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歯科保健医療対策の充実に向け地域医療介護総合確保基金の一層の活用を/厚生労働省

歯科保健医療対策の充実に向け地域医療介護総合確保基金の一層の活用を/厚生労働省

厚生労働省はこのほど、地域医療介護総合確保基金における歯科保健医療関連施策を取りまとめ各都道府県に、この基金の一層の活用を指示した。

この基金は、平成266月に成立した医療介護総合確保推進法に基づき、各都道府県に設置したもので、この基金を活用することで①病床の機能分化・連携に必要な基盤の整備、②在宅医療の推進、③慰労従事者等の確保・要請に必要な事業―などを支援するというもの。歯科保健医療に関する事業についても、「在宅歯科医療の体制整備」、「歯科衛生士・歯科技工士の確保」など、地域の事情に応じた諸対策を実施できることになっている。

さらに同省は、これまでに同基金で実施してきた歯科保健医療関連の具体的な事業例を医科の用に提示した。

【地域医療介護総合確保基金における事業例(歯科関連事業のみ抜粋)】

1.地域医療支援病院やがん診療連携拠点病院等の患者に対する歯科保健医療の推進:

・地域医療支援病院やがん診療連携拠点病院等の患者に対して全身と口腔機能の向上を図るため、病棟・外 来に歯科医師及び歯科衛生士を配置又は派遣し、患者の口腔管理を行う。 また、病院内の退院時支援を行う部署(地域医療連携室等)等に歯科医師及び歯科衛生士を配置又は派遣し、退院時の歯科診療所の紹介等を行うための運営費に対する支援を行う。

 2.在宅医療の実施に係る拠点の整備:

・市町村及び地域の医師会が主体となって、在宅患者の日常療養生活の支援・看取りのために、医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師が連携し、医療側から介護側へ支援するための在宅医療連携拠点を整備することにかかる経費に対する支援を行う。

3.在宅歯科医療の実施に係る拠点・支援体制の整備:

・在宅歯科医療を推進するため、都道府県歯科医師会等に在宅歯科医療連携室を設置し、在宅歯科医療希望 者の歯科診療所の照会、在宅歯科医療等に関する相談、在宅歯科医療を実施しようとする医療機関に対する歯科医療機器等の貸出の実施にかかる運営費等に対する支援を行う。

4.在宅歯科医療連携室と在宅医療連携拠点や地域包括支援センター等との連携の推進:

・現在、都道府県歯科医師会等に設置されている在宅歯科医療連携室を都道府県単位だけでなく二次医療 圏単位や市町村単位へ拡充して設置し、在宅医療連携拠点、在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、在宅療養支援歯科診療所、地域包括支援センター等と連携し、在宅歯科医療希望者の歯科診療所の照会、在宅歯科医療等に関する相談、在宅歯科医療を実施しようとする医療機関に対する歯科医療機器等の貸出にかかる運営費等に対する支援を行う。

5.在宅で療養する疾患を有する者に対する歯科保健医療を実施するための研修の実施:

・在宅で療養する難病や認知症等の疾患を有する者に対する歯科保健医療を実施するため、歯科医師、歯科衛生士を対象とした、当該疾患に対する知識や歯科治療技術等の研修の実施に必要な経費の支援を行う。

6.在宅歯科医療を実施するための設備整備:

・在宅歯科医療を実施する医療機関に対して在宅歯科医療の実施に必要となる、訪問歯科診療車や在宅歯科 医療機器、安心・安全な在宅歯科医療実施のための機器等の購入を支援する。

7.在宅歯科患者搬送車の設備整備:

・在宅歯科医療を実施する歯科医療機関(在宅療養歯科支援歯科診療所等)でカバーできない空白地域の患者に対して必要な医療が実施できるよう、地域で拠点となる病院等を中心とした搬送体制を整備する。

8.在宅歯科医療を実施するための人材の確保支援:

・在宅歯科医療を実施する歯科診療所の後方支援を行う病院歯科等の歯科医師、歯科衛生士の確保を行う。

9.医科・歯科連携に資する人材養成のための研修の実施:

・医科・歯科連携を推進するため、がん患者、糖尿病患者等と歯科との関連に係る研修会を開催し、疾病予防・疾病の早期治療等に有用な医科・歯科の連携に関する研修会の実施にかかる支援を行う。

10.歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士の確保対策の推進:

・歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士を確保するため、出産・育児等の一定期間の離職により再就職に 不安を抱える女性歯科医師等に対する必要な相談、研修等を行うための経費に対する支援を行う。また、今後、歯科衛生士、歯科技工士を目指す学生への就学支援を行う。

11.歯科衛生士・歯科技工士養成所の施設・設備整備:

・歯科衛生士、歯科技工士の教育内容の充実、質の高い医療を提供できる人材を育成するために必要な 施設・設備の整備を行う。

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

新年明けましておめでとうございます。平成2年、2020年を迎えました。昨年は、年号が「令和」に代わり、新しい時代がやってきたことに期待が込められた年だったと思います。この年末年始、会員の先生方はどのようにお過ごしでしょうか。ご家族やご友人方と賑やかに過ごしたり、もしくは、お一人の時間を静かに楽しんでいることでしょう。新年を祝う席には、お屠蘇やシャンパンが用意されているかも知れません。

◆人類とお酒の歩み

最初に人類が酒類を作った時期は諸説あります。ワインは約7000年前、ビールは約5000年前からだと言われています。

コーカサス地方から始まったワイン作りは、ローマ時代にヨーロッパ全土に広まりました。中世のヨーロッパでは、ワインは「キリストの血」と言われ、神に捧げるお酒として大変神聖で貴重なものでした。

一方、ビールは古代メソポタミアやエジプトから始まりました。当時のビールは、大事な栄養源で、古い壁画にもビール造りの様子が残されています。メソポタミアで起こったシュメール文明では、すでにビールが飲まれていました。初期のビールの製法は、まず麦を乾燥して粉にしたものをパンに焼き上げ、このパンを砕いて水を加え、自然に発酵させるという方法だったようです。後に現在のヨーロッパに伝えられ、地形や気候により、それぞれの地方特有のビールが生まれました。現在、ビールは100種類以上あるといわれています。

中世に入ると醸造酒を蒸留する技術が確立され、蒸留酒が造られます。麦からウイスキー、ブドウからブランデー、芋類からウォッカ、リュウゼツラン(竜舌蘭/多肉植物)からテキーラなど、世界各地で蒸留酒が次々と誕生しました。

◆風土の中で変化へ

このように、お酒は各地の風土の中でさまざまな進化を遂げ、人々に愛されてきました。古代ギリシャではワインの神バッカス、ビールの神ガンブリヌス、日本では大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が祀られてきました。昔から宗教的な儀式やお祝いの行事でお酒を用いるなど、単なる飲み物ではなく、文化や習慣において重要な要素であったのです。

◆日本人の最初のお酒

日本人にとっての最初のお酒は、野生のブドウが自然発酵したものだったそうで、縄文時代には酒造が行われていたという説もあります。奈良時代には米と麹を用いた醸造法が確立されましたが、主に特権階級が飲むものでした。お酒が庶民でも入手できるようになったのは、造り酒屋ができ始めた鎌倉時代以降のことです。江戸時代になると、現代と同じような醸造法で作られたお酒が流通し、日常的に楽しむようになりました。明治維新後は、西洋の食文化とともに、ビール、ワイン、ウイスキーなどが日本に入ってきました。

古来、日本ではお酒を神々にお供えすることにより、神聖なものとして扱ってきました。現代でも、お酒は神棚へのお供え、お清め、儀式や行事に用いられ、神様と人々をつなぐ役目を果たしています。日本人はお酒に対して飲みもの以上の価値や嗜み方を高めてきました。古来の日本では酒を造る行為そのものが神事として行われてきました。酒造りの工程毎に、専用の祠(ほこら)が用意され、祝詞を読み上げて執り行われていました。神様への敬意とともに、儀式としての意味合いが強かったのでしょう。江戸時代の随筆を集めた「百家説林」には、日本人の飲酒の考え方が記されています。「礼を正し、労をいとい、憂を忘れ、鬱をひらき、気をめぐらし、病を避け、毒を消し、人と親しみ、縁を結び、人寿を延ぶ」とあります。また、足利時代に生まれたとされる「酒道」は「酔うのを目的とするな酒は優雅で素晴らしいもの」を基本精神に、お酒を通じて礼節を身に付け、精神性を高めようとしました。

桜や月、紅葉など、四季の花鳥風月を愛でながらお酒を楽しむのも、日本人らしい優雅な風習です。現代の私たちにも、先人たちよりお酒にまつわる美意識や研ぎ澄まされた感性が受け継がれているはずです。

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 ☆最終回に寄せて☆

早いもので、「きき酒 いい酒 いい酒肴」は、2014年より隔月で連載を始めて6年が経ちました。お酒は単に酔うものではなく、人と人をつなぎ、長い歴史の中で楽しみだけではなく、苦しみも生んできたものです。神聖なものをして崇められ、絵画や彫刻といった芸術、オペラや歌舞伎といった舞台、クラシックやジャズなどの音楽とも密接に関わってきました。

また、元日のお屠蘇や桜の季節の花見酒などの四季折々の年中行事、人生の祝い事の乾杯、亡き人を偲ぶ献杯など、人々の暮らしとともに心をつなぐ架け橋となっています。そんな世界観を少しでもお伝えできれば幸いです。

長い間、ご愛読ありがとうございました。

【 早坂美都 】

・東京歯科保険医協会理事

・フランスボルドーワイン委員会デュプロマ  C.I.V.E.Diploma

・パリフェミナリーズワインコンクール審査員

・ジャパンウィスキーコンベンション審査員

・スピリッツコンベンション焼酎部門審査員

・FBO 認定  FBO公認講師

・SSI認定 利酒師  日本酒学講師  酒匠

・ANSA認定  ソムリエ

・BSA認定  ビアアドバイザー  スピリッツアドバイザー

・CCA認定  チーズコーディネーター

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.39『秋の味覚 香り高いトリュフ』(機関紙2019年11月1日号/No.596号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.39『秋の味覚 香り高いトリュフ』(機関紙2019年11月1日号/No.596号)

