年別アーカイブ: 2025年

「会員の意識と実態調査」の特徴点:52% 経営「苦しくなった」/今次改定には53%が「不満」覚える

昨年10月に実施した「会員の意識と実態調査」は、1,658人の会員から回答が寄せられた。会員のおよそ4分の1以上が、このアンケートに回答したことになる。その内訳は開業医が1,519人、勤務医が120人、不明が19人だった。2024121日現在、都内の歯科医療機関数は10,416施設であり、都内で開業する歯科医師の約15%が本アンケートに回答している。

本号ではアンケート結果から一部特徴点を紹介する。回答者の属性(性別、年齢、開業地など)によっては傾向に差があるため、より詳細な分析や考察を加えた報告については、本紙2月号に掲載する予定である。

◆医業経営「苦しくなった」52%

世界各地の紛争などにより、21年頃から続いている光熱費・物価の高騰。長引く景気低迷、さらに財務省が主導する増税政策が、国民生活をより厳しいものにしている。

現在の医業経営が以前と比べてどのように感じたのかに関する質問では、「苦しくなった」が52.1%となった。一方で、「楽になった」がわずか5.1%にとどまっている(1参照)。

また、24年7 月は、診療報酬改定後であるにもかかわらず、前年同月比で保険収入は「減少した」が42.4%であった(2参照)。保険収入が減少した理由は「患者の減少」が80.1%であった(3参照)。

 

さらに、23年度と比較すると、医院における1日あたりの患者数は、「減少した」が45.2%であった。

医業経営については、保険収入が減少したことや患者数の減少などから、厳しい医療機関が多数存在することが判明した。また「ベースアップ評価料Ⅰ」は、ほとんど算定されていない。今後、本調査結果については、より詳細な分析を行っていく。

なお、この「会員の意識と実態調査」における患者数や経営状況の経年変化については、このホームページの「コラム・インタビュー」コーナーと「協会ニュース」コーナー、および機関紙「東京歯科保険医新聞」202511日号8 面の「教えて! 会長!! No.90 」でも触れているので、ぜひご参照いただきたい。

オン資義務化撤回訴訟で原告控訴「納得していない」/棄却理由“不十分” 弁護団が見解

オン資義務化撤回訴訟で原告控訴「納得していない」/棄却理由“不十分” 弁護団が見解

原告控訴「納得していない」/棄却理由“不十分” 弁護団が見解

オンライン資格確認の義務化にあたり全国の医師・歯科医師が国を訴えた裁判の判決が昨年1128日、東京地方裁判所で言い渡され岡田幸人裁判長は、原告の訴えを棄却した。原告1415人のうち、1366人は1212日、判決を不服とし、控訴を申し立てた。

判決を言い渡された当日、原告団副団長で当会会長の坪田有史氏ほか、原告で同副会長の早坂美都氏、同理事の橋本健一氏、同会員の扇山隆氏ら原告団から44人が集まり、大法廷を埋めた。開廷からわずか1分ほどで主文が読み上げられると、原告団からはため息が漏れ、その後、原告団は地裁前に詰めかけた報道陣に「不当判決」の四文字を掲げた。

司法記者クラブで行われた会見で、須田昭夫原告団長(東京保険医協会会長)は「納得していない」として控訴の意向を伝え、今後、過疎地などで廃業する医師・歯科医師が増えることへの懸念を示した。また、佐藤一樹原告団事務局長(同理事)は、健康保険証の新規発行が終了する122日以降も健康保険証が使用できることを強調した上で、〝健康保険証廃止〞という誤った認識を広めないよう報道陣に呼びかけた。

また、判決文のうち「裁判所の判断」が記載された部分はわずか12ページのみ。これについて、原告向け説明会で喜田村洋一弁護団長は「お手軽判決」と憤りをあらわにした。さらに、原告の主張が退けられる理由が十分ではないとした上で、「原告の主張を論理立てて、間違いであると言えなかった」と分析。控訴審に向けて、「理論では完全に国を凌駕していると思っていますので、そのことが高裁の裁判官にわかるように、しつこくやっていきたいと思います」と決意を新たにした。原告からは、オン資導入が〝医療活動の自由に重大な制限を課するとまではいえない〞とした判決を疑問視する意見が相次いだ。

なお、訴訟の各種資料は、東京保険医協会ホームページで見ることができる。また、佐藤氏を取材した【<オン資訴訟判決後緊急インタビュー>提訴から2年、棄却も意気軒昂 判決がマイナ問題“再議論”のきっかけに】もぜひご覧いただきたい。

