協会ニュース

【重要】CD-R等の請求に係る猶予届出兼オンライン請求への移行計画書の提出について

CD-R等の請求に係る猶予届出兼オンライン請求への移行計画書の提出について


<概要説明>

  • 光ディスク(CD-RやMO)でレセプト請求している場合の取り扱い

    ①2023年4月以降、オンライン資格確認システムの導入の原則義務化に伴い、レセプトのオンライン請求も可能な回線が整備された状況にあると解釈され、2024年9月末までにオンライン請求に原則として移行しなければならない。

    ②特段の届出を行うことなく、2024年4月~9月までは従来の方法でレセプトの請求ができる。

    ③2024年10月以降も従来の方法でレセプト請求をするためには、審査支払機関(社保・国保)に対して、届出とオンライン請求への移行計画書を提出しなければならない。
    ※2024年8月31日までに医療機関向け総合ポータルサイトから提出することが必要。

    ④移行計画書は、最大で1年以内の計画を記載する必要があり、記載した期間に限り、従来の方法でレセプト請求ができる。


    ➄1年間の更新制であり、従来の方法を継続していくためには、改めて届出と移行計画書の提出が必要である。

    ■詳細はこちら↓↓↓
    光ディスク(CD-RやMO)でレセプト請求している場合の提出フローはこちらをクリック

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望③(佐藤一樹氏)

第3回 岡田調査官解説:原告優勢の理由

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。
全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック院長)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

「提訴からの進捗と展望」(本連載)はコチラから

7 裁判長は先例判例の最高裁調査官(注:見出し番号は前号からつづく)

最高裁判所判例委員会は、数ある最高裁判決の中から時の重要な判例を選んで「最高裁判所判例集」に搭載し、原則月1回刊行している。この民事編のことを、略して「民集」と呼ぶ。民集の公式判例集に登載された最高裁判決は、「法曹時報」(一般財団法人法曹会が発行する月刊の法曹専門誌)の「最高裁判所判例解説」欄に、詳細な判例解説が搭載される慣習がある。「調査官解説」とも呼ばれるこの解説は、裁判の要旨等に加え、最高裁調査官*1の「個人的意見」に基づいて解説したもので、「最高裁としての見解」を示したものではない。ただし、学説や判例について詳細な分析や当該事案の事実関係を簡潔に知ることができる上、最高裁における判断過程の一端を知ることができることから、重要な影響力を持つ。なお、最高裁に受理された事件の判決文は、基本的には調査官が判決文の草案を書くとも言われている。

裁判の当事者や弁護人・代理人の第一の関心事は「裁判長は誰なのか」である。実は、本訴訟の岡田幸人裁判長(東京地裁民事第51部統括)は、前述(本紙6月号)の先例判決「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」の最高裁調査官として「調査官解説」を執筆し、「施行規則は薬事法上の委任の範囲を逸脱した違法無効なものである」と結論付けていた。望外の僥倖とはこのことであろう。

8 岡田判事の調査官解説と職歴

最高裁調査官は、判事でも優秀な人材から選ばれる。岡田判事の輝かしい経歴(表1)を調べると納得がいく。現在の51部統括としては、障害年金不支給決定取消請求事件(令和4726日判決)で厚生労働省を訴えた原告や、小金井市長専決処分保育園入園拒否取消事件(令和6222日判決)で自治体を訴えた原告らを、それぞれ勝訴させている(表2)。

表1

表2

また、内閣法制局参事官を5年間経験した点も注目すべきだ。本連載第2回の法律ピラミッドで示した「政令」とその下の「省令」では、内閣法制局との関わり方に違いがあり、内閣法制局の審査事務の対象は条約案、閣議に附される法律案、政令案であって、省令は対象外である。審査の内容は、「憲法や他の法律と抵触する部分はないか」「文章の体裁が法令表記の慣例から逸脱していないか」などである。外国との条約や法律などについて

は、絶対に誤りによる紛争が生じないよう厳密な審査がなされている。「岡田調査官解説」をはじめとして法令の審査に対しては、厳格な判断力を具備されていると推測される。

一方、「省令」は審査が内々でなされるため、厳しさに欠ける処理がされていると推測される。なにしろ、法律は門外漢の私が、保険局医療介護連携政策課長の発言(本連載第1回参照)を聞いてリアルタイムで「授権法の根拠がない」と気付いたほどである。

「庸人すら尚ほ違法を知る、況んや岡田判事に於いてをや。」

9 4つの考慮要素と授権規定の明確性

岡田調査官解説では、「一般に,専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず,また,状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではないため,こうした事項については法律の委任に基づいて行政機関が規定を定めること(委任命令)が認められている。委任命令によって国民の権利義務の内容を定めることも許容されるが,当該委任命令が委任をした法律(授権法)に抵触していれば違法であり,委任に際して行政機関に裁量が認められている場合でも当該裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には違法となる*2」とし、委任命令が授権規定*3による委任の範囲内といえるか否かが問題になった最高裁判例を8つ挙げている。そのうち6つは原告が勝訴している(表3)。

それら判例による判例法理*4は、委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについて、4つの考慮要素(評価に影響を与える要素)を挙げている(*表4のA*)。なお、この4つの各要素は常に互いに載然と区別し得るというわけではない。

また、岡田調査官解説は、その判断にあたって「授権の趣旨が…明確に読み取れること」(授権趣旨の明確性)という基準を初めて最高裁判決で言及した点が特徴的といわれている(表4のB)。

本訴訟も、訴状の段階からこの4つの考慮要素、さらに、授権趣旨の明確性が争点となって、岡田調査官解説の土俵の上で、立ち合いからがっぷり四つの勝負となっている。

表3

表4

 

*1 定員がわずか15人の最高裁判所裁判官は数多くの事件を抱えて多忙であるため、審理を補助する。判事の身分にある職業裁判官が充てられる重要な役職。
*2 行政手続法第三十八条第一項も,委任命令を定める機関は,当該委任命令が授権法の趣旨に適合するものとなるようにしなければならないと注意的に定めている。
*3 議会がその立法権の一部を他の国家機関に委任し法令の条文として定めること
*4 最高裁が示した判断の蓄積によって形成された考え方。

【プロフィール】佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

談話「6月施行に変更した診療報酬改定の効果・検証を確実に」

6月施行に変更した診療報酬改定の効果・検証を確実に

2024年度診療報酬改定は、診療報酬改定DXの推進に向けて、医療機関・薬局等やベンダーの集中的な業務負荷の平準化を目的にこれまでの4月の施行から6月施行に後ろ倒しされた。中医協総会の中では、「後ろ倒しの恩恵を受けるレセコンのベンダー等が保守費用やリース料を大幅に引き下げる等により、これまで医療機関が負担してきたコストの低減が目に見える形で実現されることが望まれる」という発言もあった。そのような発言があったにも関わらず、疑義解釈においては、施行間際の5月末まで発出が続き、ベースアップ評価料の特設ページも定まることなく、随時更新され続ける事態であった。加えて、医療機器の保険適用とする通知も日付は531日であるが、公表されたのは6月に入ってからで、特に、光学印象の施設基準は、提出締切日に物理的に間に合せることが厳しい事態が生じている。

新規技術や重症化予防、継続的な管理等が新たに保険収載され、要件が緩和された内容については一定評価できる。一方で、施設基準の新設、再編、細分化が行われ、さらに複雑化が増したことは残念である。加えて、人材確保や賃上げと称して新設されたベースアップ評価料は、医療機関にとっては、評価や届出方法の複雑さに加え、次期改定時に維持されるのか不透明な項目であり、他方、患者には一部負担金の増加を強いるものである。

オンライン資格確認の導入義務化を皮切りに、レセプトのオンライン請求の実質的な義務化、健康保険証を廃止する方針の表明、診療報酬改定時期の後ろ倒しも加わり、様々なことを一気に変化させてしまったため、現場は混乱している。安心安全な歯科医療を国民に提供できなくなってしまっては、本末転倒である。

確かに6月施行になったことで時間的なゆとりができ、作業の負担は軽減したが、たくさんの施設基準の新設や算定要件の複雑化、通知等の遅れが6月施行のメリットをかき消してしまっているように感じているのは私だけではないと思う。

6月施行が当初の目的であったレセコンのベンダーや医療機関の負担軽減等のメリット、患者の利益にどれだけ繋げることができたかは疑問が残る。

国は、医療機関等の関係団体に向けて十分かつ丁寧なヒアリングを行い、複雑な施設基準や改定内容を含め、今回行われた6月施行の具体的な効果・検証が行われることを期待したい。

2024年618

東京歯科保険医協会

社保・学術部長

本橋 昌宏

第52回定期総会「決議」

52回定期総会「決議」

2024年度の改定率は、診療報酬本体がプラス0.88%および薬価等がマイナス1.00%となり、全体でマイナス0.12%と6回連続の実質的なマイナス改定となった。歯科の改定率はプラス0.57%となったが、賃上げ対応分を除けば前回の改定率(プラス029%)を下回る僅かな引き上げである。これでは、患者が望む歯科医療の享受、かつ継続的な提供を可能にする体制整備は進まない。

今次改定では医療従事者の賃上げ対応が行われたが、診療報酬の評価および届出方法の複雑さに加えて、2年後の改定時も評価が維持されるのかが不透明であり、賃上げを恒久的に行うための方策を国は示すべきである。また、多数の施設基準の見直しおよび点数の細分化によって算定要件などが複雑化し、現場は混乱している。必要な歯科医療が円滑に患者に提供できるよう、複雑な改定は止め、算定要件は簡素化すべきである。さらに、本年10月より後発医薬品のある先発医薬品の処方において、その差額を患者に追加負担として求める選定療養の施策が実行されようとしており、負担増を理由とした受診控えにより、歯科疾患の重症化が懸念される。

国は、本年122日に健康保険証の新規発行を終了するとしているが、マイナ保険証の利用率は4月時点で僅か6.56%と低迷している。全国保険医団体連合会が行った調査では、過半数を超える59.8%がマイナ保険証やオンライン資格確認システムでトラブルがあったと回答しており、総点検後もトラブルは全く解消していない。そもそも医療現場では現行の健康保険証で資格確認を行っており、これを廃止する理由がない。

また、歯科の約半数が電子媒体で診療報酬を請求する中、本年10月を目途にオンライン請求の義務化が進められている。電子レセプトの提出をオンライン化する審査上の必要性は殆どなく、経験豊富なドクターの閉院を助長し、国民の受療権を奪う意味のない制度といえよう。医療機関にコストを負担させる施策は中止して、従来の方法を残すべきである。

協会は、安心安全な歯科医療の提供を脅かす動きに強く反対し、人の命を奪う戦争や核兵器使用で諸国を威嚇するいかなる行動にも断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ推進するために、以下の要求を国民、政府および歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

一.国は、現行の社会保障制度を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度をさらに充実させること。

一.国は、歯科医療の充実や医療従事者の処遇改善が進むよう、診療報酬を抜本的に引き上げること。

一.国は、さらなる患者負担増を止め、長期収載医薬品の選定療養化を撤回すること。

一.国は、本年122日以降も健康保険証の新規発行を行い、オンライン資格確認システムおよびオンライン請求の導入義務化を撤回すること。

一.私たち歯科医師は、平和を妨げるすべての動きに反対する。

2024年616

東京歯科保険医協会

52回定期総会

オンライン資格確認 資格確認限定型の解説

オンライン資格確認 資格確認限定型の解説

診療報酬を紙レセプトで請求されている方および、猶予届を提出し受理されている方は、オンライン資格確認の「資格確認限定型」を導入することができます。(猶予届を出している方の受付も11月5日から始まりました

