前回までは、各診療所、病院における口腔内データをCSV形式で入力し、HL7形式に変換して蓄積させていくことを述べた。
学校健診のデータ収集については、児童、生徒の移動といった特有の事情もあり、うまくいかなかった点もあった。また、手書きであった健診も、電子ペンを導入して健診票を電子化することが始まっている。これにより、紙に書かれている情報のばらつき、表記の揺れが少なくなり、データとしての制度が高まる。
歯科診療記録、健診データを検索閲覧できる仮想環境は、クラウド上に既に作られているので、将来的に各地で展開することが可能な段階になってきている。蓄積されたデータを利活用するためには、データの検索方法、アクセスの権限や管理をどのようにするかが大きな課題となってくる。
身元確認を主な目的として始まったこの流れであるが、データが集積された暁には、悉皆的口腔情報がリアルタイムで参照可能となり、集計作業のオートメーション化につながり、常に最新の情報にアップデートされていくことになる。この段階になると歯科診療情報データを、治療応報、材料ごとの臨床効果の測定、既存の医療ビックデータとの突合により、医科情報などと歯科情報を組み合わせた分析などへの利活用が可能となる。
また、HL7FHIRへ応用することにより、医療界だけではなく他職種でもデータを使うことが可能になってくる。つまり、上記図のような流れが現実的になってくるだろう。
情報の利活用は、良い面もあれば、解決しなければならない側面もある。企業などが利益のために情報を活用することは、これまでも度々起きてきた。機微な個人情報が、本人の知らない間に活用されることは、慎重に検討すべき課題である。これらの面を後回しにしたり、見ぬふりをするようなことがあってはならないと考える。利活用に関しては、良い面とともにこれらの課題に真摯に向き合いながら進めることが大事であろう。
初回より、これまでの記事のまとめであるが、①令和3年3月29日、厚労省による「歯科情報標準化」決定。ここに至るまでの考え方、昔と今の歯科治療について、②東日本大震災をきっかけにして、身元確認には歯科が大切なことが認識された。東北大学によりプログラムが提供されたが、個々のデータに互換性がなく、苦労された話、③身元確認だけではない情報集計により、乳幼児健診から成人健診、介護までデータを蓄積することが目標である。しかし学校健診では、小学校から中学校まで6年間同じフォーマットであるが、途中で転校などがあり、途絶えてしまってうまくいかない、④標準化する際に、大切なことは個々人の最終的な(最新の)口腔状態を一元化したコードで表記できれば便利。標準化コードを用いてCSV形式で個々のクリニックがデータをつくり、それをHL7形式に変換する、これによって医科との連携ができるようになる、⑤最終的には、個人データをHL7FEIR形式にしてクラウドに保存すると、医療機関だけではなく、他職種も使える。しかし、それには法改正も必要なので、今後を注視していく必要がある。
現在、厚労省で行われている「歯科情報標準化」についての背景と経緯について、5回にわたって述べてまいりました。今のところ、標準コードができた段階となっており、まだ実用化には時間がかかると思われます。今後、コンピューターの仕様書に「口腔診査情報標準コードに準拠したデータの入出力ができること」この文言が必要になってくるかも知れません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。(了)
協会理事/広報・ホームページ部長 早坂 美都
(東京歯科保険医新聞2021年9月号3面掲載)