117

12面】

    41.頼りになります 東京歯科保険医協会/組織部

CAD/CAMインレー・口腔バイオフィルム検査 保険収載

医療技術評価提案 評価対象 17項目

 1月19日の中央社会保険医療協議会で、学会からの提案書などに基づき、次期改定で評価すべき医療技術が決まった。評価対象となったのは、CAD/CAMインレー修復、チタンおよびチタン合金による前歯部レジン前装金属冠、NiTiロータリーファイルによる根管形成加算、歯科用3次元エックス線断層撮影の撮影要件に根管形態の明記、歯科部分パノラマ断層撮影、口腔バイオフィルム検査、口腔不潔度測定、歯科充填用材料の廃止および歯周ポケット掻爬などの17項目となった。

 学会の提案書によると、「CAD/CAMインレー修復」は、歯冠形成後に従来通り連合印象採得及び咬合採得を行い、歯科技工所でCAD/CAM装置にてインレー体を製作して歯科用合着用レジンセメントを用いて窩洞内に装着するなどとしている。

 また、使用するハイブリッドレジンブロックは現状使用しているものと同様のものが使用できると記載している。「チタンおよびチタン合金による前歯部レジン前装金属冠」は、歯科用金属アレルギーかつチタンアレルギーではない患者で前歯部CAD/CAM冠が適応できない者を対象に、前歯部のレジン前装冠へ対象拡大するものなどとされている。

 「NiTiロータリーファイルによる根管形成加算」は、抜髄あるいは感染根管処置の加療が必要な患者に対して、NiTiロータリーファイルならびに専用治療用モーターを使用して根管拡大ならびに根管形成を行うものを評価するものとなっている。

 「歯科用3次元エックス線断層撮影の撮影要件に根管形態の明記」は、歯科用CTの算定要件に歯髄炎での要件が明記されていないことの改善を求めるもので、算定要件に「歯髄炎、根尖性歯周炎等、大臼歯等の根管形態」を明記する内容となっている。「歯科部分パノラマ断層撮影」は、腫脹や疼痛の症状が局所にあり、嘔吐反射のため口内法エックス線撮影が困難である患者および飛沫や唾液による感染リスクが高い患者または疑われる患者において、片側または両側臼歯部あるいは前歯部の局所部分へのパノラマ断層撮影を評価するものとなっている。

 「口腔バイオフィルム検査」は、身体的要因、精神的障害等などにより口腔衛生管理ができない患者を対象に、簡易検査(TCI:舌苔付着度検査)あるいは精密検査(細菌カウンタによる細菌数測定)のいずれかを行い、口腔バイオフィルム感染症の病名をつけるものとなっている。「口腔不潔度測定」は、要介護高齢者、入院患者または緩和期患者であって、口腔機能低下または口腔衛生管理が不良のために口腔内微生物による汚染が著しく疾患リスクが高まっている状態にある者(症状として舌苔、粘膜炎、口臭または口腔乾燥症)に対して、細菌カウンタで総細菌数を測定するものとなっている。

 廃止に係る項目としては「歯科充填用材料Ⅲの廃止」があり、歯科充填用材料Ⅲとして保険収載されている歯科用硅酸セメント、硅隣酸セメントおよび歯科用充填用即時硬化レジンの廃止を求めるものとなっている。同様に、「歯周ポケット掻爬」は、歯周基本治療として評価されている歯周ポケット掻爬(PCur)は歯周外科処置に分類される手術とし、歯周基本治療から歯周ポケット掻爬を削除する内容となっている。

 これら項目の点数や具体的な算定要件は、学会の提案内容を踏まえて、3月上旬に発出される大臣告示や通知により明らかになる。

 協会では、3月に開催する新点数説明会で詳細を解説する予定であり、会員はぜひともご参加いただきたい。

オミクロン株急拡大・東京都に「まん延防止」適用/ 歯科は時間要請等の対象外

 新型コロナウイルス感染者の急速な増加を受け、東京都は1月7日、「オミクロン株の急速拡大に伴う緊急対応」を公表し、その後、同21日には政府の新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置(以下、まん延防止措置)が適用された。

 1月19日時点で、対象は都内全域、期間は121日から2月13日まで。歯科(医療施設)は、病院、診療所、薬局と同様に時短要請等の対象外となっている。まん延防止措置では、都民に向けて不要不急の外出、都道府県をまたぐ移動の自粛、会食の人数制限などを要請している。

 一方、業種別ガイドラインを提示した事業者向けの協力依頼では、施設ごとに対応を明示。飲食店や商業施設、教育機関のほか、イベント開催に対する要請も含まれている。また、職場への出勤についてはテレワークの推進や、基本的な感染防止策を徹底するよう協力を依頼している。

 東京都では1月8日に、昨年9月以来となる1000人超の感染者を確認。その後、122日には初めて1万人を上回り、さらに感染拡大する様相を呈している。継続した感染症対策に加え、感染状況の推移、それに伴う行政の対応を注視していく必要がある。

P基処廃止 歯初診の要件変更等へ

 114日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、次期改定に関する議論が取りまとめられた。このまとめをもとに、公聴会やパブリックコメントでの意見内容を経て、改定項目が決まる。

 示された議論のまとめによると、新型コロナウイルスを含めた感染防止対策に関しては、「歯科初診料における歯科医師及び職員を対象とした研修等に係る要件を見直すとともに、基本診療料の評価を見直す」と記載された。2020年度診療報酬改定において「歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準」(歯初診)の要件に職員研修が追加されたが、次期改定ではその研修が見直されるとともに初・再診料の点数が変更される。コストを踏まえた評価となるのか、経過措置期間が十分設けられるかなどが注目される。

 また、施設基準に関しては、「かかりつけ歯科医の機能の評価について、地域における連携体制に係る要件及び継続的な口腔管理・指導に係る要件を見直す」との記載もあり、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準も見直しがなされる。

 歯周治療においては、「歯周基本治療処置について、診療の実態も踏まえて廃止するとともに、基本診療料の評価の見直し等を行う」とまとめられた。P基処10点がなくなるのと同時に、初・再診料が引き上げられるといった変更が考えられる。また、「歯周病の安定期治療及び重症化予防治療について、診療実態を踏まえて評価の在り方を見直す」ともあり、これまでの議論において歯周病安定期治療()、および()並びに歯周病重症化予防治療の包括範囲が異なる点が指摘されていることから、包括範囲などの見直しがなされる。

 医学管理料においては、「口腔機能管理料および小児口腔機能管理料について、口腔機能の低下がみられる年齢等の実態を踏まえ、対象患者を見直す」と整理された。口腔機能管理料は原則65歳以上、小児口腔機能管理料の開始年齢は15歳未満となっており、年齢制限などの要件が見直される。