少しずつ秋が深まってきました。この季節になると、茸類が美味しくなります。良い香りの代表として、世界三大珍味の1つであるトリュフがあげられるでしょう。トリュフには、黒トリュフと白トリュフがあり、特に有名なのが黒トリュフで、流通量が多いのも黒トリュフです。

黒トリュフの旬は6月から11月と12月から翌年2月の年2回あります。それぞれ、サマートリュフ、ウインタートリュフと呼ばれ、年間を通じて産出されますが、旬は秋から冬にかけてのものがもっとも上質とされています。この季節に採れたものは、優雅な香りがいたします。ヨーロッパ産のものがほとんどで、フランスのプロヴァンス地方がその本場です。他にもスペイン、イタリアなどで産出されています。

 「黒いダイヤモンド」と称される黒トリュフは生でも食べますが、主に加熱することが多く、パスタやパン、お肉などと相性が良いので、幅広く利用されています。

トリュフには、消化酵素の一種であるジアスターゼが含まれています。

メインのお肉料理に添えられることが多いですが、でんぷんを分解するため、ご飯やパン、パスタといった主食を食べる時に良い食材です。

また、トリュフには椎茸などにも多く含まれるビタミンDも含まれています。ビタミンDは、腸でカルシウムが吸収される働きを高め、血中のカルシウム濃度を向上させる効果があり、骨を丈夫にすることにつながります。

一食で摂取するトリュフの量は少量ですが、このような効果があることも、頭の片隅に置いておくのも良いかも知れません。

料理だけではなく、ケーキにもトリュフが使われることがあります。今年の帝国ホテルのクリスマスケーキは、「料理人がつくるクリスマスケーキ」というコンセプトで、旬の高級食材であるトリュフをケーキの素材とするそうです。

トリュフの入ったダコワーズ生地に、キルシュ香るホワイトチョコレートを合わせたクリームでダークチェリーをはさみ、チョコレートムースで包んだ「フォレノワール」風のケーキです。ケーキの上部には、トリュフのムースを中に入れたトリュフの形をしたチョコレートを飾り、さらに枝や枯葉、鳥の羽の形をチョコレートで彩ることで森を表現し、さらにスライスした本物のトリュフも添えた豪華なケーキです。

昨年の春、私は、フランスの深い森が広がるランドック地方のワイナリーを訪問しました。ここはトリュフの産地です。トリュフの採れる森の近くにあるブドウ畑から作った美味しいワイン。地元の人たちの誇りでもあることから、「テロワール・ドゥ・トリュフ 」というワインが生まれました。

このワイン、実は、今まで日本に輸入されていなかったのですが、とても美味しかったので、知り合いのワイン輸入業者の方に「ぜひ日本に輸入してください」とお願いしました。現地に足を運んだバイヤーの方が「これなら間違いない」と判断し、昨年の秋より日本に輸入されることが決定されたのです。トリュフの森の近くで作られたワインと、トリュフを挟んだチーズとの相性はとても良いです。秋ならではの贅沢な楽しみです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

先日、夏の暑い盛りに京都の「愛宕神社千日詣」に参加する機会に恵まれました。愛宕神社とは、京都愛宕山の山頂に鎮座し、全国に約900社ある愛宕神社の総本社で、火伏せ・防火に霊験のあることで知られています。731日の夜9時より始まる夕御饌祭(ゆうみけさい)から81日の早朝2時から始まる朝御饌祭(あさみけさい)までに参拝すると、千日分の御利益があるそうです。今回、夜11時に登山開始、早朝2時前に登頂し、山頂の愛宕神社ご神事後、「火迺要慎(ひのようじん)」の御札をいただいて下山しました。参道は多くの参拝の方々であふれ、夜の山道はたくさんの灯りがともされています。ご縁があって、祇園の芸妓さんたちと登りましたが、彼女たちは何十枚というたくさんの御札を受け取っていました。挨拶回りに持参するそうです。ちょうど、81日は「八朔(はっさく)」となります。八朔というのは、旧暦で81日(八月朔日ついたち)を指します。もともと「田の実の節」といって、実った田の稲穂に感謝し、豊作を祈ったところから始まっているそうです。「田の実」は「頼み」に通じることから、芸妓さんや舞妓さんが、芸事の師匠やお茶屋などに、日ごろの感謝の気持ちを伝える祇園の年中行事となっています。

猛暑の中の登拝後、水分補給をして少し落ちついたところで無事下山をしたことを祝い、冷たい清酒で乾杯しました。京都市南の玄関口、伏見の銘酒「玉乃光」です。伏見は、かつて「伏水」とも書かれていて伏流水が豊富な土地です。桂川、鴨川、宇治川に沿った平野部と、桃山丘陵を南端とする東山連峰からなっています。

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伏見の歴史は古く、「日本書記」には「山城国俯見村」として記されています。

平安時代には、風光明媚な山紫水明の地として皇室や貴族の別荘が置かれ、安土桃山時代には豊臣秀吉が伏見城を築城し、一大城下町を形成しました。その後、京都と大坂を結ぶ淀川水運の玄関口として栄え、幕末には坂本龍馬をはじめとする勤王の志士たちとともに、近代の夜明けの舞台となりました。

玉乃光で酒造りに使われている水は、豊臣秀吉が醍醐の茶会の時に汲み上げたといわれている御香水(ごこうすい)と同じ伏流水で、「日本の名水百選」にも選ばれています。

また、「祝(いわい)」という京都産酒造好適米を使っています。「祝」は、良質酒米として伏見の酒造で多く使用され、丹波・丹後で栽培されていましたが、稲の背が高く倒れやすく、収量が少ないことなどが原因で、姿を消してしまいます。しかし、伏見酒造組合の働きかけによって、府立農業総合研究所などで栽培法を改良、試験栽培が始まりました。その後、1990年には農家での栽培が始まり、1992年には「祝」の酒が製品化されました。口に含むと優しい吟醸香がひろがります。また、すっきりとした旨味は料理を引き立て、京都ならではの食材との相性が素晴らしいのです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.37『ゴールドの輝きをはなつオーストリアのワイン』(機関紙2019年7月1日号/No.592号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.37『ゴールドの輝きをはなつオーストリアのワイン』(機関紙2019年7月1日号/No.592号)

2019年は、日本・オーストリア友好150周年に当たる記念すべき年です。これを祝うべく、ウィーン・ミュージアム、ウィーン美術史博物館、オーストリア・ギャラリー・ベルヴェデーレが日本で特別展覧会を開催しています。開催地は東京都、大阪府、愛知県です。東京では上野の東京都美術館が、420日より711日まで「クリムト展 ウィーンと日本1900」が開催されています。足を運ばれた会員の先生もいらっしゃるでしょう。東京開催のあと、723日からは愛知県の豊田市美術館で巡回開催されます。

大日本帝国とオーストリア・ハンガリー二重帝国の間には1869年、日墺修好通商航海条約が締結され、友好関係がスタートし、日本は1873年にウィーンの万国博覧会に公式参加したのでした。

クリムト展に行かれた方はご覧になったかと思いますが、「ベートーベンフリーズ」という大作の複製が展示されています。これは、ベートーベンに捧げるクリムトのオマージュとして有名で、ベートーベンの交響曲第九番に沿って製作されています。「幸福への憧れ」、「敵対する力」、「詩」、「この接吻を全世界に」の大きな4つのテーマで成り立つ長い壁画です。この作品に接し、本物を見たくなり、先の連休にウィーンに行きました。「ウィーン分離派館」という建物の地下に展示してある壁画を見た時の感動もさることながら、上野で展示してある複製の技術力の高さに驚きました。しかも、展示室のスピーカーから、小さな音でベートーベンの交響曲第九番「歓喜の歌」が流れているのです。気持ちが大変盛り上がり、日本ならではの素晴らしい展示方法だと感じました。

ウィーン分離派館での展示は、地下ながら自然光に近い明るさです。クリムト独特のタッチ、きらびやかなゴールドの輝き、ゆったりとした空間と時間の流れを感じさせる巻物のような美しさ。分離派という変わった名前は、若手芸術家たちによって作られたものです。世紀末のウィーンで展示会場を持っていたのはクンストラーハウスという芸術団体だけでしたが、その保守性に不満をもつ若手芸術家たちがクリムトを中心に結成したのが造形美術協会、のちの分離派となるのです。

日本でも、クリムトの絵画がラベルになった美しいワインが見かけることがあります。オーストリアワインの多くは辛口の白ワインで、主にグリューナー・ヴェルトリーナー種(Grüner Veltliner)というブドウから製造されています。スパイス、リンゴやパイナップルのような果実の香りが感じられます。このブドウは、オーストリアでは最も生産量の多く、辛口から高貴な甘口まで、大変幅広いワインとなります。有名なワイングラスメーカー「リーデル」の本社もウィーンにあります。日本オーストリア友好150周年に当たる令和元年。世紀末を駆け抜けた若い芸術家たちの思いを感じながら、オーストリアの味わいを楽しむのはいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

若葉が美しく、爽やかな季節になって来ました。連休が終わった頃から、2週間ほどの間を「立夏」といいます。正確にいうと、2019年は56日(月)より520日(月)までの期間です。

立夏は、「太陽が黄径四五度に達した時」と定められており、地球から見た太陽の動きは、地球の自転や公転によって毎年ずれがあるので、立夏の日は毎年変わります。立夏の文字を見ると6月から7月頃の初夏と勘違いしそうですが、立夏と初夏は違います。立夏は二十四節気の穀雨(こくう)から数えて15日目に当たり、春の風が去って天候が安定し、過ごしやすくなる頃です。二十四節気をさらに細分化した七十二候において、立夏は、蛙始鳴(かわずはじめてなく)、蚯蚓出(みみずいずる)、竹笋生(たけのこしょうず)と分けられます。おたまじゃくしから成長した蛙が鳴き始め、冬眠から目覚めた蚯蚓(ミミズ)が活動し始めます。

