経営・税務相談コーナー

書類等の保存期間について/機関紙2015年9月1日号(№546号)より 

書類等の保存期間について/機関紙2015年9月1日号(№546号)より 

質問① 診療に関する記録、その他の書類の保存期間はどうなっているのか。

回答① カルテ(診療録)をはじめ、保存が義務づけられている書類等として、X線フィルムや歯科技工指示書の控え等があります。左の別表にまとめて示しますのでご参照ください。カルテの保存期間は治療完結の日から起算して5年、カルテに添付する書類も同様に五年となっています。その他の帳簿、書類、記録等は2~3年の保存期間が定められています。なお、これらの期間は、治療完結の日から起算することとされていますのでご注意ください。別表の「患者に提供した文書等の写し」は、保険診療上、患者に対し医学管理料や情報提供料等として診療報酬請求できる行為を行うに当たって作成される文書です。主なものとしては、歯科疾患管理、歯科衛生実地指導、新製有床義歯指導、訪問歯科衛生指導、クラウンブリッジ維持管理等の文書です。カルテの保存は5年ですが、歯科診療に過誤や不満があったとして患者から訴えられた際、カルテがないとどのような治療行為を行ったか証拠が残らないことになり、歯科医院側に不利になる可能性もあります。一応の目安として、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間である十年を経過するまで保存しておくと、より安心といえます。その他、詳細は協会事務局までご連絡ください。

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質問② 従業員の雇用や税務といった診療以外の内容に関わる書類は、何年保存すればよいのか。

回答② タイムカードのほか、労働条件通知書や解雇通知書と言った雇い入れに関する書面や退職(解雇を含む)に関する書類といった雇用に関する書類の保存期間は労働基準法では3年と定められています。なお、ハローワークに提出する雇用保険の書類(雇い入れ時と退職時の書類)は退職後4年の保存となっていますのでご注意ください。また、税務に関わる帳票類は税法で7年と定められています。もし、税務調査があった場合、過去3年分の帳票類を調査されるケースが多いですが、状況によっては最大で7年にさかのぼって調査されますのでご注意ください。

マイナンバー制度で歯科医療機関はどうなる?/機関紙2015年8月1日号(№545号)より ≪協会顧問税理士 荒川俊之監修≫

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マイナンバー制度で歯科医療機関はどうなる?/機関紙2015年8月1日号(№545号)より

≪協会顧問税理士 荒川俊之監修≫

◆そもそもマイナンバー制度とは?

質問① そもそもマイナンバー制度とは何か。

回答① 国民一人ひとりに、唯一無二の12ケタの個人番号(マイナンバー)を付番して、行政上の業務において個人を識別させるものです。また企業・官公庁などの法人には13ケタの法人番号を付番します。このマイナンバー準備手続きとして2015年10月以降に住民票がある住所の各世帯にマイナンバーの「通知カード」が郵送されます。通知カードには「氏名」「住所」「生年月日」「性別」「マイナンバー」が記載されます。なお、2016年1月からこの制度の利用が開始される見通しです。

 

質問② この制度の目的は何か。

回答② 政府は①行政運営の効率化、②公平・公正な社会の実現、③国民の利便性の向上―と説明しています。具体的には、①行政機関や地方公共団体において情報の照合、転記、入力等の手間が削減され国民に対してこれまで以上に対応する時間がとれる、②個人番号により、所得や行政サービスの受給の状況を把握しやすくなり、不正を排し、適正な課税やサービス受給につながる、と説明しています。このほか、「2017年1月から行政機関が保有する自己の情報を確認でき、自己に合ったサービスのお知らせを受け取ることができる」、という説明もしていますが、正式には現時点で未定です。

 

質問③ どういった場面でマイナンバーが利用されるのか。

回答③ 現段階では「社会保障」「税」「災害対策」の3分野に限定しています。また政府の説明では法人番号はマイナンバーと違い、誰でも自由に利用でき、例えば取引先情報の登録や更新作業の効率化、取引きでの添付書類の削減で事務効率が良くなるとしています。

 

◆ 秋以降に歯科医療機関で何が起きる?

質問④ 医療機関にはこの制度がどう関わるのか。

回答④ 現段階で最も大きな影響は、従業員の税務や労働保険・社会保険の手続きの書類に従業員の個々のマイナンバーを記載することが義務付けられていることです。そのため、パートやフルタイムを問わず従業員のマイナンバーを「取得」することがまず求められています。なお、従業員本人だけではなくその方が扶養している家族分も含めて取得します。

 

質問⑤ 個人立の医療機関で税務関係の書類を税務署に提出する際に院長(個人事業主)個人のマイナンバーを記載する必要はあるか。

回答⑤ 個人事業主の場合、事業主ご自身の確定申告書類には記入が必要ですが、それ以外には記載する必要はありません。

 

 

質問⑥ 従業員からマイナンバーを教えてもらうだけなら、簡単なのではないか。

回答⑥ 先生(事業主)が取得したマイナンバーが間違いなく従業員本人のものであるという本人確認が必要とされています。具体的には通知カードだけではなく運転免許証やパスポートなどで間違いなく本人のマイナンバーであることを確認するというものです。さらに、歯科医療機関を含めた事業者は法律上、「個人番号関係事務実施者」と位置付けられ、安全管理措置を行いながらマイナンバーの事務を行うのです。つまり「マイナンバーが絶対漏れないような対策を講じなさい」ということです。先生はマイナンバー取得のほか「利用提供」「保管」「廃棄」まで行うとされています。また、正当な理由なく特定個人情報ファイルを外部に提供した場合は「4年以下の懲役、または200万円以下の罰金(またはその併科)」という非常に重い刑罰が科されます。先生方は非常に大きな責任を負わされていると言わざるをえません。

 

質問⑦ マイナンバーの「利用提供」「保管」「廃棄」とは何か。

回答⑦ 税務署などの関係官庁に書類を提出する際にマイナンバーを記載することを「利用」といいます。この際に注意が必要なのが、目的外利用ができないことです。すなわち「回答③」でご紹介した「社会保障」「税」の手続きに限って利用できるわけであり、マイナンバーをそのまま従業員番号として利用するなどはできません。また「保管」に関しては、マイナンバーなどの個人情報を実際に取り扱う「事務取扱担当者」やそれを監督する「責任者」の選定が義務となっています。さらにマイナンバーが記載された書類をカギ付きロッカーに保管する、パソコンに入力する際は作業する場所が間仕切りやディスプレイに覗き見防止ガードを付けるなどの措置を講じなければなりません。また、利用目的が終了または法定保存期限(税務書類はおおむね7年)が来たら必ず廃棄するなどの措置が必要です。こうした措置についてかかるコストは、各事業所の持ち出しとなっています。

 

質問⑧ 当院は顧問税理士に税務を委託しているため関係ないのでは。

回答⑧ 税理士に委託する場合でも院長が委託先を監督する責任がありますのでご注意ください。

 

質問⑨ 当院は従業員を雇用していないが、関わりがあるか。

回答⑨ 講演会の講師や原稿執筆で報酬を受け取る先生は自身のマイナンバーを報酬の支払い者に伝え、その支払い者が先生の本人確認を行うことになります。

知っておきたい雇用のルール②結核健診の報告義務と医療安全の院内講習/機関紙2015年7月1日号(№544号)より

知っておきたい雇用のルール②結核健診の報告義務と医療安全の院内講習/機関紙2015年7月1日号(№544号)より

 

質問① 保健所から「結核定期健康診断実施状況報告書」という書類が届いた。当院は常勤の職員が1人いるが、特に定期結核健康診断は行っていない。どのように対応すればよいか。

回答① 医療機関に対して、法令により「年1回の定期結核検診の実施」と「保健所への定期結核検診実施状況の報告」が義務付けられています。また定期結核健診の内容は胸部エックス線検査等があります。この健診は医療機関の管理者含め全職員が対象です。ご質問のケースでは、常勤の職員を雇用しているため、いわゆる「職場健診」を行っていると思われます。職場健診では胸部エックス線検査を行いますので、その結果を医療機関の管理者が把握すれば定期結核健診を実施しているとみなされます。またパート職員で主婦の方の場合、ご主人の会社の職場健診を受診しているケースもあると思われますが、その中の胸部エックス線検査の結果を結核定期健康診断実施状況報告書に記載しても問題ありません。なお、定期結核健康診断の実施義務について罰則はありません。しかし、結核を感染させる心配がないことを確認することは、患者の健康を守るという医療機関の社会的役割に照らして重要なことですので、できる限りの協力をすることが望ましいでしょう。

 

質問② 「医療機関は医療安全に関する講習会を院内で開催しなければならない」という話を聞いたが、本当か。当院は歯科医師が私1人、そして職員1人と非常に小さいため、日々の診療に追われ、講習会を行う余裕はないのだが、どうすればよいか。

回答② 医療法では、医療機関のすべての職員に、安全管理に関する内容の研修を年2回行うことが義務付けられています。研修の例としては、「医療の専門的知識や技術に関する研修」「法や倫理の分野から学ぶ医療従事者の責務と倫理」「患者・家族や事故の被害者から学ぶ医療安全に関する研修」などがあげられます。また、研修内容(開催日時、出席者、研修項目)を記録するとしています。なお、無床診療所においては、外部の研修を職員に受講させて代用することができます。当協会経営管理部では医療安全に関する研修会を今年度では3回開催する予定です。こうした機会を積極的に活用されてはいかがでしょうか。

 

※関連法令等:回答①:感染症法第53条の2、同法施行令第12条、同法第53条の7、同法施行令第27条の2、同法53条の4、労働安全衛生法施行規則第44条。回答②:医療法第6条の10、同法施行規則第1条の11、平成19年3月30日医政発第0330010号。

知っておきたい雇用のルール①傷病手当金と所得補償保険の活用/機関紙2015年6月1日号(№543号)より

知っておきたい雇用のルール①傷病手当金と所得補償保険の活用/機関紙2015年6月1日号(№543号)より

 

質問① 当院は個人立で、最近常勤の従業員が五人に増えた。知人から「常勤が五人以上になったら社保に加入しなければいけない」という話を聞いた。具体的にはどういうことか。