導入にあたっては、
 ① スマホ・タブレット選択
 ② 利用申請
 ③ マイナ資格確認アプリユーザ設定情報の取得
 ④ 運用開始日登録
 ⑤ アプリケーションのダウンロード
 ⑥ アプリケーションの設定
 ⑦ 接続テスト
 ⑧ 運用
などを順番に行う必要があります。

解説資料
手順をまとめた資料を作成しましたので、参考にしてください。

画像をクリックしてファイルをダウンロードして下さい。

<アプリをダウンロードする前に>
マイナ資格確認アプリをダウンロードする前に以下のユーザー登録および利用開始申請が必要になります。ご注意ください。

(1) 医療機関等向け総合ポータルサイトのユーザー登録。
(2) マイナ資格確認アプリの利用開始申請。

・紙で申請された方は、(1)、(2)とも同時に取得できますが、返事が来るまでに1カ月~2か月かかります。
・Webで登録された方は、(1)申請後、返事を待ってから(2)の申請を行います。(2)の返事が来るのにも多少時間がかかります。

解説動画
解説用動画を作成しました。画像をクリックして視聴してください。
医療機関等向け総合ポータルサイトが更新されたため、
一部メニュー画面など更新前の画像が使用されていますのでご注意ください。

1)医療機関向け等ポータルサイトユーザー登録手順(5分37秒)

2)マイナ資格確認アプリの利用申請手順(8分40秒)

3)マイナ資格確認アプリのダウンロードと初期設定手順(3分55秒)

4)マイナ資格確認アプリ ユーザー設定情報の確認方法(4分05秒)

5)マイナ資格確認アプリ 助成金申請方法(3分54秒)

 

<<< 参考 >>>
◆資格確認限定型に利用できるカードリーダー
 ①Bluetooth汎用カードリーダー(タブレット用)
 ②有線の汎用カードリーダー(パソコン用)
◆資格確認限定型に対応しているスマートフォン一覧

上記を確認する方は ここをクリックしてください。
(「医療機関等向け総合ポータルサイト」が開きます)

 

第52回定期総会、5年ぶりに「懇親会」を開催し会員と来賓が交歓・交流

第52回定期総会をリアル方式で開催/5年ぶりに「懇親会」を開催し会員と来賓が交歓・交流深める

懇親会には会員や関係団体、企業、議員ほか74名が参加

新型コロナウイルスの影響で開催が見送られてきた定期総会懇親会が2019年以来、5年ぶりに開かれた。会場には会員や関係団体、企業、議員など74名が参加。タイミングを見計らって総会への祝電・メッセージを紹介しつつ、久しぶりの宴の席を楽しむ姿が見られた。

冒頭、坪田有史会長は懇親会の再開を喜び、「先生方とこうしてお会いできて、とてもうれしく思う」と挨拶し、来場者に謝意を伝えた。その後、全国保険医団体連合会の小澤力副会長(大阪府歯科保険医協会理事長)が挨拶に立ち、歯科技工所アンケートや学校歯科治療調査などの実施を評価し、健康保険証存続の取り組みについても「先生方にわかりやすく丁寧に呼びかけている。これなら自分でもできると考える先生も多いと思う。このような活動を組み立てる協会に敬意を表する」と挨拶した。

続いて、東京保険医協会の須田昭夫会長は、オンライン資格確認義務化撤回訴訟に触れ、「歯科・医科協会がともに訴訟の問題を提起できたことは大変良かったと思う」と、東京都内2つの協会での取り組みを評価した。

その後は関係団体や議員も祝辞を述べ、定期総会の開催を祝した。参加者は思い思いに会話や食事をしながら懇親を深め、盛況のうちに幕を閉じた。初めて定期総会に足を運んだという会員は、「緊張したが、将来的なビジョンを考えて活動するという会長の発言を頼もしく思った。若手の会員も増やしてエネルギッシュに、そして希望が持てる歯科医療界にしてほしい」と協会への思いを語った。

さらに、定期総会で質問に立った会員からは、「会員のためにがんばっている様子が伝わってきた」という声が聞かれた。


 懇親会にご参加いただいた来賓の方々

 

 お送りいただいた祝電・メッセージの一覧

定期総会記念講演では坪田会長が今次改定のポイントと歯科医療の展望を説く

坪田有史会長が「2024年度改定を考察し、今後の歯科医療を展望する」をテーマに記念講演

2024年度診療報酬改定のポイントと今後の歯科医療の展望

6月16日に開催した第52回定期総会では、総会終了後に記念講演が「2024年度改定を考察し、今後の歯科医療を展望する」をテーマに開催され、当協会の坪田有史会長が講師を務めた。

講演では、社会医療診療行為別統計のこれまでの傾向と、今後の歯科治療の需要の将来予想イメージが治療中心型から治療・管理・連携型に移行しつつあることに触れ、それらを踏まえたうえで、今次改定を「難解」とし、さらに、健康寿命延伸や在宅医療提供が喫緊の課題となる中で、その患者の負担割合を引き上げる動きには反対であるとしつつ、これまでの政府の「骨太の方針」を見据えつつ、今後の歯科医療に言及。国民皆歯科健診とも関連させ、疾病の早期発見と健康寿命の延伸が求められていることなどを指摘した。

一方、今回の診療報酬改定については、複雑・難解な改定、新たな項目や算定要件、加算、施設基準の届出などが多数含まれていることを指摘しつつ、日々の診療に加え、特に今次改定でさらに複雑化した診療報酬体系を学習・理解し、適正な保険請求に繋げることが肝要であるとした。

そして、「我々歯科医師の目的は目の前の患者に適正に歯科医療を提供することに邁進したいということだけである」と強調した。

◆萎縮診療はしないこと

最後に、集団的個別指導を恐れた萎縮診療はしないこと、適正な保険請求を行うこと、歯科界全体で協力し、歯科医療費の総枠拡大を目指すことの必要性を提唱し、講演を締め括った。

2024年度第52回定期総会を開催/2024年度活動報告など承認

第52回定期総会 5年ぶりに懇親会を開催

協会は616日、千代田区の主婦会館プラザエフで2024年度第52回定期総会を開催。設立50年を迎えた23年度の取り組みなどを報告した。総会には、一般会員および役員を合わせた48名が出席。委任状を含めると1,003名の出席となり、総会成立要件である会員数の10%を超え、総会は成立。メディア3社・3名も取材に訪れた。総会後には記念講演を行い、その後に2019年以来、コロナ禍の影響で中止を余儀なくされていた懇親会を5年ぶりに開催し、会員や関係者らが一堂に会した。

◆坪田会長「先生方と対話を」

山本鐵雄副会長の開会の挨拶で幕を開けた定期総会。

冒頭、坪田有史会長は、23年度の取り組みを振り返り、設立50周年記念企画に触れながら、協会設立当初から協会活動に協力いただいた先生方への感謝の意を表した。また、24年度診療報酬改定は複雑であるとし、3月に行なった新点数説明会には会員ら約1,500人が訪れたことを報告した。そして、「これからも協会のために先生方と対話をしていきたい。その中で、ぜひ協会にさまざまな提案をいただきたい」と会員に協会諸活動への協力を呼びかけた。

次に、岡田尚彦理事が、日本歯科医師会・高橋英登会長、全国保険医団体連合会・竹田智雄会長、与野党議員ほか関係団体などから多数のメッセージが寄せられていることを紹介した。議長には橋村威慶氏(文京区)、副議長には三島桂氏(足立区)が選出された。

まず、早坂美都副会長が第1号議案「2023年度の活動報告の承認を求める件」、半田紀穂子理事(財政部長)が第2号議案「2023年度決算報告の承認を求める件」、西田紘一監事が「会計監査・会務監査報告」を提案し、いずれも賛成多数で承認された。

続いて、加藤開副会長が第3号議案「2024年度活動計画案の承認を求める件」、半田理事が第4号議案「2024年度予算案の承認を求める件」を提案しいずれも賛成多数で承認された。さらに、第5号議案「選挙管理委員会承認の件」、第6号議案「決議採択の件」もそれぞれ賛成多数で承認された。

◆質疑応答の模様

なお、総会時の質疑応答では、2名の会員から「組織対策費、時局対策費とは、具体的にはどのようなものか」「役員報酬を引き上げることは検討しているのか」「『決議』は承認後、どのような目的で活用されるのか」などの質問があり、会長、担当役員が回答した。閉会の挨拶は馬場安彦副会長が行い、定期総会は閉会した。

◆第52回総会質疑応答

<会員>支出の部の事業費に時局対策費と組織対策費とは具体的にはどのような内容なのか。

<坪田会長>時局対策費には機関紙の全都宣伝号が含まれます。また、国会要請や新点数説明会の費用なども含まれています。

組織対策費は、組織部の活動の費用が中心となります。新規開業した会員の先生や、新たに保険請求やカルテ記載について勉強したい先生などがご参加される新規開業医講習会の費用や、入会していただくための入会対策費も含まれています。

<会員>今年度の診療報酬改定で職員のベースアップがありましたが、活動の中心となっている先生方、役員の先生方のベースアップは予算に入っているのでしょうか。ベースアップがなければ、今後、ベースアップをしていただきたいと思います。

<坪田会長>手当を多くしてはどうかとの提案については、我々役員、部員に対しての大きな声援だと思っていますので、心から感謝申し上げます。

まず一つ目のベースアップですが、中小は厳しくて、大手しかできていないとの話があります。我々も中小ですし、協会も中小です。これから検討していきたいと思います。

現在は会費4,000円で何とか予算組みができていますが、将来、会員が減っていけば、同じ事業を続けていけるかというと厳しい点があり、今から考えています。

不測の事態が起こった時、例えば首都直下型地震が起きたとか、1年間ぐらい会費の徴収、収入がなくてもやっていける状況は作っておかないといけないと思いますし、将来的なビジョンを考えて、その分を残しておかないといけません。したがって、会費値上げをすればよいという話でもないと考え、今の予算を組んでいることをご理解いただきたいと思います。

以上

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)6月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)6月1日

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【新聞6月号】

【1面】

1.第3回新点数説明会開催/6月施行に備え診療報酬を解説 全3回の説明会に計2,857人参加
2.「健康保険証は存続させるべき」坪田会長らが国会議員に緊急要請
3.第52回定期総会のご案内
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.オン資「義務化」撤回訴訟第6回口頭弁論/11月末までの結審求める 坪田有史氏「強制的に進められる現状に憤り」
7.6月1日施行2024年度診療報酬改定情報/新たな疑義解釈が示される!

【3面】

8.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望②/(佐藤一樹氏)原告勝訴:「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」との類似性
9.ベ―スアップ評価料は「歯科医院の懐を見る加算」/メディア懇参加者から鋭い指摘

【4面】

10.経営・税務相談Q&A No.417「定額減税②~よくある質問~」
11.6月会員無料相談のご案内
12.第39回保団連医療研究フォーラム分科会・ポスターセッション演題募集
13.2024年6月版「歯科保険診療の研究」/発送は6月末頃
14.デンタルブックPR

【5面】

15.研究会・行事ご案内
16.会員優待サービス:夏休みはリソルの森へ! 