2023年度 高点数による個別指導は4年連続実施なし

高点数による個別指導は4年連続実施なし/萎縮診療せずカルテ記載や請求内容を確実に

協会は関東信越厚生局東京事務所(以下、東京事務所)に行政文書の開示請求を行い、2023年度の個別指導が96件実施されたことが明らかになった。選定理由の内訳は、情報提供40件、再指導53件などで、高点数による個別指導は4年連続して実施されなかった(1)。

◆「情報提供」による個別指導は計画件数より2倍

個別指導の実施件数は、指導計画では全体で84件が予定されていたが、実際は12件増の96件となり、情報提供による個別指導は指導計画の21件に対し、約2倍となる40件の医療機関に実施されたことが分かった。これについて東京事務所は、「年度途中の情報等により早急に指導が必要と認める保険医療機関について、適宜選定委員会において選定の上、実施する」とした。

◆新規個別指導の再指導26件

個別指導後の結果は、「概ね妥当」1件、「経過観察」48件、「再指導」32件、「中断中」6件「年度内に指導結果の通知が送付されていない」15件であった(2)。

 新規個別指導の結果は、「概ね妥当」90件、「経過観察」258件、「再指導」26件となった(3)。新規個別指導後の再指導は、概ね1年後に個別指導が実施される。

指導を受けて今後が不安な先生は、協会まで連絡いただきたい。

◆正しい知識とカルテ記載こそ重要

東京都で行われる個別指導は、指導医療官4名、東京都福祉保健局指導監査部医療機関担当課長1名のほか、保険指導医31名で行う。指導においては、正しい保険請求の知識とその根拠となる適切なカルテ記載こそが最も重要である。

協会では、カルテ記載や保険点数の算定要件などを解説する新規開業医講習会を本年3月に開催する。これから新規個別指導が予定されている方や個別指導などに不安を感じている方はご参加いただきたい。開催要領は下記をご覧ください。

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【新規開業医講習会】

◆新規個別指導を控える先生、改めて保険診療を学びたい先生へ―

新規個別指導は開業後、概ね半年~8カ月以内の医療機関が選定されています。指導対策は、通知が届く前の早い段階で準備を進めることが最も大切です。講習会では、年間100件を超える相談を基に、指導で指摘されやすい事項を含め、保険診療の基本的なルールやカルテ記載、請求方法、自費と保険の考え方を丁寧に解説します。

 これから開業を検討しておられる先生や勤務医の先生、改めて保険のルールなどについて確認したいという先生にも、ぜひご参加いただきたい講習会です。

★日 時 330日(日)正午~午後530

★講 師 協会講師団

★会 場 ワイム貸会議室高田馬場(4F)

★定 員 50

★対 象 会員・未入会員

★参加費 会員13,000円、未入会員30,000

★予 約 こちらからお申し込みください

★担 当 組織部:TEL 03-3205-2999

<受付中>第7回施設基準のための講習会

本講習会は、以下に掲げる施設基準の「研修要件」を満たす講習会です。

新規に以下の施設基準を届出する会員の先生方向けの講習会です。
  • 歯初診(歯科点数表の初診料の注1に係る施設基準)
  • 外安全1(歯科外来診療医療安全対策加算1)
  • 外感染2(歯科外来診療感染対策加算2)
  • 口管強(小児口腔機能管理料の注3に規定する口腔管理体制強化加算)
  • 歯援診1・2(在宅療養支援歯科診療所1・在宅療養支援歯科診療所2)

◆お申込みの内容を確認後、開催(2月中旬以降)が近くなりましたら、郵送先(すでに協会に登録済みのDM送付先)に案内状と振込用紙(ゆうちょ銀行用)をお送りします。なお、期日までに振込の確認ができない場合、キャンセル扱いとなる場合がございます。
また、当会会員限定の講習会になっておりますので、未入会の先生はお申込み前にご入会が必要になります。

【日 時】
3月 16 日(日)

【内 容】
▼5つコース▼ 参加費:8,000円
13時~1830
~対応している施設基準~
●歯初診、外安全1、外感染2、口管強、歯援診1・2
※お申込みを頂くコースによって、開始時間および参加費用が異なりますのでご注意ください。

