「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望④完(佐藤一樹氏)

第4回(完) 東京地裁103号大法廷:裁判進捗と展望

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。
全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく(最終回)。

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10 大法廷(注:見出し番号は前号からつづく)

東京地方裁判所103号大法廷は、民事部が使える最大の法廷で傍聴席が98席ある。原告側は当初からこの大法廷での開廷を裁判書記官に希望していた。しかし、書記官は難色を示し、第3回口頭弁論までは傍聴席が40席程度の一般的な法廷で開廷されていた。ところが、その第3回期日で、岡田幸人裁判長から第4回は大法廷で行われることが告げられた。その後の口頭弁論も全て大法廷での期日を指定している(1)。

図1

11 裁判長による空中戦阻止

行政訴訟は、行政実定法(本件では健康保険法など)の解釈が問題となり、具体的な争点は比較的明確で、最初からある程度材料が揃っている(本件では第3回連載の「9.四つの考慮要素と授権趣旨の明確性」で解説)。一般の民事裁判の口頭弁論(証人尋問がない場合)では、裁判官は、原告あるいは被告(国)が事前に提出した準備書面などを確認して陳述したことにする。また、相手側に対し、次回の弁論で提出する書類があれば、次回期日1週間前頃までに提出するよう指示し、次回期日の打診を行い、双方に異議がなければ期日を指定して、10 分程度で終了する。

しかし、第3回期日で、岡田裁判長が被告に対し、第2準備書面の書き方について「空中戦をするのではなく」と釘を刺し、以下2点の具体的指示を出すという一幕があった(ここでいう空中戦とは、文書や資料の証拠がなく、発言のみで議論がなされること)。当事者主義である民事訴訟(行政訴訟も民事訴訟の一種)の弁論期日で、裁判長が、準備書面で触れるべき内容に指示を出したことは、注目すべきだ。

(1)健康保険法が「療養の給付」の内容のみならずその「方法」について療養担当規則に委任しているとの被告の主張につき、他法令において同法同規則の定め方と類似の先例等があればその内容を具体的に指摘する

図2

(2)オンライン資格確認をめぐる国会での厚生労働省の答弁(図2)と、この事件での国の主張との整合性について説明する原告第1準備書面では、「厚労省は、現場の実情を見ると一律義務化への理解を得るのは難しいと言いつつ、その答弁から4カ月しか経っていない9月5日に療養担当規則を改正した。国会での議論とどう整合するのか」と主張していた。裁判長もこの点を明らかにするよう求めているのだから、原告と裁判所の関心事は一致し、波長が合っている。

12 裁判進行に関わる原告の要望を通す

国側は、先述の(1)を受けて児童福祉法、生活保護法、感染症予防法、高齢者医療確保法、覚醒剤取締法などを挙げて、縷々論難した。しかし、いずれも状況の異なる例を根拠としているなど、本件で問題となっている委任について、主張を補強する体裁にはなっていない。(2)については、「国会で議論されていなければオンライン資格確認を原則義務化することができないというものではない」と開き直った二重否定の主張に終始した。

6回期日において、原告代理人の喜田村洋一弁護団長は、本年122日の現行の健康保険証廃止前の11月中に判決を言い渡すよう裁判所に要望した。逆算して、9月中旬の結審を目指し、原告側最後の第3準備書面を6月中に提出すると告げた。原告は、これまで準備書面の作成には811週間かけてきたところ、急いで5週間で提出するから、被告も8週ほどで第4準備書面の提出を都合してもらいたいということになる。

民事裁判の口頭弁論期日の指定は訴訟の進行を指揮する裁判官の権限だ。被告に対し冷徹な姿勢で空中戦阻止を命じた岡田裁判長は、どのように対処するのか。私を含め17人の原告席には緊張が走った。しかし、怜悧な一流法律家同士の阿吽の呼吸だろうか。裁判長が原告席の方を向き、優しく微笑んだ。

13 裁判官の心証と展望

7回期日で、原告は最終準備書面を陳述した。裁判長は、「次回弁論で被告には全てを出し尽くす形で用意してもらう」と指示し、終結(結審)する可能性が高いことも明言した。その上で、原告には、終結後も実務的に書面を出すことも可能であると付言した。判決の言渡しは、口頭弁論の終結の日から2カ月以内にするのが〝常識〞*。つまり、11月だ。