【6面】

17.退き際の思考 歯科医師をやめる/(石田昌也さん・後編)「“人生の半分は闘病”も悔いなし『「助けられた』共済制度と歩んだ歯科医師生活」

【7面】

18.会員なら加入しないともったいない!! 保険医休業保障共済保険

【8面】

19.教えて!会長!! Vol.83「施設基準とベースアップ評価料」
20.【ベースアップ評価料】届け出解説動画デンタルブックで公開中
21.ご注意を「6月からの労災診療費 初・再診料が引き上げ」
22.IT相談室/情報セキュリティ10大脅威2024解説①「情報セキュリティのオールインワンページ」
23.共済部だより

【9面】

24.症例研究「新設されたエナメル質初期う蝕管理料と外安全1・外感染1」

【10面】

25.インタビュー/協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事(オクネット代表:奥村勝氏)
26.理事会だより/2024年度第2回(暫定)・第3回(暫定)理事会
27.2024年5月協会活動日誌

【11面】

28.2024年6月歯科用貴金属の随時改定情報
29.神田川界隈「原告のひとりとして」(理事・橋本健一/東村山市)
30.通信員便り No.143

【12面】

31.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第3回「急増しそうな『偽造マイナンバーカード』の悪用に気をつけよう!」(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
32.「現行の健康保険証はなくさないで」酒井菜摘・鈴木庸介両衆議院議員に署名提出

【13・14面】

33.第2休業保障制度(団体所得補償保険)募集キャンペーン

【健康保険証を残そう】パブリック・コメント提出のお願い(6/22まで)

健康保険証存続のため、ぜひともパブリックコメントの提出を

 厚労省は現在、健保法等の省令から保険証を交付しなければならないとする規定を削除するための変更についてパブリック・コメントを募集しています。 オンライン資格確認ではトラブルがなくならず、マイナ保険証の利用率も6%程度と低迷する中での保険証廃止は乱暴です。

▼経済ジャーナリスト・荻原博子さんが解説「健康保険証廃止『今のやり方は危険』」

 このままでは医療機関にさらなる混乱をもたらす可能性が高いため、現行の保険証を残すために、ぜひともパブコメを下記の要領で提出していただきたく、お願いいたします。
※期限が間近に迫っています。Webからも直接提出することが可能です。

 

■期限:6月22日(土)必着 ※Webの場合、6月22日(土)23時59分まで
■提出方法:Webまたは郵送

パブリック・コメントとは?…どんなふうに提出すればいいの?

パブリック・コメントは、行政に現場の意見を伝えることができる貴重な機会です。ぜひ現場の声を届けましょう。

今回のパブリック・コメントの一例…

・健康保険証を残すことで、資格確認書などを新たに発行する必要はなくなる。保険証を残すべき。
・受付専任のスタッフがいない医療機関では、マイナカードの確認作業のために治療を中断せざるを得ない状況が生じる。読み取りに問題が生じた場合は多大な時間を取られ、診療に集中できない。
・オンライン資格確認システムのエラーが出たときにサポートセンターに電話をかけても繋がらない。

提出方法

方法①:WEBから提出    
厚労省のパブコメ募集用ページにアクセス。【意見募集要項】というPDFファイルを開き、内容を確認。その後、元のページに戻り、「□意見募集要領(提出先を含む)の全部を確認しました」のチェックボックスにチェックを入れ、右下の「意見入力へ」をクリック。意見入力画面にアクセスできるので、そちらに意見を入力してお送りください。(応募方法:パブコメ応募詳細はこちら

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方法②メールでの意見提出
ご意見を入力の上、kokuho@mhlw.go.jp  宛に電子メールを送付してください。
※件名は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案(仮称)に関する意見」と明記。

方法③郵送での意見提出
紙などに意見を記載の上、「〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2  厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係宛て」に郵送で意見をご提出ください。

関連記事:

▼荻原博子さんの連載を読む【マイナ保険証の〝失態〟を追う】

▼ジャーナリスト・堤未果さんインタビュー【ショック・ドクトリンに見る保険証廃止問題「立ち止まって」】

【連載】退き際の思考/「息子の方が優れていた」親心溢れる父の“潔さ” 幼少期から育んだ信頼関係で医院託す(石田昌也さん【前編】)

「息子の方が優れていた」親心溢れる父の“潔さ” 幼少期から育んだ信頼関係で医院託す(石田昌也さん【前編】)

「息子の方が優れていた」親心溢れる父の“潔さ” 幼少期から育んだ信頼関係で医院託す

石田昌也さん(石田歯科医院副院長) ― 前編

石田昌也先生

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生にお話しを伺い、引退を決意した理由や、医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。今回は、杉並区上荻にある石田歯科医院の副院長、石田昌也先生。1975年に開業し、“地域に根ざした歯医者”を目指し、患者から親しまれる歯科医院を一代で築いた。2009年に長男の博也先生と院長を交代し、現在は副院長として医院経営を支える。持病と闘いながらも「悔いがない」と語る歯科医師人生や、親子間の医院承継に大切なことなどについて、妻の光子さんとともに回顧していただき、前後編2回に分けて連載する。

「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号)

―歯科医師として、一線を退こうと思ったきっかけは。

昌也先生:長男が歯科医師になり、静岡で勤務医として5年間働きました。その後、東京に戻り、一緒に診療をはじめて2年ほど経った頃です。私自身は、開業した時から一代限りで閉院しても構わないと考えていましたが、息子の治療や患者さんへの対応を見て、「これなら息子一人でやっていける」と思い、引退を考えました。私は30年あまり前から持病があり、通院しながら診療にあたっていたこともあったので、少しずつ現役を退いていく方向を考え始めましたね。

―引き継ぎにあたり、準備はどのように進めましたか。

昌也先生:2年ほどかけて管理者や開設者、その他金融機関や労務関連などさまざまな変更手続きをしましたが、「メインバンクだけは変えないように」と、息子に伝えていました。これまで長年続いてきた銀行との信頼関係をそのまま維持することで、医療機器の入れ替えなど大きな出費への備えにもなりますし、今後の医院経営を見据えても、息子自身にとっても良いことだと考えたからです。

―当初、息子さんと一緒に診療に携わってみていかがでしたか。

昌也先生:今まで通っていた患者さんは私が、新患はすべて息子が診るようにしました。そうすることで、患者さんを引き継ぐ苦労がありませんし、患者さんを取り合うようなこともなかったです。技工の模型や治療の技術を見ても息子の方が技術的に優れていて、静岡でしっかり経験を積み、勉強してきたことがわかりました。相性の問題もあり、歯科技工所は自分がやりやすい取引先に変えていましたが、治療内容で揉めるようなことはありませんでしたし、仕事に限らず、子どもと争ったことがありません。

―昔から親子関係を大切されてきたのでしょうか。

光子さん:子どもが小さい時から、夏休みに夫が計画を立てて、必ず家族旅行に出かけていました。2人の息子が高校を卒業するまで続きましたが、朝からテニスにプールと、いろんなことを楽しみたい夫に対し、宿でのんびりしたい子どもたちが初めて「なぜ予定を決められなきゃいけないのか」と反抗したんです(笑)。“争う”といえばそのくらいだったでしょうか。

昌也先生:今でも息子家族と定期的に会食をして、良い親子関係ができています。同じ仕事を引き継ぐからこそ、親子関係は大切だと思います。息子同士も大きな喧嘩をしたことがないし、未だに仲が良く、互いを認め合っています。

―信頼関係を軸に、院長交代まで順調に準備が進んだようですね。

光子さん:ただ最初のうち、息子は自分が担当する患者さんがいなかったので、ギャップを感じたみたいです。「ほかでバイトをしよう」とか、診療時間の延長や日曜診療を提案したり、少し心が揺れていた気がします。

昌也先生:その気持ちは理解できましたが、「ちょっと待って」と声をかけました。今は若いから良いけど、診療時間を延ばしたりするのは年を取ればだんだんときつくなる。自分の体やプライベート、家族サービスも大切にして「今のペースで続けたほうが良い」と、自身の経験をもとに助言しました。

無借金で承継を―内なる父の思い…

―その後、実際に院長を交代してみてどうでしたか。

昌也先生:診療以外の経営まわりのことをすべて一任しました。スタッフの採用面接などもすべて息子が担当しましたし、一切口を出しませんでした。医院経営は大変だったと思いますが、そういうことが好きなタイプに見えましたね。

光子さん:やっぱり医院に親がいるのは照れくさいじゃないですか。そんな時に夫が骨折して、コロナ禍も相まって医院を訪れる頻度が減りました。スタッフさんに聞くと、息子が「変わった」と言うんです。仲の良い親子とはいえ、父の目もなく自分の思い通りにできるとなると、良い意味で気持ちの変化もあったんだと思いますね。

妻の光子さん

―引き継ぎにあたり一番大切にされたことは。

昌也先生:医院には借金が残っていました。息子に引き継ぐにあたり、どうにかしてこれをゼロにしたかった。親子でなくても、やはりお金は一番問題になる部分。私は私、息子は息子と切り分けて、妻と協力してなんとか借金を完済することができました。

光子さん:子どもに対する思いは、人一倍強い夫です。息子の夢を絶つようなことはしたくないと、持病の詳しいことは子どもたちが学生のうちは伏せておきました。長男の学費や次男の留学、出費がかさむ時期だったけど、子どものためなら不思議となんとでもなるんですよね。

昌也先生:考え方は人それぞれですが、自分でたくさんのお金を抱え込むと、やはりトラブルが起きてしまうのかなと。私の人生観としては、死ぬ時にお金を持っていけるわけではないから、自分が生活できる程度でお金を持ちつつ、あとは家族に分け与えていきたいと思います。前はマンションに住んでいましたが、ライフステージに合わせて住むところを移していくなど、そうした人生設計を描きながら過ごしてきました。(つづく)

後編は、「助けられた」と語る協会との関わりについてお届けするー。

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「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号)

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退き際の思考 歯科医師をやめる/10年越しの夢叶えたセカンドキャリア「神様から2つのチャンスを」(中野多美子さん【後編】)

【 退き際の思考 歯科医師をやめる/10年越しの夢叶えたセカンドキャリア「神様から2つのチャンスを」】

中野多美子さん(元協会会員) ― 前編 ※前編はこちら

歯科医師としての〝引退〟に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院承継の苦労、現在の生活などを深堀りします。今回は、前号に引き続きワイナリー「ヴィンヤード多摩」の専務としてセカンドキャリアを歩む中野多美子さんの後編。歯科医師を引退したタイミングについて振り返ってもらいました。

―歯科医師を引退して1年少々経ちますが、引退したタイミングについてどう振り返りますか。

もう少し早くやめてもよかったと思っています。それは、いろいろな身体の衰えが出てきて、あらゆることに時間がかかってしまう。そうした中で、私は65歳あたりを目途に引退するほうが良かったと思います。

―歯科医師人生の思い出を聞かせてください。

歯科医療の仕事は好きでした。よい歯科医師人生だったと思います。人に関わることができ、感謝される素晴らしい仕事です。よい思い出も、そうでない思い出も沢山ありますが、特に印象に残っているものは、引退する前にいただいた手紙です。その方はとても美しい女性でしたが、口腔内にはほとんど残存歯がありませんでした。若い頃、多くの歯を抜歯され、とてもつらい思いをしたそうです。それ以来、なかなか治療に行けなかったといいます。その方から、「先生と巡り会えて本当によかった」と心のこもったお便りをいただきました。

とある患者さんたちとの出会い― セカンドキャリアのはじまり

―現在の目標は?