 また、「HIV感染症等の口腔に症状が発現する疾患に係る医科歯科連携を推進する観点から、総合医療管理加算等について対象疾患および対象となる医療機関を見直す」ともあり、対象患者にHIV患者が含まれるといった総合医療管理加算の見直しが想定される。

 処置においては、「フッ化物洗口指導及びフッ化物歯面塗布処置について、現在の罹患状況等を踏まえ、対象患者を見直す」とまとめられた。これまでの議論で、う蝕多発傾向者の年齢制限や根面う蝕へのフッ素塗布が在宅患者に制限されていることが指摘されており、これらの要件が見直されるとみられる。

 在宅歯科医療については、「20分未満の歯科訪問診療の評価を見直す」と記載された。20分未満の場合は100分の70で算定しているが、この減算の内容が変更されるものと見られる。また、「在宅療養支援歯科診療所について、歯科訪問診療や医療機関の実態を踏まえ、評価の在り方を見直す」ともあり、在宅療養支援歯科診療所の評価も変更される。

 歯冠修復・欠損補綴については、「歯科用貴金属の基準材料価格について、素材価格の変動状況を踏まえ、随時改定の方法等を見直す」と記載された。中医協では、変動幅に関わらず3月に1回の随時改定を行う提案がされており、そのような変更がなされるとみられる。また、「歯冠形成のメタルコア加算について、診療の実態を踏まえ、廃止する」との記載があり、メタルコア加算が廃止される可能性が示されている。

感染防止の評価に異論

 中医協では、院内感染防止対策を診療報酬で評価することについて、支払側委員から反対する意見が相次いでいる。しかし、感染防止対策の評価はそもそもコストに見合っているとは言えない。患者1人1回あたりの院内感染防止対策のコストは、中央社会保険医療協議会・診療報酬基本問題小委員会(2007年7月18日)において268・17円、また「医療安全を確保するために・院内感染対策費の検討(日本歯科医療管理学会雑誌第51巻第1号40―45頁(2016)」においても、消耗品費、人件費および医療廃棄処理費の合計だけでも568円と報告されるなど、とても現在の診療報酬の評価は十分とは言えない。

 公聴会においても、意見発表者から、標準予防策により歯科治療を介した新型コロナウイルスの感染事例がないものの評価は不十分であるとし、コロナ加算などの時限的な措置が取られているが、恒久的に初・再診料で評価をすべきとの意見も出ている。

新型コロナウイルス感染症情報更新(事業復活支援金等)

経済産業省は1月14日、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている中小企業向けの「事業復活支援金」について概要を発表し、1月31日より申請の受付が始りました。
当協会ホームページ内にある『新型コロナ感染症情報』にて「事業復活支援金」をはじめ、「新型コロナの労務対応などについてのQ&A」「助成金申請動画」などポイントをまとめています。

こちらをクリック(『新型コロナ感染症情報』)

東京歯科保険医新聞 新春号特別企画

東京歯科保険医新聞 新春号特別企画

東京歯科保険医新聞では、2022年1月号の紙面を彩る写真を先生方から募集しました。

写真のテーマは『希望』。1面には石原正道先生(日野市)の作品『夜明けの序曲』を掲載しました。それぞれの視点で“希望”が表現され、新春への期待を膨らませてくれる写真の数々を、ぜひご覧ください。

この度は多数のご応募をいただき、誠にありがとうございました。


▼以下、1月号の紙面に掲載した作品をご紹介します。※敬称略、順不同

【夜明けの序曲】 沸き立つ霧が、朝焼けで炎のように染まる。多摩川が八王子と昭島の間を流れる中流域に、放射冷却現象が起きる初冬、原始的で荒々しく神秘的な光景が出現する。診療前の一時、心が無になる大切な場所である。(石原 正道/日野市)

本栖湖畔にある洪庵キャンプ場から臨む早朝の霊峰富士。還暦を迎えた記念に、大自然の中で密を避け、気持ちを新たに始めたソロキャンプ。空気は冷たく透き通り、明るい未来が感じられる美しい風景だった。(谷本 幸司/中央区)

長い長い参道を色とりどりの人々に揉まれて何時間も歩く。酷く疲れる年初の恒例行事だが、それがないならないで今度は少々寂しくなる。新しい年が皆様にとってより良い年になりますよう。(矢島 昇悟/港区)

所在地は、神奈川県相模原市緑区青根です。設置施設は地元の墓地で、名称不明です。画像を拡大すると「歯」の文字の中にある4つの点が下顎の大臼歯の絵文字になっています。(川本 弘/足立区)

希望とは目に見える美しい景色にあるのではなく、心の中に存在するものだ、ということに思い至りました。日々ひたむきに医療と向き合う若者の眼差し、そして、覚悟が僕の抱いた希望です。(植村 元喜/板橋区)

 

会長年頭所感/2022年1月1日

2017年6月の総会の日に会長を拝命し、5回目の年頭所感として、新年のご挨拶をさせていただきます。日頃、会員の先生方には本会会務に対してご理解とご協力をいただき、心から感謝申し上げます。

4年前の年頭所感で本会会員数5277名とご報告し、その後2018年度診療報酬改定での施設基準の要件などを背景として、3年前は前年比431名増の会員数5708名、一昨年は5815名、昨年は5900名、今年は5937名(12月1日付)と、本会会員数は順調に増加しております。この会員増の一因には、既会員の先生方からの多くのご紹介があり、この場をお借りしまして先生方のご協力に厚く御礼申し上げます。

2021年は、2020年初頭から続いた新型コロナウイルス感染症への対応に追われた年といえます。この約2年間、多くの歯科医療機関は新型コロナウイルス感染症に対応しながら、歯科医療に従事されたと存じます。第5波は、9月上旬に新規感染者数の減少があり、その後ピークアウトしたとされました。しかし、本稿執筆時(2021年1219日)には、海外から入国された方から新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染者が複数確認され、水際対策として濃厚接触者とみなされる人が増加し、待機宿泊施設が足りないとのニュースさえ流れています。

日本では、冬場、年末年始の人の移動などを理由に、第6波の発生が心配されています。その対策のため、希望される方への3回目のワクチン接種が進められ、すでに2021年4月に優先接種した医療従事者の3回目のワクチン接種が12月から始まっています。今後、新型コロナウイルスの感染が早期に収束へと向かい、人類にとって脅威とならない感染症になることを心から願っています。

協会の大きな事業の一つとして、2年ごとに実施される診療報酬改定に対する「新点数説明会」があります。2020年度診療報酬改定時には急遽、集合型を中止し、動画配信に切り替え、改定内容の周知に努めました。この対応は、簡単なことではなかったですが、結果的に大きな混乱とならず、会員の先生方に感謝しております。