回答① 個人立の場合、常勤従業員が5人以上となった場合、法令上、社会保険(健康保険と厚生年金保険)に加入させることとされています。また、医療法人の場合、従業員の人数に関わらず、理事長である先生も含め社保に加入するとされています。保険料は賃金の約27.4%相当額で、これを医療機関と従業員で折半します。このため、従業員の中には加入を嫌がる方もいます。単に「法律で決まっているから」という観点ではなく、例えば、厚生年金の加入で老後や障害を負った際の公的年金が増えるなどのメリットを説明し、理解を得られるよう努めてください。

 

質問② 健康保険(社保)に加入した場合、何がメリットなのか?(前問の続き) 

回答② 健康保険は国民健康保険(国保)との大きな違いとして、傷病手当金という給付があります。この給付は、従業員が業務外の病気やけがのために仕事を休んだ日が連続して3日以上あり、4日目以降の休業日に賃金の支払いがなかった場合に給付されるものです。給付額は賃金の2/3相当額で、支給期間は最長で1年6カ月です。また、健康保険の被保険者の保険料支払い期間が1年以上継続している場合、退職後も引き続き傷病手当金が受給できる場合もあるので、メリットは大きいといわれています。また、健康保険には出産手当金という給付もあります。出産予定日前42日(多胎妊娠の場合98日)、および出産後56日のいわゆる産前産後休業の期間については、賃金の支払いがなくても法令上問題ありませんが、出産手当金を受給してもらい、生活保障をすることができます。なお、その給付額は賃金の2/3相当額です。

 

質問③ 当院は個人立で常勤従業員が4人のため、健康保険に加入せず、国保に加入してもらっている。健康保険の傷病手当金に相当するような制度はないか。

回答③ 協会では「第2休業保障制度」(団体所得補償保険)という制度があります。これは加入者(先生や従業員が対象)が病気やケガで免責期間を超えて休業した場合に1年(原則)を限度に給付が出るものです。労働基準法上、業務外の病気やケガで休んだ場合、賃金の支払いがなくても問題はありません。しかし、こうした制度を活用することで、賃金の代わりに給付金を支払い、従業員の生活を保障することができます。たとえば、25歳~29歳までの歯科衛生士の場合、1口当たりの月額保険料は1000円で、月額補償は9万1000円となっています。また、医療機関が従業員全員をこの制度に加入させ、保険料を負担した場合は福利厚生費として経費処理ができる場合があります。ぜひ、顧問税理士ともご相談の上、ご検討ください。所定の給付要件など制度の詳細については協会までお気軽にお問合せください(TEL 03―3205―2999/経営管理部)。

知っておきたい雇用のルール①従業員の労災保険加入/機関紙2015年5月1日号(№542号)より

 

質問① 当院には常勤で試用期間中の歯科衛生士とパート従業員がいる。これらの従業員は労災保険に加入できるのか。

回答① 労災保険は、公務員や船員保険の被保険者などの一部の例外を除き、すべての労働者に適用されます。したがって、雇用形態や試用期間中か否かを問わず労災保険の対象となります。

 

質問② 当院が常勤の従業員を雇用した際にハローワークでこの従業員の雇用保険の加入手続きをとったが、パート従業員は週の所定労働時間が20時間に満たないのでハローワークでの手続きを行っていない。労災保険ではどのような手続きをとればよいか。 

回答② 労災保険は、歯科医院を含め適用事業所に使用される者は法律上当然に被保険者となりますので、従業員一人ひとりについて、雇用保険のような資格取得届の提出は必要ありません。ご質問のケースでは、毎年6月1日~7月10日まで労働保険料(雇用保険料と労災保険料を合わせたもの)の前年度分の確定保険料の申告と当年度分の概算保険料の申告を行っていると思います。その手続きの際に手続き書類にその事業所の賃金総額を記入する欄にパート従業員や試用期間の方の賃金(見込み)総額を記入し、賃金総額に応じた労働保険料を納付することになります。なお、新規開業で従業員を雇用するようになった場合には、10日以内に労働基準監督署に「労働保険 保険関係成立届」を提出し、その後ハローワークで「雇用保険 適用事業所設置届」を提出するほか、雇用保険の適用となる従業員について資格取得届を提出します。また、労働保険料については、その年度の概算額を前納することになりますのでご注意ください。毎年6月1日~7月10日まで労働保険料の前年度分の確定保険料の申告と、当年度分の概算保険料の申告を行います。

 

質問③ 従業員が後片づけの際に誤って滅菌器で火傷を負った。痕が残りそうなほどひどい火傷である。どう対応すればよいか。

回答③ ご質問のケースでは、火傷と業務との因果関係が認められるため、業務災害にあたると考えられます。したがって健康保険ではなく、労災保険を使って治療します。具体的には、労災指定医療機関に受診してもらい、この労災指定医療機関を通じて「療養補償給付たる療養の給付請求書」(業務災害用)を労働基準監督署に提出することになります。なおこの書類には事故の発生状況など事業主側が記載する欄もありますので、速やかに記載してください。また、近隣に労災指定医療機関がないなどの事情がある場合は通常の医療機関を受診します。そこでは健康保険証は使わずに、いったん治療費全額を支払い、領収書を受け取ってください。さらに「療養補償給付たる療養の費用請求書」(業務災害用)に領収書を添付し、従業員または医療機関から労働基準監督署に提出します。その後に、この従業員に治療費が還付されます。なおこれらの書類は労働基準監督署から取り寄せることも可能ですし、東京労働局のホームページからのダウンロードも可能です。

職員雇用と医事・労働法諸手続き/機関紙2015年4月1日号(№541号)より

職員雇用と医事・労働法諸手続き/機関紙2015年4月1日号(№541号)より

質問① 新しく従業員を2人(歯科医師と歯科衛生士)雇用した。医療関連の法令上、どのような手続きが必要か
回答① 新宿区内の医療機関を例に挙げると、まず保健所に「診療所、歯科診療所又は助産所開設届出事項一部変更届」を提出します。届け出は雇い入れから10日以内です。そこでは雇用前と後の職種ごとの従事者数を届け出ます。歯科医師を雇用した場合は氏名や免許番号、就職日の記載が必要なほか、臨床研修等修了登録年月日、医院で診療する日時も届け出ます。添付書類として免許の原本とコピーが必要です。
また、歯科衛生士については氏名や免許番号、就職日の記載が必要です。歯科医師の場合と同様、添付書類として免許証の原本とコピーが必要です。都内の保健所での手続きはどこでもおおむね同じです。
次に、保険医療機関として雇用した歯科保険医の届け出が必要です。届け出先は関東信越厚生局の東京事務所です。「届出事項変更(異動)届」に今回雇用した歯科保険医の氏名、医籍登録番号等を記載し、保険医登録票の写しを添付します。なお、手続は郵送でも行えます。また、歯科衛生士は原則的に届出不要ですが、すでに歯科外来診療環境体制加算(外来環)などの施設基準の届け出を行っている場合、法令上の考えでは歯科衛生士の変更に伴って施設基準の届け出を再度行うことになるのでご注意ください。

質問② 今回初めて従業員を雇用した。1日8時間で週5日勤務の常勤。雇用保険の加入は必要か。
回答② 雇用保険の加入は必要です。具体的にはハローワークに雇用保険の「資格取得届」を提出します。期限は採用月の翌月の10日までです。なお、この手続書類はハローワークから取り寄せることも可能で、ホームページからのダウンロードもできます。手続きに必要な添付書類は、前職での雇用保険加入者であれば雇用保険の被保険者証、出勤簿、雇用契約書の写しなどが必要です。また、手続きについては外部委託が可能。具体的には社会保険労務士や労働保険事務組合と呼ばれる団体です。いずれも有料ですが、事務作業が軽減されます。医科の先生方が加入する東京保険医協会では労働保険事務組合として業務を受託しています。ご検討される先生は当協会までご連絡ください。

質問③ 前問の続き。1日4時間で週4日勤務のパート職員は雇用保険の加入手続きは必要か。
回答③ 1週間の所定労働時間が20時間未満の方は雇用保険に加入できませんので、手続は不要です。

質問④ 全問の問②、③の続き。健康保険と厚生年金(社保)の加入は必要か。なお当診療所は個人立で常時従業員が2人勤務(常勤とパート各1人)の状態である。
回答④ 健康保険と厚生年金(社保)は強制加入ではありません。しかし、従業員が5人以上の場合、常勤の方は加入となります。なお、医療法人の場合、従業員数にかかわらず、理事長を含め常勤の方は全員加入となります。また、パート職員の場合は加入になるケースや加入とならないケースが考えられますので、詳しくは協会までご相談ください。

未収金や家族治療などの税務上の対応について/機関紙2015年3月1日号(№540号)より

未収金や家族治療などの税務上の対応について/機関紙2015年3月1日号(№540号)より

 

質問 治療費の一部または全部を支払っていない患者さんがいる。その未収分は確定申告ではどうなるのか。

回答 患者さんからは、その代金をもらっていなくとも、未収金(売掛金)として売上に計上する必要があります。会計処理は、実際の現金収支の時期とは関係なく、役務(サービス)の提供があった時にその対価を計上するのが原則です。そのため、支払を受けていない対価についても将来の代金回収を見越して売上に計上しなければなりません。売上に計上した未収金を回収した際には、その代金は、すでに売上に計上されていますので、会計処理としては未収金の回収としてその残高を減らすことになります。

 

質問 未収金が回収できない場合の会計処理はどうなるのか。 

回答 回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒損失(貸倒金)として損金経理することができます。しかし、この会計処理を行うためには、前記の回答と同様に貸倒となるべき代金が売上に計上されている必要があります。さらに、代金が回収できなくなった根拠が必要です。具体的には、内容証明等を利用し、何度も回収に努めたことや、患者と音信不通となり、回収不能となったことを説明できる証拠などを採った上で、損金処理する必要があります。

 

質問 従業員や家族の歯科治療を行った。会計上の取り計らいはどうすべきか。

回答 対象者によって取り計らい方法が変わってきますが、いずれの場合も、いったんは窓口負担金の徴収は原則必要です。従業員を保険で診療し、窓口負担金分を医院としての福利厚生とするときは、窓口負担金額を保険収入として売上に計上し、その同額を福利厚生費の両方に計上します。友人などの場合は、同様に保険収入と接待交際費の両方に計上します。収入と支出の両方に同額が計上されるため所得金額は変わりませんが、会計処理は必要です。また、家族に対して保険で診療した時は、窓口負担金額を保険収入として計上しますが、その同額を経費とすることはできません。自由診療で家族を診療した場合は、棚卸資産の家事消費となりますので、原価相当分または通常いただく代金の七割(3割引)のどちらか高いほうを自由診療収入に計上することになります。

 

質問 患者さんから領収書の再発行を求められている。どう、対応すべきか。

回答 医療費の領収書は、医療費控除として所得税の還付を受けることができる証書です。再発行するということは、還付を受けることが可能な書類を二重に発行することになります。そのため領収書の再発行を行う場合は、その領収書が再発行であることがわかるように明記する必要があります。

近年では「領収証の再発行は致しかねますので、大切に保管して下さい」などと表記している医療機関も少なくありません。

新型インフルエ ン ザによる休業と賃金の扱い/機関紙2015年2月1日号(№539号)より

新型インフルエ ン ザによる休業と賃金の扱い/機関紙2015年2月1日号(№539号)より

質問① 新型インフルエンザに罹患して休業した従業員はいつごろ復職させればよいか?