「笋」は、音読みが「ショウ」、訓読みが「たけのこ」で、異体字(同じ意味、読み方を持つが字体が異なる文字のこと)に「筍」が挙げられます。日本古来種の筍の、瑞々しい旬の味わいを楽しめる季節となります。

掘ってすぐの若い小ぶりな筍でしたら、茹でただけで歯ざわりよく、軽いえぐみも楽しめます。また、青々とした若竹は、食器や酒器としても活躍します。

「竹酒」とは「かっぽ酒」のことで、竹酒器に入れられたお酒のことをいいます。青竹の節を切り抜き、お酒を入れて提供されます。この時、氷を敷き詰めた入れ物に入れれば竹の香り爽やかな冷酒を楽しめますし、火にくべて熱燗にすれば竹の香りとともに、竹の油がお酒にしみ込んで、旨味が際立つ味わいとなります。

竹酒といえば竹酒器に入れられたものを指しますが、竹そのものを入れ物にしているお酒もあります。不思議なことに、お酒が入っている竹には、穴が開いていないのです。「竹に入った水を飲むと不老長寿になる」という話を聞いて、竹の中に酒を入れることを思いついた方がいました。最初は、竹に穴をあけてお酒を入れて試したようですが、うまくいかず、竹を酒に漬けたりしてみましたが、失敗の連続だったようです。試行錯誤して専用の減圧機を開発し、竹を減圧機にかけて節の中を真空に近い状態にした後に、一晩、酒の中に漬けると、節の中に酒を満たすことに成功しました。飲む時には、錐やアイスピックのようなもので竹の節に穴をあけます。

青葉が美しいこの季節、旬の筍とともに、香り高い竹のお酒もいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.35『春を告げる❝いちご❞』(機関紙2019年3月1日号/No.588号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.35『春を告げる❝いちご』(機関紙2019年3月1日号/No.588号)

少しずつ気温が高い日が増えてきました。3月の旬の食材で人気なのは、「いちご」だそうです。クリスマスに多く見られますが、本来の旬は春なので、赤く色づいた美味しいいちごが出回る季節でもあります。

この季節はいちご狩りに出かける方もいらっしゃるでしょう。小さなお子さんだけではなく、大人も楽しい行事です。また、ホテルやレストランでいちごビュッフェと称して、いちごを使った料理やスイーツが並ぶイベントも、見るだけでも心浮き立つ気持ちになります。

いちごは、バラ科の植物で林檎や梨と同じ科目に属する多年草です。栄養素としては、ビタミンC、カリウム、マグネシウム、葉酸など含まれています。苗を購入し、家庭菜園やプランターでも割と気軽に作ることができるので、病気や害虫に注意すれば、可憐な白い花を眺め、少し酸っぱい実を味わうことができます。

スイーツに使われることが多いですが、ホワイトリカーやウィスキーに漬け込むことによって、香り高いいちご酒を楽しむことができます。梅酒をつくる時と同じように、熱湯消毒したガラス瓶にいちごと氷砂糖、レモン、ホワイトリカーもしくはウィスキーを入れて漬け込みます。一週間目くらいから飲めますが、できれば2カ月ほどお待ちください。梅酒は半年ほどかかりますが、いちご酒は短い期間でできあがります。漬け込んだいちごは、色が抜けて白くなっています。捨てずに砂糖と煮詰めると色が赤色に戻り、いちごジャムができます。

市販品のいちご酒もあります。1872年創業の栃木県小林酒造の「鳳凰美田」というお酒です。このお酒は、日光連山の豊富な伏流水に恵まれた美田(みた)から命名されたそうです。小林酒造では、桃、杏、柚子といったリキュールも作っています。日本酒に使用される麹がもつ酵素の働きにより、いちごの細胞膜を破砕せずに液状化しています。そこにわずかな乳製品をブレンドすることによって、いちごミルクのような味わいになっています。

また、いちごの花の酵母を使用した日本酒もあります。花酵母といって、ナデシコ、サクラ、ヒマワリなど、さまざまな花から抽出した酵母があるのです。花酵母のお酒はそれぞれの花の香りがするわけではありませんが、フルーティな味わいとなることが多いです。軽快な飲み口、甘みとコク、爽やかな酸が拡がったあと、最後にアルコール独特のわずかな苦みと米の旨味、濃醇な味わいを楽しみことができます。

いちごの花言葉には、「幸福な家庭」、「尊敬と愛情」、「先見の明」があります。赤い実をたくさんつけて根を張ることで「幸福な家庭」、キリスト教の聖ヨハネとマリアにいちごが捧げられたことにより「尊敬と愛情」、いちごの根や葉を水につけて目を冷やすと視力が回復すると信じられていたことより「先見の明」という言葉が選ばれたそうです。ちなみに、331日は「いちごの花」の日です。

この季節ならではの旬の味を、さまざまな方法で召し上がってみてください。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.34『新年の乾杯はバカラとともに』(機関紙2019年1月1日号/No.586号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.34『新年の乾杯はバカラとともに』(機関紙2019年1月1日号/No.586号)

新年おめでとうございます。2019年を迎えました。年末年始はいかがお過ごしでしたか。

新しい年をお祝いするのに、ぴったりなチーズ「バラカ」をご紹介いたします。馬蹄型を意味するフランスのチーズです。バラカとは、もともとアラビア語に起源を持つ言葉でしたが、ヨーロッパでは馬の蹄鉄は幸運をもたらすと言い伝えられています。個性的で目立つ形をしているので、デパートのチーズ売り場でご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

外見は、厚みのある綿毛のような白カビに包まれており、脂肪分が60%ほどで、クリーミーでバターのような風味があり、クセが少ないので、とても食べやすいです。

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チーズの原料となるミルクに生クリームを添加して、よりクリーミーなチーズを作ることがあります。こうした乳脂肪分が60%以上のものをダブルクリーム、70%以上のものをトリプルクリームといいます。バラカは、ダブルクリーム製法で作られています。

温めたミルクに乳酸菌を加えた後にレンネット(凝乳酵素。牛の胃や微生物から抽出されるミルクを固めるための酵素。これをチーズの原料乳に加えると、ミルクが凝固し、水分が分離されます。レンネットは熟成中にも、蛋白質の分解に大切な働きをします)を加えて、カゼイン(乳蛋白質)が凝固したもの(凝乳)からホエイ乳清(チーズを作るときに出る水分のこと。チーズには不要。90%以上が水分ですが、ミルクに含まれる乳糖はほとんどこちらに出てしまうので、牛乳でおなかがゴロゴロする乳糖不耐症の人もチーズなら安心しです)を除去したヨーグルト状のものをカードといいます。このカードを専用のおたま(ルーシュ)ですくい、型に入れて水切りし、そのあと型から出して塩漬けにします。

白カビは、後からスプレーで吹きかける方法と、ミルクの段階で入れる方法があります。その後、温度・湿度が調整された熟成庫で、白カビを表面に繁殖させます。

バラカに合わせるワインは、シャンパンがお奨めですが、日本酒もとても合います。特にお正月には金箔が入ったお酒も出回るので、気分を盛り上げるのにぴったりです。また、軽めの赤ワインも合いますし、濃厚なミルクの風味があるため、濃く淹れた紅茶やコーヒーとも相性が良いです。

バラカを使った簡単なお祝いケーキもよろしいかと思います。馬蹄形のバラカの上面に、苺やブルーベリー、林檎などのフレッシュフルーツや、無花果や干し葡萄といったドライフルーツを彩りよく盛り付けるだけです。のせるフルーツ類は、リキュールに漬け込んでも香りよく仕上がります。濃厚な味わいなので、酸味のあるフルーツと一緒にいただくと、さらに味が引き立ちます。

また、乳成分が多いため、常温に置いておくとすぐに柔らかくなってしまいます。バターと同じように考えて、できれば冷蔵庫から出してすぐにいただくか、あるいは食卓ではクラッシュアイスの上に置いたほうが、最後まで形を楽しむことができます。ぜひ、縁起の良い馬蹄形のチーズで、美味しいひとときをお過ごしください。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

今年も霜月、11月に入り、気温も低くなり日も短くなりました。太陽が西に傾くと、あっという間に沈んでいきます。まさに、「つるべ落とし」という季語がぴったりの季節です。井戸から水を汲む時、滑車が回って落ちていくつるべ。「つるべ落とし」はどこにでも井戸があり、日々の暮らしに欠かせないものであった時代に生まれた季語なのです。

秋はお酒にとって新年度となります。101日は日本酒の日、111日は「本格焼酎&泡盛の日」に制定されています。1987年、酎ハイブームで焼酎の需要が急速に拡大した後に、本格焼酎の啓蒙を目的に設けられました。本格焼酎とは、単式蒸溜機を使って蒸溜されます。原料の香味成分が溶け込みやすく、独特の芳香、風味があります。それに対して連続式蒸溜機というものを使って蒸溜したものを焼酎甲類と呼びます。こちらはいわゆる酎ハイに使われるものとなります。また、単式蒸溜焼酎の中でも、黒麹を用いた沖縄特産の焼酎を「泡盛」と呼びます。

例えば「芋焼酎」ですが、さつまいもの収穫時期は8月から10月で、収穫後すぐに蔵元に運ばれます。焼酎の仕込みは、9月から12月頃まで行われるのですが、そのまま商品になるのではなく、前年度から熟成させてきた原酒とブレンドされるのが一般的です。しかし、例外的に「新酒」として出荷されることもあり、10月下旬から11月上旬に当たります。新酒の出荷にあわせて蔵を開放してお祝いを行う蔵元もあります。かつて、焼酎の新酒は地元にのみ出荷されていましたが、最近では首都圏にも出回るようになりました。