現在、本年4月の診療報酬改定に向けて、「新点数説明会」の準備を鋭意進めています。可能であれば、4年前のように集合型で「新点数説明会」を開催したいところですが、コロナ禍の状況が読めないため、ハイブリッド開催、動画配信など、全方向で検討を行っています。会員の先生方には、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会の目的は、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ること」です。その目的を達成するために、会員の先生方とともに役員、部員、事務局員は会務を行っています。コロナ禍により、理事会や部会をWEB開催、研究会などもハイブリッド形式などで対応して、ネット環境やデジタル化が急速に進みました。今後も様々な情報を適時、詳細に、デンタルブックメールニュース、協会ホームページ、FAX、機関紙などで発信していきます。特に、スピードが必要な情報発信では、デンタルブック登録者へのメール配信が大変有効なツールです。今後、さらに多くの会員にデンタルブックの登録を済ませ、様々な情報を入手していただくことを望んでいます。

今年も会員の先生方の訴えや要望などを各方面に届け、改善を図ることを協会活動の大きな柱と考えて積極的に行っていきます。会員の皆様のご支援、ご協力を賜りますよう、何卒、よろしくお願い申し上げまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

 

 2022年1月1日

東京歯科保険医協会会長

坪田 有史

「歯科衛生士の雇用」 歯科衛生学科講師が解説/経営管理研究会を開催

 協会は、2021年1216日、「歯科衛生士の『応募が増える』『辞めない』医院づくりを考える」と題し、経営管理研究会を開催した。当日は感染対策として、事前に撮影した講演をWEB配信し、39名が視聴した。

 講師は、日本歯科大学東京短期大学歯科衛生学科講師の鈴木恵氏。前半は、歯科衛生士教育課程の講師の視点から、学校教育で重要視していることや、歯科医院の教育システムの重要性、歯科衛生士の専門性の評価の重要性などを解説し、後半は、相馬基逸経営管理部長と座談会形式で、事前に募集した歯科衛生士雇用に関する悩みについて質疑応答を行った。

 参加者からは、「離職する理由や、それを踏まえた求人のあり方を勉強でき、参考になりました」「教育システムを構築することが大切だと改めて感じました」などの声が寄せられ、雇用上の悩み解消へのヒントを得た参加者が多かったようだ。

談話 医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を

2022年度診療報酬の改定率が、診療報酬本体はプラス0.43%(国費約300億円)とされた。前回の2020年度診療報酬の改定率はプラス0.55%で、前回より低い水準の引き上げとなっている。わずかな引き上げに加え、政策的配分が行われてきた結果、医療従事者の処遇改善、およびコロナ対応で疲弊した医療提供体制を立て直すには程遠い診療報酬改定となった。

 

―歯科は0.29%

歯科においては、わずか0.29%のプラス改定に止まった。このような改定率は歯科の現状を見ていないばかりか、歯科軽視の結果である。第23回医療経済実態調査では、歯科診療所(個人)の損益率は、前年度に比べマイナス1.2%で、コロナ補助金を加えても、医業収益の落ち込みは明らかである。歯科材料費は前年度より6.8%増加し、衛生材料をはじめ院内感染防止対策に関わる資材、金銀パラジウム合金などの高騰が医院経営の重荷となっている。

コロナに対して歯科は、標準予防策を遂行し、感染拡大を抑えるなど国民の健康に貢献してきた。しかし、飛沫による感染リスクが高い職種だと言われ、医療従事者の離職や患者離れが発生した。患者減は未だに改善できず、閉院に追い込まれた歯科医療機関も出るなど、深刻な状況が続いている。

 

―社会保障費の自然増を定量的に抑制

財務省は、国のコロナ補助金投入の影響で「経営実態は近年になく好調」と主張してきた。だが、実態は経費が増加し医業収益が減少したため、経営状況は厳しい。これは医療経済実態調査に現れている。にもかかわらず、補助金投入で「好調」だとする財務省は、医療に対する意識が乏しいだけでなく、実態に目を背けていると言わざるを得ない。

また、社会保障費については、精緻化・適正化のもとに、定量的に抑制をしてきた。今回改定においても、国費を約1300億円削減し、概算要求で示された社会保障費の自然増約6600億円を約4400億円程度に抑えようとしている。国民の福祉を忘れた財源ありきの政策により、国民のいのちが危機にさらされている。

 

―「国家の福祉」とは国民の生活の安定を図ること

国家が目指すべき福祉とは、社会保障制度の整備を通じて国民の生活の安定を図ることだ。このまま社会保障費の抑制政策と削減が続けば、医療提供体制はおろか、地域医療体制、国民のいのちと健康は守れない。

歯科はこれまで8020達成や、高齢者への口腔ケアを重視してきた。その結果、高齢者の入院リスクを減少させるなど、総医療費の削減にも貢献をしてきた。今後、高齢者の増加に従い健康寿命の延伸が重要となるが、歯科はこの点において大きな役割を担うことが明らかになっている。歯科が重視される医療提供体制を構築するためには、まずは実態に即した診療報酬の引き上げが必要不可欠である。

今後、議論は財源の配分に移っていく。今回の改定率では、歯科の窮状は改善を望めないが、医療技術評価分科会で日本歯科医学会から提案された76項目の新規技術導入と、重症化予防の推進について、適切に評価されることを強く望みたい。医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を改めて強く求める。

2021年1223

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)12月1日

東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)12月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)12月1日 第621号

1面】

    1.プラス改定は不可欠 医業収益減

    2.次期診療報酬改定/周術期、重症化予防などの改善を要望

    3.国民医療費44兆円 2019年度

    4.医療情報ネットワーク/基盤の在り方を検討

    5.ニュースビュー

    6.「探針」

2面】

    7.マイナンバーカードの保険証利用 本格運用が開始

    8.医療広告ガイドラインで最初に気をつけるべきポイント No.2

    9.ワクチン3回目接種/死亡・入院リスク低減に高い有効性

    10.情勢に合わせた感染対策を詳説/院内感染防止対策講習会

    11.地域の医療システム構築・まちづくり/地域医療研究会

    12.「注意すれば普通の生活ができる」ことがウィズコロナ/医療安全管理講習会

    13.パーシャルデンチャー/第3回学術研究会

    14.超音波スケーラー編開催/少人数で丁寧な指導に好評

3面】

    15.オンライン資格確認システムに関する学習会

    16.中医協総会/訪問診療の評価と在宅移行時の連携

    17.歯科用金属の代替材料/5技術が評価対象に

4面】

    18.経営&税務相談QA No.388

    19.補助金8万円 1月末申請期限

    20.法律相談、経営&税務相談

5面】

    21.研究会・行事案内

    22.年末年始休診案内ポスター

    23.電子書籍デンタルブック

67面】

    24.インタビュー 武蔵野市長・松下玲子さん

8面】

    25.PEEKによる大臼歯歯冠修復物/教えて!会長!!Vol.53

    26.歯科保険医協会にぜひご入会ください/組織部

    27.保険医休業保障共済保険 申込み締め切り間近!

