9月27日(日)10時から16時の1日コースで協会会議室にて、歯科訪問診療に取り組みたい、または経験が少ない会員を対象に講習会を開催しました。
この講習会は歯科訪問診療を始めたいが、なかなか始められないという先生に対し、歯科訪問診療を行うにあたり知っておきたい知識や注意点を説明し、歯科訪問診療への一歩を踏み出すきっかけにしてもらうためのものです。参加者からは事前に、歯科訪問診療へのハードルにどのようなものがあるか、歯科訪問診療を行うにあたっての疑問点や不安点などを出していただきました。
はじめに矢野副会長より、歯科訪問診療のニーズ、注意点について説明しました。超高齢社会が訪れ、地域包括ケアシステムが構築されていく中で、歯科訪問診療のニーズは確実に増えていること、歯科界はそれに応えていく必要があることを訴えました。また自身の経験に基づき、歯科訪問診療はやりがいのある仕事であること、患者さんに喜んでもらえること、何より楽しいことを動画などを用いながら説明し、口から食べることにこだわり、生涯にわたる「かかりつけ医」を目指しましょうと呼び掛けました。
次いで馬場部長より、歯科訪問診療に関わる医療保険と介護保険について解説しました。歯科訪問診療に関わる点数に馴染みがないため、請求に不安があり一歩踏み出せないという意見も多かったため、丁寧な説明が行われました。
馬場部長と森元理事が使用している器材を紹介しました。写真は器材を紹介する馬場部長。
器材を紹介する森元理事
昼食休憩時には、歯科訪問診療に必要な機材として、実際に講師が歯科訪問診療で使用している器材を展示し、使用方法などを説明しました。実物を見ることで、各講師が工夫している点や、準備のイメージを持ってもらうことができました。
午後は歯科訪問診療の現状として、森元理事より「訪問診療を始めるための準備」、横山理事より「在宅歯科訪問診療の現状」、矢野副会長より「在宅歯科訪問診療特有の悩み」をテーマにそれぞれ講演いただきました。
森元理事は、歯科訪問診療を始める前に、外来で来ている高齢の患者の状況をよく把握することが大切とし、外来診療のうちに、全身の疾病や障害の状況、家族構成、主治医、介護保険の利用状況などの確認やレントゲンを撮影したりしておく必要があると説明しました。さらに、外来診療のうちから口腔だけを診るのではなく全身・日常を診る視点と食べることを目的とすることが大切と述べました。また、訪問診療への声かけを積極的にしていくことが、歯科訪問診療につながり、生涯にわたる「かかりつけ歯科医」に近づけると述べました。その後歯科訪問診療で必要な機材や訪問診療の様子を紹介しました。
横山理事は、歯科訪問診療の実際として、自身が行った歯科訪問診療の様子を動画で紹介しました。その中で、認知症患者への声かけ、接し方、訪問診療を行う環境などを説明しました。また、歯科訪問診療で求められるのは、義歯の修理や新製が多いことから、義歯の修理・新製のポイントを解説しました。義歯はただ作れば良いのではなく、食べられる義歯、使ってもらえる義歯とすることが大切と述べ、患者の状況に合わせた咬合とする事や、修理・作成を行ったら、何か食べてもらうことが大切だと説明しました。
最後に矢野副会長は、歯科訪問診療で一番悩みを抱えることが多い、多職種連携のポイントを中心に説明しました。ケアマネジャーや医科と連携することで、既往歴や服薬の状況、過去のトラブルや患者の性格なども教えてもらうことができ治療もスムーズに行えるため、気後れせず、何でも聞くことが大切だとしました。また、現在診療報酬制度の情報提供料では、情報を求めた側が何も算定出来ないという問題点に触れ、お互いに算定出来るようになれば、情報連携が進むのではないかと述べました。また、口腔ケアについて、口腔ケアは介護職の中では意識は上がっているが、決して良好な口腔状況ではないことを紹介し、実際の口腔ケアで使用している材料や歯科衛生士の感想などを交えながら説明しました。最後に食べることは生きること、患者の生き方に寄り添って支えることが歯科訪問診療の醍醐味とまとめました。
小グループに分かれてのディスカッション。活発な意見が飛び交いました。
講義の後には、小グループに分かれディスカッションを行いました。歯科訪問診療を始めたいという意欲を強く持った参加者が多く「実際に始めるためにどこを突破口に声をかけるべきか」「実際に歯科訪問診療の依頼を受けているためすぐにでも始めたい」などの意見が多く出されました。講師からは、ポスターやお知らせを掲示して、歯科訪問診療を行っていることをアピールする方法や、外来の高齢の患者やケアマネジャー、ヘルパーの仕事をしている患者などに直接声をかけるなど、これまでのつながりを利用して始めるのが一番取り掛かりやすいなどアドバイスを送りました。
まとめとして、森元理事から自身の歯科訪問診療を始めたきっかけを紹介し、食べることは家族までも幸せにするということを歯科訪問診療で教えてもらった、ターミナルまで関われるすばらしい職業だと呼び掛けました。
最後に松島会長から、これからは間違いなく超高齢化社会になり、在宅歯科医療が求められている。かかりつけ歯科医として、患者を最後まで看取るために、これからも在宅歯科訪問診療を広めるよう協会としても頑張っていきたいと、在宅で待つ患者のためにも、在宅歯科訪問診療を広げる必要性を訴えました。
事後のアンケートでは、ほとんどの参加者が歯科訪問診療を行ってみようと思うと回答し、「少しずつ出きる事をやろうと思う」「不安が解消できたので行ってみたい」「可能性を見出せた」など前向きな意見が多く集まりました。
次回はすでに歯科訪問診療を行っている先生向けに、在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の講習会を11月1日(日)に開催します。今回はこれからの歯科に求められる医療安全や外来環境体制加算の講習会を1日で網羅できるプログラムとなっています。
緊急時の対応や高齢者・有病者への対応、感染症対策、医療事故対策など、地域を守る歯科医院として、学んでおきたい内容です。施設基準の届出をしない先生でもぜひ聞いて頂きたいと思います。また、修了証の有効期限は外来環3年、歯援診4年となっております。詳しくは機関紙10月号の研究会・行事のご案内やHPをご覧ください。みなさまのご参加お待ちしております。
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