九州のイメージが強い焼酎ですが、実は東京都内でも地酒として多くの焼酎が造られていることをご存じでしょうか。

東京の焼酎造りの歴史は古く、江戸時代末期の1853年、薩摩の回送問屋主の丹宋庄右衛門が密貿易の罪で八丈島に流されたことに遡ります。当時の島は食料事情が悪く、主食の米を使った酒造りは禁止されました。そこで、さつまいもを使った焼酎を島に伝えたのです。その後、蒸溜技術は三宅島、大島、青ヶ島、神津島へと広がり、各島で個性豊かな焼酎が造られるようになりました。近年、小笠原諸島ではラム酒、島酒を造っているほか、府中市では地元の水田で収穫した黒米を玄米のまま使った焼酎などあります。

府中市の大國魂神社の境内に、「大山昨命おおやまくのみこと」を祭る「松尾神社」があります。本社は京都の「松尾大社」で、大社社殿の背後に湧く水を酒に混ぜる風習が京都では残っています。大國魂神社境内の松尾神社は、江戸時代後期に勧請(かんじょう)されたものです。神道では神霊は分けることができるとされており、勧請とは分霊を移すことをいいます。

先日、400種類もの焼酎を置いているお店で新酒をいただきましたが、大変香りが高く、気品あふれる味わいでした。このような世界に誇る日本ならではの蒸留酒を、以前よりも手軽に飲めるようになってきたのは嬉しいことです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.32『「生々流転」横山大観画伯が愛した広島の銘酒「醉心」「生々流転」「せいせいるてん」』(機関紙2018年9月1日号/No.582号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.32『「生々流転」横山大観画伯が愛した広島の銘酒「醉心」「生々流転」「せいせいるてん」』(機関紙2018年9月1日号/No.582号)

一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。本来、すべての物は絶えず生まれては変化し移り変わっていくことで、「生生」は物が次々と生まれ育つこと、「流転」は物事が止まることなく移り変わっていく意味があります。

また、明治元年に生まれた日本画の巨匠、横山大観画伯(1868~1958年)の大正期の名作で、日本一長いとされる画巻の題名「生々流転」でもあります。

今年は横山大観画伯生誕150年に当たり、去る2018年4月14日より5月27日まで「生々流転」は、東京国立近代美術館に展示されていました。 深山幽谷から水の滴が生じて集まり川となり、水量を増して雄大な大海に注ぎ、最後には竜の姿となって昇天していくという水の一生を描いた絵です。全長は実に40.7メートルにも及び、全巻をひと続きで見られるのは9年ぶりとのことでした。

ところで、横山大観画伯に縁深い酒蔵が広島県三原市にあります。創業万延元年(1860年)の「醉心(すいしん)」です。三原のお酒は、古来は万葉集の歌に「吉備の酒」として詠まれており、また、瀬戸内海沿岸山陽側のほぼ中央に位置し、毛利元就の三男、小早川隆景の築いた三原城の城下町で、海上・陸上の交通の要衝でした。

大観が生涯、最も愛飲したお酒が「醉心」でした。大観にとって醉心は主食であり、米飯は朝軽く茶碗一杯口にする程度で、その他は「醉心カロリー」を採っていたといわれています。

昭和初期のことです。東京神田の「醉心山根本店 東京支店」に連日お酒を買いに来る上品な女性がいらっしゃいました。その方が大観の夫人だったのです。醉心三代目山根薫社長が大観の自宅に伺ったところ、「酒造りも絵画も芸術だ」と意気投合し、感動した薫社長が一生の飲み分を約束したのだそうです。それ以来、大観は醉心に毎年一枚ずつ作品を寄贈するようになり、「大観記念館」ができ上がりました。

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大観は1958年(昭和33年)に89歳で生涯を終えましたが、第二次世界大戦の時にも「醉心は主食である」と、東京まで酒を送ってほしい旨を山根社長に手紙をししため、当時の五島慶太大臣に運送の取り計らいを依頼したこともあったということです。 晩年、薬や水さえ受け付けなくなり重態となった時でも、醉心だけは喉を通り、それをきっかけに翌日からは果汁やお吸い物、一週間後にはお粥を食べられるまでになったという記録も残っているそうです。

広島の酒造りは「軟水仕込み」が特徴で、ミネラル分が少ない軟水で造られた酒は、醗酵が穏やかに進み、口当たりのまろやかな味わいになります。

なお、9月末に東京歯科保険医協会で開催される女性会員交流会では、醉心の蔵元さんが遠路はるばる広島より駆けつけてくださいます。横山大観画伯に「醉心のお酒は一つの芸術だ」と評された甘露な旨味を、ぜひ記念すべき生誕150年の年に、蔵元さんの貴重なお話しとともに、楽しんでいただきたいと思います。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.31『全体に優しく品があり しなやかな味わい』(機関紙2018年7月1日号/No.580号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.31『全体に優しく品があり しなやかな味わい』(機関紙2018年7月1日号/No.580号)

前回掲載したフランスのトゥールーズでの日本酒講義のあと、フェミナリーズワインコンクールのためにパリに向かいました。途中、国鉄と航空会社の一部がストとなり、延泊後、1日遅れでパリに到着しました。フェミナリーズコンクールの審査員は全員女性です。

フランスをはじめイタリア、ドイツ、スペイン、オーストラリアなど世界15カ国から、1250社、4300アイテムのワインが出品されました。そのうち12社、34アイテムは日本からの出品です。審査員も世界28カ国から約450名が集結した大きなイベントで、日本からは私を含む四名の審査員が参加いたしました。銘柄を隠したワインがずらっと並び、香り、色などチェックして点数をつけていきます。

フランスのワインジャーナリストの方から、以下のようなお話を聞くことができました。

「日本のワインは、全体に優しく品格があり、しなやかな味わいを感じました。甲州は、特に青い植物や柑橘系の香りを感じます。蛸とシブレット(フランスの小ねぎ)の軽い料理に合わせたいです。岩手の赤ワインは、野菜のような香りで味わいのバランスが素晴らしく、タンニンもしっかりあり、余韻がとても長い。サクランボのような赤系果実の風味を楽しめます。軽くローストしたビーフにぴったりです」と、素敵なコメントを下さいました。食材の例えとして「蛸」を挙げた理由を聞くと、独特の食感があり、噛むほど味が出てくるので、少し塩味を感じる日本の白ワインにぴったりだとのことでした。また、「飲み慣れない味わい」というのが山形の山ブドウを使ったワインです。「乾いた木の香と塩味を感じ、マルベック(赤ワインとつくるときのブドウの一種)のような個性を感じます。赤ワインですが、魚介類と合わせたいです」。

従来、肉料理に赤、魚料理に白、という定番でしたが、最近では魚介料理に赤ワインを合わせることも多くなってきています。

先日、コンクールの結果が出ました。日本のワインで金賞受賞は、以下の7銘柄となりました。

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1、楠わいなりー 日滝原 2017

2、楠わいなりー シャルドネ 2016

3、林農園 エステートゴイチ メルロー 2015

4、大和葡萄酒 ハギースパーク 重畳 2017

5、シャトレーゼベルフォーレワイナリー勝沼 等々力甲州 2016

6、エーデルワイン ドメーヌ・エーデル ツヴァイゲルトレーベ 2015 天神ヶ丘畑

7、岩の原葡萄園 レッド・ミルレンニューム 2016 辛口

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審査の合間に交流会がありました。フランス国内からはもちろん、アメリカ、チリ、南アフリカなど世界のワイン醸造家やソムリエたちが集います。彼女たちのパワーの素晴らしさや前向きな生き方を、肌で感じることができました。最近の日本女性には「奥ゆかしい」という言葉が似あわないような風潮がありますが、世界から見れば、まだまだ大人しいと思いました。それでも、女性の活躍はめざましいもので、歯科医療界では今年の歯科医師国家試験の合格者の43%が女性となっています。

もうすぐ、各国の審査員が選んだワインが店頭に並ぶのが、楽しみです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.30『日本の醸造と食文化/切っても切れない「麹」の話~トゥールーズで考えたことあれこれ』(機関紙2018年5月1日号/No.578号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.30『日本の醸造と食文化/切っても切れない「麹」の話トゥールーズで考えたことあれこれ』(機関紙2018年5月1日号/No.578号)

東京で桜が満開だった2018年4月の初め、フランスのパリ、トゥールーズに行ってきました。パリではワインコンクールの審査員として、トゥールーズでは、日本酒の講師としてお役目を果たしてきました。昨年、日本酒学講師という資格をとったのですが、これは日本酒利き酒師をとってから3年以上経過、その間に蔵元実習やティスティングの講習などを受けてから、受験できるものです。年齢とともに、覚えが悪くなってきています。とても難しかった試験です。

講師になると、日本酒ナビゲーター講座という授業を任されます。今回、初の講師としてのお仕事は、なんとフランスのトゥールーズでした。

フレンチと日本酒の組み合わせは、東京でもさまざまなレストランでみることができます。料理との相性もそうですが、果たして日本独特の「麹」のことがどこまで伝えられるか、少々不安でした。

「麹」は大きく分けて「黒麹」、「白麹」、「黄色麹」に分けられます。味噌、醤油、酒をつくるのが「黄色麹」です。「黒麹」や「白麹」は、クエン酸を多く生成するので、気温の高い地域で泡盛や焼酎を作る時に使われることが多いです。

醸造とは、酵母によって糖分がアルコールと二酸化炭素に分解されることです。ワインを作るときには、もともと葡萄の実に糖分があり、皮に天然の酵母があるので、自然とアルコール発酵を始めます。しかし、米のデンプンは、そのままでは糖になりません。そこで、「麹」の力が必要になってくるのです。デンプンを糖に変えていくのが麹の役目です。蒸した大豆や米に麹菌を振りかけ、温度や湿度を適切に保つことによって、きれいに均一に繁殖するのです。まるで米や大豆が、緑や黄色の絨毯のようなふわふわの状態になります。