回答① 基本的に、熱などの症状がなくなってから2日目までが外出自粛の目安といわれています。しかし完全に感染力がなくなる時期は明確でないことから、可能であれば発症した日の翌日から7日を経過するまで外出を自粛することが望ましいとされています。もちろん、復職については医師の指導が前提であると考えられます。なお、季節性のインフルエンザの場合、学校保健安全法施行規則第19条で「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」を出席停止と定めており、こうした基準を参考にして医院の実情に合わせてご判断ください。医院において、こうした基準を踏まえて休業と復職の取り決めを予め定めたほうがよいでしょう。

なお、感染の機会を減らすため、従業員に手洗いやうがい、マスク着用、咳エチケットの周知、診療所の清掃を徹底することが望ましいでしょう。

 

質問② 新型インフルエンザに罹患した従業員が休んだ場合、賃金等についてどのようなことに注意したらよいか?

回答② 新型インフルエンザにより、医師等の指導で労働者が休業する場合は「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられます。したがって、医院での病気休業の取り決めに則って対応することが考えられます。

例えば、年次有給休暇を取得して療養してもらったり、あるいは「特別の休暇」として無給でありながら欠勤扱いにしない、などの対応が考えられます。

前記の回答①で触れたインフルエンザによる休業・復職の取り決めを定める際にはその期間の賃金の取り扱いも合わせて定め、実際に休業者が出る前に労使双方で合意しておいたほうがトラブルの防止につながるでしょう。

 

質問③ 発熱があり、新型インフルエンザかどうか未確定の時点で休業した場合や、同じ職場の従業員(または家族)が感染したが従業員本人に症状は出ていない状態で、念のため休ませたような場合、賃金等の取り扱いはどうなるか?

回答③ 新型インフルエンザかわからないが発熱があるので従業員が自主的に休む場合は、前記の回答②と同様、医院の病気休業の取り決めに則って対応してください。

一方で、例えば37℃以上の熱があることなど、一定の症状があることで一律に休ませるなど、医院側の判断で従業員を休ませるような場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり、労働基準法で定められた休業手当の支払いが必要です。また、感染者と近くで仕事をしていたがインフルエンザ様症状がない従業員を医院側の判断で休ませた場合も同様です。なお休業手当は原則として平均賃金の60%以上とされています。

※参考:厚生労働省「新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場のQ&A」(平成21年10月31日)。厚生労働省ホームページ「インフルエンザQ&A」ほか。

「患者紹介」トラブルとリース契約の注意点/機関紙2015年1月1日号(№538号)より

「患者紹介」トラブルとリース契約の注意点/機関紙2015年1月1日号(№538号)より

 

質問 「スマートフォンを使った患者紹介を行う」ということをうたった業者とトラブルになっている先生がいる…。といった話を聞いた。どういったことか。

回答 協会に相談が寄せられている事例では、「スマートフォンを使って患者紹介」を謳い、紹介サービス提供の前提として関連機器とされる物件のリース契約を結ばせ、契約締結後にその業者が「倒産」してしまったそうです。その結果、業者からのサービス提供がなくなったにも関わらず、リース契約は継続しているので、リース料金は今後も払い続けなければならない、という状況に置かれています。くれぐれも業者の甘い言葉に惑わされないよう、リース契約の原則的な取り扱いにご注意ください。

 

質問 それでは、そもそもリース契約とはどういったものか。

回答 「リース」といえば一般的には「ファイナンス・リース」を指します。これは、ユーザー(賃借人)が選択した物件を、リース会社(賃貸人)がユーザー指定のサプライヤー(販売会社)から取得して、それを賃貸するものです。このため、機器の導入で多額の経費が必要な場合でも、リースを活用することで月々一定額のリース料金の支払いで対応できることになります。このため、新規開業やリフォームの際、単年度の投資額を抑えることが可能となります。また、タイムリーに最新鋭の機器を利用できたり、金融機関の借入枠を温存できるといった特徴があると言われています。

 

質問 リース契約のデメリットはあるのか?

回答 リース契約の原則として、①リース料金はリース会社が全額回収する、②ユーザーは中途解約ができないという大原則があります。最初のご質問のケースではこれらのデメリットにより、当初約束されたサービスが受けられない一方で、リース料金の支払義務が残ったものと考えられます。このほか、ユーザーによるリース物件の保守・修繕義務がある、リース会社のリース物件危険負担、瑕疵担保責任が免責されていることなどが挙げられます。リース契約締結の際は、契約内容をよく確認することをお勧めします。

 

出産・育児休業期間の給付金/機関紙2014年11月1日号(№536号)より

出産・育児休業期間の給付金/機関紙2014年11月1日号(№536号)より

 

質問 当院女性スタッフが妊娠し、出産ぎりぎりまで仕事をしたいと申し出てきたが、そのようにしてよいか。

回答 労働基準法では「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない」と定めています(第65条第1項)。したがって、スタッフご本人が働きたいと申し出た場合は就業させても問題ありません。

 

質問 このほどスタッフが出産した。早く職場復帰してほしいが、いつ頃から復帰してもらえば問題はないか。

回答 労働基準法では、「産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」と定めています(第65条第2項)。これはご本人から休業の請求の有無にかかわらず適用されますのでご注意ください。なお、同じ条文では「ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差支えない」と定めていますので、主治医の診断書などで職場復帰を判断していけばよいと考えられます。

 

質問 産前・産後の休業を取得した場合、その賃金を支払わなくても問題ないか。また支払わない場合、代替策はないか。

回答 産前産後の休業期間については、賃金を支払わなくても問題ありません。また、そのスタッフが健康保険の被保険者の場合健康保険制度の中の出産手当金という給付金を請求できます。これは賃金の2/3相当額が支給されるものです。もし休業期間中に賃金が一部支払われていた場合、2/3相当額と賃金の差額が支給されます。なお、国民健康保険の場合、保険者にもよりますが、出産手当金制度がないことが多いようです。

 

質問 出産後、女性スタッフ(正社員)が育児休業を申し出てきた。育児休業期間中に国から給付が出るそうだが、どのようなものか。

回答 雇用保険の被保険者が育児休業を取得する場合、育児休業給付金という給付金を子どもが1歳になるまでの間、請求することができます。なお、2014年4月以降の育児休業については給付額が休業前の賃金の67%が支給されます(休業後180日より後は50%)。なお、支給要件としては休業前2年の間、欠勤等がなく通常の勤務をした月が12ヵ月以上あることが必要です。また、休業期間中、賃金が支払われた場合、給付金が減額、あるいは不支給となります。また、休業期間中も雇用保険の被保険者、すなわち医院に雇用されていることが前提となりますので、十分注意してください。

産前産後の休業や、育児休業期間中の生活保障については、先生とスタッフがこうした制度の利用についてよく相談することをお勧めします。生活保障について安心して休業できるよう配慮することで、女性スタッフが医院に定着しやすくなるものと考えられます。

なお実際の請求にあたってはハローワークや協会けんぽ、あるいは当協会まで必ずご確認ください。

職員への有給休暇付与と使用者側の時季変更権/機関紙2014年10月1日号(№535号)より

職員への有給休暇付与と使用者側の時季変更権/機関紙2014年10月1日号(№535号)より

 

質問 今年四月から勤務している正社員のスタッフから有給休暇の請求があった。「入職半年したら有給休暇を与えなければいけない」という話を聞いたことはあるが、この従業員は入職以来、病気で何日か休んでいる。実際に有給休暇を与えないといけないのか?

回答 労働基準法では、「その雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して有給休暇を与えなければならない」と定めています(第39条1項)。したがって、ご質問のケースでは入職後6カ月間の所定労働日に対しての出勤率が8割以上であれば、有給休暇を与える必要があります。なお、出勤率の算出の際、「全労働日」に含まれない日や、出勤しなくても「出勤日」として扱う日がありますのでご注意ください。

 

質問 正社員スタッフに有給休暇は何日間与えなければならないか。

回答 入職後6カ月経過した時点で、出勤率が8割以上の場合は10日です。以降、1年を経過するごとに11日、12日と与えていくことになります。なお、1年ごとに出勤率が8割以上であることが要件となります。

 

質問 パートのスタッフから有給休暇の請求があった。有給休暇は与えないといけないのか?

回答 パートのスタッフであっても、有給休暇は与える必要があります。入職後6カ月間の出勤率が8割以上、その後は1年ごとの出勤率が8割以上という要件は同じです。なお、週の所定労働日数が4日(もしくは年216日以上)を超える方、または週の所定労働日数が30時間以上の場合はたとえパート待遇であったとしても、正社員と同じ日数を与えることになりますのでご注意ください。

 

 

質問 あるスタッフが有給休暇を請求してきた。しかし、休む予定日がちょうど患者の予約が詰まっており、実際に休まれたら業務が進まない。どうすればよいか?