▼3つコース▼ 参加費:5,000円
16時~1830
~対応している施設基準~
●歯初診、外安全1、外感染2
※お申込みを頂くコースによって、開始時間および参加費用が異なりますのでご注意ください。

 【場 所】
ワイム貸会議室高田馬場 3階

 【対象者】
会員(東京歯科保険医協会の会員に限ります)
※代理出席は認められません。ご本人の参加が必須です。
※未入会の先生はご入会が必要になります。
※他協会の方はお申込み頂けません。

【定 員】
100名程度(定員になり次第、締め切らせていただきます)。

【講 師】
・繁田雅弘 氏(東京慈恵会医科大学精神医学講座 名誉教授)
・坂下英明 氏(明海大学名誉教授/朝日大学客員教授/我孫子聖仁会病院口腔外科センター長)
・馬場安彦 氏(東京歯科保険医協会 副会長)
・森元主税 氏(東京歯科保険医協会 理事)
 
【内 容】
在宅医療・介護等、歯科疾患の重症化予防に資する継続管理(エナメル質初期う蝕管理、根面う蝕管理および口腔機能の管理を含む)、高齢者・小児の心身の特性(認知症を含む)、院内感染防止、緊急時対応、医療事故、偶発症等
※施設基準の届出に必要な研修要件を網羅できます。

【問い合わせ先】
社保・学術部:03-3205-2999

 【申し込みはこちら】
https://forms.gle/UKoH3tma8fp5R8SR8
<必ずお読みください>
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準を3月31日までに届け出ている医療機関であって、かつ当該施設基準の算定実績がある医療機関の場合、2025年5月31日までに口管強(小児口腔機能管理料の注3に規定する口腔管理体制強化加算)の施設基準を厚生局に届け出を行うことで施設基準を維持することができます。そのため、上記に該当する会員においては、「施設基準のための講習会(口管強追加研修)  」を受講いただき、口管強の届出の際にご活用ください。ご不明な点は、協会までお問い合せください。

教えて!会長!! No.90/「会員の意識と実態調査」の報告

教えて!会長!! No.90/「会員の意識と実態調査」の報告

機関紙「東京歯科保険医新聞」2025年1月号10面に、協会が5年ごとに行っている「会員の意識と実態調査」の現時点における特徴点をピックアップし、速報として掲載しました。集計の詳細および統計の結果などは本年2月に公表する予定ですが、本稿ではこれに先立って、過去の結果との比較をいくつかご紹介します。

今回の調査は過去の調査(回答率2019年:17.3%、14年:15.9%)と比較して、回答者数および回答率ともにより多くの会員から回答(1,658名、27.6%)を頂戴しました。この場を借りて御礼申し上げます。なお、関東信越厚生局が公表している24121日現在の「保険医療機関・保険薬局の指定一覧 歯科(東京)」では、歯科医療機関数は10,416医療機関となっています。したがって、都内で開業する歯科医師の約15%が本アンケートに回答していることになり、一定程度の信頼性はあると考えられます。

それでは、回答状況を見ていきましょう。

Q この1年で患者数は増えていますか?

A 前回の19年と比較して「増加した」が21.9%から14.9%と7.0ポイント減少し、反して「減少した」が34.9%から45.2%と10.3ポイント増加していました(図1)。

Q 会員は、現在の歯科医院経営は以前と比較してどのように感じているのでしょうか?

 19年と比較して「苦しくなった」が39.7%から52.1%と12.4ポイント増加、反して「楽になった」が8.8%から5.1%と3.7ポイント減少していました(図2)。

以上、患者数および経営の状況から判断すると、5年前と比較して経営が厳しくなっている原因の一つに、患者数の減少があることがうかがえます。「苦しくなった」との回答は定量的な回答ではないものの、歯科医業面で問題があることが推察されます。しかし、83年からの計8回の調査すべてで「苦しくなった」が「楽になった」を上回り、40年間にわたり、歯科保険医療機関は全体として「苦しくなった」と感じながら歯科医業を行っていることになります。

Q 会員は協会に対してどのように感じていますか?