まずはワイン作りという、歯科医療とはまったく違う方向に進んだので、周囲の皆さんはびっくりしています。私は神様から二つのチャンス、つまり私は二度も人生を味わわせていただいたと思っており、本当にありがたいと感じています。目標としては、経営的に会社をきちんとした規模、形態にしたいと思っています。私は今、ワイナリーの中で畑を担当しているのですが、畑や農地を大きくしていくとか、ワインの品質も向上させていきたいです。

―セカンドキャリアとしてワインづくりを選んだ理由を聞かせてください。

最初は、ワインを飲んで楽しむだけの〝ノムリエ〟でした。ただ、大好きなワインを飲んでいくうちに、ワインについて体系的に勉強したくなり、いくつかのワインスクールに10年ほど通いました。また、私の医院にグループホームの方たちが患者さんとして来院していました。その方たちが年を重ねた時に働く場を作りたい、その方たちが作ったブドウでワインを作りたいというのが、ヴィンヤード多摩を設立した目的です。人間は社会と関わることで、自分の価値や存在意義を必ず見出していくものだと思います。障がい者の方々が高齢になって仕事ができなくなってしまった後、経済的な面だけではなく、社会とのつながりという面から、畑の仕事に携わってほしいと考えています。ブドウに袋をかけたり、草刈りをしたり、畑の作業は能力に応じた仕事の種類がたくさんあるものです。現在、東京都は、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員とともに働いている社会的企業のことをソーシャルファームと位置付けていて、今はその認証を受けるためにがんばっています。

―現在のお仕事で最近、一つ夢が叶ったそうですね。

構想から10年かけて、ついにグループホームの方たちが手掛けたワインが完成しました。ようやく一つの目標を達成しました。ワインボトルにはグループホームの皆さんの似顔絵のエチケット(ラベル)を付けます。自分たちが作ったものを外で売るまでの一連の流れが大切なので、これを店頭で販売して1つの仕事が完結するのが楽しみです。

―先生と同じように、引退の時期を考えている先生方がいらっしゃると思います。最後にそうした方々へメッセージをお願いします。

医院を引き渡す相手を尊重してなるべく速やかに身を引くのが良いと思います。私だけではなく、身体の衰えは65歳前後の多くの人が直面するものだと思います。また、引退をするにしても3年、5年と準備の時間がかかると思いますので、引退の時期と、引き継ぐ相手など時間をかけて考えていくことが大切なのかなと思います。

―ありがとうございました。(完)

(前編を読む)

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「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年1月1日号)

【インタビュー】奥村勝氏(オクネット代表)協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事

インタビュー/奥村勝氏(オフィスオクネット代表、歯科医療ジャーナリスト)

協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事

奥村 勝/オクネット代表、歯科ジャーナリスト

毎月、全国の保険医協会・医会、保団連ほか医療関係団体による国会内集会が開催される。一般紙、テレビ、専門紙ほか、各種メディアも取材に訪れるが、取材陣の中で毎回、老練な方をお見受けする。レコーダーなし、キーボードも叩かず…。じっくり聞きながら時折メモを走らせる。それでいて、翌日の配信ニュースは適時適格な内容、文字数、表現だ。その人物が、今回ご紹介する奥村勝氏である。

奥村氏は、自身が設立したオクネットの代表で、企業勤務を経て歯科技工士を務め、その後、歯科医療関連専門誌の編集長として取材、編集に携わるなど、異色の経歴を持つ存在だ。「歯科ジャーナリスト」「歯系議員」などの用語は奥村氏作といわれている。その奥村氏には、協会の機関紙「東京歯科保険医新聞」の202210月号から本年4月号まで、延べ18回にわたり「歯科界への私的回想録」を連載していただいた。今回は連載時に思ったこと、協会への一言などを中心にお話を伺った。

【口腔をサポートする歯科は責任重大】

 ― 聞き手 今回の連載終了にあたり、思うところをお聞かせください。

◆奥村氏 連載前の構想と、連載開始後の原稿内容はかなり異なりました。歯科医師と患者さんとその家族、歯科医師とスタッフなどを巡るコミュニケーションの大切さをもっと全面に押し出したり、もっと歯科技工士の本音や自分自身の考え方を打ち出しても良かったかなとも思いました。

 ― 連載初回に、ご自身の口唇口蓋裂の手術に至るまでの経緯などを紹介されましたが、このことの歯科への意図は。

1954年生まれの私は、この瘢痕(はんこん)のため、子ども時代からいろいろなことを経験しました。しかし時が経つとともに、「口の中は目に見えないが、大事だ」ということに気付きました。口唇口蓋裂は、その人の人生そのものです。また、会話の時も食べる時も口は大事。そして、これをサポートする歯科は責任重大ということです。

【人対人のコミュニケーションづくり】

 ― 政治経済学部で学んだ後、歯科技工士の道に進まれましたが、そのきっかけ、歯科技工現場での経験などについて。

私の父は、蔵前のプラモデル製造、プラスチックと塩化ビニール加工の営業・卸の会社に勤務していました。大学進学の背中を押してもらい、大学卒業後、1年半はインテリア業界で働きましたが、手仕事に長けていた父から手に職をつけることの大切さを論され、「口」に縁のある歯科技工士を思い浮かべ、東京歯科技工専門学校(2010年閉校)に入学しました。卒業後は新小岩駅至近の歯科診療所の院内ラボに入り、当時言われていた「歯科技工士は、10年やってどうかだ」を目標に勤しみました。診療所内で自作の歯科技工物への患者さんの反応を見たり、話をする中で、「診療所内では、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、スタッフさんとのコミュニケーションが非常に大事」であると実感しました。

 ― ところで、当協会のメディア懇談会には設立直 後から参加されていますが、思うところを。

記者会見では、参加者は主催者側の意向に一定の配慮をします。しかし、懇談会はそうではありません。記者会見でも懇談会でも、終了後に雑談や話し込むことができれば大したものだと思います。協会のメディア懇談会は終了後に場所を移して懇談を行い、参加メディアの記者、編集者、協会の役員、事務局員が面と向かって意見したり、記者同士の知見を持ち寄ったりしています。こういった情報面での交流ができることは、とても大事です。今の時代は、IT、AI、SNSなど、さまざまな情報伝達手段がありますが、どのようなコミュニティであっても、やはり今後も話し手と聞き手が向かい合って、直接、言葉でやり取りし、相手の語気や表情を五感で感じながら行う対話、会話はやはり大切ではないかと思います。このことは、歯科診療所での院長、患者さん、スタッフのコミュニケーションづくり、さらに最近では、歯科と関連がある様々な関連職種の人たちとのコミュニケーションづくりにも、通じるものがあると思います。

【取材の実際と人脈作りの要諦】

 ― 取材時の基本的スタイルについて。また、議員や官僚、歯科医療関係者との人間関係構築について、思うところを。

取材時には、キーワードをメモするだけです。キーワードにはイメージが残っていますから、後でそれを読むと大事な言葉が脳裏に鮮明に表れます。あとは、資料の要旨、概要を参考にします。人脈については、国会、役所を問わず、慌ただしい時ではなく「つまらない(・ ・ ・ ・ ・)時に足を運ぶこと」が大事。大雨、電車が運休、国会休会中などに伺うほうがインパクトがあるようです。また、取材相手と自分の意見が違う時は必ずその理由を聞く。これは、きっかけを作る上で重要。ただ最初から「人脈を作ろう」と力むのは良くないです。

 ― 記者の目を通して、協会の今そして近未来につ いてアドバイスを一言。

今のように、会員数が増えることは良いことですが、大事なことは、設立時からの基本的なスタンスを守ることです。設立の趣旨や、基本的なスタンス、これまで対外的に発表してきた決議、理事会声明などで示した軸は大切です。初めてメディア懇談会や定期総会を取材した頃は協会は「固い固い組織」だと思っていました。しかし、だんだんと「外に対してオープンな雰囲気の組織」「確かに保険診療を広めるために活動している組織」という印象に変わりました。

 ―最後に、大事にしてきた言葉について。

明大の恩師にいただいた「歩一歩(あゆみいっぽ)」で、個人的には「無為自然」です。やれるだけのことをやった中での結果はすべて受け入れます。

 ―本日は永田町、霞が関への取材前のお時間、ありがとうございました。

 

プロフィール 奥村    (おくむら・まさる)/オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任、退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

 

 

奥村さんインタビューの全文を読む

 

【IT相談室】「情報セキュリティ10大脅威2024」解説 ①

【IT相談室】「情報セキュリティ10大脅威2024」解説 ①

情報セキュリティのオールインワンページ

今回から、独立行政法人「情報処理推進機構」(以下、IPA)が発表している「情報セキュリティ10大脅威2024」について、3回にわたり解説していきます。「情報セキュリティ10大脅威」は2014年から毎年発表されており、情報セキュリティの問題点と対策がわかりやすくまとめられています。IPAのホームページにも公開されているので、医療機関従事者の方々にも、ぜひご覧いただきたいです。

◆IPAについて

IPAは、04年に設立された経済産業省所管の独立行政法人です。この独法、身近なところでは、受験者数で自動車運転免許に次ぐIT関連の国家資格「情報処理技術者試験」( 通称「情処」じょうしょ)事業、「未到ソフトウエア」事業、「IPAフォント」公開など、幅広く活動しています。

◆新しい脅威は

「ランサムウエア」「情報セキュリティ10大脅威」は、個人向けと組織向けに分かれており、本連載では組織向けの脅威を解説していきます。

21年から引き続き1位は「ランサムウエア」です。比較的新しい脅威ですので、まずは名前を覚えてください。ランサムウエアはパソコン内や外付けで、ネットワーク上のデータを暗号化してアクセスを不能にし、解除のパスワードと引き換えに金銭を要求します。

対策としては、通常のセキュリティ対策に加え、外部クラウドや通常使用しているパソコンなどと直接接続しないハードディスクなどへのバックアップが有効です。

件数としては多くないと思われますが、いわゆる身代金や調査・復旧の手間など、損害が大きいのが特徴です。ある日突然、院内のパソコンやすべてのデータが使えなくなったら…と想像していただき、対策を急ぎ、万全を期すことをお薦めします。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20246月号8面掲載

【IT相談室】「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク③ 完

【IT相談室】「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク③ 完

管理者権限の確認について

前回までは「Googleビジネスプロフィール」がどのようなものか、どのようなリスクが潜んでいるかを中心にお話ししました。今回は、そのリスクに対してどのように対応すべきかを考えます。

◆管理権限者の確認を

まず、歯科医院におけるGoogleビジネスプロフィールのオーナー権限、管理者権限は「誰が持っているのか」を確認する必要があります。

もしWEBサイトの管理やインターネット全般の支援をしている業者と契約しているなら、その担当者へ現状の確認を依頼するとすぐに教えてくれます。

そのような業者の支援がなく、Googleビジネスプロフィールのことを「初めて聞いた」「よくわからない」という状況でしたら、医院の名前で検索してGoogleビジネスプロフィールを確認してみてください。

◆具体的な確認方法

確認方法としては、まずGoogleビジネスプロフィールのページ(検索ですぐに見つけることができます)にログインします。

ログインIDやパスワードは普段使用している、もしくは医院用のGmailアドレスです。そもそもGoogleビジネスプロフィールを使用していない、Googleのメールアドレスを持っていないという方は、Googleビジネスプロフィールへの登録を医院側では行っていないはずです。