回答 有給休暇を取得することそのものを拒むことはできませんが、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季の取得に変更することができます(労働基準法第39条5項但書)。具体的には、「この日は患者さんの予約が詰まっているから、別の日にしてほしい」といった話し合いを持つことが認められるということです。

「無断欠勤職員の「退職」の扱い・退職者の書類保存期間について」/機関紙2014年9月1日(534号)より

「無断欠勤職員の「退職」の扱い・退職者の書類保存期間について」/機関紙2014年9月1日(534号)より

 

質問 無断欠勤している従業員がいる。電話もつながらない。すでに引っ越している様子で連絡がとれない。退職手続きを進めたいと思うが、どうすればよいか。

回答 東京地方裁判所では、無断欠勤期間を2週間で懲戒解雇を有効とする判決を出したことがあります。そのため、就業規則に懲戒解雇規定が存在していれば、懲戒解雇が可能となる場合もありますが、懲戒解雇をするという意思表示を従業員へ到達させる必要があります。行方が分らない場合は、意思表示を到達させる方法として公示送達というものがありますが、この方法は、裁判所の手続きを利用するもので手続きは煩雑です。そこで、簡易な方法として、「欠勤の理由も転居先も使用者に伝えずに長期間無断欠勤をしていること」を根拠として、従業員から退職の意思表示があったとみなした上で、依願退職扱いとして対応する方法がよいでしょう(就業規則にそのような定めがあれば特に手続の必要はありませんので、記載しておくとよいでしょう)。ただし、この方法は解雇に該当しませんので、就業規則で退職金の支給を定めていた場合は、支給しなければなりません。しかし、従業員と連絡も取れずにいることから支払を保留にした形で、退職金を保管する対応がよいでしょう。退職金の支払い時効は5年です。時効が成立すれば、従業員の退職金の請求権は消滅しますので支払う必要はなくなります。

 

質問 退職した従業員の履歴書、タイムカード、賃金台帳等の保管義務は何年か。また、保管する場合の留意点について。

回答 労働基準法第百九条は「使用者は、労働者の名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない」と定めています。そのため、退職者の個人情報についても、法令上、3年間の保存義務があります。万一に備え、それ以上の期間にわたり保管するのであれば、損害賠償債務の時効期間である10年を目安に保管するという考えもあります。また、厚生労働省「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(解説)」では、退職時における個人情報の適正な取扱いを確保するための留意点が紹介されており、これによると、「退職者の個人情報については、賃金台帳等の一定期間の保存を定めた労働基準法第109条など、他の法令との関係に留意しつつも、利用目的を達成した部分についてはその時点で、写しも含め、返却、破棄又は削除を適切かつ確実に行うことが求められます。仮に利用目的達成後も保管する状態が続く場合には、目的外利用は許されておらず、また、その後も継続して安全管理措置を講じなければならない」としています。つまり、いつまでも保管しておくことは適切ではなく、3年経過した時点で書類やデータ等の個人情報について保管の必要があるか否かを検討し、長くとも10年を目安として廃棄等を判断する必要があります。

「税務調査について最近の動向」/機関紙2014年8月1日(533号)より

「税務調査について最近の動向」/機関紙2014年8月1日(533号)より

 

質問 税務調査は、いきなり税務署職員が医院にやってくるようなイメージがあるが、どうか。

回答 税務調査は大きく分けて2つあります。1つは国税局査察部が行うもので、突然やって来ます。目的は証拠物件や書類を押収することであり、裁判所から捜査令状を取っているため断れません。しかしこれは悪質な脱税の疑いがあるケースに限られます。もう1つは税務署職員等に付与された質問検査権(国税通則法第74条の2)によるものです。こちらは原則として納税者等に事前に調査の日時を通知し医院等で行われ、「任意調査」とも呼ばれます。なお、先生方には診療や家庭の事情もあり、税務署が指定した日時では都合がつかない場合もありえます。その際は調査日の変更を申し出ることは可能です。

質問 税務調査(任意調査)の通知を受ける際に注意することはないか。

回答 国税通則法第74条の9では、税務調査(任意調査)を行う際に税務職員は一定事項について予め納税者等に通知することが定められています。具体的には、「調査を行う場所」「調査の目的」「調査の対象となる税目」「調査の対象となる期間」「調査の対処となる帳簿書類その他の物件」などがあり、これらをすべて通告しないといけません。そもそも「任意調査」は、「される」のではなく「させる」のが基本です。「なぜ調査をするのか」「何を調べたいのか」その説明を求め、調査の範囲を限定させることが大事です。つまり、予め通知した事項に反する調査はできません。例えば、「過去3年分の調査」と通知を受けたのであれば、調査中に税務署が「過去五年分について調査したい」ということは原則的にできません。したがって、先生方におかれては、通知内容についてきちんと把握する必要があります。協会では事前通知チェックシートも用意していますので、お気軽にご相談ください。

質問 つい最近、「顧問税理士に通知すれば税務署は納税者に税務調査ができるようになった」という話を聞いた。どういうことか。

回答 今年、国税通則法と税理士法の一部改正があり、今年7月1日以降の税務調査については、納税者があらかじめ税務代理人(顧問税理士)に同意すれば税務署がその顧問税理士に対して通知すれば税務調査ができるようになりました(改正前は納税者と税務代理人の双方に通知するものとされていました)。具体的には、確定申告の際に税理士に出す「税務代理権限証書」に同意するかどうかを記載することになります。なおその際に、事前通知に関して顧問税理士に同意をした場合、万が一税務署の通知で調査対象の期間を特定しなかった等の不備があった場合においても、納税者である先生がその通知内容で同意したことになり、調査対象の期間が際限なく広がる、といった可能性もあります。したがって、事前通知への同意をしないという対応をとるか、あるいは同意する場合でも、回答2でお伝えした、事前通知するべき内容や協会作成のチェックシートについて、顧問税理士と共有して普段から税務調査に関し相談しておくことをお勧めします。

「有給休暇の 計画的付与の活用について」/機関紙2014年7月1日(532号)より

「有給休暇の 計画的付与の活用について」/機関紙2014年7月1日(532号)より

質問 当院ではスタッフが2人しかいない。ところが、2人が同じ日に有給休暇を取りたいといってきた。2人で同時に休まれたら困ってしまう。どうすれ    ばよいか。

回答 有給休暇は従業員の請求する時季に付与するのが原則ですが、「事業の正常な運営を妨げる場合においては他の時季にあたえることができる」と定めています(労働基準法第三十九条四項)。ご質問のケースでは、スタッフが二人とも休まれては医院の「正常な運営」は確保できないと考えられ、他の時季に取得することを求めても問題はないと考えられます。なお、代替勤務者がいる場合は、必ずしもこうした対応が適切とはいえないこともあります(弘前電報電話局事件<CODE NUMTYPE=UG NUM=9310>最二判昭六十二・七・十)。いずれにせよ、有給休暇の付与はトラブルになりやすい問題ですので、双方がよく話し合うことが肝要です。

 

質問 フルタイムの従業員に有給休暇を十日以上与えた上に、お盆休みと年末年始の休みを与えたら、当院のような小さな医院は運営面で苦し      い。特例のようなものはないか。

回答 医院側と従業員の過半数代表者が書面で協定を締結した場合、有給休暇を計画的に付与することができます。具体的には、有給休暇のうち5日間については従業員が自由に取得できる分として確保し、5日間を超える部分については計画的に付与します。その際、全従業員を同じ日に取得する一斉付与のほか、個人別に付与する方法などがあります。ご質問のケースでは、先に紹介した有給休暇を計画的に医院で一斉に付与することを検討してはどうでしょうか。具体的には、お盆休みや年末年始の休みのうち例えば5日間について有給休暇を計画的に付与し、残りの日を医院が恩恵的に休暇を与える扱いにするということです。その際、の注意点は、入職して6ヶ月未満で有給休暇が発生していない方や有給休暇の残りが5日以下の方の取り扱いです。この場合、一斉休暇により医院が休診となり、賃金カットを受けることになりますので、休業手当(賃金の6割以上)の支払い等の方策をとる必要があります(昭63.3.14  基発150)。

 ※なお実際の運用にあたっ ては、協会経営・税務・ス タッフ教育部や社会保険 労務士等に、予め相談を。

 

 

 

 

 

「労働時間の考え方について」/機関紙2014年6月1日(530号5面)より

6時間勤務してもらうと45分の休憩時間を与えないといけないという話を聞いた。この場合、実労働時間は5時間15分になるということか。また、勤務時間によって休憩時間を与えなくても良い場合があるとも聞いたが、労働基準法上、どのように考えればよいか。

労働基準法で定める労働時間とは休憩時間を除いて、事業所の命令下におかれた時間のことであり、休憩時間を含めた拘束時間全体のことではありません。また、労働基準法第34条第1項では「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と定めています。したがってご質問のケースでは、45分以上の休憩時間を挟んで合計6時間の労働時間(所定労働時間)を定めることになります。ちなみに、所定労働時間が6時間以内の場合は休憩時間を与えなくてもよく、8時間を超える場合には、60分以上の休憩時間を与えることになります。


当院では十二時三十分から二時までの一時間三十分を昼休みにしている。一時間半ある昼休みのうち、最初の三十分は従業員に電話番をしてもらい、あとの一時間は院長である自分が出ようと思う。この場合、休み時間の電話当番の三十分の扱いは労働基準法に照らして、どのような対応を考えればよいか。

先生が従業員に対し、医院の昼休み時間のうち30分間の電話番を命じた場合、法令上、この時間は休憩時間ではなく、労働時間とみなされます。したがってご質問にあるようなケースでは、対応策が2つ考えられます。1つはその日の拘束時間のなかで別の時間帯に30分の休憩時間を与えることです。もう1つは電話番をした30分間について賃金を支払うことです。なお、1日トータルの実労働時間が8時間を超えてしまった場合、8時間を超過した分についてはいわゆる「時間外労働」となり、2割5分以上の割増賃金の対象になりますので、十分注意してください。


当院では10時に診療時間が始まる。このため、従業員に交付する労働条件通知書では所定労働時間のスタートを10時にしている。しかし、実際には9時45分までに出勤してもらい、診療の準備をしてもらっている。先日ある従業員から15分の分の賃金を請求された。この要求に応えないといけないか。

最高裁の判例によれば、勤務時間か否かの判断は「使用者の指揮命令下に置かれたもの」とみなされるかどうかで決まり、「労働契約、就業規則(略)の定めのいかんにより決定されるべきものではない」としています。したがって先生が診療開始15分前から診療準備の作業を命じていれば労働時間とみなされ、賃金支払いの対象となります。

「試用期間中の社会保険の扱い/本採用見送りの場合の対応は」/機関紙2014年5月1日(529号5面)より

四月に、いわゆるフルタイムの従業員を雇用した。試用期間を三ヶ月としているが、その期間は社会保険や労働保険に加入させなくてもよいか?