 「大いに頼りにしている」「頼りにしている」は、04年が60.3%、0970.2%、1471.0%、1976.4%、2481.4%と、調査を重ねるごとに増加しており、非常に嬉しい結果となりました(図3)。

今回は結果の紹介はできていませんが、協会活動で評価できた取り組みを伺ったところ、上位の項目(複数回答)は、「診療報酬改定の対応:79.0%」「保険請求の電話相談:49.5%」「施設基準の研究会:43.2%」でした。すなわち、歯科保険医である会員の先生方の要望に沿った活動が行われており、かつ丁寧にアシストできていることなどが評価されているのではないかと思われます。

今回はここまでになります。詳細の公表まで今しばらくお待ちください。

東京歯科保険医協会

会長 坪田 有史

(「東京歯科保険医新聞」20251月号掲載)

新春写真投稿「私の一枚」

新春寄稿「私の一枚」

「東京歯科保険医新聞」20251月号でお写真を募集したところ、複数のご応募をいただきました。ご応募いただき、誠にありがとうございました。以下、各作品をご紹介させていただきます。

「嵐のち青天」(早坂美都先生/世田谷区)

一晩中吹き荒れた嵐の翌日、目が覚めるような青い空が輝いていました。富山県立山室堂平での1枚です。古より「神の山」と信仰されてきた立山連峰を、美しく映し出すみくりが池です。激動の時代、しかし止まない嵐はありません。今年も素晴らしい年になりますように。

 

Sunset in Hilo」(伊藤愛子先生/世田谷区)

10月にハワイ島のヒロで撮影した夕焼けです。丸い木を境に東はピンク色の雲、西はオレンジ色の雲が拡がりその色が海まで染まり、とても美しい景色でした。2025年も素敵な場所に自由に旅ができる年でありますように。

 

「春を待つ」(吉田真理先生/武蔵野市)

新潟旅行の時に撮影しました。雪深い穀倉地帯の厳しい寒さのあとにくる春を人々は待ちわびていることでしょう。

 

「いったんお休み学士会館」(臼井伸行先生/葛飾区)

学会や講習会場として有名な1928年開業で90年以上の歴史を持つ学士会館が、周辺の高層ビルに飲み込まれるようにして、20241229日に閉館(一時休館)することに併せ、撮影記録。

 

「巨大ザメの復元模型」(川本弘先生/足立区)

埼玉県立自然の博物館に展示。サメは何度も歯が生え替わりますが人間はそうはいきません。今年も1本の歯の保存にこだわって診療にあたる所存です。

<オン資訴訟判決後緊急インタビュー>提訴から2年、棄却も意気軒昂 判決がマイナ問題“再議論”のきっかけに(佐藤 一樹×早坂 美都)

<オン資訴訟判決後緊急インタビュー>提訴から2年、棄却も意気軒昂 判決がマイナ問題“再議論”のきっかけに(佐藤 一樹×早坂 美都)

― まずは提訴に至った経緯を教えてください。

骨太方針2022に、翌年4月からオン資義務化、保険証廃止の方針が明記され、電子カルテの標準化により行政と医療界、医学会、産業界が医療情報を利活用する旨が記載されたので注意していたところ、同年8月、厚労省と三師会合同のオンライン説明会で、保険局担当課長が、「療養担当規則が改正され、23年4月1日からオン資が義務化される。導入しない場合、保険医療機関の指定取消し事由になる」旨を発言したことで提訴を決意しました。

― 訴訟の中心を担った東京保険医協会は、当初、訴訟をどう受け止めていましたか。

最高裁判例を研究したところ、本件類似判例で原告が国(担当官庁も厚労省)に勝訴した「医薬品ネット販売権利確認訴訟」があり、訴状の段階からこの判例法理に沿って主張しました。この訴訟の最高裁調査官が偶然、今回の裁判長である岡田幸人判事でした。訴訟の進行も、原告の希望が通ったり、裁判長が被告である国に対して準備書面を書くにあたり、テーマを出したりしていたので、弁護団も原告団も原告有利と考えていました。

― 訴訟の争点は?

(1)健康保険法上、給付の「内容」は保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)に委任しているが、資格確認の「方法」については、条文に委任していると書かれていない。これは、法律(健康保険法)の委任がなければ、省令(療担規則)に罰則を設け、義務を課したり、国民の権利を制限する規定を設けることを禁じた国家行政組織法に違反するか否か。
(2)仮に健康保険法上、委任がされているとしてもオン資確認義務化は、委任の範囲を逸脱しているか否か。