Googleビジネスプロフィールへログイン後に医院の情報が登録されていた形跡があれば、ご自身がオーナーとして登録されています。なければ、誰か別の人間が登録していることになります。その場合は、ご自身の歯科医院名で検索して表示されたGoogleビジネスプロフィールに「このビジネスのオーナーですか?」というリンクがあります。そのリンクをクリックすると、現在オーナーとして登録されている人物に「アクセス権をリクエスト」することができます。

アクセス権のリクエストによりオーナー権限を譲り渡してもらうことで、他者に管理させずにご自身での管理が可能になります。

悪意を持った第三者が、オーナー権限の譲渡を拒む場合もあります。その場合はGoogleのサポートへ連絡してください。

この問題は、医院側がGoogleビジネスプロフィールを積極的に管理・更新することでリスクを軽減し、医院の情報を正しく発信することができ、さらにリスクをベネフィットに変えることができるものですので、確認を強くおすすめします。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20244月号5面掲載)

【教えて!会長!! Vol.83】施設基準とベースアップ評価料

【教えて!会長!! Vol.83】施設基準とベースアップ評価料

施設基準とベースアップ評価料

◆6月になり2024年度診療報酬改定が施行されましたが…。

 5月中旬頃から、会員の先生方から非常に多くの問い合わせをいただき、途切れることなく協会の電話が鳴っています。電話が繋がりにくい状況となり、ご迷惑をおかけしてしまい、お詫び申し上げます。このような状況ではありますが、会員の疑問に答えるべく対応していますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

今次改定に多くの会員が疑問を持ち、困惑して協会に助けを求めてきているこの状況について、今後、行政側がどう対応しようと考えているのか問いたいと考えています。すでに新点数説明会を3回開催し、多くの会員や関係者に参加していただきました。この3回の説明会を収録した動画は、デンタルブックですべて視聴できますので、今次改定を理解するために視聴していただくことをお勧めします。

◆会員からの問い合わせの内容は?

 今次改定の内容は、全般的に「複雑で理解できない」ことが多いですが、個別項目で質問が多いのは「施設基準の内容と届出」と「ベースアップ評価料」です。

「施設基準の内容と届出」は、書籍「2024年改定の要点と解説」の「今次改定で新設された主な施設基準」(173ページ)を参照していただき、本書内の項目ごとの解説を読み、自院が該当する、また、届け出したい施設基準があれば対応を検討してください。61日からの算定には「ベースアップ評価料」の届出以外は63日までが提出期限ですが、期限が過ぎても検討していただき、適宜届出を行い、該当月から順次算定していただければと思います。

一方、自院が既に届け出している施設基準に対する問い合わせがあります。関東信越厚生局のホームページに施設基準の届出受理状況の一覧が掲載されていますので、東京都・歯科のPDF内で自院の届出項目、受理番号、算定開始年月日が確認できます。

◆算定するにあたって、注意すべき点はありますか?

 「ベースアップ評価料Ⅰ」を61日から算定する場合、520日付の事務連絡で届出期限が621日に延長されましたので、時間的な猶予ができました。ここで理解しておくべき8項目を挙げます。

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①「ベースアップ評価料」の届出・算定は必須ではなく任意です。各医療機関で判断して、届出・算定の可否を決めます。

②「ベースアップ評価料」の対象職員は、歯科衛生士、医療機関で雇用している歯科技工士、歯科業務補助者(歯科助手)のみで、歯科医師は該当しません。なお、受付専任の事務職員、40歳未満の勤務歯科医師、歯科技工所に勤務している歯科技工士(非雇用)の賃上げ措置は、「ベースアップ評価料」とは別に初・再診料(プラス0.28%)のアップ分で対応していると厚労省は説明しています。

③「ベースアップ評価料」で得られた診療報酬は、すべてベースアップ(賃上げ)の原資に限定して使います。なお、定期昇給の原資に充てることはできません。④各医療機関において、厚労省が示した2023年度比較で、24年度にプラス2.5%、25年度にプラス2.0%(2年間で4.5%)のベースアップを目標としています。しかし、これはあくまでも「厚労省の目標値」であり、賃上げ率、またベースアップを行うか否かも、各医療機関の判断に委ねられています。なお「ベースアップ評価料」で得ることができるのは1.2%になるように構築されています。したがって、「厚労省の目標値」に足りない分は、診療報酬のベースアップ評価料以外の部分や賃上げ促進税制を活用するよう示されています。

⑤「ベースアップ評価料」の届出は、届出様式以外に賃金改善計画書の提出が必要です。また、毎年8月(※今次改定前までは7月)に行う定例報告で賃金改善実績報告書による報告が必要です。

⑥詳細な明細書には「ベースアップ評価料」と記載されますので、患者からの問合せに医療機関として対応しなければならないことが想定されます。

⑦賃上げを行うにあたっては、給与(賃金)規定の改定も必要です。給与(賃金)規定が整備されていない場合には、労働条件通知書を新たに提示するなどして、従業員に周知する必要があります。

⑧「ベースアップ評価料」は、賃上げのための特例的な対応です。先のことなので不確定ですが、次回の改定で評価されず廃止される可能性が高いとも言われています。2年後に医療機関側にとって「ベースアップ評価料」分の財源がなくなることを想定しておく必要があります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

協会では、「ベースアップ評価料」の届出方法についての解説動画を作成しました。届出の記載方法などについてお悩みの先生は、まず動画を視聴してください。動画はデンタルブックのマイページから視聴できます。視聴した上で不明な点がありましたら協会にお問合せください。

全国の医科、歯科ともに今次改定で混乱が生じていることが報告されています。物価や光熱費の上昇などの現状から、スタッフのために何らかの対応をする必要があることは致し方ないです。しかし、この国の現状を招いた責任をまったく取らず、オンライン資格確認、オンライン請求、マイナ保険証などを拙速に押し付けてくることに憤りを感じています。先生方はどうお思いでしょうか。

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

過去の「教えて!会長!!」はこちら

 

東京歯科保険医協会

                                     会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞20246月号掲載)

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望②(佐藤一樹氏)

第2回  原告勝訴:「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」との類似性

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。今回から複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

「提訴からの進捗と展望」(本連載)はコチラから

4 法体系における法律と省令(注:見出し番号は前号からつづく)

オンライン資格確認義務化」を療養担当規則で規定した厚生労働省令は違憲・違法である。国権の最高機関で国の唯一の立法機関である国会(憲法第四十一条)が制定した健康保険法による委任(注1)がないのに、省令で保険医(医師・歯科医師)の権利を侵害するような義務を課しているからだ(図1)。法律の委任がなければ、省令に罰則を設け、または義務を課し、もしくは国民の権利を制限する規定を設けることはできないはずである(国家行政組織法第十二条三項)。

図 1

健康保険法第七十条一項は、「療養の給付」に限り厚生労働省令に委任する条文である。同項に、「資格確認」について委任している文言はない(図2)。

図 2

そもそも、被保険者が資格確認のために提出する資料について規定しているのは、健康保険法第六十三条三項に基づく健康保険法施行規則第五十三条である。法律は、療養の給付と資格確認を峻別している(図3)。

図 3

このため、提訴時の訴状(注2)の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」の理由は、以下の(1)(2)となっている。

(1)健康保険法上、給付の「内容」は療養担当規則に委任しているが、資格確認の「方法」については、条文に委任していると書かれていない
(2)仮に健康保険法上、委任がされているとしてもオンライン資格確認を義務化することは、委任の範囲を逸脱している

 

 5 日本の裁判おける「判例」の拘束性

裁判において裁判所が示した具体的事件における法律的判断を「判例」と呼ぶ。「先例」としての重み付けがなされ、それ以後の判決に拘束力を持ち、影響を及ぼす(先例拘束の原則)。判例が重みを持つ理由は、同類・同系統の訴訟・事件に対して、裁判官によって判決が異なることは不公平になることを防ぐためだ。日本では、特に最高裁判所が示した判断が「判例」であり、下級審の判断は実務上「裁判例」と呼ばれ区別される。

ただし、日本国憲法には先例拘束性を一般的に定める明文規定は存在しない。しかし、判例とされる最高裁判決は、最高裁大法廷で判例変更がなされないかぎり、下級裁判所はもちろん、最高裁自身の判断を実質上は拘束すると考えられている。

6 判例「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」と類似

私たちの確認訴訟と同類・同系統の訴訟の「判例」に、原告が勝訴した「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」判決(平成25年1月11日 最高裁第二小法廷)」がある。これは、2021年度の行政書士国家試験に出題されるほど重要な行政訴訟の判例で、ありとあらゆる行政法の基本書や専門書・文献で解説されている。

この判例では、「第一及び二類医薬品の情報提供は有資格者の対面により行わなければならない旨の厚生労働省令、一般医薬品の郵送等による販売を行うことを禁止する旨の厚生労働省令は、いずれも各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法(平成18年改正後)の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である」と原告の訴えが確認された。

このため、私たち原告による最初の主張を記述した訴状にも、被告である国による最初の準備書面(注3にも、この平成25年判決の判例法理(4)が引用され、その後も双方のすべての準備書面での主張も一貫して、これに準じている。たとえ行政訴訟における原告勝訴率が数%であったとしても、類似の判例では原告が勝訴しているのであるから、原告側が裁判官の心証(注5)を得る蓋然性が高い。

(注1 法律で定めなければならない事項を命令によって定めることができる旨を法律自身が定めること

(注2 民事訴訟において、訴えの提起に際し、当事者・法廷代理人・請求の趣旨・請求の理由を記載し、第一審裁判所に提出する書面

(注3民事訴訟において、当事者が口頭弁論において陳述しようとする事項を記載して、あらかじめ裁判所に提出する書面

(注4 裁判所が示した判断の蓄積によって形成された考え方

(注5 訴訟事件の審理において、裁判官が得た事実の存否に関する認識や確信

(つづく)

【プロフィール】佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

 

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望①(佐藤一樹氏)

第1回  確認訴訟:提訴の決意と弁護団結成

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。今回から複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

「提訴からの進捗と展望」(本連載)はコチラから

1 提訴の決意

2021年8月、健康保険法にマイナンバーカードによるオンライン資格確認が追加され、国民が医療機関を受診する際には、健康保険証かマイナンバーカードのいずれか任意の方法で資格確認を行うことになった。

ところが、2022824日、厚生労働省と三師会が合同開催したオンライン資格確認等システムに関するウェブ説明会で、保険局医療介護連携政策課長は、「厚生労働省令〔同年95日保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)〕により202341日からオンライン資格確認が義務化される。医療機関がオンライン資格確認を導入しない場合、療担規則違反になる。療担規則に違反することは、保険医療機関の指定取消し事由になる」旨を発言した。

法令にない「指定取消し」を錦の御旗にしての脅しだ。国を提訴し、司法の場で違法性を明らかにする、と私たちは決意した。

2 日本の弁護士「いの一番」

国民が国などの公権力を相手に起こす行政訴訟は、原告勝訴率が数%の難関だ。例えば「マイナンバー制度違憲訴訟(注/1)」は全国8カ所で提訴され、すべて敗訴した。勝訴のためには、どれほど評判の良い弁護士だと言われていても、行政訴訟で勝訴実績がないのなら頼まない。