たとえ試用期間であっても、フルタイムの場合は社会保険、労働保険のいずれも加入が義務となります。ちなみに、雇用保険は週の所定労働時間が20時間以上の場合に被保険者となりますので、フルタイムのほかパートタイムの方でも加入となるケースもあります。


試用期間の間は残業代の対象外とした場合、問題があるだろうか?

試用期間中に法定労働時間を超える労働をした場合、残業代(2割5分以上の割増賃金)が発生します。なお、法定労働時間とは1日で8時間、1週間で40時間(従業員9人以下の歯科医院では44時間)とされています(いずれも休憩時間を除外して計算)。


3ヶ月の試用期間中に、有給休暇を与える必要はあるか?

有給休暇は、雇い入れ後6ヶ月を経過した時点で出勤日数が所定労働日の8割以上出勤した場合に与えることになります。雇い入れ6ヶ月未満で労災以外の傷病により出勤できなかったような場合、その日の賃金を支払わないことは差し支えありません。


3ヶ月の試用期間を設けているが、どうもこの従業員は当院には向かないようである。試用期間中であれば解雇しても問題ないか?

試用期間中であっても、雇い入れ後14日以上経過した場合は即時解雇ができません。通常の解雇と同様、30日以上前に解雇予告をするか、30日分以上の賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です。また、雇い入れの期間にかかわらず、合理的な理由がなく、社会通念上、相当と認められない場合は解雇が無効となります(労働契約法第16条)。もっとも、一方的に雇用関係を解消する解雇という形ではなく、労使双方での話し合いも重要です。すなわち、医院の業務に向いていない点などを説明し、双方が合意して雇用関係を円満に解消する退職という形をとることが望ましいのではないでしょうか。


試用期間終了をもって本採用の見送り(解雇)をする場合、または従業員が辞める旨の申し出があった場合はどのような注意点があるか?

本採用を見送る(解雇する)場合は、正当な理由が必要です。例えば、業務上のミスや勤務態度の問題(無断欠勤、遅刻など)といった具体的な理由をあげ、事業主側としても再三注意したものの改善の見込みがないことなどを書面にして本人に通知するべきです。具体的には、試用期間が3ヶ月の場合、最初の2ヶ月が経過した時点で解雇理由を書面に記載し、1ヶ月後の試用期間満了を持って解雇する旨を通告するという方法が考えられます。また、従業員から退職の申し出があった場合、従業員側から退職願を提出してもらうことが必要です。

2014年4月からの消費税増税/その対応と留意点について

機関紙2014年2月1日(526号2面)&3月1日号(527号3面)より

4月からの消費税増税/その対応と留意点について

4月より消費税が5%から8%へ増税されました。協会に寄せられた相談などを中心に、消費税増税への対応と留意点について、解説を交えたQ&Aにしてご紹介します。消費税の納付義務がない診療所でも関わりがありますので参考にして下さい。

経費編

3月末までに4月分のテナント料を支払うが、消費税は何%になるのか。

8%になります(5%のまま据え置ける経過措置の適用がない場合)。

前払い費用は、実際に支払った時期ではなく、役務(サービス)の提供があった時に費用計上します。したがって、3月中に四月分のテナント料を支払ったとしても費用計上は四月となり消費税は八%となります。


2014年3月1日に1年間のコピー機のメンテナンス契約をするとともに、1年分のメンテナンス料金を支払った。消費税はどうなるのか。

原則として8%です。

消費税法基本通達(9-1-5)では、メンテナンス契約など物の引渡しを要しない契約については、役務の全部を完了した日が譲渡の時期とされています。事案では役務の全部が完了する日は2015年2月28日となり、原則として新税率である8%が適用されます。しかし、契約または慣行により、業者が施行日の前日(2014年3月31日)までに売上に計上している場合は、旧税率5%を適用して差し支えありません。請求書等を見ても分からないときは業者にお問い合わせすることをお薦めします。


材料の注文を3月中に行った。業者は3月中に出荷したが、納品は4月以降になった場合、消費税は何%か。

業者の対応により変わります。

基本的に、新税率か旧税率かが決まるのは「商品の引渡日がいつか」によって変わります。「引渡日」の判定基準は「出荷日」「納品日(種類・数量等を点検して受け取る)」などいくつか種類があります。そのため、その業者が普段「出荷日」に売上を形状している場合は五%で、「納品日」に売上を計上している場合は8%となります。請求書を見てもわからない時は、業者に問い合わせることをお薦めします。


3月中に納品を受けた材料が、不良品であったため4月以降に返品する予定である。このような場合、消費税はどうなるのか。

5%となります。

3月中に引渡が完了しているため税率は5%となります。それを4月以降に返品したとしても消費税は支払った分の5%で計算されます。なお、同一の商品と交換する場合は、問題ありませんが、他の商品に変更する場合は、不良品を返品した後、4月以降に新しい商品を購入したことになりますので、商品の購入にかかわる消費税は8%になります。


収入編

4月1日以前に仕入れた歯ブラシを4月以降に販売した。

8%となります。

新消費税法は、施行日以後に行われる資産の譲渡、および課税仕入れについて適用されます。したがって、4月1日以前に仕入れた歯ブラシについての消費税は5%であっても、医院が患者へ販売する消費税は8%となります。


月中に自費治療の契約を結んでおけば、治療が4月以降であったとしても消費税は5%でよいのか。

8%となります。

3月中に治療契約を結んでいたとしても、4月に治療すれば消費税は8%となります。よって、契約の際にその旨を伝えたほうがよいでしょう。


4月中に治療契約を結び見積書に基づく治療費を3月中に受領した。自費の補綴物のセットは月になった。消費税は何%になるか。

8%となります。

口腔内にセットした日が役務の提供日となります。3月中に代金を受領していたとしても、売上に計上するタイミングは口腔内にセットをした日となり、消費税は8%となります。なお、3月中に受領した代金はいったん「前受金」「預り金」等として、会計処理は口腔内にセットした時に「売上高」へ振替えすることになります。


3月にインプラントの埋入まで行い4月に上部構造を入れた。このような場合、消費税はどうなるか。

8%となります。

消費税法基本通達(9-5-1)では、物の引渡しを要する場合、譲渡の時期は『目的物の全部を完成して相手に引き渡した日』となっています(図1参照)。 したがって、4月に上部構造を入れたときが完成となり、その時点で売上に計上しますので、消費税は8%となります。

インプラント図1:タテ247pix


3月中にインプラント六本の治療契約をした。すべての治療が終わったのが5月となったが、うち2本については3月中に完成している。

3月中に完成した部分については5%で、4月以降に完成した部分については8%(解説にともなう条件付き)。

消費税基本通達(9-1-8)では、一つの治療契約であっても一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度、その割合に応じて代金を受け取る特約がある場合、部分完成として収入に計上できることになっています(図2参照)。よって、契約において治療の都度その割合に応じて治療費を請求している時は、その治療した日が3月であれば5%となります。

インプラント図2:ヨコ300pix


3月中に治療が終了した。患者の都合もあり代金の支払は4月になった。消費税は何%となるか。

5%となります。

代金の支払いは4月になりましたが、治療の終了は3月であることから消費税は5%になります。会計上、医院では治療の終了にともない「未収金」「売掛金」等として売上に計上する必要があります。4月以降、患者から受領した代金は「未収金」「売掛金」の回収となります。


3月中に治療が終了する予定であった。しかし、治療が長引いてしまい終了が4月になってしまった。

4月に治療した部分は、8%になります。

3月中に治療が終了しない場合は、消費税が8%になってしまいます。医院の都合により治療が長引いた場合は、トラブルに発展する可能性もありますので、事前に説明するなどの注意が必要です。契約書には「(税抜き)○○○円」と表示して対応を行うことをお薦めします。その上で治療が4月以降になったときは、8%の消費税を頂くことになることを伝えておいたほうがトラブルを防げるといえます。


余った歯科用金属材料を買い取り事業者に買い取ってもらっている。4月1日以降は、消費税が増税される分、金属の買い取り代金は高くなるか。また、消費税納税が免除されている診療所でも同じか。

価格については事業者の判断となります。

もともと、歯科用金属材料の買い取り価格には、消費税が含まれています。したがって、消費税課税事業者、消費税納税が免除されている業者にかかわらず買い取り額は同じです。そのため、消費税が増税されれば理論上は買い取り価格も上がることになりますが、買い取り価格の設定は事業者の判断となります。詳しくは事業者にお問い合わせ下さい。なお、買い取ってもらった金属の代金は、診療所としては、雑収入に計上する必要がありますので注意して下さい。


3月中に矯正治療の契約をして治療が始まった。矯正装置の装着は4月以降となる。消費税はどうなるか。

矯正装置の装着時に全額を受領する場合は8%です。それ以外の方法で受領する場合は、以下の解説に示す日付による消費税率となります。

国税庁では、矯正装置の装着時に全額を受領しない場合、収入の時期を次のようにしています。

Ⅰ 期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて、所定の基本料等を請求し受領することとしている場合には、その期間が経 過した日又はその役務の提供を了した日。

Ⅱ 支払日が定められている場合にはその支払日。

Ⅲ 支払日が定められていない場合には、その支払を受けた日(請求により支払う場合にはその請求の日)。

Ⅳ 支払日が矯正治療を完了した日後とされているものは、矯正治療を完了した日。


昨年の9月末までに矯正治療の契約をした(経過措置)。矯正装置の装着は4月以降となった。その後、調整料が発生するが、消費税はどうなるか。

矯正装置の装着については5%で、調整料については8%です。

5%のまま据え置ける経過措置により、矯正装置の装着にかかわる治療費は5%となりますが、その後の調整料は8%です。


価格表示編

4月1日以降すべての価格表示を変更する必要があるか。

価格の表示に関する特別措置があります。

消費税率引き上げ前後では、料金表の変更が間に合わない等の事情があると思います。そのため、4月以降も旧税率に基づく価格表示が残る場合や、前もって表示価格を変更することにより、消費税が上がる前に新税率に基づく価格表示をすることが一時的に認められています。その際は「表示価格の一部は、旧税率5%(もしくは新税率8%)となっています。レジにて精算させていただきます」等の掲示を行う必要があります。旧税率と新税率を併用した価格表示も可能ですが、患者に誤解を与えかねないので、どちらかに統一したほうがよいでしょう。