    28.歯科情報をお知らせします/Facebook

    29.共済部だより

9面】

    30.症例研究/外傷時の歯の再植術と口腔内の縫合

10面】

    31.連載/私の目に映る歯科医療界(東洋経済新報社・大西富士男)

    32.理事会だより

    33.協会活動日誌 202111

11面】

    34.電子帳簿保存法の改定について

    35.金パラ合金/原価割れ解消署名 1064筆を提出

    36.健康保険でより良い歯科医療の実現を/イイ歯デー宣伝行動in巣鴨

    37.反核医師のつどいin千葉が開催

    38.年末年始 協会事務局休務のお知らせ

12面】

    39.金パラ署名、都立・公社病院独法化が課題/第4回メディア懇談会

    40.神田川界隈/「健康」こそが国民の不安解消への第1歩(福島崇)

    41.通信員便り No.116

    42.2021年度 第2回臨床セミナー・専門医認定研修会/日本接着歯学会

 

次期診療報酬改定に向けて理事部員政策学習会を開催

 協会は昨年1219日、次期診療報酬改定に向けて理事部員政策学習会を開催した。本学習会では、中医協(中央社会保険医療協議会)総会で議論されている「在宅その4」「歯科医療その2」について、討議した。

―「在宅その4」

 「在宅への訪問診療の推進するために必要なことについて」「歯科訪問診療料」「歯援診の施設基準」「(小児)訪問口腔リハ」「医療連携」「ICTと訪問歯科衛生指導」について検討。在宅への訪問診療を推進するために必要なことに関しては、「多様化する患者の病態への対応」「要支援者や要介護者を診る機会の増加」など今後の見通しを展望。地域での各医療機関の役割を定め連携する、機能分化を進めていく必要性を解説した。

―「歯科医療その2」

 「歯初診の基本診療料(再診3点)を廃止、減点について」「か強診の施設基準の変更について」「SPTのⅠとⅡとP重防の包括化について」「歯周基本治療処置(P基処)10点について」「HIV患者について」「初期の根面齲蝕に対するフッ素塗布について」「口腔機能低下症の対象年齢(65歳)引き下げについて」「口腔機能発達不全症の対象年齢引き上げについて」「メタルコア加算等」を検討。か強診の施設基準について、講師より現時点での要件等を解説。また小児歯科学会のアンケートを示し、小児専門医の訪問が進まない理由などに関し、意見を交わした。

談話 医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める

20211124日に発出された『第23回医療経済実態調査』はコロナ禍での調査となっており、今回の調査では新型コロナ関連の補助金を除いた医業収益まで調査をしている。

医療経済実態調査に関しては、以前より、恣意的な調査であることが問題となっている。歯科医療機関全体の調査結果では調査施設数が298機関、平均医業収益が約7,300万円となっており、保険診療を中心とした大多数の開業医の経済実態を対象としているとは到底考えられない。また、東京23区に限れば、歯科医療機関数約10,600機関中、調査施設数は27機関(約0.3%)、平均医業収益が約6,000万円となっている。適正な調査を行うためにはサンプル数を増やして実施することを検討すべきではないだろうか。

以上を踏まえたうえで、今回の調査結果では、東京の歯科診療所は新型コロナ関連の補助金を含めても、医業収益の伸び率は-2.2%となっており、医業経費の伸び率が-1.1%となっている。恣意的にも思える調査結果であっても、医業収益はマイナスとなっており、患者の受診抑制による、診療収益の減少をこれまで以上の経費削減をすることで何とか持ちこたえていることがわかる内容である。実際に会員からは「補助金がないと経営が厳しい」「感染対策の経費は増え、補助金で何とかしのいでいる」といった声が寄せられており、一時的な財政支援である補助金も医療機関の存続の一助となっている。しかし、今後も感染防止対策の補助金が交付されるかは不明である。

一部ではコロナの補助金により多くの医療機関が黒字化しているためマイナス改定になるという報道がされているが、以上の調査結果からすれば、東京の歯科医療機関は補助金があっても苦しい状況にあることは明確である。

12月3日に行われた中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の「医療経済実態調査の結果に対する見解」の資料(診療側・2号側委員)では「地域歯科医療を担う約 8 割を占める個人立歯科診療所の経営は、コロナ関連補助金を加味しても依然として厳しい状況が続いている」「既に経営努力や経費削減努力は明らかに限界に達している」と歯科医療機関の置かれている状況の記載がみられる。また、2021年5月に行った協会の会員アンケートでは、コロナ禍以前よりも医業総収入が減少したと答えた会員は約61%であった。会員アンケートの結果と、医療経済実態調査の結果、中医協の資料を踏まえれば、国民の健康を守る歯科医療機関が安定した経営を行うために、診療報酬の引き上げは不可欠である。

以上より、国に対し、医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める。 

20221213

経営管理部部長
相馬 基逸

私の目に映る歯科医療界⑨ 岸田政権が公的価格引き上げに動く好機/歯科からも歯科衛生士と歯科技工士の処遇改善訴えよ

岸田政権が公的価格引き上げに動く好機/歯科からも歯科衛生士と歯科技工士の処遇改善訴えよ

衆議院選挙が終わった。メディアの大方の事前予測と違って自公が絶対安定多数を維持し、野党内では維新が躍進した。立憲民主党と日本共産党を軸にした選挙協力は不発となり、比例区では立憲民主党は惨敗した。

今回の選挙結果と、今後の岸田内閣の政策は、これからの歯科を含めた医療分野に対し、どのような影響を及ぼすのであろうか。

Ⅰ.2025年まではさらに医療費抑制政策に加速が…

国民からの支持を理由にして、従来の医療費抑制政策を踏襲、場合によっては「2025年問題」、つまり800万人の〝団塊の世代〟全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年度までは、さらに抑制に加速がかかる可能性も高い。

分配重視ではなく経費節減・財政圧縮を強調する維新の勢力増強は、その政策に対し国民の中に相当割合の支持があることを意味する。これも、国の医療費抑制政策を側面から支える役割を果たすかもしれない。