私たちの行政訴訟は、2種類ある当事者訴訟のうち「確認訴訟」に分類される。確認訴訟は2005年4月1日施行「平成16年改正『行政事件訴訟法』」で初めて「公法上の法律関係に関する確認の訴え」と条文化された。同年9月14日、最高裁大法廷で新法施行後、確認訴訟では最初の原告勝訴判決が出た。「在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件」である。これが、国民の権利利益の実効的救済を図る上で、確認訴訟の活用の有効性を示す嚆矢(こうし)となった。憲法訴訟・行政訴訟の歴史に燦然(さんぜん)と輝くこの訴訟の弁護団長が自由人権協会代表理事の喜田村洋一先生である(右写真)。

当時、朝日新聞は1面に連載「日本の弁護士」を開始し、いの一番に喜田村先生を選んだ。刑事事件では数々の無罪を勝ち取り、日本の民事名誉毀損裁判の規準を創り、憲法訴訟では有名な「レペタ訴訟」も担当したオールラウンダーである。2022年9月、東京保険医協会理事会で私は「この行政訴訟の主任弁護士は喜田村先生しかいない」と主張し、全員一致で可決された。

弁護団には、在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件で喜田村先生の右腕だった二関辰郎先生も入り、牧田潤一朗先生、小野高広先生の4人体制となった。全員が自由人権協会の主要メンバーである。

(注/1)マイナンバー制度がプライバシー権を侵害し、違憲であるなどとして仙台、新潟、金沢、名古屋、東京、神奈川、大阪、福岡の各地で行われたマイナンバー関連の訴訟

3 私たちの訴え2023年2月22日の第一次提訴から

第三次提訴までに原告は1,415人となった。なお、当時、健康保険証の廃止は立法化されておらず、訴訟外の事案である。私たちの訴えの柱は、以下の2本である。

(1)オンライン資格確認義務のないこと、すなわち、患者から電子資格確認により療養の給付を受けることを求められた場合に、①電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認する義務がないこと、②電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることの確認ができるようあらかじめ必要な体制を整備する義務がないことをいずれも確認すること。

(2)「違憲・違法なオンライン資格確認を義務化した療養担当規則の制定や関連する政府の動きのため、保険医療機関の閉鎖を含めた対応を余儀なくされる可能性など、自己の職業活動、その継続に対する不安のため精神的苦痛を受けたこと」に対し、各原告に、金10万円を支払え。重要なことは、オンライン資格確認自体には反対してない点だ。

一方、政府発表の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」「医療DXの推進に関する工程表」では、情報保護の安全性に問題がある。この前提となるオンライン資格確認について、十分なシステムの構築をしないまま、違法な省令によって、保険医に対し強権的に「義務づけ」したことについて訴えている。

(つづく)

【プロフィール】
佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

東京歯科保険医協会 第52回定期総会開催のご案内

東京歯科保険医協会 第52回定期総会開催のご案内

東京歯科保険医協会第52回定期総会を下記の通り開催致します。

日時

 Ⅰ 総会
◆開催日時 2024年6月16日(日)午後2時30分~7時45分
◆開催場所 主婦会館プラザエフ(住所:東京都千代田区六番町15)
      ※交通:JR中央線四ツ谷駅麹町口より徒歩1分。東京メトロ丸ノ内線・南北線四ツ谷駅より徒歩2分

◆総会議事 午後2時30分~4時15分(7Fカトレア)
◆議  案
 第1号議案 2023年度活動報告の承認を求める件
 第2号議案 2023年度決算報告の承認を求める件
       (付・会計監査報告)
 第3号議案 2024年度活動計画案承認の件
 第4号議案 2024年度予算案承認の件
 第5号議案 選挙管理委員承認の件
 第6号議案 決議採択の件

Ⅱ 記念講演
◆時 間 午後4時30分~6時00分(7Fカトレア)
◆テーマ 
「2024年度改定を考察し、今後の歯科医療を展望する」
講師:坪田 有史 氏(東京歯科保険医協会 会長)

Ⅲ 懇親会
◆時 間 午後6時15分~7時45分(B2Fクラルテ)
※6年ぶりの懇親会開催です。会員であればどなたでもご参加いただけます。ゲストも多数お越しになりますので定期総会と記念講演の終了後には、ぜひお越しください。

【施設基準の届出】外安全1の届出に係る主な注意点/2024年度診療報酬改定情報

【施設基準の届出】外安全1の届出に係る主な注意点/2024年度診療報酬改定情報

 

2024年3月31日までに外来環1の施設基準を届出済み、かつ算定している医療機関

外安全1の研修については届出日から3年以内の再受講は必要なく、様式4にある「常勤歯科医師名と医療安全に関する研修の受講歴等」の「受講者名」欄に常勤歯科医師名を記載し、「講習名(テーマ)」欄に外来環1の届出時の受理番号を記載する。

届出に必要な様式は以下のとおり(外安全と外感染を同時に出す場合は別添7はそれぞれ必要だが、様式4は1部で良い)。

外安全1 別添7(PDF)

外安全1・外感染1 様式4

※リンクは変更される可能性があります。

東京歯科保険医協会に未入会の先生(歯科医師)は、ぜひご入会をご検討ください (▼入会資料請求をする)

退き際の思考 歯科医師をやめる/「一生働けるわけではない」医院継承の〝反省〟(中野多美子さん【前編】)

【 退き際の思考 歯科医師をやめる/「一生働けるわけではない」医院継承の〝反省〟】

中野多美子さん(元協会会員) ― 前編 後編はこちら

 今回から、歯科医師としての〝引退〟に着目した新たな企画を連載します。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院継承の苦労、現在の生活などを深堀りします。
 初回は、40年以上もの間、歯科医療に携わり、現在はあきる野市でワイナリー「ヴィンヤード多摩」の専務としてセカンドキャリアを歩む、中野多美子さん。反省する部分があったという医院継承や、異業種へ飛び込んだ現在の暮らしについて、2回にわたり掲載します。

―単刀直入に、歯科医師を引退しようと決めたきっかけは?

若い頃には想像がつかなかった身体的な衰えを実感したことです。例えば、腱鞘炎や視力の低下、また、海馬の衰えによる記憶力の低下です。はじめの頃は、身体の衰えを受け入れられなかったのですが、だんだん老化を認めるようになりました。若い頃にはなかった別のストレスが増え、疲労度も増してきました。そうしたことが積み重なり、真剣に引退を考えましたね。

―歯科医師の場合、視力の低下は特に影響が大きいと思います。

周囲の他科の先生方を見ていると、他科と比べて歯科は手先の動きや目の動きも多いため、引退は早い印象があります。


―周囲には相談されましたか。

具体的に周囲に相談したことはないですが、歯科医師会の先生方とお会いするときに、引退の話はよく話題に上りました。同期の先生方の中には、引退された先生、診療時間を短縮された先生が何人もいらっしゃいました。私だけが特別ではなく、年齢とともに出てくる話だと思いますから、受け入れるしかないと改めて感じました。

「関係がギクシャク…」医院継承を振り返る

―現在は医院を継承されているということですが、そのあたりのお話について教えてください。

継承は、医療人生の中で最後の大きな仕事です。一生働けるわけではありませんので、うまく引き継いでいかなければなりません。60歳頃から継承を考えはじめ、以前から後を継いでくれることになっていた娘夫婦に、具体的に相談していきました。本人たちは、もう少し外でキャリアを積みたかったようですが、お願いして医院に戻ってもらいました。
しかし、実際に医院に戻ってもらうと、診療スタイルの違いが明確に出てきました。「40年培ってきた自分のキャリアは間違っていない」という自負がありましたので、当人たちの診療スタイルを自分の方に近づけようとしました。それが軋轢となり、関係がギクシャクしていきました。スタッフも不安になって、退職される方もいました。今思えば、自分のキャリアに固執して、皆を苦しめたことを反省しています。医院を引き継ぐことと、診療スタイルをどこまで引き継ぐかという点は、棲み分けをもっと上手にできればよかったと思います。
そんな訳で、自分の影響力を無くし、新しい先生が診療しやすくするためには、速やかに引退して、一切口出しをしない、姿を現さないことに決めました。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」です。今は安定した医院の運営をしています。

―中野先生が担当していた患者さんはどうされましたか。

歯科は口腔内という身体に接触する治療ですので、患者さんと深く関わることが多く、引退をお伝えすると『先生辞めないで』と言われることが多々ありましたが、その時は「後を継いでくれる先生をよろしくお願いします」とお答えしました。継続して来院される方も、そうでない方も、新しい先生との相性もありますので、そこは継いでくれる先生にお任せしました。そうして新しい先生のスタイルの医院になってゆくと思います。
(つづく)

後編を読む)

バックナンバーはこちら(退き際の思考 歯科医師をやめる)

「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2023年12月1日号)

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

【新聞5月号】

【1面】

1.“複雑改定”歯科医療改善には不十分 6月1日施行迫る
2.在宅医療に特化 第2回新点数説明会第52回定期総会のご案内
3.第52回定期総会のご案内
4.探針
5.ニュースビュー

【2面】

6.理事会声明「理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する」
7.地域医療部長談話「患者を最期まで診るために求められること」
8.2024年度診療報酬改定 在宅医療の主なポイント


【3面】

9.2024年度診療報酬改定情報 歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

【4面】

10.経営・税務相談Q&A No.416「6月以降事業主は忘れずに対応を!定額減税①」
11.5月会員無料相談のご案内

【5面】

12.2024年度診療報酬改定新点数説明会
13.研究会・行事ご案内

【6面】

14.退き際の思考 歯科医師をやめる/(石田昌也さん・前編)「息子の方が優れていた」親心溢れる父の“潔さ”
幼少期から育んだ信頼関係で医院託す
15.2024年6月版「歯科保険診療の研究」/発送は6月末頃
16.「2024年改定の要点と解説」/正誤表は随時更新中 ぜひチェックを

【7面】

17.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望①/(佐藤一樹氏)第1回確認訴訟:提訴の決意と弁護団結成
18.締切間近/まだ、間に合う/春の共済申込期間 5月25日(土)まで

【8面】

19.2024年度6月施行診療報酬改定/カルテおよびレセプトに使用できる略称(抜粋版)
20.2024年4月1日以降の麻酔薬剤料、P処に係る特定薬剤、薬価等について
21.2024年4月協会活動日誌

【9面】

22.症例研究「2024年度診療報酬改定を踏まえて―クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象補綴物の縮小」

【10面】

23.教えて!会長!! Vol.82「自動練和型・接着性レジンセメントの点数アップ」
24.4月からすでに実施 2024年度の「個別指導」/指導通知が届いたら協会に連絡を
25.会員が見た診療報酬改定「現場との乖離を感じる」(小林顕氏)
26.理事会だより/2023年度第23回・2024年度第1回(暫定)理事会

【11面】

27.マイナ保険証の利用率 いまだ5.47% 厚労相、それでも「健康保険証廃止」と強弁
28.神田川界隈「食」(加藤開・副会長/豊島区)
29.会員が見た診療報酬改定/「現場との乖離を感じる」(川本弘氏)

【12面】

30.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第2回「『便利さ』を置き去りにした普及活動は無意味(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
31.窓口で「期限切れ」表示が―マイナンバーカード電子証明書等の有効期限に注意
32.健康保険証を残すべく―お手元の署名用紙は5月中に協会へ!