4月以降、消費税増税分を据置こうと思うが。

据置くことに問題はありませんが、いくつか留意点があります。

据置いたとしても消費税率は8%となりますので、本体価格を調整する必要があります。また、消費税転嫁対策特別措置法では、消費税分を値引きする等の宣伝や広告は禁止されています。そのため「消費税増税分据え置いています」「消費税還元」「消費税増税分は当診療所が負担します」などの宣伝広告やキャンペーン等を行うことはできません。


今回の消費税増税に伴い自費治療の価格調整を行う際の注意点を。

便乗値上げはいけません

他に合理的な理由がないにもかかわらず、税率の上昇以上の値上げをすると、便乗値上げと見なされる場合があります。ただし以下のようなケースは便乗値上げに該当しません。

Ⅰ あるものについては据置きとする反面、あるものについては3%を超える値上げとなっていても事業全体の値上げ率が税率変更に見合った転嫁となっている。

Ⅱ 消費税納税が免除されている診療所が、仕入価格に含まれる税額を転嫁する。

消費税増税に関する経過措置について

機関紙2013年11月1日号(523号5面)

消費税増税に関する経過措置について

2014年3月31日までに仕入れた薬剤・歯科材料等を使用して同年4月1日以降に自費の治療を行った場合、消費税の適応関係はどうなるのか。

新消費税法は2014年4月1日以後に行われる資産の譲渡、および課税仕入れ等について適用されます。したがって、4月1日以後に行われた自費治療等の課税売上については新税率(8%)が適用され、薬剤・歯科材料等の課税仕入れについては3月31日以前に仕入れているので旧税率(5%)に基づいて計算することになります。


レセコン等の保守契約において、2013年3月1日に同日から2年間のメンテナンス契約を結び、②年間の料金を一括して支払った場合、消費税の適用関係はどうるか。

役務の提供に係わる資産の譲渡等の時期は、引渡完了の日または役務の全部を完了した日となります。ですから、4月1日以後に行う役務の提供に関しては、原則として新税率が適用されます。ただし、契約または慣行により2年分の対価を支払っており、事業者が継続して当該対価を支払った時に必要経費に計上している時は、3月31日までに経費計上したものについては、旧税率が適用されます。


当市では、水道料金の検針を2ヶ月に一度行っていますが、2014年3月26日(前回検針日)後の使用量について、2014年5月26日に検針し水道料金が確定した場合、経過措置の適用関係はどうなるのか。

電気、ガス、水道水及び電気通信役務で、2014年4月30日後に初めて料金が確定するものについては、確定した料金を定められた数式で計算した部分に旧税率が適用されます。これによるとご照会の料金の全額について旧税率が適用されます。


通勤定期代や映画・演劇等の入場券購入についてはどのように取り扱われるのか。

2014年3月31日以前に通勤定期代、映画・演劇の入場券、プロ野球の年間予約席等を購入し料金を支払った場合は旧税率が適用されます。これはチケットレスサービスも同様です。


国税通則法改正 および 提出文書について

No.289(2013年8月1日号:520号5面)

税務署からの文書による問合せが多くなったと聞きますが、なぜでしょうか?

今年一月一日に国税通則法が改正され、税務調査の手続きについて、次の大きく三つの点が明らかになりました。①調査を行うにあたって原則として事前通知をしなければならなくなったこと、②調査が終了したときも書面で行われ、その内容説明が義務付けられたこと、③帳簿等の提示や提出を求めることができることになったことです。
上記の手続きが明文化されたことで、税務署員は、調査開始から終了までの事務手続きに、これまで以上の時間を費やすこととなり、その結果、調査の件数が減少しています。そのため、国税庁は、納税者のところにきて行う調査のほかに、文書での照会や説明会を増やすことで現象を補おうとしています。
具体的な紹介文は、以下の二つの文書があげられます。①「書類の提出について」。これは、納税者が提出した確定申告書に源泉徴収票、社会保険料控除証明書、医療費の支出に関する領収書、青色申告決算書、収支内訳書、財産及び債務の明細など書類が添付されていない、もしくは計算に誤りがあると思われるので、その確認のために提出を促すものです。②「平成二十四年分決算書(収支内訳書)の内容についてのお尋ね」。これは、不動産所得があるがその経費が特に高い、または不動産所得があると思われる納税者に対して行われています。その内容は、例えば、収入の内訳や租税公課・修繕費・借入金利子・雑費などの内訳を細かく記載するように求めています。今後、このような文書が多くなることも予想されます。

税務署より前記の書類が郵送されてきたが、これに応じなければならないか?

結論から言えば、申告納税方式を採る所得税・消費税などは、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」(国税通則法)とされていることは変わりませんから、これらの文書を提出するか否かは納税者の自主的な判断に委ねられることは言うまでもありません。これらの文書は、改正国税通則法により、調査ではなく行政指導にあたることが明確に区分されました。この行政指導は、納税者の自発的な見直しを要請するもので、文書提出を義務づけるものではありません。ただ、納税者が誤りに気づいてこれらの書類を提出し、自ら修正申告した場合には、過少申告加算税は課されず、無申告加算税、不納付加算税については軽減(一五%または一〇%が五%)されるというアメもあります。
また、例えば財産及び債務の明細(合計所得金額二千万円を超える納税者がその年十二月三十一日現在の財産と債務の明細を記載する文書で、将来の相続税のための資料とされる)などは、提出しなくても税額に影響はないと言えるので、提出しなくても差支えありません。
しかし、注意すべきは、この行政指導に応じなければ、税務調査になるかもしれないということです。これは、あきらかな税務署の威嚇または脅しです。国税庁は納税者が自主的に文書を提出することで、調査件数の減少を補おうとしているのです。そうであるなら、税務署の威嚇・脅しに負けないで、税務調査を受けて申告内容の正しさを堂々と主張することも選択肢の一つになると思われます。
  (協会顧問税理士・荒川俊之)

定年引き上げにはどのように対応すれば…?

No.285(2013年2月1日号:513号5面)

当医院の定年は60歳としていますが、2013年の4月から法律が変わると聞きました。どのように変わるのですか。

急速な高齢化の進行に対応するため、年金受給開始年齢までは、意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、2013年4月1日から施行されます。そのため定年の年齢を65歳未満に定めている事業主は、次のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を導入する義務があります。①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止―この3つの中からひとつを選んで従業員が65歳まで働けるようにするもので、事業所の規模にかかわらず全ての事業所に適応されるものです。また、当分の間、60歳以上の従業員がいない事業所であっても措置を講じる必要があります。したがいまして、就業規則等の見直しが必要になってきます。事業主からすると①と③の実施は困難であり、②の継続雇用制度の導入が一番現実的な方法と考えられます。継続雇用制度とは、定年こそ60歳を維持しますが、従業員が望んだ場合、その後65歳までは雇用すると言うものです。この制度には、「勤務延長制度」と「再雇用制度」の2種類があり、勤務延長制度は、定年になった従業員を退職させずに、そのまま引き続き雇用する方法です。一方、再雇用制度は、定年になった従業員に、一度退職してもらいその後に改めて、契約を結んで雇用する方法です。なお、継続雇用制度では、再雇用を希望する従業員全員を、雇用するのが原則となっています。

定年を65歳以上に引き上げると奨励金が出ると聞きましたがどのような制度ですか。

「中小企業定年引上げ等報奨金」という制度です。先に説明した「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に対応する措置を講ずる上で、中小企業の事業主においては、その負担が大きいことから65歳以上への定年引上げ、希望者全員を対象とする70歳以上までの継続雇用制度の導入、または定年の定めの廃止を実施した場合に、その実施した措置や事業所の規模に応じて最高で120万円が支給される制度です。申請に関する相談及び申請手続きは各都道府県にある「高齢・障害者雇用支援センター」で受け付けています。ただし、この制度は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の施行にともない廃止となりますので、2013年3月31日までに定年の引き上げ等を導入しなければなりません。ご利用を検討される場合は、お早めに相談窓口である「高齢・障害者雇用支援センター」にご相談ください。なお、奨励金は、国の助成制度のひとつです。受給事業主は、国の会計検査の対象となります。必要に応じてハローワーク等の機関に照会が行われ申請内容等の調査が行われる場合がございます。【お問い合わせ先 高齢・障害者雇用支援センター 03-5638-2284】

診断書の交付義務について

No.287(2013年5月1日:516号5面)

30歳代の男性患者が「左上1番にインプラントを入れたが、具合が悪いので診てもらいたい。前医には行きたくない」と言って来院した。診ると動揺があり排膿もみられた。患者は診断書を書いてほしいと言うが、どうしたらよいか。前医の批判になるとまずいので安易に書けないと思う。何軒かの歯科医院を廻ったが、どこも診断書を書いてくれなかったらしいので、患者さんのことを思えば何とかしてあげたいと思う。

診断書は、「歯科医師が診察の結果に関する判断を表示して、人の健康上の状態を証明するもの」(「病院・医院経営管理質疑応答集〈第1巻〉第121号」1996年8月25日発行(第一法規))です。また、歯科医師法第19条2項に「診療をなした歯科医師は、診断書の交付の求があつた場合は、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とあります。患者さんは、動揺もあり排膿もあって、大変困っているのでしょう。先生に診断書を書いてもらって、それを持って前医と損害賠償の話をしようと思っているのは明らかであり、それだけに先生の書いた診断書が「前医の批判になるとまずい」と感じられたことは歯科医師として当然のことと思われます。

このような場合に、歯科医師は診断書交付を拒否できるのかという問題です。「正当な事由」があれば拒否できるようですが、どういうことが「正当な事由」に該当するのでしょうか。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」(http://www.bengo4.com/)に登録する比護望弁護士は、「診断書が詐欺、脅迫等不正目的で使用される疑いが客観的状況から濃厚であると認められる場合、医師の所見と異なる内容等虚偽の内容の記載を求められた場合、患者や第三者などに病名や症状が知られると診療上重大な支障が生ずるおそれが強い場合など特別の理由が存する場合に限って、拒否すべき正当事由が存在するとして交付義務を免れることができる」と東京簡裁判決を紹介しています。また、別のホームページでは、「現在の症状が前医医療行為の過誤を原因とする旨の記載を求められたような場合は拒否できる」ことが紹介されています。

このようにみると、診断書交付を拒否できる「正当な事由」はかなり狭くなると思われます。ただ、何軒かの歯科医院は現に交付していないのですから、先生も同様に交付しないとしても構わないのでは、と言えるかもしれません。