最高裁“逆転勝訴”経験した喜田村弁護士

― 弁護団の弁護士はどのような方たちですか。

自由人権協会の主要メンバーで行政訴訟や人権関連訴訟のスペシャリスト。喜田村洋一弁護士と二関辰郎弁護士は、憲法訴訟・行政訴訟の歴史上に燦然と輝く「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」(以下、在外日本人選挙権訴訟)の弁護団長と団員で、最高裁大法廷で逆転勝訴しました。喜田村弁護士は、日本の名誉毀損裁判の基準を創った実力者で、レペタ裁判、ロス疑惑事件、エイズ帝京大事件、ジャニーズ事件、松本人志事件などを担当した日本有数の弁護士です。

― 勝訴した場合、①医療機関、②患者さんにはどのようなメリットが。

①マイナ保険証のためのカードリーダを準備しなくてもよいし、マイナ保険証による資格確認を行わなくてもよいことになります。

②マイナ保険証の義務化で廃業を余儀なくされる医療機関が継続され、患者も安心して従来のかかりつけ医に通院できます。

― 改めて療担規則や、それを違反するとどうなるか教えてください。

療養担当規則は省令(厚生労働省令)なので法令です。各省大臣が担当する行政事務について,法律(健康保険法等)の特別の委任に基づいて定めるルールです。療養担当規則に違反した場合(主に診療報酬に関連した不正など)、最終的には、保険医療機関の取消しの可能性があります。通常は唐突に「取消」ということはありませんが、個別指導から監査を経て、「注意」「戒告」「取消」のどれかの評価を受けることになります。

― 膨大な原告の準備書面は、どのように作られたのでしょうか。

弁護団と原告(主に東京保険医協会理事と事務局や保団連事務局員等)で創設した「訴訟ワーキンググループ」のメーリングリストで、常時さまざまな情報交換をし、弁護団に書面案を作成していただき、医療側で実務関連のチェックをしました。毎月第2月曜日に、東京保険医協会で対面とウェブを併用して会議を開催し、決定しました。二関弁護士は、私の高校2年時のクラスメイトで、カフェで草案の素案を2人だけで練ったこともありました。

― 佐藤先生は医師として診療にあたりながら、原告団の事務局長も担っています。苦労する点も多いのではないでしょうか。

苦労もありますが、医療と法律のはざまで起こるさまざまな課題への対応 は、ライフワークなので積極的に取り組んでいます。日常的に、医療刑事事件、冤罪事件、医療民事事件の意見書を書いたり、法廷に立ったり、個別指導に立ち会って厚生局を監視したり、医療事故調査制度に関係する厚労省の担当者に面会したり、厚労族議員を訪問したり、一緒に医療安全学会の活動をしたりしていますので、この訴訟もその一部です。

― 提訴から判決まで約2年を費やしました。これほど長い期間を要する理由は何だと思われますか。

民事訴訟に輪をかけて行政訴訟の進行は遅いのが一般的で、審理期間は平均15カ月と言われています。今回は、原告が1,415人で、しかも医師と歯科医師、被告が国という大裁判なので、21カ月かかりましたが、それは想定内でした。

― 一審は残念ながら請求棄却となりました。判決を言い渡された時の様子や受け止めを。

弁護団も原告も勝勢と思っていましたので、シーンとした感じでした。岡田裁判長はこれまで、国に対して厳しい指導をして、裁判進行は原告の希望に添って行っていたので、期待していました。裏切られたというか、将来の出世を見越した公務員気質なのか…という残念な気持ちになりました。岡田裁判長は、安倍晋三国葬差止事件、神宮外苑再開発事業認可取消事件、性風俗関連特殊営業持続化給付金支払事件でも国を勝たせていました。

報道陣へ強く呼びかけ…その真意

― 判決後の会見で報道陣に対して“保険証廃止報道”を避けるよう強く呼びかける姿が印象的でしたが、その真意は?

12月2日の法令施行では、「被保険者証」が「資格確認書」に代わりますが、保険証は期限が来るまで使用できます。その後は、資格確認書が保険証の役割を果たしますので、マイナ保険証は不要です。法令では、「廃止」「停止」といった文言はないのに、「保険証廃止」と報道すると、焦ってマイナンバーの取得やマイナ保険証の登録が義務になったと勘違いして申請してしまう人が増えるかもしれません。それを阻止するためです。

― 判決後、周囲の反応はどうでしたか。

患者さんにも、周囲の医師や弁護士にも、当然、控訴するものだと思われていて、励まされています。判決前 に、テレビ局2社、通信社2社、新聞社4社、週刊誌1社からの個別取材を受けましたが、判決後にも改めて取材申し込みがありました。改めてマイナ保険証の問題点を論議するきっかけにもなっています。