自助、具体的にはすでに医療機関窓口での患者2割負担法案も可決された後期高齢者などについて、一層の窓口負担増の論議などにつながらないとも限らない。

その一方で、岸田文雄首相は、自民党総裁選挙や衆議院選挙で「新しい資本主義」を標榜。成長一辺倒から分配への一定シフトの考えを示している。安倍・菅政権の成長・自助重視路線からの部分的な修正にも見えるが、その内実がどうなのか、キャッチフレーズ通りに政策を実現できるかどうかは、歯科を含む医療界としても十分に注視する必要があるだろう。

Ⅱ.田政権が看護・介護・保育の処遇改善の動き

分配にも目くばせする看板政策「新しい資本主義」の柱の一本として岸田政権が打ち出しているのが、看護・介護・保育を担うエッセンシャルワーカーの処遇改善だ。

岸田首相自身が、その働きぶりや業務の重要性、ほかの職種の給与と比べると処遇が低いという問題意識を示し、看護・介護・保育の公的サービスを担う職種の公的価格を引き上げようという試みは、大いに注目に値する。

11月を挟んで「新しい資本主義実現会議」や「全世代型社会保障会議」、さらにはその傘下でこの重要任務の議論を担う「公的価格評価委員会」を立ち上げ、早々に議論入りしているのは周知のとおりだ。

長時間残業など、過重な勤務実態や環境の割に給与は相対的に低い看護師、介護職員、保育士の処遇改善に乗り出すことは良い方向だ。厚生労働省の最新の統計「賃金構造基本統計」によれば、保育士(女性)は月収換算で30.2万円、介護職員は29.3万円となっていて、全産業の平均給与の35.2万円を下回っている。看護師は39.4万円と、全産業平均を上回ってはいるが、夜勤を含む残業代の要素、割合が大きいことから、働き方の割に高いとは言い難いのが実態だろう。日本看護協会の福井トシ子会長も、今回の政府の処遇改善の構想に絡めて「夜勤・残業代を除く基本給での看護師の給与アップを望む」と発言している。

確かに、そうでなければ看護師資格を持ちながら、看護師の職から多くの人が離れている現実もないはずだ。

もちろん、懐疑的な見方も出ている。第1に、岸田政権が示すような公的価格の引き上げによって、民間分野の給与の引き上げを含む経済成長と分配の好循環につながるのか、という疑問だ。

2に、給与引き上げの原資がどうなるのか。岸田首相が言う消費税引き上げに頼らないとなると、利用者の自己負担アップや保険料引き上げ、国などの公的補助拡大になるが、国民的なコンセンサスが得られるのかという大問題が残る。財源を国債に頼る場合は、後の経済成長の果実で賄うという考え方ではあるが、これまた経済成長が好循環にならなければ、次世代への付け回しになりかねない。

具体的な公的価格引き上げの程度や、どういう形で実現するのかという、制度設定の問題もある。そのまま診療報酬や介護報酬をアップする場合でも、病院や福祉・介護施設の経営者が、従業員に果実をそのまま回すのかという疑念もある。かつて、実際に保育士や介護士などの処遇改善をするために行った公的加算が、当の職員の給与には回っていなかったという、看過し難い現実の声も現場からは出ている。

Ⅲ.今こそ歯科衛生士や歯科技工士の処遇改善の声を上げよ

不思議なのは、歯科医療界にもその土台を下支えするエッセンシャルワーカーたる歯科衛生士や歯科技工士がいるのに、ほとんどその処遇改善議論の対象に上がってこないことだ。

以前、この連載でも取り上げたが、歯科技工士の処遇がひどい惨状にあることは言うまでもない。歯科衛生士にしても、看護職員や介護職員などと比べ、処遇はましか、と言えばさにあらずだ。

Ⅳ.歯科衛生士と歯科技工士は処遇改善の有資格者

先に挙げた厚生労働省のデータを借りれば、いみじくも「プレジデント」2021123日号の特集「歯と眼の大問題一挙解決ノート」でも取り上げられているように、歯科衛生士の時給は1521円、歯科技工士に至っては1168円となっていて、看護師の1776円を大きく下回る。歯科技工士の場合、東京歯科保険医協会のアンケートでも明らかなように、多くが長時間労働を余儀なくされた上で、平均年収は392万円となっていて、看護師の494万円を相当程度下回るのが現実だ。

看護師も保育士も歯科衛生士や歯科技工士も、みな国家資格が必要で、健康・生命や保育など、社会的にも不可欠な公的サービスの重責を担う点では、遜色はない。歯科衛生士や歯科技工士の処遇の問題についても、若くして職場離脱する人が多いことは大きな問題だから、岸田政権の公的価格引き上げの対象にならないのは理不尽といえるだろう。

2年に1度の診療報酬の改定作業が最重要課題であるのは当然であるとしても、同じ歯科医療の土台をともに担う仲間の処遇改善に声を上げることは、歯科医師の共助団体としても大事なことと思うが、どうだろうか。

少なくとも、歯科衛生士や歯科技工士の処遇改善の必要性を政治ならず国民に訴える絶好の機会である。これを逃してはいけないはずだ。

 東洋経済新報社編集局報道部記者 大西富士男

「東京歯科保険医新聞」2021121日号10面掲載

田原総一朗氏が歯科の大切さを指摘/自身の自律神経失調症改善をもとに

ジャーナリスト、評論家、ニュースキャスターとして活動している田原総一朗氏が、初めて“老い”をテーマとする著書「堂々と老いる」(毎日新聞出版20211127日発行/新書サイズ/240ページ)が、筆者自身の経験をベースにした健康問題について触れた一節で、歯科医療と健康の関係について触れており、歯科関係者から注目されている。

元々は東京テレビ(現・テレビ東京)の開局準備段階から入社して活躍し、1977年に独立しフリーランスのジャーナリストとなったが、「思いもよらない体の異常」に見舞われたという。

著書の中では、その当時の状況について、「ある朝、目が覚めたら、突然新聞の記事が読めなくなったのだ。一文字ずつは読めるのだが、単語になるとわからない…」症状を呈し、ジャーナリスト引退も考えたという。やっと、大学病院での検査により、自律神経失調症と診断され治療を受けたものの、症状は一向に改善せず、鬱状態にまで陥ってしまう。

そのような時、知り合いの医師の紹介で受診した東洋医学の治療院で、筆者は、「歯の噛み合わせの悪さが体の不調に影響している」のではないかとの指摘を受ける。そこで歯科を受診し、治療を開始したところ、「症状は徐々に快方に向かっていった」という。

さらに、改めて『高齢者ほど歯が大事』との章を設け、以下のような詩論を展開している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