【13・14面】

33.春の共済キャンペーン

【教えて!会長!! Vol.82】自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

【教えて!会長!! Vol.82】自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

6月から接着性レジンセメントの保険点数が変わるそうですが、具体的に。

 6月1日施行の診療報酬改定で、特定保険医療材料の材料価格(使用歯科材料料)の見直しが行われ、接着性レジンセメントの保険点数が一部変更されます。6月1日施行前の5月末までは、歯科用合着・接着材料Ⅰのレジン系の点数は、ハンドミックスの標準型と自動練和型は、ともに17点でしたが、標準型は17点と変わらないものの、自動練和型が38点へと21点アップします(表1)。

※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

保険における接着性レジンセメントの定義は。

 表2に接着性レジンセメントの機能区分による定義を示します。標準型と自動練和型とは、この定義で分類されます。この分類が初めて提示された2018年度診療報酬改定の際、自動練和型の点数を上げる財源を確保するために標準型の点数を下げる可能性があると考えました。そこで厚労省に対して、標準型の点数の17点では、使用するセメントによっては、使用の度に赤字になります。しかし、歯科接着によるメリットを考え、修復、補綴する歯のため、そして患者さんのために接着性レジンセメントを選択していることを伝え、17点から点数を下げないよう訴えました。今次改定で、標準型の17点は変わらず、自動練和型が適正な評価に近づいたと理解します。しかし、特定保険医療材料の材料価格は、実勢価格とイコールであるべきなので、標準型の17点は理解できません。この不合理を正すため、次期改定に向けて検討し、行政に働きかける所存です。

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

現在、自動練和型のセメントは?

 表3に38点を算定できるセメントを示します。会員の先生方におかれましては、6月施行に向けて間接法による修復物・補綴物の装着用セメントを検討されることを望みます。

  東京歯科保険医協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2024年5月号掲載)

過去の「教えて!会長!!」はこちら

第1回新点数説明会の動画はコチラから(会員限定、デンタブックへの登録が必要です。)

1400人超参加…第1回新点数説明会の様子をチェック!

【教えて!会長!! Vol.81】2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

【教えて!会長!! Vol.81】2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

◆2024年度診療報酬改定で、補管の範囲が縮小されますね。

 今次改定で、クラウン・ブリッジ維持管理料(略称「補管」)の範囲が縮小されます。

具体的には3/4冠(前歯部の単冠)、4/5冠(小臼歯部の単冠)、全部金属冠(小臼歯および大臼歯の単冠)、レジン前装「教えて!会長!!」過去の連載はこちら金属冠(レジン前装チタン冠を除く)が補管の対象外になりました。なお、すべてのブリッジ、HJC、CAD/CAM冠、チタン冠、レジン前装チタン冠は、引き続き補管の対象です。

ただし、246月1日の改定施行前の531日までに補管を算定した前述の歯冠修復物は補管の対象となり、2年間の縛りがあります。

◆補管の対象を決めた根拠は、どのようなものだったのでしょうか。

 明確な根拠は分かりません。そこで、このスクラップで確保できる財源を調べてみました。22年(令和4年)の「社会医療診療行為別統計」を見ると、6月分における単冠の補管(100点)の算定は937576回で、この数字からHJC、CAD/CAM冠、チタン冠、レジン前装チタン冠の回数を引くと572855回となり、単純に12カ月分として12をかけると6874260回となります。補管の対象ではない歯科用金属アレルギー患者に装着されたクラウンの数を考慮すると、約680万の補綴物が今回の対象となり、このスクラップにより約68億円の財源が生まれたことになります。

今次改定の歯科改定率は、プラス0.57%と発表されましたが、賃上げ対応分を除くと技術料としての引き上げ分は、前回改定のプラス0.29%よりも低い数値であることが推測されます。さらに、その引き上げ分のうちマイナ保険証活用の推進などの目的で「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」が新設されたため、技術料の引き上げ分の予算はかなり少ないのでしょう。そこで、財源を捻出するために補管が縮小されたのではないでしょうか。

また、231215日開催の中医協総会の資料には、この縮小の根拠となっている論文を示しており、「臼歯部修復物の予後を調査した研究において、金属歯冠修復(4/5冠、メタルクラウン)の平均生存期間は3000日を超え、5年生存率は約8割であったとの報告がある」と記載されています。しかし、この記載のどこに、金属歯冠修復物の補管のスクラップの根拠があるのでしょうか。

なお、この論文は、991月から053月の期間に1カ所の歯科診療所(札幌市)において、修復物治療を受けた95人、649歯(臼歯)に修復物を用いた治療を行い、その後、定期健診やその他の治療で1回以上来院した患者の診療録に基づく後ろ向きな観察研究です。

このような研究デザインの結果を、歯科医療に大きな影響を与える改定のエビデンスとして採用していることに違和感があります。28年前の96年度診療報酬改定の際、2年間の再製作を縛る補管が新設されました。その背景は、財源確保でした。金属歯冠修復物の2年間の縛りがなくなることによる影響は注視する必要があります。補管が新設された当時の経緯を認識した上で、良識ある対応が望まれます。

過去の「教えて!会長!!」はこちら

 

                            東京歯科保険医協会

                            会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞41日号掲載)

6月1日施行  2024年度診療報酬改定情報:歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

6月1日施行 2024年度診療報酬改定情報:歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

 厚生労働省から6月1日施行の2024年度診療報酬改定に関する疑義解釈等が通知された。 今回は、協会に寄せられている質問の中で、特に多い施設基準の経過措置の考え方やベースアップ評価料などに対する主な疑義解釈(一部改変)を紹介する。

【歯科外来・在宅ベースアップ評価料】

厚労省のホームページに「令和6年度診療報酬改定における賃上げ」についての特設ページが開設された。必要となる届出は、関東信越厚生局東京事務所の専用メールアドレスにExcelファイルを添付し、提出する。なお、メールアドレスを持っていない等やむを得ない事情がある場合には、書面でも提出ができる。また、対象となる「その他医療に従事する職員」には、「専ら事務作業を行うもの」は含まれないことが示されている。

 【歯科外来診療感染対策加算】

2024年3月31日までに歯科外来診療環境体制加算1(外来環1)の届出をしている医療機関等においては、2025年5月31日までに再度届出をすれば良いことが示された。

 【口腔管理体制強化加算】

口腔管理体制強化加算(口管強)の要件となっている研修内容が明確になった。また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準を届け出ている場合には、2025年5月31日までに追加された研修内容(「根面う蝕の継続管理」、「小児の心身の特性」)のみを受講すれば良いことが示された。

【口腔機能指導加算(歯科衛生実地指導料)】

実地指の口腔機能指導加算(口指導)について、口腔機能発達不全症や口腔機能低下症の確定診断がなくとも、口腔機能管理の必要性があり、指導を実施した場合は算定でき、病名は「口腔機能管理中」とすることが示された。

 【「みなし期間」が設けられている主な施設基準】

【荻原博子さん連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

【荻原博子さん連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

前回の記事で、もし「マイナ保険証」が、利用者にも医療機関にも便利で安心できるものであれば、自然に利用率は右肩上がりになるはずと書きました。それなのに、不便さはそのままで、政府はさらに普及のための「アメ」のバラマキを加速します。厚生労働省は今年1月、マイナ保険証利用1件あたり20120円を医療機関に支給する制度を実施しましたが利用率は上がらず、3月時点の利用率は5.47%と低空飛行。

そこで、5月から7月にかけて「マイナ保険証利用促進集中取組月間」を設け、利用した人数の増加に応じて、診療所や薬局ならば最大10万円、病院ならば最大20万円の一時金を1回限りで支給します。病院も経営が苦しいところが多いので、たとえ1回限りでも魅力的かもしれません。けれどもその一方で、マイナ保険証を持ってこられてトラブルが起きると、その対処で業務が妨げられる恐れがあり病院としても痛し痒しでしょう。

◆能登では災害にマイナカードではなくSuicaを活用

マイナンバーカード(以下、マイナカード)の不便さは、今年1月に起きた能登半島地震でも証明されました。政府は、「マイナカードは災害の時に役に立つ」とさかんに宣伝していましたが、能登半島地震では、マイナカードではなくJR東日本が発行しているSuica(スイカ)が活用されました。理由は、「(NFC)Type―Bに対応したカードリーダーが用意できなかったため」と言っていますが、民間のJR東日本は即座に約350

台のカードリーダーと約1,8000枚のSuicaを提供できるのに、なぜ国民全員に持たせようとするマイナカードのカードリーダーを政府が用意できないのでしょうか。

デジタル庁の河野太郎大臣は、「災害ではマイナカードが活躍する」と言い、「マイナカードと一緒に避難して」と言っていましたが、地元からは「電気も電波もないのに、どうやって使うんだ」といった声が続々と上がりました。このカードがあって良かったという声を、私は聞いたことがありません。

ちなみに、厚労省は地震直後の事務連絡で、災害救助法を適用してマイナカードがなくてもオンライン資格確認を導入している医療機関・薬局で、患者の薬剤情報・特定健診情報などの医療情報を特例として閲覧できると通知しています。しかも、災害時の被災者の薬歴・既往症などの情報は、各保険者から提供される仕組みも確立されています。

ですから、カードを探している内に被害に遭う、あるいは最悪の場合、命を落とすリスクを考えたら、命を第一に即刻逃げるほうがいいのは明らかです。

◆意味のないマイナカードの実証実験

Suica導入が公表された約1カ月後、政府は横浜市内でマイナカードを使った避難所入所のための実証実験をしました。デジタル庁や神奈川県内の自治体職員約80人が参加して、避難所の入所手続きでどれくらいの差が出るのかを測ったのです。結果、紙への入力と比べ所要時間を約10分の1に短縮できたそうですが、平時に職員80人を業務として参加させる実証実験を大々的に行うことに、何の意味があるのでしょうか?

なぜなら、命からがら避難所に逃げ延びた人の中には、マイナカードを持っていない人も多い、持っていても使い方がわからない人もいる。顔に怪我をして顔認証がされなかったり、暗証番号を忘れてしまった人もいるでしょう。停電でカードリーダーが使えなかったり、そもそもネット環境もないところも多い。

こうしたリアルな被災地の状況を完全に無視し、本当の便利さを置き去りにし、「手書きより早い」などと宣伝するのはナンセンス。単に震災を宣伝材料に使っているだけと感じるのは、ひとり、私だけでしょうか?