ここまでを振り返ると、岡田裁判長は、争点の整理や裁判進行については被告に厳しく、原告の要望を尊重している。脚注のタイプミスを指摘するほど、原告準備書面を読み込んでいる。

贔屓目を承知であえて言えば、現時点で心証は原告側にあり、原告が勝勢だ。しかし、裁判結果は「石が流れて木の葉が沈む」こともある。判決の言い渡しまでは勝訴を宣言できない。

おわりに

民事裁判、特に行政裁判は、手続であり、仕組みであり、技術である。それだけに、裁判の実情が見えるものでなければならない。東京保険医協会では、原告団だけでなく国民にこの裁判を理解していただくために、ホームページに訴訟の経緯や全資料(プライバシーに係るものを除く)を公開し、第2回口頭弁論期日からは記者会見・原告説明会を開催し続けている(録画動画あり)。東京歯科保険医協会会員にも、ぜひ、活用していただきたい。(了)

*民事訴訟法〔言渡期日〕第251

1項 判決の言渡しは、口頭弁論の終結の日から二月以内にしなければならない。ただし、事件が複雑であるときその他特別の事情があるときは、この限りでない。(解説)これは裁判所に対する訓示規定であるので、これに違背しても言渡しが違法になることはない。ただし、旧190条が2週間の期間を定めていたのが実情に即さないとして、2カ月に延長されたものであるから、通常の事件においては、この期間を遵守することが要請される。したがって、919日結審なら、1119日以前の判決言渡しが〝常識〞である。

 

【プロフィール】佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望③(佐藤一樹氏)

第3回 岡田調査官解説:原告優勢の理由

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。
全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック院長)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

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7 裁判長は先例判例の最高裁調査官(注:見出し番号は前号からつづく)

最高裁判所判例委員会は、数ある最高裁判決の中から時の重要な判例を選んで「最高裁判所判例集」に搭載し、原則月1回刊行している。この民事編のことを、略して「民集」と呼ぶ。民集の公式判例集に登載された最高裁判決は、「法曹時報」(一般財団法人法曹会が発行する月刊の法曹専門誌)の「最高裁判所判例解説」欄に、詳細な判例解説が搭載される慣習がある。「調査官解説」とも呼ばれるこの解説は、裁判の要旨等に加え、最高裁調査官*1の「個人的意見」に基づいて解説したもので、「最高裁としての見解」を示したものではない。ただし、学説や判例について詳細な分析や当該事案の事実関係を簡潔に知ることができる上、最高裁における判断過程の一端を知ることができることから、重要な影響力を持つ。なお、最高裁に受理された事件の判決文は、基本的には調査官が判決文の草案を書くとも言われている。

裁判の当事者や弁護人・代理人の第一の関心事は「裁判長は誰なのか」である。実は、本訴訟の岡田幸人裁判長(東京地裁民事第51部統括)は、前述(本紙6月号)の先例判決「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」の最高裁調査官として「調査官解説」を執筆し、「施行規則は薬事法上の委任の範囲を逸脱した違法無効なものである」と結論付けていた。望外の僥倖とはこのことであろう。

8 岡田判事の調査官解説と職歴

最高裁調査官は、判事でも優秀な人材から選ばれる。岡田判事の輝かしい経歴(表1)を調べると納得がいく。現在の51部統括としては、障害年金不支給決定取消請求事件(令和4726日判決)で厚生労働省を訴えた原告や、小金井市長専決処分保育園入園拒否取消事件(令和6222日判決)で自治体を訴えた原告らを、それぞれ勝訴させている(表2)。

表1

表2

また、内閣法制局参事官を5年間経験した点も注目すべきだ。本連載第2回の法律ピラミッドで示した「政令」とその下の「省令」では、内閣法制局との関わり方に違いがあり、内閣法制局の審査事務の対象は条約案、閣議に附される法律案、政令案であって、省令は対象外である。審査の内容は、「憲法や他の法律と抵触する部分はないか」「文章の体裁が法令表記の慣例から逸脱していないか」などである。外国との条約や法律などについて