そこで、通常の診断書の書式は特に法律で定められていないので、診療した時点での歯牙破折など、現状の診断名のみ記載した無難な診断書は、問題になることが少ないと思われます。間違えても患者の言いなりの診断書や問診からの推察など、裏づけのない想像を記載すると後々問題になるので慎むべき行為です。

ほかにも診断書交付義務に関する相談が複数寄せられ、単なる法律の解釈に止まらない相談もありました。一緒に悩むことしかできませんが、お困りの際は協会までご相談下さい(TEL 03―3205―2999:経営・税務部)。

短距離通勤・バス通勤の交通費はどうなる

№284(2012年:1月1日号:512号6面)

交通費を全額支給として従業員を募集した。採用したところ通勤手当としてガソリン代を請求された。自宅と当院の距離は約1㎞で、スクーターで通勤したいという。支払うべきなのか。なお、当院には就業規則はなく、通勤手当について明確な規定はない。

ご質問のケースでは、2つの側面で考える必要があります。まずは雇用契約の点です。交通費を全額支給として募集し、かつ、就業規則等で通勤手当に関する制限を定めていなければ、原則的に従業員の申請に基づく交通費を支給する必要が出てくると考えられます。もう1つは税法上の扱いです。所得税法では、マイカーやスクーターなどの交通用具を使って通勤する場合、その距離が2㎞未満については、通勤手当を支給したとしても全額が課税対象となります(所得税法施行令第20条の2)。この趣旨は、足が不自由など特殊な理由がない限り、2㎞未満は通勤費用を要しない。すなわち、徒歩で通勤可能な範囲と考えられています。したがって、支給したとしても、全額が給与所得として課税されることが前提になります。以上の2点を考慮した上で労使双方が支給について話し合われたらいかがでしょうか。

距離2㎞未満の最寄り駅までバスや自転車で行き、電車に乗り換え通勤する場合、通勤手当の税務上の取り扱いで注意することはあるか。また、駐輪場を借りている場合には、通勤手当として支給しても問題はないか。

バスや鉄道といった公共交通機関を使用する場合は、距離に関係なく月額で10万円までが非課税交通費となっています。したがって、最寄り駅までが2㎞未満であったとしてもバスを利用した場合は課税されません。しかし、先の回答と同じく、最寄り駅までスクーターや自転車を利用した場合、その分について通勤手当を支給すると給与所得として課税対象となってしまいます(乗り換えた電車代については非課税)。また、駐輪場代金を支給した場合には、通勤手当とみなされますので、最寄り駅までが距離2㎞未満であれば課税対象となります。

距離2㎞未満の通勤交通費については、バス代は支給しなくて済むようにしたいのだが、どうすればよいか。バスの定期代を通勤手当として請求していながら、実は徒歩で通勤しているなどというケースもあると聞くが。

就業規則などでその旨を記しておく必要があります。また、雇用する上で面接時などに予定される通勤経路の確認や、距離2㎞未満については、徒歩を原則とすることを事前に伝える必要があります。通勤交通費の支給範囲を明確にしていない状態で雇用した後に、バス代の支給をめぐる問題解決の方法として従業員の承諾のないままに就業規則などを追加・変更すると、就業規則の不利益変更と判断される場合がありますのでご注意ください。

勝手にマイカー通勤して通勤災害に遭遇したら

№283:2012.11:510号

質問1

当医院ではマイカー通勤を禁止しているが、足のケガをきっかけにマイカーによる通勤が常習化した勤務医がいる。先日、この勤務医が通勤途中に事故(加害者)を起こした。このような場合、通勤災害と認定されるのか。また、診療所が損害賠償責任を負うことはあるか。

まず通勤災害の認定について説明します。就業規則などでマイカー通勤が禁止されているにも関わらず、勝手にマイカー通勤して交通事故に遭った場合、そのマイカー通勤という通勤方法が、客観的に合理性ありと認められれば、通勤災害として労災認定されます。認定の可否については、労使間の労働契約内容に影響されません。つまり、マイカー通勤が就業違反だとしても、労災認定の判断基準の要素とはなりません。
次に、診療所の損害賠償責任について。この件では、診療所が損害賠償責任を負う根拠となりうるのは「使用者責任」(民法第715条)が考えられます。使用者責任は、「他人を利用する者」(使用者)が「被用者がその事業の執行について」第三者に損害を加えた場合、使用者が損害を賠償する責任がある―とするものです。この件では、診療所と勤務医の間に使用関係はありますから、勤務医が事業を執行するにあたって加えた損害といえるか否かが問題となります。
訪問診療などのため、診療所が勤務医に対してマイカーの業務利用を指示するなど、医院が従業員のマイカーを積極的に使用させていた場合、通勤中の事故であったとしても、医院は損害賠償責任を負わされる可能性があります。本来、通勤という行為自体は仕事ではありませんが、この場合の通勤という行為は、マイカーを業務に利用するために、医院まで運搬している行為とも考えられます。マイカーは通勤に利用するだけで、業務利用をしていない場合は、従業員の通勤中の事故に関して診療所には損害賠償責任はありません。

質問2

時折、自宅以外の某所から出勤してくる従業員がいる。その際に通勤災害が起こってしまった場合、労災認定されるか。

通勤とは、就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法によって往復することをいいます。また「住居」とは、一般的に「自宅」をいいますが、通達では、親の介護等でやむを得ず実家に戻ったり、台風などの事情により住居以外の場所に宿泊する場合は、やむを得ない事情により一時的に居住の場所を移していると認められています(昭和48年11月22日基発644)。
したがって、そのような状況のもとで起こった場合は、通勤災害として認定されることになります。しかし、友人宅などで一夜を過ごし、そこから早朝、直接に出勤した場合などは、労災認定されません。
なお、一時的な住居から通勤した際の交通費については、労基法上の支払義務はありません。

審美に印紙はいらない

№281:2012.10.1:509号

質問1 審美に印紙はいらない

ホワイトニングを施したところ患者さんから「領収書に収入印紙が貼ってない」といわれた。歯科医院の領収書には収入印紙はいらないことを伝えたが、患者さんから「審美には必要になるのではないか」といわれている。

3万円以上の金銭の受領に関しては、原則収入印紙が必要になりますが、印紙税法別表第一において「営業に関しない受領書(領収書)」は、非課税とされています。
印紙税法で営業とは、株式会社のように利益を株主に配分することができる法人とされていることから、有限会社や株式会社が発行する領収書については、収入印紙が必要となってきます。では、具体的に「営業に関しない受領書(領収書)」は、何が該当するのかということになりますが、印紙税法基本通達において医師、歯科医師、弁護士、公認会計士などが業務上作成する受領書は、営業に関しない受領書として取り扱う」とされています。
このことからその医療行為が審美であったとしても、歯科医師が業務上作成した領収書となりますので、収入印紙を貼る必要はありません。
なお、ホワイトニングなど容姿の美化を目的としているものについては、医療費控除の対象になりませんので、その旨を患者さんに伝えて下さい。

質問2 ネット銀行の留意点は

振込手数料も安いことからインターネットバンクと契約し、業者の支払や従業員の給与などの振込を検討している。しかし、この銀行は通帳が発行されない。税務調査などがあった場合、通帳がなくても大丈夫なものか。

手数料も安くパソコンから手軽に振込ができることからネット銀行は非常に便利なものです。
しかし、その反面、通帳が発行されないなど、後に過去の取引を調べる場合には、不向きと言えます。そのような管理リスクを理解した上で、医院の中でネット銀行を利用すること自体は、何ら問題はありません。ただし、ネット銀行は金銭の動きがデータのみになってしまいます。そのため、取引を行った場合には、その取引について取引をした証を残しておくことが大事です。
そこで、振込等をした際に「振込控え」などを印刷して、領収書の代わりとして保管することが望ましいでしょう。印刷したものは、正式な領収書としての効力はありませんが、振込を行った証としては一般的に通用するものです。したがって、税務調査等でネット銀行の取引を確認する場合は、その印刷物で対応することができます。
また、そもそも税務調査については、通帳自体を見せる必要はありません。見せる必要があるものは帳簿となりますので、ネット銀行の取引をきちんと記帳しておけば、通帳がないことについての問題はありません。

音信不通従業員や退職撤回従業員への対応

№280:2012.9.1:508号

質問1

無断欠勤している従業員がいる。電話はつながらず、すでに引っ越しをしている様子で連絡をとることができない。退職手続きを進めたいと思うが、どうすればよいか。

東京地方裁判所では、無断欠勤期間を2週間で懲戒解雇を有効とする判決を出したことがあります。そのため就業規則に懲戒解雇規定が存在していれば、懲戒解雇が可能となる場合もありますが、懲戒解雇をするという意思表示を従業員へ到達させる必要があります。行方がわからない場合は、意思表示を到達させる方法として公示送達という方法もありますが、この方法は、裁判所の手続きを利用するもので手続きは煩雑です。そこで、簡易な方法として、「欠勤の理由も転居先も使用者に伝えずに長期間無断欠勤をしていること」を根拠として、従業員から退職の意思表示があったとみなした上で、依願退職扱いとして対応する方法が考えられます(就業規則にそのような定めがあれば、特に手続の必要はありませんので、記載しておくとよいでしょう)。ただし、この方法は解雇に該当しませんので、就業規則で退職金の支給を定めていた場合は、支給しなければなりません。しかし、従業員と連絡も取れずにいることから、支払を保留にした形で退職金を保管する対応が良いでしょう。退職金の支払い時効は5年です。時効が成立すれば、従業員の退職金の請求権は消滅しますので支払う必要はなくなります。

質問2

自己都合により退職を申し出た従業員がいるが、後日突然、退職を撤回してきました。これを機に新たな従業員を雇いたいと思っていましたが、撤回には応じなければならないのでしょうか。

