政策委員長談話「東京の歯科は努力をしてきた≪使い回し≫報道に抗議する 」

政策委員長談話

東京の歯科は努力をしてきた「使い回し」報道に抗議する

5月18日の読売新聞は「ハンドピースを滅菌せずに使い回している」ことをセンセーショナルに取り上げ、滅菌処理せずに次の患者に使用している歯科医院が7割になると報道した。そもそもハンドピースはディスポザーブルの器具ではなく、「使い回し」という表現は極めて不適切であり、歯科医院と患者の信頼関係を無用に崩す報道に断固抗議する。

東京の歯科医療機関は、1996年の米国疾病対策センター(CDC)のガイドライン発表以前から、B型肝炎対策を筆頭に感染制御に力を注いできた。その後も、新たな感染症の出現や感染対策の範囲の広がりに対し、CDCから更に2003年「歯科医療における感染管理のためのガイドライン」、2007年「病院における隔離予防策のためのガイドライン」など発表された時もそれに合わせるように、歯科医院におけるスタンダードプリコーションの実現を目指し努力してきた。

2009年8月に当会が実施した「歯科感染予防対策アンケート」では、オートクレーブなどの滅菌器は96%の医療機関が設置しており、消毒薬についても用途に応じ複数の薬品を使用している旨の回答が寄せられた。

しかし、診療報酬の度重なる引き下げにより、医療機関の自己犠牲の上に成り立つ感染症対策は限界に達したところに、さらに追い打ちをかけるように医療法が改正され医療安全管理とともに院内感染対策の義務化を求めるなど、歯科感染症対策を取り巻く状況は厳しさを増すばかりであった。これらを背景に、当会は2007年、2009年に院内におけるスタンダードプリコーション実現のための費用として「院内感染防止加算」の新設を求める医療技術評価提案を厚労省に行ってきた。

その結果、中央社会保険医療協議会で、歯科の感染症対策の為の費用は医科診療所の3 倍、有床診療所と同等との資料が示され、ようやく2008年度診療報酬改定で「歯科外来診療環境体制加算」が新設されたが、AEDの設置を義務付けるなど感染症対策に留まらない医療安全管理を求める点数に変貌した。その他、口腔外バキュームや歯科衛生士配置が施設基準に据えられたことから、都内での届出は575件(2014年5月1日現在)、都内医療機関の5.54%に留まり、多くの医療機関が算定できず期待を裏切るものであり、それは今も変わらない。

歯科の感染症対策に対する考え方は、2008年に日本歯科医学会から「エビデンスに基づく一般歯科医療における院内感染対策」が公表され、当会においても、2012年に「絵で見る色でわかる歯科の感染対策」冊子を作成し全会員に配布したことは記憶に新しい。

歯科の各行為は小外科の連続であり、全ての患者を対象として行わなければならない特色を持っているだけでなく、小規模の診療所が多いことから、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付事務など医療に携わる全員が理解し、実践することが求められる。

そのためにも、感染制御をはじめとする医療安全に力と費用を注いでいるすべての医療機関が算定できる点数を創設すべきであり、東京歯科保険医協会は、引き続き要請して行く。

2014年6月23日

政策委員長

中川勝洋