は、絶対に誤りによる紛争が生じないよう厳密な審査がなされている。「岡田調査官解説」をはじめとして法令の審査に対しては、厳格な判断力を具備されていると推測される。

一方、「省令」は審査が内々でなされるため、厳しさに欠ける処理がされていると推測される。なにしろ、法律は門外漢の私が、保険局医療介護連携政策課長の発言(本連載第1回参照)を聞いてリアルタイムで「授権法の根拠がない」と気付いたほどである。

「庸人すら尚ほ違法を知る、況んや岡田判事に於いてをや。」

9 4つの考慮要素と授権規定の明確性

岡田調査官解説では、「一般に,専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず,また,状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではないため,こうした事項については法律の委任に基づいて行政機関が規定を定めること(委任命令)が認められている。委任命令によって国民の権利義務の内容を定めることも許容されるが,当該委任命令が委任をした法律(授権法)に抵触していれば違法であり,委任に際して行政機関に裁量が認められている場合でも当該裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には違法となる*2」とし、委任命令が授権規定*3による委任の範囲内といえるか否かが問題になった最高裁判例を8つ挙げている。そのうち6つは原告が勝訴している(表3)。

それら判例による判例法理*4は、委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについて、4つの考慮要素(評価に影響を与える要素)を挙げている(*表4のA*)。なお、この4つの各要素は常に互いに載然と区別し得るというわけではない。

また、岡田調査官解説は、その判断にあたって「授権の趣旨が…明確に読み取れること」(授権趣旨の明確性)という基準を初めて最高裁判決で言及した点が特徴的といわれている(表4のB)。

本訴訟も、訴状の段階からこの4つの考慮要素、さらに、授権趣旨の明確性が争点となって、岡田調査官解説の土俵の上で、立ち合いからがっぷり四つの勝負となっている。

表3

表4

 

*1 定員がわずか15人の最高裁判所裁判官は数多くの事件を抱えて多忙であるため、審理を補助する。判事の身分にある職業裁判官が充てられる重要な役職。
*2 行政手続法第三十八条第一項も,委任命令を定める機関は,当該委任命令が授権法の趣旨に適合するものとなるようにしなければならないと注意的に定めている。
*3 議会がその立法権の一部を他の国家機関に委任し法令の条文として定めること
*4 最高裁が示した判断の蓄積によって形成された考え方。

【プロフィール】佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望②(佐藤一樹氏)

第2回  原告勝訴:「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」との類似性

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。今回から複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

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4 法体系における法律と省令(注:見出し番号は前号からつづく)

オンライン資格確認義務化」を療養担当規則で規定した厚生労働省令は違憲・違法である。国権の最高機関で国の唯一の立法機関である国会(憲法第四十一条)が制定した健康保険法による委任(注1)がないのに、省令で保険医(医師・歯科医師)の権利を侵害するような義務を課しているからだ(図1)。法律の委任がなければ、省令に罰則を設け、または義務を課し、もしくは国民の権利を制限する規定を設けることはできないはずである(国家行政組織法第十二条三項)。

図 1

健康保険法第七十条一項は、「療養の給付」に限り厚生労働省令に委任する条文である。同項に、「資格確認」について委任している文言はない(図2)。

図 2

そもそも、被保険者が資格確認のために提出する資料について規定しているのは、健康保険法第六十三条三項に基づく健康保険法施行規則第五十三条である。法律は、療養の給付と資格確認を峻別している(図3)。

図 3

このため、提訴時の訴状(注2)の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」の理由は、以下の(1)(2)となっている。

(1)健康保険法上、給付の「内容」は療養担当規則に委任しているが、資格確認の「方法」については、条文に委任していると書かれていない
(2)仮に健康保険法上、委任がされているとしてもオンライン資格確認を義務化することは、委任の範囲を逸脱している

 

 5 日本の裁判おける「判例」の拘束性

裁判において裁判所が示した具体的事件における法律的判断を「判例」と呼ぶ。「先例」としての重み付けがなされ、それ以後の判決に拘束力を持ち、影響を及ぼす(先例拘束の原則)。判例が重みを持つ理由は、同類・同系統の訴訟・事件に対して、裁判官によって判決が異なることは不公平になることを防ぐためだ。日本では、特に最高裁判所が示した判断が「判例」であり、下級審の判断は実務上「裁判例」と呼ばれ区別される。