✔自律神経失調症のひとつとした歯の噛み合わせを指摘されて以来、定期的に歯科医に通いメンテナンスを続けている。医師によれば、人間が丈夫でいる秘訣は歯にあるという。

✔噛み合わせの悪さがストレスを増大させ、精神的に不安定になると自律神経失調症を引き起こしてしまうことがあるというのだ。

✔噛む力が低下すると脳への刺激が失われてしまい認知症のリスクも高くなってしまうのだ。

✔食べ物を噛む際、歯には60キロくらいの圧力がかかるといわれる。噛み合わせがよければ、その力はすべての歯に分散するが、噛み合わせが悪いと圧力が偏ることになり、顎関節症を引き起こすおそれがあるというのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、それらを総じて、「噛み合わせが人間の体にとっていかに大事かがわかるだろう」と締め括っている。1934年(昭和9年)生まれ87歳の筆者が、現在もなお活動し続ける秘訣として、歯の大切さと歯科受診を掲げていることは注目に値する。

談話 地域医療体制を維持するには診療報酬のプラス改定は不可欠

 財政制度等審議会は、「令和4年度予算の編成等に関する建議」の中で、2022年度診療報酬改定について、改めて「診療報酬本体のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と強調した。財務省は、「躊躇なくマイナス改定をすべき」との姿勢を崩しておらず、相当な決意がうかがえる。

 しかし、診療報酬(医療費)の伸びは高齢人口の増加や、医療費の高度化等による医療費の自然増を示すものに過ぎず、医療機関の経営実態を示したものではない。また、コロナ禍が経営に与えている影響も大きい。新型コロナウイルス感染症の感染者数は減少傾向にあるが、医療機関においては感染症対策が不要になったわけではなく、引き続き、感染対策にかかる物品の確保や人材確保等の費用の支出が見込まれ、診療報酬のプラス改定は不可欠である。

 厚生労働省が11月24日に公表した病院や医療機関の経営状況を調べた第23回医療経済実態調査の結果でも、医科・歯科ともに新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除いた医業収益が悪化している。歯科においては、医業収益が「個人」でマイナス1.2%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合はマイナス3.0%で、保険診療収益はマイナス1.9%となった。医療法人を含めた「全体」でも、医業収益がマイナス0.1%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合マイナス1.2%で、 保険診療収益はマイナス1.5%と前年度よりも下回っている。さらに歯科材料費は前年度よりも全体で3.9%上昇しており、医療機関の厳しい経営をさらに圧迫している。一時的な補助金や支援金ではなく、診療報酬本体の引き上げなくして、安定した地域医療の維持は困難であることは瞭然たる現実だ。

 遠からずして政府は2022年度診療報酬の改定率を閣議決定する。当協会では、引き続き実態に即した改定と地域医療体制を維持するために、診療報酬のプラス改定を求めていく。

2021年12月7日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

医科歯科の医療現場の窮状と診療報酬改善訴える/12.2保団連国会内集会で

12月2日、保団連は国会内集会「『#医師・歯科医師の声を聞いてください』診療報酬は大幅引き上げを!」を開催した。去る11月8日、財務省が財政制度等審議会(財政審)の中で次期診療報酬改定について、「躊躇なくマイナス改定」すべきとの考えを示したことについて、保団連の住江憲勇会長(下写真中央)が挨拶の中で、「コロナ禍に続いて、オミコロンなる新たなウイルスが確認され、不安ばかりが広がっている。国民が医療を受けられないし、医療提供者も診療報酬の“マイナス”では、さらに適切な良質な医療提供が困難になってくる」と指摘した。

続いて、会場に駆けつけた国会議員から挨拶が続いた。早々に駆けつけていた宮本徹衆院議員(日本共産党)は、「コロナ以前から厳しい低い医療政策が続けられ、昨年の新コロナウイルス感染症の拡大により、医療機関に追い打ちをかけるように厳しい運営を強いられている。医療関係者だけでなく、患者にも負担をかけることになる」と強調した。続いて基調提案として武村義人副会長(医師)から、診療報酬の引き上げを求める理由、臨床現場からの医師・歯科医師の声を紹介。その中で歯科については、「厚労省から受診抑制となるメッセージを出し、歯科は感染リスクの高い診療機関と誤解されるなど、現場での苦労は想像以上といえる」などを訴えた。

一方、会場を訪れた国会議員のうち、立憲民主党の医系議員である米山隆一衆院議員と吉田統彦衆院議員の両氏からも激励の挨拶があった。また、会場から長野県保険医協会会長で歯科医師の宮沢裕夫氏が、同協会が10月の衆議院選挙前に行ったアンケートの中で、現厚生労働大臣の後藤茂之議員(長野4 )は、「診療報酬引き上げに賛成」としていたことを紹介し、後藤氏は岸田内閣で厚生労働大臣に就任しており、今後の対応に注目しているとした。

東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)11月1日

東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)11月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2021年(令和3年)11月1日 第620号

【1面】

1.コロナ加算等廃止に抗議/9月末終了の感染症対策実施加算等について

2. 効率的に提供する体制を検討/在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ

3. コロナ感染拡大防止で継続支援補助金実施

4. 金パラ等歯科用貴金属/1月歯科用貴金属価格随時改定Ⅱ見送り

5. 新春号特別企画

6.ニュースビュー

7.「探針」

【2面】

8.コロナ加算廃止に伴い陽性患者への新たな評価を新設

9.十分なのか…コロナ加算廃止と引き換えの支援金

10.支援補助金の振込遅れに対し保団連が個別照会対応を実施

11.11月から新たな補助金(8万円)の申請開始

12.東京歯科保険医協会ホームページ

【3面】

13.中医協総会/2022年1月 歯科用貴金属随時改定は見送り

14.歯科技工士業務のあり方検討に本腰

15.CAD/CAMクラウン装着の要点を解説

16.ドクター・スタッフ講習会/シャープニング・SRP実習

17.象牙質レジンコーティングを巡り講演

18. 医療広告ガイドラインで最初に気をつけるべきポイント

【4面】

19.経営&税務相談Q&A No.387

20.法律相談、経営&税務相談

5面】

21.研究会・行事案内

67面】

22.インタビュー  日本補綴歯科学会 理事長 馬場一美さん

8面】

23.教えて!会長!!Vol.52

24.歯科保険医協会にぜひご入会ください/組織部

25.歯科情報をお知らせします/Facebook

26.改定情報の早い発信を/第11回レセコンメーカー懇談会

27.共済部だより

9面】

28.症例研究/歯肉剥離掻爬手術(FOp)時にリグロスを併用した症例

10面】

29.連載/私の目に映る歯科医療界⑧

30.理事会だより

31.協会活動日誌 202110

11面】

32.都立・公社病院の独法化/撤回・反対の「要望書」提出

33.秋の署名活動/国の予算を増やし次期改定ではプラス改定を

34.渡辺孝一・島村大氏/両歯系議員が政務官に就任

35.参議院比例 比嘉奈津美氏繰り上げ当選決定

12面】

36.年末年始休診案内ポスター

37.神田川界隈/開院20周年を迎えて(早坂美都・理事)