◆「枯れ木に花を咲かせましょう」

まさに、花咲か爺さんのお話しのようなことが起こるのです。

「分かりにくいかな」と思っていた「麹」の話を、受講生の方たちは一番興味深く聞いてくれました。日本食は、発酵文化の集大成のようなものです。味噌、醤油、味醂、日本酒、納豆など、すべて発酵食品なのです。「だから、チーズとも相性がいいのですね」と聞かれました。まさにその通りです。同じ発酵食品ですので、さらりとして香りが高いタイプの日本酒は、シェーブル(山羊)の熟成が浅いあっさりとしたものとぴったりですし、熟成が進んだモンドール(冬季限定の濃醇なタイプ)などは、熱燗にうってつけです。

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トゥールーズでの講習では、日本酒とともに、日本食や素材の話がとても人気でした。この時、日本からは酒粕や味醂も持っていき、酒粕と使った料理や、味醂と屠蘇散を用いて、お屠蘇を作り、皆さんに味わってもらいました。フランスのシェフの方や、ワインラベルデザインの方たちにも、無事に「日本酒ナビゲーター」の修了書を手渡しして、今度はワインコンクールの審査のためにパリに向かいました。パリでのワインコンクールで感じたことなどは、次の機会にいたします。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.29『蒼い氷河の氷でオンザロック―パタゴニアのペレト・モレノ氷河にて』(機関紙2018年3月1日号/No.574号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.29『蒼い氷河の氷でオンザロック―パタゴニアのペレト・モレノ氷河にて』(機関紙2018年3月1日号/No.574号)

何万年もの歴史を刻む氷河。その氷で美味しいオンザロックを楽しめたら、どんなに素晴らしいでしょう。そんな夢をかなえるべく、日本の裏側、南米のパタゴニアに行きました。

パタゴニアは南北に連なるアンデス山脈を境に、チリとアルゼンチンの両国にまたがる南緯四十度より南の地域のことをいいます。面積は日本の二倍、域内には五十を超える氷河があり、秘境として世界的に知られています。年間を通して気温が低く風が強く、一九五〇年代にこの地に足を踏み入れた英国の探検家、エリック・シプトンは「嵐の大地」と呼んだそうです。大西洋と太平洋と南極、三方向からの強い気流の影響を受けています。

日本から十二時間かけて北米ダラスに到着。六時間の乗継ぎの時間を経て、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスまで十時間、その先の南極大陸に向かう船が出る港町ウィシュアイアに行ってから、マゼラン海峡を渡って陸路八百キロを移動。氷河ツアーやトレッキングの拠点となる南緯五十度の「エルカラファテ」という小さな町に到着しました。ここから、世界で三番目に大きい「ペレト・モレノ氷河」へ向かいます。参考までに、世界で一番大きい氷河は南極の氷河、二番目はアイスランドの氷河だそうです。

ペリト・モレノ氷河は、別名「生きた氷河」と呼ばれており、世界中の氷河がどんどん収縮していく中、珍しく崩壊と成長を繰り返している氷河なのです。あまりにも美しい澄み切った蒼い色に、皆、言葉を失っていました。アイゼンを装着して、いよいよ氷河トレッキングです。ところどころにクレバスがあり、信じられないくらい蒼い色の氷河の水が流れていました。雪山とは違う足の感触です。「大きな粒のかき氷を踏むような」といえば少しは近い表現でしょうか。想像よりも柔らかく、アイゼンが食い込んでいきます。風の大地としてはとても珍しい晴れた穏やかな天候で、美しい青空と氷河の蒼さが織りなされ、まさに絶景としかいえない風景が広がっていました。

氷河トレッキングの後は、ガイドさんがピッケルを使って氷河を割り、スコッチウイスキーで最高のオンザロックを作ってくれました。グラスの中で、太古の空気を閉じ込めて何万年も生き続けていた氷河の氷はどこまでも透き通っていて、陽の光に輝いています。

パタゴニアの大自然の中に、未来の地球を救うかもしれないヒントが隠されているそうです。強い風を利用した風力発電で、水から二酸化炭素を出さないエネルギー「水素」を作り出し、それを日本へ運ぶという構想があるそうです。水の惑星の地球の原子番号一番の水素。そのエネルギーが地球温暖化を防ぐキーワードの一つになるかもしれないのです。そんなロマンを感じながらの氷河オンザロックでした。

(協会理事/早坂美都)

75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる法案、参議院厚労委員会可決

 参議院厚生労働委員会は63日、年収200万円以上(単身世帯の場合)ある75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる医療制度改革関連法案について、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決した。翌4日の参議院本会議で成立する見通し。立憲民主党、日本共産党は、高齢者のみに負担を押しつける法案だとして反対した。

 また厚生労働委員会は、税制も含めた総合的な議論に着手することなどを盛り込んだ付帯決議も、賛成多数で採択した。

きき酒 いい酒 いい酒肴No.28『新年を彩るオペレッタ、ワルツ、シャンパン』(機関紙2018年月1日1日号/No.574号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.28『新年を彩るオペレッタ、ワルツ、シャンパン』(機関紙2018年月1日1日号/No.574号)

新しい年の始まりです。何かと気ぜわしいですが、明るい気持ちにさせてくれる音楽やオペラはいかがでしょうか。オペラの中でも、年末年始によく上演されるのがワルツ王ヨハン・シュトラウス世によるオペレッタの最高傑作「こうもり」です。オペレッタはセリフも柔軟でアドリブもあり、それがオペラ専門とオペレッタも歌う歌手が異なるゆえんともなっています。

「こうもり」は、当時のオーストリアの典型的な富裕階級の生活を描いているのですが、オペレッタの創始者ともいえるジャック・オッフェンバックの影響もあり、それまでの喜劇スタイルのオペラの要素を含みながら、粋なウィンナ・ワルツやお洒落なポルカであふれています。

オペラに比べてオペレッタは娯楽性の要素が強いのですが、「こうもり」は失いがちな気品を伴ったオペレッタの最高傑作です。ウィーンの芳香にあふれ、シュトラウスの個性に満ちた音楽性豊かな大傑作となり、オペレッタの王様ともいわれています。

その中でも、いつ聞いても楽しくなるシャンパンの歌という曲があります。

葡萄酒の火の中に 楽しい生活が燃え立つ

王様や皇帝は名誉を愛するが 何より葡萄の甘い精を愛する

乾杯! 声を合わせて酒の王を讃えよう

乾杯 乾杯!

王者の地位は皆の認めるところ

シャンパンは酒の王と呼ばれる

王者シャンパン 万歳!

すべての国が讃える 遠い所の人も讃える

シャンパンは苦しみを洗い流す!

賢い領主は酒を絶やさない!

登場人物の間で悲喜こもごも、さまざまな事件が起こるのですが、最後はすべてシャンパンのせい、シャンパンの泡のように忘れようという結末になっています。

シャンパンというのは、フランスのシャンパーニュ地方で作られた発泡性のワインのことをいい、他の地方で作っている発泡性のワインのことをクレマンといいます。しかし、元々シャンパンの原型といわれる飲料は、フランスの南西(ラングドッグ&ルーション地方で、カルッカソンヌに近い)リムー(Limoux)という町から始まったのです。太平洋と地中海の二つの海の影響を受け、日照に恵まれて雨も比較的多く降ります。世界最古のスパークリングワインの産地として、ワイン史においてとても有名です。昨年、リムーのワイナリーに行きましたが、そこの資料館に「1531年には修道士がモーザックという品種からスパークリングワインを作っていた」という記録が残っていました。

それぞれの農家が持ち寄ったワインを集めて、再発酵させて発泡ワインを作ったのが始まりです。

お正月恒例のウィーンのニューイヤーコンサートも、日本にいながらテレビで楽しめます。毎年、これを聞かないと一年が始まった気がしない方も多いことでしょう。ニューイヤーコンサートの最後は「美しき青きドナウ」と「ラデッキー行進曲」がお決まりです。会場一同の拍手に合わせ、テレビを見ながら一緒に拍手して新年を迎えるのも楽しいです。美味しいシャンパンやクレマンを開けて、これからの歯科医療界が明るくなることを願っていきたいです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.27『シングルモルトと牡蠣』(機関紙2017年月11日1日号/No.572号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.27『シングルモルトと牡蠣』(機関紙2017年月11日1日号/No.572号)

少しずつ寒さが増して、牡蠣が美味しい季節になってきました。

牡蠣には何を合わせますか?と聞かれて、日本酒好きの方は「熱燗」と答えるかもしれませんし、ワイン好きな方は「シャブリ」と答えるかも知れません。意外かも知れませんが、生牡蠣にスコッチウイスキーがとても相性が良いのです。

今年の夏に、スコットランドのウイスキー蒸留所を回ってきました。日本の淡路島と同じくらいの面積、人口四千名弱のアイラ島が一番の目的で、現在は八つの蒸溜所があります。

その中でも最も古いボウモア蒸溜所は、1779年の開設から200年以上も伝統的な製法を守りながら、アイラモルトの女王と言われる「ボウモア」をつくっています。

「ボウモア」はゲール語で、「大きな岩礁」の意味があります。

◆ボウモアの貴重なNo.1

Vaults(第1貯蔵庫/ヴォルトとは地下貯蔵庫)を見せてもらいましたが、そこは海に面していて、波打ち際の岩盤を削り取ったうえに作られています。庫内の床は海面下に位置し、半地下のようなつくりです。特殊な設計で、原酒樽熟成に理想的な環境をおよそ240年以上保っているそうです。ほのかに漂う潮の香、最適な湿潤。これらの条件が原酒の熟成を進ませ、香味要素の役割を担っていることが想像できました。まさに、海のシングルモルトです。