従業員から退職願の提出があり、それに対して使用者が承諾書のような書面を交付した後であれば、基本的に雇用契約の合意解除が成立していますので、撤回に応じなくても原則として問題はないでしょう。しかし、従業員から退職の申し出があっても使用者が承諾する前に撤回してきた場合は、退職の撤回に応じなければなりません。退職の申し出は、労働者が使用者に対して労働契約の合意解約を申し込む意思表示ですから、使用者からの承諾の意思表示がなされ、その意思表示が労働者に到達した時に、合意解約の効果が発生します。労働者は、合意解約の効果が発生するまでは、退職願を自由に撤回することができます(福岡高等裁判所・昭和53年8月9日判決)。ご質問のケースは、労働者に退職承諾の意思表示が確実に到達されていたのかがポイントとなりますので、そこを従業員ときちんと確認した方が良いでしょう。退職の承諾は、必ずしも書面による必要はありませんが、後に紛争に発展した場合に書面がないと不利になる可能性が高いでしょう。また、労働者が一方的に「辞めます」と雇用契約の解除を求めた場合は、一般的に「辞職」に該当し、使用者の承諾なしに解除が成立することになりますが、労働者がそのことについての法律的効果を意識していないことも多くあります。そのため、退職の申し出についてはどのような形式であっても「承諾を求められている」と考え、曖昧にせずきちんと「承諾の意思表示」をすることが大切です。

夏に税務調査が多い理由

№279:2012.8.1:507号

質問1

夏になると税務調査が増えると聞いたが、本当か。

税務調査は8月から11月にかけて行われることが多いです。これは、7月上旬に税務署内で人事異動が行われるためです。8月以降は、新たな人事のもとで時間をかけた税務調査が可能になることから、夏になると税務調査が増える傾向があります。しかし、これはあくまでも一般論であり、税務調査は8月から11月の期間に限って行われるものではありません。税務署が必要と判断した場合においては、年末や確定申告の季節であっても税務調査が入ることはありますので、普段から税務調査に備えておくことが大切です。

社会保険・労働保険の手続きについて

№278:2012.7.1:506号

質問1

従業員の社会保険の手続きを7月10日までに行わないといけないと聞いたが、これはどういうことか。

社会保険(健康保険と厚生年金)の適用となる被保険者(従業員)がいる場合、その方の報酬の等級(標準報酬額)を決定することで、月々の保険料や傷病手当金、厚生年金といった給付のベースとしています。報酬額は昇給等で変動することから、毎年7月10日までに、その年の4月から6月に支払われた報酬をもとに年度の標準報酬月額を決定します。具体的には管轄の年金事務所に「報酬月額算定基礎届」などの書面を提出することになります。

質問2

また、労働保険の手続きも同じように7月10日までに行わないといけないと聞いたが、これはどうか。

労働保険(雇用保険と労災保険)については、3月までの前年度の労働保険料の確定を実際に支払った賃金のもとに行い、同時に4月からの今年度の労働保険料の見込み額を現在の賃金見込額をもとに納付します。つまり、労働保険料の「精算」の手続きを7月10日までに行うわけです。なお、実際には、1年間の支払賃金の合計が前年度の半分以下、または2倍以上と大きく変動しない限り、前年度と同額の保険料を納付することが多いようです。ちなみに窓口は労働基準監督署や都道府県労働局です。

院内盗難・患者さん負傷責任の所在は…

№277:2012.6.1:505号

質問1

待合室で患者が目を離したすきに盗難事件が発生。患者の財布がなくなった。医院として責任を問われることはあるか。

患者の持ち物については、原則として患者の自己責任となり、盗難が発生したとしても、基本的に医院に責任はありません。しかし、待合室に手荷物を置いたまま治療をして、その間、受付が不在になるなど、医院の体制的不備によって盗難が発生した場合は、医院の管理責任が問われる場合が出てきます。医療機関は誰もが自由に出入りできるところです。そのため待合室等では盗難などが発生する可能性はつきものです。そこで、医院としては、盗難を未然に防ぐための体制を整える必要があります。歯科では、自費治療もあり一定の額を持ち寄っている患者もいます。そのため、患者に対しては、貴重品は自分で管理し、目を離さないよう注意を喚起することが大切です。また、従業員に対しては、治療が終わった後も待合室に長くいる患者や、挙動が不審な人に対しては「どうかされましたか」など、声を掛けることが重要です。また、患者から「貴重品を預かってほしい」と申し出があった場合、原則としては預かるべきではありません。この場合、万一、盗難や紛失が発生した際は、全面的に医院の責任を問われる場合がありますのでご注意下さい。

質問2

患者が院内の段差につまずき、けがをした。医院として責任を問われることはあるか。

医療施設では安全確保における安全配慮義務があり、来院した人の生命および健康等を危険から保護するように配慮する義務を負っています。そのため、来院した人が院内でけがを負わないよう配慮する必要がでてきます。この配慮については、明確な基準はありませんが、例えば、つまずきやすい段差を放置していたり、雨水をそのままにして、廊下が滑りやすい等、事故の発生が予見可能であるにもかかわらず、何も措置を講じることなく事故が発生した場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、安全配慮義務以外にも工作物責任というものがあります。これは民法第七百十七条で定められたもので、建物やその内部が通常有すべき安全性を欠いている状態にあれば、工作物責任に従って医院が責任を問われる場合があります。事故は未然に防がなくてはならないものですが、偶発的にさまざまなことが起こるものです。したがって、それらをすべて未然に防ぐことは困難なものです。このような時に役立つのが、施設賠償責任保険というものです。施設の構造上、または安全確保に問題があり、他人にけがをさせてしまったり、物を壊してしまった場合、医院が負うことになる損害賠償額を補填してくれる保険です。開業されている先生の場合は、通常は医師賠償責任保険に加入することで、施設賠償責任保険にも加入していることになりますが、保険契約にはさまざまなものがあります。万全を期すためにも、契約内容を確認しておくことをお勧めいたします。

従業員が試用期間中の社会保険・残業代・休暇の扱い

№276:2012.5.1:503号

質問1

4月にフルタイムの従業員を雇用した。試用期間を3ヶ月としているが、その期間は社会保険や労働保険に加入させなくてもよいか?

たとえ試用期間であっても、フルタイムの場合は社会保険、労働保険のいずれも加入が義務となります。ちなみに、雇用保険は週の労働時間が20時間以上の場合は被保険者となりますので、フルタイムのほかパートタイムの方でも加入となるケースもあります。

質問2

3ヶ月の試用期間の間は残業代の対象外とした場合、問題があるか。

試用期間中に法定労働時間を超える労働をした場合、残業代(2割5分以上の割増賃金)が発生します。なお、法定労働時間とは1日で8時間、1週間で40時間(従業員9人以下の歯科診療所では44時間)とされています(いずれも休憩時間を除外して計算)。

質問3

3ヶ月の試用期間中に、有給休暇を与える必要はあるか。

有給休暇は、雇い入れ後6ヵ月を経過した時点で出勤日数が所定労働日の8割以上出勤した場合に与えることになります。雇い入れ6ヶ月未満で私傷病(労災以外の傷病)により出勤できなかったような場合、その日の賃金を支払わないことはさしつかえはありません。

質問4

従業員雇用に際し、当診療所では3ヶ月の試用期間を設けているが、どうも当院にはこの従業員は向かないようだ。試用期間中であれば解雇しても問題ないか。

試用期間中であっても、雇い入れ後14日以上経過した場合は即時解雇ができません。通常の解雇と同様、30日前に解雇予告をするか、30日分以上の賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です。また、雇い入れの期間にかかわらず、合理的な理由がなく、社会通念上、相当と認められない場合は解雇が無効となります(労働契約法第16条)。もっとも、一方的に雇用関係を解消する解雇という形ではなく、労使双方で話し合うことも重要です。すなわち、医院の業務に向いていない点などを説明し、双方が合意して雇用関係を円満に解消する退職という形をとることが望ましいのではないでしょうか。

質問5

試用期間終了をもって本採用の見送り(解雇)をする場合、または従業員が辞める旨の申し出があった場合の注意点を。

本採用を見送る(解雇する)場合は、正当な理由が必要です。例えば、業務上のミスや勤務態度の問題(無断欠勤、遅刻など)といった具体的な理由をあげ、事業主側としても再三注意したものの改善の見込みがないことなどを書面にして本人に通知するべきです。具体的には、試用期間が3ヶ月の場合、最初の2ヶ月が経過した時点で解雇理由を書面に記載し、1ヶ月後の試用期間満了をもって解雇する旨を通告するという方法が考えられます。従業員から退職の申し出があった場合、従業員側から退職願を提出してもらうことが必要です。

従業員採用における募集・面接・採用上の留意点

№275:2012.4.1:502号

質問1

従業員を募集するが、留意点を。

男女雇用機会均等法では、募集および採用について、性別や信条などによる差別は禁じられています。また、雇用対策法の改正により2007年10月から年齢の制限を設けることができなくなりました。そのため『歯科助手募集、30歳以下、女性に限る』等の募集要項は原則禁止です。これは、ハローワークをはじめ、民間の求人広告、ホームページなどを通じた直接募集にも広く適用されるものです。

質問2

面接の際、尋ねてはいけない質問があると聞いたが

面接は、志望動機や要望、労働条件などを質問とかみ合わせながら、人柄や意欲をみることで採用の採否を判断します。家族構成や生い立ちなど本人に責任のないものや、宗教、思想など本来自由であるべきものに関する質問を課してはいけません。厚生労働省の採用考察ガイドラインでは、次のような質問は禁止されています。すなわち、①本籍・出生地に関すること (本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)、②家族に関すること、③住宅状況に関すること、④生活環境・家庭環境などに関すること、⑤思想信条にかかわること、⑥男女雇用機会均等法に抵触すること(結婚及び出産後の就業継続の意思確認など)―です。公正な採用選考を行うことは、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということです。そのため、応募者の適性・能力に関係のない事柄について、応募用紙に記入させたり、面接で質問するなどによって把握しないようにすることが重要です。これらの事項は、採用基準としないつもりでも把握すれば結果として採否決定に影響を与えてしまう可能性があり、就職差別につながるおそれがありますので注意が必要です。

質問3

採用上の留意点を

従業員を採用する際には、必ず「労働条件通知書」(※)を書面において交付しなければなりません。近年、この交付を行っていないことで、後にトラブルに発展するケースが後を絶ちません。必ず交付して下さい。「労働条件通知書」には絶対的明示事項として、①労働契約の期間、②就業場所・従事する業務の内容、③労働時間に関する事項(始業・就業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項)、④賃金の決定、計算、支払いの方法、賃金の締切り、支払の時期に関する事項、⑤退職に関する事項(定年制、自己都合退職の手続き、解雇の事由など)―があり、これらの事項について文書による交付義務があります。また、パートやアルバイトを雇用する場合であっても、交付義務がありますので気をつけて下さい。

※「労働条件通知書」のひな型は、希望者に無料配布している冊子「医院経営と雇用管理」に掲載しています。