ただし、日本国憲法には先例拘束性を一般的に定める明文規定は存在しない。しかし、判例とされる最高裁判決は、最高裁大法廷で判例変更がなされないかぎり、下級裁判所はもちろん、最高裁自身の判断を実質上は拘束すると考えられている。

6 判例「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」と類似

私たちの確認訴訟と同類・同系統の訴訟の「判例」に、原告が勝訴した「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」判決(平成25年1月11日 最高裁第二小法廷)」がある。これは、2021年度の行政書士国家試験に出題されるほど重要な行政訴訟の判例で、ありとあらゆる行政法の基本書や専門書・文献で解説されている。

この判例では、「第一及び二類医薬品の情報提供は有資格者の対面により行わなければならない旨の厚生労働省令、一般医薬品の郵送等による販売を行うことを禁止する旨の厚生労働省令は、いずれも各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法(平成18年改正後)の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である」と原告の訴えが確認された。

このため、私たち原告による最初の主張を記述した訴状にも、被告である国による最初の準備書面(注3にも、この平成25年判決の判例法理(4)が引用され、その後も双方のすべての準備書面での主張も一貫して、これに準じている。たとえ行政訴訟における原告勝訴率が数%であったとしても、類似の判例では原告が勝訴しているのであるから、原告側が裁判官の心証(注5)を得る蓋然性が高い。

(注1 法律で定めなければならない事項を命令によって定めることができる旨を法律自身が定めること

(注2 民事訴訟において、訴えの提起に際し、当事者・法廷代理人・請求の趣旨・請求の理由を記載し、第一審裁判所に提出する書面

(注3民事訴訟において、当事者が口頭弁論において陳述しようとする事項を記載して、あらかじめ裁判所に提出する書面

(注4 裁判所が示した判断の蓄積によって形成された考え方

(注5 訴訟事件の審理において、裁判官が得た事実の存否に関する認識や確信

(つづく)

【プロフィール】佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

 

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望①(佐藤一樹氏)

第1回  確認訴訟:提訴の決意と弁護団結成

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。今回から複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

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1 提訴の決意

2021年8月、健康保険法にマイナンバーカードによるオンライン資格確認が追加され、国民が医療機関を受診する際には、健康保険証かマイナンバーカードのいずれか任意の方法で資格確認を行うことになった。

ところが、2022824日、厚生労働省と三師会が合同開催したオンライン資格確認等システムに関するウェブ説明会で、保険局医療介護連携政策課長は、「厚生労働省令〔同年95日保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)〕により202341日からオンライン資格確認が義務化される。医療機関がオンライン資格確認を導入しない場合、療担規則違反になる。療担規則に違反することは、保険医療機関の指定取消し事由になる」旨を発言した。

法令にない「指定取消し」を錦の御旗にしての脅しだ。国を提訴し、司法の場で違法性を明らかにする、と私たちは決意した。

2 日本の弁護士「いの一番」

国民が国などの公権力を相手に起こす行政訴訟は、原告勝訴率が数%の難関だ。例えば「マイナンバー制度違憲訴訟(注/1)」は全国8カ所で提訴され、すべて敗訴した。勝訴のためには、どれほど評判の良い弁護士だと言われていても、行政訴訟で勝訴実績がないのなら頼まない。

私たちの行政訴訟は、2種類ある当事者訴訟のうち「確認訴訟」に分類される。確認訴訟は2005年4月1日施行「平成16年改正『行政事件訴訟法』」で初めて「公法上の法律関係に関する確認の訴え」と条文化された。同年9月14日、最高裁大法廷で新法施行後、確認訴訟では最初の原告勝訴判決が出た。「在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件」である。これが、国民の権利利益の実効的救済を図る上で、確認訴訟の活用の有効性を示す嚆矢(こうし)となった。憲法訴訟・行政訴訟の歴史に燦然(さんぜん)と輝くこの訴訟の弁護団長が自由人権協会代表理事の喜田村洋一先生である(右写真)。