アイラモルトの女王と言われるだけあって、エリザベス女王との縁も深いのです。

1980年、ボウモア蒸溜所に女王エリザベス世が初訪問され、女王の前で新酒が樽詰めされました。その後、2002年の女王戴冠50周年のお祝いに「BOWMORE THE QUEEN’S CASK」ボトル648本が誕生しました。645本は王室へ献上され、残り3本のうち1本は蒸溜所へ、1本はモリソン・ボウモア社の研究室へ、もう1本はチャリティーを目的としたオークションにかけられたのだそうです。

宿泊したホテルのレストランで、素敵な楽しみ方を教えてもらいました。目の前にある美しい海で採れたばかりの生牡蠣に、ボウモアをかけていただきます。潮の香がするシングルモルトと、新鮮な生牡蠣の風味。どちらが主張するでもなく、寄り添うような絶妙なバランスです。

帰国後、他の様々なウイスキーでも試してみました。生牡蠣が難しいときには、牡蠣のウイスキー蒸でも良いと思います。できれば、海の香りがするアイラモルトが一番良く合うようです。都内のオイスターバーでも、生牡蠣にボウモアを添えて出してくれるところも多いようです。

◆日本にも海の近くの蒸留所が

日本でも、海の近くの蒸留所として昨年、北海道の厚岸に厚岸蒸留所ができました。厚岸といえば、素晴らしい牡蠣と乳製品があるところ。今、熟成中のウイスキーが目を覚ます何年か後、スコットランドのアイラ島のように、厚岸の生牡蠣に厚岸のウイスキーをかけて楽しみたいものです。

きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

昔から食卓に秋刀魚がのぼる季節になると、夏ばてがおさまると言われてきました。

秋刀魚には頭が良くなるといわれているDHA(ドコサヘキエン酸)や動脈硬化を防ぐといわれるEPA(エイコサペンタ)が、ワシやバに次いで多く含まれており、目の劣化予防となるビタミンEや風邪防止のビタミンA、貧血予防のビタミンB12 なども豊富にあります。秋の初め、漁場は道東あたり。その後、三陸、常磐、房総の沖へと南下して行きます。

三陸地方では、生秋刀魚の水揚とともに新酒が出始めるこの時期に、旬の生サンマを思う存分楽しんでほしいという思いから「秋刀魚専用酒」を販売しているところもあります。五五%精米した山田錦を用いた氷温瓶の吟醸酒は、確かに生の秋刀魚刺身によく合います。

しかし、塩焼きには秋刀魚の脂に負けない焼酎を合わせていくのもなかなかです。麦、芋、などさまざまな原料を使った焼酎がありますが、独特のにおいが苦手という方にもお勧めなのが米焼酎です。

その中でも、熊本の球磨焼酎の個性あふれる味わいには驚かされます。

お米を麹と酵母で発酵させた醪(もろみ)を蒸溜するのが米焼酎です。蒸溜というのは、アルコールと水の沸点の違いを利用したものです。醪を加熱すると、先に沸点が低いアルコールが気化します。それを集めたのが焼酎です。中でも、減圧蒸留という製法を使った「鳥飼」という米焼酎は、焼酎の概念を越えています。大気圧よりも低い気圧なので、 沸点が下がります。すると、低い温度から抽出される雑味少ない素晴らしい芳香が得られます。リンゴ、白桃、バナナ、メロンのような甘く華やかで、蜜がたっぷりなフルーツの香りが印象的です。その香りに反して、味わいは大変ドライです。シャープで切れが良く、吟醸酒のような焼酎です。日本酒用の酒造好適米「山田錦」と五百万石を吟醸酒なみに磨き、麹(黄麹菌といいます)と自家培養の吟醸酵母によって醪を作り、減圧蒸留を行っています。

秋刀魚といえば思い出されるのが、佐藤春夫氏の有名な「さんまの歌」です。 

あはれ/秋風よ/情(こころ)あらば伝へてよ/――男ありて/今日の夕餉(ゆふげ)に ひとり/さんまを食(くら)ひて/思ひにふける と。/さんま、さんま/そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて/さんまを食ふはその男がふる里のならひなり…(中略)…さんま苦いか塩つぱいか…(後略)…。

「さんまの歌」の背景には、詩人作家としての人生が込められ、象徴的な意味合いがあり、 大変興味深いのです。佐藤氏は和歌山の出身なので、もしかしたら脂が抜けた秋刀魚を食べていたのかも知れません。道東から寒流に乗って熊野灘まで南下してきた秋刀魚は、脂がほどよく抜けており、寿司にするのにちょうどよいのだそうです。「青き蜜柑」というのは、熟する前に収穫した「青切りみかん」のことです。

今夜は、詩人の人生に思いを馳せながら、脂がのった旬の秋刀魚と、香り高くやや辛口な米焼酎を試してみてはいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

次年度歯科診療報酬改定に向けて「歯科総行動集会」開催/「よい歯」全国連絡会と保団連

2022年度歯科診療報酬改定に向けて「歯科総行動集会」開催/「よい歯」全国連絡会と保団連が開催し宇佐美氏も基調報告行う

「保険で良い歯科医療を」全国連絡会と保団連は本日6月3日、千代田区永田町の衆議院第二議員会館内で「6.3初夏の歯科総行動集会」を開催した。この集会は、この1年半にわたる新型コロナ感染拡大によって、口腔内の健康は感染症予防対策の上でも重要であること、政府の歯科の低診療報酬政策が新型コロナ感染防止対策の必要経費出費により歯科診療所経営を揺るがしていること…、などの現状を克服、改善に向け、2022年度診療報酬改定でその対応を求めるため開催されたもの。

コロナ対策を施した会場には、約100名が集まった

Web開催併用による開催で、全国の250会場と結び、400名以上が参加。会場参加も約100名。衆参両院の国会議員も16名が参加し、激励のメッセージを送った。

特に、自民党衆議院議員の中谷元氏は、まず「政治家は、歯が命」と述べた後、「新型コロナウイルス感染症拡大防止対策が実施されている中、歯科医師にはワクチン接種への協力得ることができたとし、協力への感謝の意を述べた。さらに、「臨床的には受診抑制が働き患者さんが減っている。歯科は全身疾患との関係が指摘されおり、本来の機能、責務が果たせるよう政府はできることはする」と強調。また、歯科技工士の尽力がなければ歯の治療はできないとした上で、「歯科衛生士や歯科技工士の問題には、真剣に対応していくべきと確認した」と所感を述べた。

次に、看護師で自民党衆議院議員の阿部敏子氏は、医師、看護師に加えて歯科医師によるワクチン接種が可能になった点に言及し、「より多くの人への接種は、心強い限り。医師・看護師の負担軽減にもつながる」と述べた後、「歯科の喫緊の課題は歯科技工士の問題であるとの報告を受けています。養成機関、離職、職場環境などの課題を整備する必要がある」と指摘し、その解決を図らなければ「歯科医療の崩壊を招きかねない問題」との認識を明らかにした。

また、歯科医師で立憲民主党衆議院議員の長谷川嘉一氏は、近年の努力もあって「歯科の問題については、与野党を問わず、多くの議員に理解していただいている」とした上で、歯科技工士問題、歯科用貴金属の価格問題の現状を報告。さらに「歯科に理解を示している議員は多い。歯科の処遇は必ず改善される」と強調した。

立憲民主党衆議院議員の村上史好氏は、「“病は気から”という言葉があるが、今は、“病は歯から”。その対応については、一つひとつ解決したい。情報提供を含め宜しくお願いする」と述べた。

続いて、医師で立憲民主党衆議院議員の吉田統彦氏は、「歯科の初・再診料は低すぎる。医科と同じにすべき」とした上で、「歯科医療費への配分を変えないとダメ。政権交代したら、一気に変えます。その判断を有しています」訴えた。さらに、唾液による新型コロナウイルス感染リスクが高いのだから、歯科医師はコロナワクチンの優先接種を受けるべきとの認識を示したほか、歯科技工士・技工物問題や歯科用貴金属の価格問題にも言及し、歯科診療報酬の改善に向け努力することを示唆した。

◆保団連の宇佐美歯科代表が基調講演

この後、保団連歯科代表で「保険で良い歯科医療を」全国連絡会副会長の宇佐美宏氏による基調報告「新型コロナウイルス感染拡大で見えた“歯科医療の危機”と“歯科医療の役割”」が行われた。

その中では、まず「歯科受診控えの結果、患者の口腔内が悪化している。と同時に、口腔は細菌・ウイルスの体内への出入り口でもあり、口腔の健康は感染症予防にも大切だ」とし、さらに、歯科医療の危機として、①コロナ禍以前から、経済的な理由で歯科を受診できない、②コロナ禍拡大で歯科受診抑制の拡大、③生活苦での受診抑制が増加してきたこと。こうした事態への対応が急務である―と指摘した。

また、歯科医療機関が直面している問題点として、受診抑制で経営的な問題がクローズアップされ、歯科技工物を製作する歯科技工士・歯科技工所の継承問題、金パラ逆ザヤ問題、歯科衛生士の雇用促進問題などを挙げ、「地域的な差異はあるが、臨床的には全国的な課題になっている」と指摘した。これらを総じて「歯科医療危機の打開として、基本的には歯科医療総枠拡・患者窓口負担軽減が必要である」と、従前からの主張を強く訴えた。

写真右が宇佐美宏氏

なお、例年は診療報酬改定の前年に歯科診療報酬改善を求めるの集会が1回開催されていたが、2022年度改定を前に、今年は夏と秋の2回開催することになり、今回はその初回に当たる。2回目は秋に開催予定。

◆歯科総行動後に「#医療費窓口負担2倍化とめる」緊急集会を開催

「6.3初夏の歯科総行動集会」終了後、同じ会場で保団連による「#医療費窓口負担2倍化とめる」緊急集会が開催された。こちらもWeb併用で開催され、全国の117会場と結び、会場参加は約100名。衆参両国の会議員も4名が参加し、あいさつした。各協会に寄せられた請願署名は、衆参両院の国会議員へ手渡された。