◆「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号12面掲載

【全文を読む】第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

 

 

経済ジャーナリスト 荻原 博子

プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。

 

 

 

 

 

 

 

【荻原博子さん新連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

【荻原博子さん新連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

 経済ジャーナリスト・荻原博子さんによる「マイナ保険証の〝失態〞を追う〜このまま見過すことはできません〜」。運用開始以降、トラブルが相次ぐ〝マイナ保険証〞をテーマに、経済分野の専門家の視点からマイナンバー問題の根幹にあるものや、その行く末について10回にわたり解説していただく。

 昨年4月の利用率6.30%が、調査のたびに下がって12月には4.29%と8カ月連続の低下。さすがの政府も慌てて、医療機関に「マイナ保険証」の利用を促進させるためのアンケートを行いました。実はこのアンケートが、国からの「嫌がらせ」とも受けとれることから問題になっています。

これは「マイナ保険証利用促進状況に係るアンケートのお願い」というもの。「マイナ保険証」を普及させるために、どんな取り組みをしているのかを各医療機関に聞いています。何らかの取り組みをしているところは、そのままアンケートに答えて次に進むことができますが、問題は、何もしていないところ、もしくは面倒なのでなるべくマイナ保険証を使ってほしくない行動を取っているようなところは、このアンケートに答えられないこと。

普通のアンケートなら、「答えない」という選択ができるようになっています。しかし、このアンケートの画面には、答えない人が画面を閉じるマークや画面をスキップする機能がない。しかも、支払基金にレセプトを送る時にこのアンケートが出てくるので、答えないと、レセプト提出画面にたどり着けないのです。

◆不便さは改善せぬまま、利用率向上で金をばらまく

このアンケートは、各医療機関の「マイナ保険証」への取り組みを調べるというよりも、これによって間接的に医療機関から患者に「マイナ保険証」の利用を呼びかけさせたい意図があります。「マイナ保険証を積極的に使うよう呼びかけない医療機関に対して、レセプトを盾にとった脅しをかけている」と言う医師もいます。

その一方で、利用率を上げた医療機関に対しては、支援金を支給したり、診療報酬の加算も検討する。つまり、「マイナ保険証」を普及させるための、あからさまな「アメとムチ政策」です。こんなあからさまな方法を取らなくても、「マイナ保険証」が患者にも医療機関にも便利で安心できるものだったら、自然に利用率は右肩上がりになるはずです。

ところが、「マイナ保険証」を使おうとすると、顔認証がされなかったり、暗証番号を3回間違えると使えなくなるなどのトラブルや不便さがあり、そこで使えなくなった人が10割負担にならないように「被保険者資格申立書」を書いてもらうと、そこには保険証の有無や保険種別、保険者等名称、事業所名、保険証の交付を受けた時期、一部負担金の割合など6項目の書き込み枠があります。ほとんどの人は答えられないので、「□わからない」にチェックすると思いますが、「わからない」にチェックされたところは、後から医療機関が可能な限り調べなくてはならないのです。それが大変なので、最初から「マイナ保険証」など使わないでほしいと思っている医療機関が多いでしょう。

◆官庁でも使われない「マイナ保険証」

政府が税金を使って本当にやらなくてはいけないのは、「マイナ保険証」の利用率向上のために医療機関に対して「アメとムチ」を振るうことではなく、「これまでの保険証よりもずっと便利だ」とみんなが言うくらいに使い勝手を改善すること。また、いまだに健康保険証の情報が、住民基本台帳と一致しないケースが87万件もある(2024年1月28日、NHK報道)というのも論外です。

ちなみに、官庁での利用率は、管轄する総務省が6.26%、法務省が4.88% 、厚生労働省の第一共済組合が5.98%で第二共済組合は3.96%という状況。内閣府や農林水産省など4省庁が5%台、文部科学省や法務省4%台、外務省3.77%、防衛省2.50%という低さ(229日、第175回社会保障審議会医療保険部会)。自分たちが使わないものを、一般の病院や患者に使わせるのは筋違い。みんなが使いたいと思う便利なものにできないなら、いっそ廃止したほうが、税金の無駄遣いにならずに済むのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12【全文を読む】第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

◆「東京歯科保険医新聞」2024年4月1日号12面掲載

 

 

経済ジャーナリスト 荻原 博子

プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。

在宅医療に特化/第2回新点数説明会に500人参加

在宅医療に特化/第2回新点数説明会に500人参加

新点数説明会のお申し込みはこちら(予約専用サイト)
※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

池川裕子理事

協会は4月25日、2024年度診療報酬改定に伴う第2回新点数説明会をなかのZERO大ホールで開催し、会員やスタッフほか約500人が会場に足を運んだ。
計3回開催される新点数説明会のうち、在宅医療をテーマにした今回は、歯科訪問診療料など在宅医療に関する診療報酬改定のポイントを中心に解説した。歯科訪問診療料や、訪問歯科衛生指導料については2面で詳報しているのでぜひご覧いただきたい。
冒頭で挨拶した坪田有史会長は、「今次改定は複雑だが、診療報酬を学び、理解を深めてほしい」と呼びかけた。講師は、馬場安彦副会長、池川裕子理事が務め、参加者は熱心に耳を傾けた。終了後のアンケートには「カルテ内容が例示されており、わかりやすい」「スライドを用いて聞きやすかった」などの言葉が並んだ。

馬場安彦副会長


今次改定に伴う新点数説明会は残り1回。第3回新点数説明会は5月20日㈪、同じくなかのZERO大ホールで開催。6月1日施行に向け、疑義解釈や保険請求上の留意点を踏まえた内容を予定している。施行直前の開催ということもあり、すでに多くの申し込みがある。参加希望の方は、参加申し込みページからお早めにご予約いただきたい。詳細は協会までご連絡を(03-3205-2999)。

第1回新点数説明会の動画はコチラから(会員限定、デンタブックへの登録が必要です。)

1400人超参加…第1回新点数説明会の様子をチェック!

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

【談話】 患者を最期まで診るために求められること

地域医療部長談話「 患者を最期まで診るために求められること」

患者を最期まで診るために求められること

いわゆる「団塊の世代」が75歳を迎え、約3,500万人が後期高齢者となる。社会保障費の負担は増加し、少子化の進む日本では働き手不足などの問題が生じる。今次改定はこの「2025年問題」を迎える前の最後の改定である。さらには生産年齢人口が急激に減少し、85歳以上の人口が急増する「2040年問題」を見据え、高齢者になっても住み慣れた地域で生活を続けられるような地域包括ケアシステムのさらなる深化と推進のための改定とされている。

今次改定の在宅歯科医療において、歯科訪問診療料120分の時間要件が撤廃されたことにより診療時間を気にせず診療できるようになったことは評価したい。しかし「単一建物と同一建物の違い」や「医療保険と介護保険との給付調整」などの煩雑な算定方法が歯科訪問診療を行う上で大きな弊害になっている。歯科訪問診療料45の追加に伴い、人数区分が細分化され、より一層、算定方法が煩雑になってしまった。これらの改定で歯科訪問診療が推進されるかどうかは疑問である。

また、他職種との連携を推進させる観点から、他の保険医療機関等からの情報提供に基づき、在宅歯科医療に係る管理を行った時の評価である「在宅歯科医療連携加算」や介護報酬において、歯科医療機関との連携体制を築くことで介護事業所が算定できる「口腔連携強化加算」が新設された。

生活の質(QOL)の向上には、最期まで自分の口から栄養を取ることが欠かせない。さらに誤嚥性肺炎の予防のためには、専門的口腔ケアはもとより、日常的な口腔ケアを実施し、口腔内を衛生に保つことが必須である。そのためには口腔衛生管理に歯科医師が積極的に介入し、多職種との連携を図ることが不可欠である。歯科訪問診療を行っていたとしてもケアマネジャーや施設職員、栄養士などの多職種と連携しない歯科診療所や歯科訪問診療に全く取り組まない歯科診療所は地域包括ケアシステムの枠組みから大きく外れてしまうかもしれない。

多職種連携の第一歩として、まず文書を提供することから始め、次に顔の見える関係を築き、密に患者の情報を共有することを心掛けてほしい。また、歯科訪問診療を行ったことがない先生はまず一度、歯科訪問診療に行ってみよう。体制的に歯科訪問診療が難しいのであれば、歯科訪問診療を行う歯科診療所との連携を強化することでもよい。患者を最期まで診られるように、積極的に取り組んでほしい。

2024年425

東京歯科保険医協会

地域医療部長

森元主税

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

低い診療報酬本体の改定率

2024年度診療報酬改定は診療報酬本体がプラス0.88%で医療従事者の賃上げ対応分を除くとわずか0.18%の引き上げに過ぎない。歯科改定率はプラス0.57%で賃上げ対応分を除くと、引き上げ分は前回のプラス0.29%を下回る。

改定財源のほとんどが、医療従事者の賃上げを目的として新設された「外来・在宅ベースアップ評価料」などに割り振られた。この評価料の収入は全額賃上げ充当が要件であり、診療報酬の使途を限定していることは問題である。

さらに、マイナ保険証の利用促進を主目的とした「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」などが新設されたことによって、純粋な診療報酬の引き上げ分はさらに少ない。患者や医療機関の多くが望んでいないマイナ保険証推進に改定財源を費やされたことは歯科医療自体が軽視されたと感じざるを得ない。

継続性が担保されないベースアップ評価料

職員の確保、医療従事者としての正当な評価のために賃上げが必要であることは医療界の総意であり、賃上げ分の収入を職員に支払うことに誰も異議を唱えることはない。

しかし、対象者や賃上げ方法が不明瞭なうえ、職員全員を賃上げするための原資が担保されず、次期2026年度改定時に賃上げ分が確保される保証がないことは不合理である。

また、ベースアップ評価料の対象職員と対象外の職員との間で不要な摩擦が起きる可能性や、患者から会計窓口で説明を求められるなどの混乱が生じることも想像に難くない。

このような継続性が担保されていない財源に加え、煩わしさや不安感が強いため、届出・算定に二の足を踏んでいるのが現状である。賃上げを恒久的に行うための方策を示すべきである。

複雑な施設基準の増加

「かかりつけ歯科医機能強化型診療所(か強診)」が廃止され、「口腔管理体制強化加算(口管強)」が新設された。名称が変更されたものの、か強診の施設基準の要件が引き継がれ、口腔機能の管理を一部評価したに過ぎない。一方、歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に分離されるなど、施設基準が増加し複雑になった。

また、エナメル質初期う蝕処置、根面う蝕処置が、管理料と処置料に改編されるなど、複雑な体系となり、算定要件などの熟知が求められる改定となった。

危険な歯冠補綴物の保険外し、選定療養に反対

クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象から歯科用貴金属材料(金パラ・銀合金)の単冠が外れ、2年以内に再製作が必要になった場合でも再製作にかかる費用が請求できることになったが、再製作の必要性を判断する歯科医師の診断がより重要となった。

歯科用貴金属材料を使用した歯冠補綴物が補管の対象から除外されたことは、金属材料を使用した歯冠補綴物が選定療養の仕組みに導入される、いわゆる「保険外し」につながることが危惧される。保険適用の歯冠補綴物を選定療養とすることについて、断固反対する。

今次改定で、先発医薬品と後発医薬品の差額の一部を選定療養として患者負担とする取扱いが10月から施行されることについても撤回を強く求めるものである。

適応拡大や要件緩和など評価すべき項目

CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の適応拡大、ブリッジ支台の5番にレジン前装金属冠の適応、接着ブリッジの支台歯1歯のみの延長ブリッジ適応、歯科訪問診療1の20 分の時間要件撤廃、義歯新製6カ月以降から義管が算定可能に緩和、実地指に対する口腔機能指導加算の新設、咀嚼能力検査・咬合圧検査が6カ月に1回から3カ月に1回に要件緩和、薬局への情報提供依頼に電話、FAX、メールが認められ、診療情報を医科へ返書した場合の算定が可能に、生活歯髄切断と抜髄を行う際に使用した麻酔薬剤料が算定可能になるなど、当協会や全国保険医団体連合会で要望していた項目が反映されたことは一定評価できる。

診療報酬本体の大幅な引き上げが必要

診療報酬は公定価格の中で公的に提供されることから、国が医療の質に責任を持つべきであり、それを担保するものである。

しかし、今次改定の改定率では物価高にも対応できず、歯科医療の改善のための診療報酬改定が不十分である。物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減と歯科医療費の総枠拡大、診療報酬本体への大幅な改定率の配分をあらためて求めるものである。国民に必要な医療を提供できる診療報酬改定を切望する。

2024年4月11日

2024年度第1回(暫定)理事会