「医療・介護難民」を増やす医療・介護一括法案
1. 法案は社会保障一体改革の第3歩目
◆政府の狙い⇒公的責任と負担を軽減、当事者への負担を増加
消費税率が8%に引き上げられた4月1日に、医療・介護一括法案が衆議院で審議入りした。同法案は2012年夏に野田政権下で消費税法改定案とともに成立した社会保障制度改革推進法から端を発しており、とても象徴的といえる。推進法は「助け合いの仕組み」「社会保障の機能の充実と給付の重点化」「年金・医療・介護は社会保険制度を基本」「主要な財源は消費税の収入を充てる」ことを基本とし、その後、国民会議報告書、「プログラム法案」成立へと推移した。
この3月に宇都宮啓・厚労省保険局医療課長は「今回は社会保障・税一体改革の第2歩目で特に地域包括ケアシステムの構築を目指した」(m3.comインタビュー)と、診療報酬改定は一体改革と一連のものであることを強調した。
同法案は医療提供施設の開設・管理者には「役割を果たすよう努める」と、国民には医療施設の機能に応じ選択を適切に行い、医療を適切に受けるようにと、自己責任を強いるなど一体改革そのものだ。その一方で、政府・財界により混合診療の解禁、医療の営利産業化が狙われている。
また同法案は、異質な19本の法案を一本化することで審議時間の短縮を狙う。国民の医療の充実の観点に立ち、十分に審議を行うことが求められる。
2. 法案の内容について
同法案は「効率的かつ質の高い医療提供体制」と「地域包括ケアシステム」により地域における医療と介護を確保することを趣旨としている。病院や介護施設にいる療養者を在宅に移行させ、地域の医療・介護担当者に見させ、療養者に一層の負担を強いるものだ。財源は消費税を中心にする。社会保障を充実させるなら、さらなる消費増税を狙う。「行き場のない高齢者が難民化する」との危惧も出ており、看過できないものである。
①医療関連/地域の病床を削減・再編
◆政府の狙い⇒25年まで43万床削減し患者追い出しを促進
法案では、都道府県は二次医療圏ごとに必要病床数を盛り込んだ「地域医療構想」を策定し医療計画に盛り込む。病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の機能に再編促進のために医療機関に報告させる(病床機能報告制度)。圏域ごとに医療機関と保険者等が参加する「協議の場」を設け、「構想」に従うように医療機関に機能の転換が求められる。4月の改定では、各病棟から自宅等への復帰率を算定要件・加算として導入し、退院促進を促すなど、患者の在宅への移動を促す。
高齢者人口が増える2025年には202万床が必要と推計されているが、政府はそれまでに43万床を削減する計画。「受け皿」整備の見通しもなく、病床削減に突き進もうとしている。
②提供体制再編のための基金を設置
◆政府の狙い⇒どれだけ医療現場に活用されるか
消費増税分を活用した新たな基金を都道府県に設置する。病床機能の分化・連携や在宅医療や介護サービスの充実、医療充実者の確保・養成のための事業を行う。事業規模は既存の事業は275億円を含む904億円。診療報酬とともに医療・介護供給体制の再編を行う。将来の診療報酬の改定も新基金を理由に引き上げが拒まれる可能性もある。
③看護師、歯科衛生士、診療放射線技師の業務拡大
◆政府の狙い⇒安上がり医療の拡大の可能性
同法案では看護師、診療放射線技師など、医師・歯科医師でない資格者の業務範囲の拡大が行われる。特定行為研修を受けた看護師が手順書により特定行為を行うことができるようにさせる。放射線技師にCT、MR検査等で造影剤自動注入器を用いた造影剤投与を行わせる。
歯科衛生士法関連では、業務に当たる努力義務に「歯科医師そのたの歯科医療関係者との緊密な連携を図」ることが加えられる。規制改革会議の論議によると、今後医療機関以外に医療従事者を待機させる「出張所」の検討が行われそうだ。将来は「バーチャル保険医療機関」の可能性も。法改定に合わせ注視が必要だ。
④第三者機関による医療事故調査
◆政府の狙い⇒第三者機関への届出、院内調査を医療機関に義務付け
患者が死亡した医療事故の発生時に第三者機関への届出とともに、原因究明のための院内調査を医療機関に義務付ける。対象を提供した医療に起因し死亡・死産を予測しなかったものに限定した。第三者機関は、共通要因を洗い出すなどして再発防止のための評価・分析を行う。遺族や医療機関から依頼があれば、第三者機関による調査も可能。厚労省は遺族へ院内調査報告書を開示するとしており、それらの訴訟利用を否定していない。医師会や大学などが院内調査を支援する仕組みも構築する見通し。医師法との関係も今後検討し、施行後2年以内に制度を見直す。
保団連は、昨年12月に医療事故調査は刑事・民事訴訟とは切り離し、医療安全と再発防止の目的に限定させるべきなどと見解をまとめている。
⑤外国人医師・歯科医師による国内診療の緩和
◆政府の狙い⇒TPP参加後には他国の資格者の門戸開放にもつながる
日本の医師免許を持たない外国人医師による日本国内での診療行為は、医療法により原則禁じられている。例外として「臨床修練制度」の下での診療は可能だが、在留期間は2年まで。この制度により日本の医師免許を得ることはできず、日本で診療業務に従事する外国人医師はごく少数となっている。今回は、年限を4年に延長し、手続き・要件を緩和する。教授・臨床研究を目的として外国医師・歯科医師が診療すること、看護師が業務することを認める。
日本がTPPに参加し、免許・資格の相互承認性が合意されれば政府は他国の資格者についても門戸開放を促される。
(2)介護関連
①介護予防の通所・訪問介護を保険給付から市町村の事業に移管
◆政府の狙い⇒サービス水準の低下と利用料の引き上げが懸念
介護保険制度に地域福祉の仕組みを混合させる。全国一律の介護予防の訪問介護(ホームヘルプ)・通所介護(デイサービス)を給付対象から外し、市町村が実施する日常生活支援総合事業に移行させる。市町村の裁量でサービス内容や価格、利用者負担割合が決められ、ボランティアや民間企業への委託も可能となる。サービスの低下は必至となろう。
また政府推計では25年までに介護職員を百万人増やす必要があるとし、訪問看護師はわずか3万人と全体の2%に過ぎない、マンパワー不足も存在する。
こうしたことから全国の保険者3割が実施は「不可能」と回答(中央社保協調べ)している。自治体の財政難や人員確保の困難さから、サービス水準の低下と利用料の引き上げが懸念されている。
②特別養護老人ホーム入所は原則、要介護3以上に限定
◆政府の狙い⇒特養入所要件の厳格化
特別養護老人ホーム入所は原則、要介護3以上に限定させる。要介護1、2の方は「特養以外での生活が著しく困難な場合」にのみ認める。
3月末にはその入所待機者が全国で約52万2000人いると公表された。5年前の前回公表から10万人増加しており、高齢化が進み需要が膨らむ一方で施設整備が追いつかない現状が明確になった。そのうち要介護1、2の方が18万人を占め、入所要件が要介護3以上になれば大半が入所できなくなる。
③利用料負担を2割に(所得160万円〔年金収入280万円〕以上)
◆政府の狙い⇒制度創設初/2割負担が導入
制度創設から初めて、一定以上の所得がある利用者に2割の利用者負担が導入される。対象は全体の20%の、所得160万円以上の方。