会場内では2倍化反対のプラカードを掲げてのアピールも行われた

 

「歯科医療提供体制等に関する検討会」が第2回会合を開催/厚生労働省が6月2日に

「歯科医療提供体制等に関する検討会」が第2回会合を開催/厚生労働省が6月2日に

厚生労働省は6月2日、「歯科医療提供体制等に関する検討会」の第2回会合を港区内の施設で開催した。

今回は、日本歯科医師会が20201015日に取りまとめた「2040年を見据えた歯科ビジョン」の内容に検討を加えたほか、資料として「歯科医療提供体制に関する当面の進め方について」が示され、その中で本年2月の第1回会合で示された意見を整理した内容が示され、確認された。その中で、「歯科医療提供体制に関すること」については、①歯科では予防が何よりも重要で、それに対するしっかりとした報酬という体制づくりも、今後は必要、②矯正歯科もニーズがある分野、③地域包括ケアシステムで、歯科に求められているのは、摂食嚥下を含んだ「噛んで、食べて、飲み込む」であり、歯のみでなく口腔の医療を提供することが必要、④歯科は、生涯を通じて食べる機能の障害に向き合っていく必要がある―などが指摘された。

また、「歯科医療機関の機能分化と連携」については、①地方自治体、病院歯科、歯科診療所、それぞれの役割をもとに連携の在り方を検討する必要がある、②口腔外科、小児歯科の問題等が多様化しており、一人の歯科医師があらゆる専門性をカバーするのは難しくなっている、③一人の歯科医師であらゆる専門性をカバーするのが難しい状況下では、連携、グループ化、大規模化や、マネジメントの在り方を検討する必要がある―などを確認。

さらに、「かかりつけ歯科医機能」に関しては、①受療者側の視点からは、一生を通じて、いつでも安心して歯科を受診できるシームレスな歯科医療提供体制の構築が求められる、②生涯を通じた関わりの中で、機能、形態の維持が重要、③現状で、歯科保健医療ビジョンや地域包括ケアシステムなどを熟知している歯科医師は多くない。情報発信を行い、歯科医師が共通の認識をもって臨床にあたり、地域で活動することが重要、④周術期口腔機能管理の視点からも、地域のかかりつけ歯科医の役割、連携が重要―などを確認している。

一方、前回会合での歯科専門職に関する議論の取りまとめについては、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士とも、地域事情がある点を考慮し、数のみならず今後のニーズをデータに基づいて分析することも大事であるとしたうえで、歯科医師に関しては、歯科医師の適正数の見直しの必要性を指摘しつつ、歯科医師と歯科衛生士・歯科技工士とのタスクシフトやタスクシェアも考えていく必要があると指摘。その上で、歯学教育と歯科医師養成を巡り、①歯科医師の養成は共用試験、国家試験、臨床研修など、全体を俯瞰的に捉えた議論、検討が必要、②今後求められる歯科保健医療のビジョンをしっかり示していくことが重要―などを確認している。

歯科衛生士については、①復職支援だけでなく、早期離職予防も非常に重要、②歯科診療所や病院の歯科衛生士がどのようにフレイル予防へ貢献―などが確認されている。また、歯科技工士に関しては、歯科技 工士の高齢化が進み、今後の人材不足への懸念を示唆した上で、①歯科技工士は離職も多く、離職する人の7割が20代で、いったん離職すると、復帰は非常に難しい、②歯科技工士の3割が病院や診療所で、7割が歯科技工所で働いているという状況であり、歯科技工所の職場環境の整備は大きな課題―との認識にとどまっているようだ。

安心・安全な歯科医療を目指して、B型肝炎パンフレットのご紹介

<東京歯科保険医協会 院内感染防止対策委員会 委員長 濱﨑啓吾>

東京歯科保険医協会では2017年より全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団主催の「歯科の感染対策を考えるシンポジウム」に参加し、感染症を持つ患者さんの切実な声に触れてきた。

患者さんの中には自らの感染症を正確に申告することで、受診拒否、ユニットや患者さんと「区別」され、傷ついた経験を持つ方が多くいる。他の患者さんと「区別」されることは感染症患者に耐えがたい苦痛を与えるとともに、医療機関で自身の感染症の申告の妨げになっている事実があることを私たちは知らなければいけない。

現在、全世界で未曾有の感染拡大を続ける新型コロナウイルス感染症も多くの無症状感染者が多くいることがわかっているが、これは他の感染症でも同じである。すべての患者さんは何かしらの感染症のおそれがあるものとして、同様に感染防止対策を実施する必要がある。標準予防策(スタンダードプリコーション)は、感染防止対策の基本となると同時に、さらに拡充することで感染症をもつ患者さんが苦痛なく自らの感染症を申告できる環境整備に繋がるのではないだろうか。

今年度の第49回定期総会議案書とともに、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団が作成したパンフレット「安全・安心な歯科医療を目指して」を同封した。ぜひご一読いただき、これからの院内感染防止対策の一助としていただければ幸いである。

最後に、診療報酬での感染対策費は圧倒的に不足しており、標準予防策拡充の大きな障壁となっている。国はこの現状を直視し、歯科院内感染対策費の診療報酬増点など、歯科医療機関の負担の軽減に積極的に取り組むことを強く望みたい。

<全国B型肝炎訴訟原告団 代表 田中義信>

私たち全国B型肝炎訴訟原告団は、幼少期に受けた予防接種の注射器の連続使用でB型肝炎に感染した被害者である。

2006年の最高裁判決後も救済しない国を訴え、私たちは2011年にようやく被害者認定基準と和解金額の枠組み合意を締結した。その際、感染症に伴う偏見・差別をなくすことを含む恒久対策、真相究明・再発防止のために大臣と定期協議をもち、活動を全国の原告の仲間と進めてきた。

2014年5月18日の読売新聞朝刊で、約70%の歯科でハンドピースが患者ごとに交換(滅菌)されていないことが報じられ、原告団は大きな衝撃を受けた。私たちは、医療器具の連続使用で新たな感染被害が生じてほしくないと願って、社会啓発活動を行うこととした。安全・安心な歯科医療を目指した歯科パンフレットの普及や、全国各地で歯科の感染対策を考えるシンポジウムを開催しているのもその活動の一つである。

2017年、東京歯科保険医協会の濱﨑啓吾氏(院内感染防止対策委員会委員長)に「歯科の感染対策を考えるシンポジウム」にて歯科の立場から参加していただいた。シンポジウムでは、受診拒否や診療の最後に回されるなどで他の患者と「区別」されることは苦痛に思う感染症患者がいること。そのことが患者自身の感染症の申告の妨げになること。また、感染症そのものに気がついていない患者もいるので、標準予防策を遵守することが重要であると確認できた。その後、福岡、大阪、富山など各地でシンポジウムが開催され、患者と歯科医師との相互理解が深まってきたと実感している。

感染症を申告することで、ユニットを別にされたり、診療の最後に回されることが、B型肝炎キャリア患者にとって「差別」されていると感じていることをご理解いただきたい。この機会を通じて、貴会会員の中でもこのパンフレットが活用され、標準予防策の更なる推進を期待し、一日も早く、患者と歯科医療機関の相互理解が深まる日が来ることを願っている。

<パンフレット>

【受付終了】8/28(土)開催:第1回学術ベーシック講座

【日 時】
8月28日(土)19時~21時

【演 題】
「ラテラルエンドのベーシック~ステンレススチールでの根管形成の原理原則~」

【講 師】
島倉洋造 氏(東京歯科保険医協会 社保・学術部 部員 千代田区開業)

【抄 録】
今さら訊けない根管治療の基本を再確認しませんか?ニッケルチタン、マイクロ、CT、などが話題の中心になることが多いですが、実際の診療ではまだまだステンレススチール+側方加圧式(ラテラル)根管充填がメインです。根管形成のステップも動画でわかりやすく解説致します。<講師より>
 1)成功の基準
 2)使う器具、薬品
 3)経過を左右するポイント
 4)根尖部の形成
 5)実際の術式        

【対象者】
40歳代までの会員限定(ご本人のみ)

【参加費】
4,000円(事前振込制)

【定 員】
●Zoomミーティング➡定員20名(定員になり次第締切)
●協会会場➡定員10名(定員になり次第締切)
※日常の臨床技術向上を目的としており、日頃の疑問点等で意見交換を行う予定ですので、Zoomミーティングで参加される先生は顔出しをお願い致します。
※感染防止対策の観点からZoomと会場とのハイブリッド開催となります。

【お申込みはこちら(Googleフォーム)】

https://forms.gle/s8ry4QrJeuNkkLyDA

【問合せ先】
☎03-3205-2999(担当:社保・学術部)   

介護報酬に係る研修会に講師として登壇

5月26日(水)に立川市歯科医師会様より講師依頼を頂き、『歯科訪問診療研修会~令和3年度介護報酬改定の内容を中心に~』をテーマに当協会の馬場副会長が登壇しました。

 

定期総会のご案内

東京歯科保険医協会

 第49回定期総会

日時

2021年6月13日(日)
午後2時30分~4時15分

場所

中野サンプラザ 13階コスモルーム
東京都中野区中野4-1-1

議事

第1号議案 2020年度活動報告の承認を求める件
第2号議案 2020年度決算報告の承認を求める件 付・会計監査報告
第3号議案 2021年度活動計画案の件
第4号議案 2021年度予算案の件
第5号議案 役員改選の件
第6号議案 決議採択の件

▶以下に該当する方は、本定期総会のご参加はできませんのでご注意ください。
・37.5℃以上の発熱がある方。
・体調のすぐれない方(味覚、嗅覚などの異常を含む)。
・新型コロナウイルス感染症「陽性」と診断されている方、または同感染症「陽性者」と診断された方と2週間以内に濃厚接触された方