38.通信員便り No.115

第4回メディア懇談会 金パラ署名など意見交換

(左から)馬場安彦副会長、早坂美都理事

◆金パラ署名・診療報酬改善要求も議題に

協会は1112日、第4回(通算86回)メディア懇談会をWEBで開催。馬場安彦副会長が説明、広報・ホームページ部長の早坂美都理事が司会を務め、報道各社から参加者が集まった。今回は①秋の運動、②中央社会保険医療協議会、③都立・公社病院独立行政法人化、④診療報酬改善要求、⑤感染症対策実施加算等を議題として扱った。

秋の運動では協会の運動や、署名など諸活動の経過を報告。1000筆の目標に達した金銀パラジウム合金の原価割れ改善を求める署名については、メディアから医療機関が抱える苦労や負担に対する鋭い質問が飛んだ。

◆都立・公社病院独法化の影響を議論

また、③都立・公社病院独立行政法人化に関しては、東京保険医協会と連名で独法化反対と撤回の要望書を提出したことで一石を投じることになったと説明。参加者とともに、東京都が都立・公社病院の独法化を進める背景や医療現場、都民に与える影響などを議論した。

最後には協会の活動に対しメディア側から激励の言葉もあり、闊達な意見交換の場となった。

新たな8万円の補助金 申請方法の動画が出来ました。 (11/11更新)

2021年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金の詳細

以下の情報は11月11日現在のものです。

申請方法の動画が出来ました。
デンタルブックにユーザー登録をすると視聴できます。(会員無料)
デンタルブック → ここをクリック
電子書籍デンタルブック

今回はWebからの申請が前提になります。
郵送での申請をご希望の方はコールセンターに直接お電話ください。
厚生労働省医療提供体制支援補助金コールセンター0120-336-933 (受付時間は平日9:30~18:00)
厚生労働省の補助金の解説ページはここをクリック
「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」について

1. 補助額
無床歯科診療所 8万円
有床歯科診療所 10万円

2.申請期限
2021年11日1日(予定)から2022年1月31日
審査の結果、補助金の交付を決定した医療機関等には「交付決定及び交付額確定通知書」を郵送するとともに、請求書に記載の金融機関へ振込む。
精算交付申請書が到達した日から起算して原則として2か月以内に交付の決定及び交付すべき補助金の額の確定を行う予定。

3.対象期間
2021年10月1日から2021年12月31日までにかかる経費

4.対象経費
今回は確定後(納品済み)に対するの支援補助金です。概算払いはありませんのでご注意ください。
賃金、報酬、謝金、会議費、旅費、需用費(消耗品費、印刷製本費、材料費、光熱水費、燃料費、修繕料、医薬材料費)、役務費(通信運搬費、手数料、保険料)、委託料、使用料及び賃借料、備品購入費
従前から勤務している人、及び通常の医療の提供を行う人に係る人件費は対象外。

経費例
・日常診療に要する材料費(衛生材料、消毒薬など)(直接診療報酬等を請求できるもの以外)
・換気のための軽微な改修(修繕費となるもの)
・休業補償保険等の保険料
・清掃の人材派遣料で従前からの契約に係るもの
・清掃の外部委託費で従前からの契約に係るもの
・感染拡大防止のため購入した施設・設備に係る保守・メンテナンス料
・感染拡大防止のため新たに借りた診療スペースに係る家賃
・院内等での感染拡大を防ぐために購入した空気清浄機(医療用でなくても可)
・紫外線殺菌照射装
・一時的に閉院をした場合の補償を行う保険の保険料

以下の(1)から(3)を全て満たす場合には、2021年10月1日から2021年12月31日までに始期がある契約として支払った保険料の全額を補助対象の経費として算定できます。
(1) 新型コロナウイルス感染症の影響による休業(病棟や外来を閉鎖した場合を含む)について補償する保険であること。
(2)契約期間を任意に設定することができないことにより、保険期間に2022年1月1日以降が含まれること。
(3)2021年10月1日から2021年12月31日までに始期がある契約として保険料の支払いを行っており、その支払った額が12か月以下の最も短い期間を対象とした保険料であること。
※ 補助の対象となる機器・備品1台の購入価格に上限ははありません。
※ 30万円を超える機器等を購入した場合で、減価償却終了前に処分・譲渡などした場合には助成金の返還規定もありますのでご注意ください。

以下のQ&Aから抜粋しています。参考にしてください。
新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金に関するQ&A
令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金に関する
Q&A


5.申請方法
1)インターネットによる電子申請
「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」について
2)電子申請以外
厚生労働省医療提供体制支援補助金コールセンターまでご相談ください。
電話:0120-336-933(平日9:30~18:00)


6.仕入控除税額(返還額)報告
※2021年度の消費税及び地方消費税の確定申告により、補助金に係る消費税及び地方消費税にかかる仕入れ控除税額が確定した場合は、2023年6月30日までに上記様式により厚生労働省まで提出してください。
1)提出書類
消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額報告書(第2号様式)(入力用)
消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額報告書(第2号様式)(手書き用)
2)提出先(郵送のみです)
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 厚生労働省医政局医療経理室 宛

7.問い合わせ先
厚生労働省医療提供体制支援補助金コールセンター
電話:0120-336-933(平日9:30~18:00)

協会へのお問い合わせ
Mail:info@tokyo-sk.com
電話:03(3205)2999 経営管理部

プラス改定等を求める署名にご協力を

 

金パラ原価割れの署名は千筆が集まり、厚労省などに提出した。

 協会は、11月上旬に、金パラの原価割れを求める署名1064筆を厚生労働省などに提出しました。

 しかし、11月8日(月)に、財務省はの財政制度分科会において「診療報酬(本体)のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と、マイナス改定を求める姿勢を示しました。感染防止対策を徹底せざるを得ないにもかかわらず、次期改定をマイナス改定とすることは、到底納得できるものではありません。

 そのため、11月下旬に、内閣総理大臣を筆頭にプラス改定などを求めるべく、署名を実施しております。まだ、署名をされていない方は、下記リンクよりご協力をお願いいたします。

〇(署名は終了しました)署名にご協力を頂ける方は、こちらをクリックしてください〇

★署名ができるのは、歯科医師または医師の方です。

 