当時、朝日新聞は1面に連載「日本の弁護士」を開始し、いの一番に喜田村先生を選んだ。刑事事件では数々の無罪を勝ち取り、日本の民事名誉毀損裁判の規準を創り、憲法訴訟では有名な「レペタ訴訟」も担当したオールラウンダーである。2022年9月、東京保険医協会理事会で私は「この行政訴訟の主任弁護士は喜田村先生しかいない」と主張し、全員一致で可決された。

弁護団には、在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件で喜田村先生の右腕だった二関辰郎先生も入り、牧田潤一朗先生、小野高広先生の4人体制となった。全員が自由人権協会の主要メンバーである。

(注/1)マイナンバー制度がプライバシー権を侵害し、違憲であるなどとして仙台、新潟、金沢、名古屋、東京、神奈川、大阪、福岡の各地で行われたマイナンバー関連の訴訟

3 私たちの訴え2023年2月22日の第一次提訴から

第三次提訴までに原告は1,415人となった。なお、当時、健康保険証の廃止は立法化されておらず、訴訟外の事案である。私たちの訴えの柱は、以下の2本である。

(1)オンライン資格確認義務のないこと、すなわち、患者から電子資格確認により療養の給付を受けることを求められた場合に、①電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認する義務がないこと、②電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることの確認ができるようあらかじめ必要な体制を整備する義務がないことをいずれも確認すること。

(2)「違憲・違法なオンライン資格確認を義務化した療養担当規則の制定や関連する政府の動きのため、保険医療機関の閉鎖を含めた対応を余儀なくされる可能性など、自己の職業活動、その継続に対する不安のため精神的苦痛を受けたこと」に対し、各原告に、金10万円を支払え。重要なことは、オンライン資格確認自体には反対してない点だ。

一方、政府発表の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」「医療DXの推進に関する工程表」では、情報保護の安全性に問題がある。この前提となるオンライン資格確認について、十分なシステムの構築をしないまま、違法な省令によって、保険医に対し強権的に「義務づけ」したことについて訴えている。

(つづく)

【プロフィール】
佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

「オンライン資格確認義務不在確認等請求訴訟」関連資料集

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。「東京歯科保険医新聞」では、訴訟ワーキンググループ原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状を見つめ、今後の行方を展望していただく。また、同訴訟に関連する資料、動画は以下から確認できるので、ぜひご覧いただきたい。

オンライン資格確認義務不在確認等請求訴訟関連資料(webサイト上で閲覧可能な資料)

①東京保険医協会HP:オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟経過編
②東京保険医協会HP:オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟資料編
③佐藤一樹.違憲・違法!オンライン資格確認の義務化診療研究593『待合室に置く「診療研究」現代医療のキーワード2023~2024』
④佐藤一樹.Vol.23167 12月7日(木)11時東京地裁大法廷の「地上戦」へ:オン資確認義務不存在訴訟の進捗医療ガバナンス学会2023年9月22日
⑤佐藤一樹.医師の倫理規範から「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提起へ 月刊『住民と自治』2023年5月号 2023年6月18日
⑥佐藤一樹.【識者の眼】「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟の背景」医事新報(2023年05月06日発行) P.25
⑦佐藤一樹:Vol.23035 厚労省令「オンライン資格確認義務化」は違憲・違法~国を相手に274人の原告団による「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」一次訴訟を提訴。二次訴訟で目標2500人~ 医療ガバナンス学会  2023年2月22日

 

オンライン資格確認義務不在確認等請求訴訟関連資料(動画)

①デモクラシータイムズ.
佐藤一樹. マイナ保険証の闇あなたの医療情報が危ない【PICK UP!】2023年4月4日
②デモクラシータイムズ.
申偉秀,佐藤一樹.マイナ保険証の闇保険証がなくなる医療情報が流出する【荻原博子のこんなことが!】2023年4月4日

「こばと通信」による記者会見・原告説明会の動画報道
③第2回口頭弁論報告
④第3回口頭弁論報告
⑤第4回口頭弁論報告
⑥第5回口頭弁論報告前半
⑦第5回口頭弁論報告後半