※昨年同様、感染症防止対策を十分に行います。
※ご出席の際は、マスク着用などご自身および周囲への感染予防の配慮をお願いいたします。
※定期総会後の記念講演および懇親会は、新型コロナウイルス感染症の影響により、昨年同様に開催を中止とさせていただきます。
※今後の感染拡大状況によって、定期総会の開催・運営に関して大きな変化が生じる場合は、当協会HPもしくはデンタルブックにてお知らせいたします。内容を随時更新いたしますので、ご来場前に必ずご確認いただきますようお願いいたします。

本定期総会における感染予防

会員の先生方へ感染予防に関するお願いと対応のご案内

後発薬不祥事や毎年薬価改定に学ぶ必要/技工物などの安全性と報酬改定に備えよ【連載】私の目に映る歯科医療界②

国民の最大関心事は新型コロナワクチン

 現在の日本国民の最大の関心は、いつ新型コロナウイルスの感染症が収束するのか、自分にいつワクチン接種の順番が回ってくるのかだ。大阪などで、第四波ともいわれる感染拡大の動きが出ているだけになおさらだ。
 ただ、ワクチンへの盲信は禁物だ。どのくらい長くワクチンが効くか、副作用など安全性がどうなのかは、実際に多くの人に接種してみないとわからない部分があるのは確かだ。
 この原稿執筆時点では未確定だが、英アストラゼネカや米J&Jのワクチンで接種後に報告されている血栓の副反応と、ワクチンとの因果関係が疑われている。
 コロナウイルスの常だが、新型コロナでも変異しやすい問題もある。日本でも実際に英国型などの変異株が増えつつある。これが感染拡大やワクチンの有効性などに、どう影響を及ぼすのかも注目していくべきだろう。
 要するに、ワクチンが入ってきました、ハイ解決です…。とはいかないということだ。 
 医科もそうだが、歯科業界にもまだしばらく新型コロナ感染症の悪影響が残ることを前提に、経営や今後の対策を組み立てていく心構えが必要になる。

安全性と薬価が医科と製薬業界で問題化

 隣接する医科や製薬業界では、そうしたコロナ禍に加え、いま大問題になっているのが安全性と薬価の問題だ。
 小林化工に続き後発薬最大手の日医工が、承認された手順に違反した医薬品の製造・出荷を長年してきたことが相次ぎ発覚、業務停止処分を食った。小林化工では、その薬を使った患者から死者まで出ている。
 また、2021年は、薬価改定が2年に1回から毎年となった初年度にあたるが、その改定内容は、「ほとんど全面改定」といわれるほどの広い対象品目、引き下げ幅で決着し、今年四月に実施された。
 医療機関や製薬企業・卸会社にとっては経営への打撃も大きいだけに、敗北感も漂っている。

歯科も「対岸の火事」ではない

 ところで歯科は、後発品の安全性と薬価の問題は「対岸の火事」といいたいところだが、そうともいえない。
 後発薬の製造不正は小林化工など個別企業の体質問題に加え、厚生労働省の監査・監督の欠陥を露呈させた。海外工場にまで査察官が乗り込み、厳しい監査をする米国に比べ、日本の医薬品監査は甘い。査察官の数など陣容体制も貧弱だ。

歯科技工士問題にも関係あり

 歯科で気になる点は、前回も書いた歯科技工士問題だ。インレーやクラウンなど補綴物などは、事実上、大半が歯科技工士の匠の技になるものだが、その劣悪な労働環境や低い技工料、技工士全体人員の減少、歯科医師とのあいまいな契約も側聞する中で、果たして品質を確保できているのか、という点だ。
 思い過ごしならばいいが、厚労省がここでの品質問題にあまり注意を払ってきた気配がないのも気になる。技工物に限ったことではないが、歯科を受診する患者さんたちに、品質への意識向上が起き、問題が浮上することはありうる。
 転ばぬ先の杖、個々の歯科関係者のみならず、歯科業界全体としても注意を払ったほうが良いと、個人的には考えている。
 先述した製薬会社などにとり、厳しい結果に終わった中間年薬価改定は、ひとり厚労省のみならず、日本政府のほぼ総意(ついでにいえば、財界・保険支払側が応援団)だ。医療費抑制にギアを入れる姿勢を鮮明にしたことにほかならない。

歯科診療報酬の「2年に1回改定」の保証はない

 これは、来るべき歯科診療報酬の改定でも出てくると考えるべきだ。薬価が毎年改定される中、医科や歯科の診療報酬だけが従来のまま2年に1回で済む保証は、どこにもないだろう。

最悪な状況を前提とした対策立案が必要

 少なくとも、最悪のシナリオを前提にした対策は怠らないほうが良い。薬価改定での製薬業界の轍を踏まないためにも、与野党の国会議員などへの働きかけは強めるに越したことはないが、それだけでは不十分だ。
 もし、歯科業界が「安すぎる診療報酬」と考えるならば、国民にその根拠と、引き上げた場合のメリットを理解してもらい、支持を得る運動を用意周到に準備しておく必要がある。

筆者:東洋経済新報社 編集局報道部記者 大西 富士男

(東京歯科保険医新聞2021年5月号10面掲載)

歯科医師がワクチン接種を行うための教育研修について

歯科医師がワクチン接種に従事する際に必要な教育研修について、東京都歯科医師会ホームページにおいて、受講案内が掲載されましたのでお知らせします。なお、当該研修は、日本歯科医師会未入会の歯科医師でも受講可能とされています。

なお、研修をうけたとしても、直ちに接種の業務にあたることはなく、各自治体等からの協力要請があった場合に業務を行うことになりますため、ご注意ください。
(筋肉内注射の経験がない歯科医師の場合、別途実技研修も必要となりますが、それは各自治体において適宜調整されることとなっております)

〇東京都歯科医師会ホームページでのご案内はこちら

新型コロナウイルス感染症に係る「歯科医師によるワクチン接種実施」のための教育研修について – 公益社団法人 東京都歯科医師会 (tokyo-da.org)

 

 

第1回メディア懇談会を開催/歯科技工士問題や金銀パラジウム問題に注目

第1回メディア懇談会を開催/歯科技工士問題や金銀パラジウム問題に注目

協会は5月14日、2021年度第1回(通算第83回)メディア懇談会を開催した。前回に引き続き、コロナ禍に配慮しWEB開催とした。松島良次副会長もWEBで参加して説明に当たり、広報・ホームページ部長の早坂美都理事が協会で司会を務めた。

メディアの参加は計5社・6名。今回の主なテーマは、①歯科技工士問題、②ワクチン接種に関する問題、③金銀パラジウム合金問題、④個別指導延期でおこる問題、⑤第49回定期総会の案内―などで、メディアから意見や発言を求め、懇談に移った。

その中で①の歯科技工士問題では、「技工士自体がなぜもっと声をあげないのか。組織的に動かすことができないのか」との発言があった。これについては、過去の歯科技工士団体の動向や、本年四月に開催された「歯科技工問題を考える国会内集会」での報告、協議・検討内容を紹介した。

次に、②のワクチン接種問題では、「なぜ、医療従事者が接種できないのか」、「高齢者と触れる機会が多い医療従事者こそ、優先してワクチン接種をするべきではないのか」といった意見、発言もあった。

これに対し協会は、今の医療従事者のワクチン接種予約システムの状況や、協会から東京都へのどのような要請をしているかなどを説明した。

また、③の金パラ合金問題では、過去の金パラ価格推移をグラフで紹介した後、「逆ザヤが強い時には、歯科医師はどう対処していたのか」、「国の対応はどのようなものだったか」などが質された。

そのほか、④の個別指導延期問題については、関東信越厚生局東京事務所に個別指導延期の要望書を提出したことなども、併せて紹介し、参加メディアからも「要望書提出は重要な意義を持つものだ」などの指摘を受けた。

厚生労働省が歯周病の効果的な対策検討に本腰/ワーキンググループ設置

厚生労働省が歯周病の効果的な対策検討に本腰/ワーキンググループ設置

―今後の対策の指標や目標値、歯科健診の在り方などを検討

厚生労働省は514日、「歯科口腔保健の推進に係る歯周病対策ワーキンググループ」(以下、「WG」)を設置し、その初会合を開催した。会合は港区内の会場でオンライン併用の形で行われた。歯周病に関しては、成人の約7割が罹患しており、平成 28 年歯科疾患実態調査によると、歯肉に所 見のある者の割合は減少しているが、進行した歯周病のある者の割合は改善していない。また、糖尿病や循環器疾患など、全身疾患との関連が指摘、注目されて久しいが、このWGは歯周病への効果的な対策を検討することが狙いで、今後は、対策の指標や目標値、歯科健診などの在り方に関し、その方向性が議論されることになっている。座長には、国立保健医療科学院統括研究官の福田英輝氏が就任した。

◆検討課題

WGの検討課題は、①歯周病に関する現状:疾患の現状、対策の現状など、②効果的な予防対策、③歯周病対策に係る指標・目標値、④歯周病に係る健康格差、⑤歯科健診等のあり方、⑥全身疾患と歯周病の関係に―などとなっている。なお、WGのメンバーは以下の通り。

【歯科口腔保健の推進に係る歯周病対策ワーキンググループ構成員】

福田 英輝/座長:国立保健医療科学院統括研究官

神村 裕子/公益社団法人日本医師会常任理事

山本 秀樹/公益社団法人日本歯科医師会常務理事

茂木 美保/公益社団法人日本歯科衛生士会副会長

成瀬 桂子/一般社団法人日本糖尿病学会学術評議員

小方 賴昌/特定非営利活動法人日本歯周病学会理事長

森田  学/一般社団法人日本口腔衛生学会副理事長

家守己恵子/岡山県倉敷市保健所健康づくり課主幹

馬場 順子/全国保健師長会常任理事

平田 佳永/石川県健康福祉部健康推進課健康づくり推進グループ主幹