私の目に映る歯科医療界⑧ 歯科口腔保健法10年の成果と課題/医科と共同戦線組み歯の健康予防前進を

歯科口腔保健法10年の成果と課題/医科と共同戦線組み歯の健康予防前進を

2021年は、国民皆保険制度始動から60年目、「歯科口腔保健の推進に関する法律」(以下、「歯科口腔保健法)」の制定から10年の節目の年であったが、果たしてこの10年の間に、歯科口腔保健法は十分な成果が上がったのだろうか。新型コロナウイルス禍や政治の激変に紛れて、この検証はすっかり忘れ去られてしまっている。

Ⅰ.検診率のアップなど法律の成果は道半ばの状況

歯科口腔保健法は歯科口腔保健の推進に的を絞った法律としては本邦初で、コンセプトも歯科疾患の事前予防を通じて最終的に国民の健康格差の縮小を目指すという、ある意味、歯科医療界だけでなく、国民にとっても画期的な法律の誕生だった。

この法律は、目標実現のために関連知識等の普及啓発、定期的な歯科検診の推奨、予防措置、調査・研究の推進などの施策を組み込む形になっており、歯科医療界の期待も大きかった。

しかし、現時点では手放しで成功とはいえない。確かにこの法律と同時並行で進む、いわゆる「8020運動」の成果もあって、高齢者における「歯の健康」の改善効果は出ている。8084歳での平均残歯数は2011年の12.2本から16年には15.3本に増えた。しかし、それでも北欧スウエーデンなどの先進国の水準と比べれば、まだ追いついていない。

本紙本年9月号(第618号)本欄でも指摘をしたが、高齢者の歯科治療ニーズは高いが、それに十分に歯科医療界が応え切れていない現実があることも、この法律の成果と関連づけて強調しておきたい。

何よりも、「歯の健康」予防推進に大きな役割を果たすはずの日本の歯科診療受診率は2019年度は16%弱という、厚生労働省のデータを基にした歯科機器メーカーの松風の推計がある。歯の定期的検診を受ける回数では、欧米などの先進国にまだ見劣りする。

乳幼児や児童・生徒世代の歯科健診は義務化されているが、働き盛りの現役世代から74歳までは、40歳、50歳、60歳、70歳の節目に市町村が歯周疾患検診を実施してはいるが、研究者の間からは、2015年度段階のその平均受診率は4%台にとどまっているとの推定が出ている。法律の狙いほどには、日本の歯科検診率は上がっていないのが現実だろう。

Ⅱ.口腔の健康と全身疾患の関係示す研究進む

口腔保健の予防推進によって、健康に過ごすことができる健康寿命を延ばすこと。歯科医療界や厚生労働省などの関係者がこの法律に期待したのは、まさに、このことだったはずだ。死ぬまでの寿命ではなく、いかに長く健康で暮らせるかが、本来、人にとって大事なのは当然のことだ。口腔状態が糖尿病などの様々な疾患と密接な関係があり、人間の身体的健康全般の改善にも影響するという科学的なエビデンスが当時、既に広がっていたことが、歯科口腔保健法制定の背後にあったことは間違いない。

この10年間では医学・歯学両方の研究が進み、この点を裏付ける、あるいは示唆する成果が増えている。

特に、歯周病を引き起こす口腔内の「悪玉」細菌の研究はホットな分野になっている。この細菌は、血管を通じて全身を駆け巡り、人体の各臓器に炎症などの〝悪さ〟を引き起こす。大腸経由で脳血液関門という狭い関所を通過し、脳内の炎症を促し、アルツハイマー型認知症など、中枢神経系の変性疾患に何らかの作用を及ぼしていることを示唆する研究も進んでいる。

米国ではこの仮説に基づき、実用化を目指して人に開発薬を投与し、その有効性や安全性を確認する最終臨床試験(治験)に進んでいるものも出ている。

Ⅲ.歯科健診の組み込みなど医科と予防で共同戦線を

少子高齢化の進展と高額薬剤の増加を背景に、歯科も含めた国民医療費の増加圧力は増す方向にある。

その一方で、国の予算には制約がある。その中で難題ではあるが、先の法律が目指した歯科も含めた予防医療を前進させるためにも、具体的な施策への予算を増やすことは不可避だ。

歯周病と他の疾患との関係を調べる研究や、そこから派生する疾患治療薬の開発などへの国の支援も必要だ。医科と歯科という従来の〝境〟を横断する施策も、この新しい予防分野では増えてくるだろう。

今年度末までに結論を迫られている次期診療報酬改定では、医科と歯科に分かれた従来の予算の枠取りは依然有効だろうが、研究開発や健康予防措置に投じる予防医療への予算では、医科、歯科の両医療界の敷居にこだわるあり方を変える必要があるのではないか。

研究開発もそうだが、予防措置も医科、歯科の境界をまたぐ措置が必要だ。例えば、働き盛り世代の歯周疾患等健診を、会社などで毎年実施する健康診断に組み込むことだ。この構想自体は、既に検討課題に挙がってはいるが、実現はまだ先のことだ。会社の健康診断のメニューには、眼科や耳鼻科領域の項目はあるのに、歯科健診がなくていいという理由は乏しい。人生で働き盛り期間中心の約40年間の国民の健康増進・予防のためにも、先進国として政府が率先して歯科健診受診率の向上を図る必要があるはずだ。

医科と歯科の従来の縄張り・意識の壁が、もしここで邪魔をしているのだとしたら、国民の健康と安全のためにも、大きな損失につながる由々しき問題だ。

歯科医療界から医科と共同戦線を張れるものがないのか、歯科口腔保健法の施行10年の節目の年に当たって、じっくり再考し、積極的に提案してみてはいかがだろうか。

筆者:東洋経済新報社 編集局報道部記者 大西 富士男

「東京歯科保険医新聞」2021111日号10面掲載

医薬情報ネットワークの基盤の在り方を検討

 厚生労働省は1110日、「医薬情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」をオンラインで開催した。同ワーキンググループは、健康・医療・介護情報利活用検討会の検討事項のうち、全国的な医療情報ネットワークの基盤に関する議論を行うため設置されたもの。

 データヘルス改革に関する工程表に従って、医療情報ネットワークの基盤の在り方(主体、費用、オンライン資格確認等システムや政府共通基盤との関係、運用開始時期等)や、技術的な要件について、2022年度までに結論を得る。

 同日は医療情報の活用の現状や、電子カルテ情報と交換方式の標準化などをテーマに議論し、医療現場で必要な情報を共有すべきか意見交換が行われた。

 ワーキンググループでは2021年度中に、①電子カルテ情報の標準化と地域医療情報連携ネットワークの現状、②中央に集約して共有する医療情報と施設間などで交換する医療情報の検討、③医療情報の共有・交換に関する手続きと方式の検討、④電子カルテの普及方策と情報化支援基金の要件などの検討―について論点を整理する。