― 控訴した際、原告の主張や書類等は一審から変更、修正が加えられるのでしょうか。

まだ主張は検討中ですが、おそらく変更はなく、新証拠や既存の証拠などから角度を変えた主張を追加して修正することになると思います。

― 控訴する際の原告団メンバーは、これまでと同じでしょうか。

一審原告団のうち、亡くなった方や、アンケートで控訴に参加しないと明確な姿勢を示した方を除いた1,366名です。

― 控訴後、勝訴した場合、国は上告することが予想されますが、どのような想定をされていますか。

事実審は二審までなので、上告審は専ら法律論になります。一般に上告が受理されるためには、上告提起(憲法違反または法律に定められた重大な訴訟手続の違反事由が存在する場合)、上告受理申立(最高裁判例違反や法令の解釈に関する違反)を行います。実質上、上告理由は、憲法違反か最高裁判例違反のみとされています。こればかりは、二審判決がでない限り予想は困難です。

― 控訴審に向けた意気込みを教えてください。

喜田村弁護士は、「『在外日本人選挙権訴訟』では、一審も二審も敗訴したのに、最後、大法廷で逆転勝訴した。一審の判決は、「国の主張をそのまま入れた『お手軽判決』と言うしかない。我々の主張がなぜ通らないのかについては、触れていない」とおっしゃっています。また、判決を法廷で聞いた原告44人は、その直後から控訴を決意していますので、意気軒昂です。

― 多くの保険医が訴訟を注目しています。そうした先生方にメッセージを。

一般に行政訴訟の原告勝訴率は一桁と言われています。以前も貴紙に「弁論終結段階で、弁護団も、原告勝勢とみている。しかし、裁判結果は『石が流れて木の葉が沈む』こともある」と書きましたが、現実となりました。これは、二審でも言えることですが、弁護団は法律論争では負けていないと考えています。
東京歯科保険医協会の会員の先生方におかれましては、応援のほど引き続きよろしくお願いいたします。

― 本日はありがとうございました。

※「東京歯科保険医新聞」2025年1月1日号(7面)掲載

【関連記事】
原告の訴え「棄却」/オン資訴訟控訴は今後検討
「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望

【2025・年頭所感】変化の一年経て協会のさらなる発展へ

2017年6月の総会で会長を拝命し、8回目の年頭所感として新年のご挨拶をさせていただきます。

一昨年の年頭所感で本会会員数5,951名、昨年は6,030名と6,000名を超え、順調に会員数が増加していることをご報告しました。さらに24年12月1日時点では6,036名の会員数となりました。東京都内の歯科保険医の任意団体として、既会員の先生方からのご紹介を含め、多くの先生が本会の会員になっていただいたことにこの場をお借りして心から御礼申し上げます。また、未入会の先生におかれましては、歯科医業を行ううえで本会入会によって多くのメリットがあると自負しております。ぜひ、ご入会のご検討をよろしくお願いいたします。
会員数は増加していますが、微増という状況です。その内容を見ると多数のご入会がありましたが、その反面、ご退会が多かったことが24年の特徴でした。ご退会された方々に聞き取りをした結果、「高齢」を理由とするものが最多でしたが、「オンライン資格確認システム」「マイナ保険証」「レセプトのオンライン請求」がその背景にあると推察されました。そのうち、すべての前提となる「オンライン資格確認システム」に関しては、義務化撤回を求める訴訟の判決が昨年11月28日に出されました。残念ながら判決の結果は「棄却」でしたが、判決文に多くの疑問が残り、12月12日に控訴の手続きが行われました。なお、「東京歯科保険医新聞」2025年1月1日号(3・7面)に関連記事を掲載していますので、ご一読いただければ幸いです。
昨年は2年ごとの診療報酬改定だけでなく、3年に一度の介護報酬改定、および障害福祉サービス等報酬改定が重なる6年に一度の〝トリプル改定〟でした。そして従来、診療報酬改定は4月1日施行でしたが、今次改定は4月1日に改定、施行は2カ月後の6月1日と、大きな変更がありました。改定は、 65歳以上の高齢者の割合が全人口の約35%に達すると推測されている「2040年問題」を背景に医療費の抑制が意識された改定といえるものです。さらに今般の物価高騰の対策として「賃上げ」、すなわちベースアップ評価料が診療報酬上に設定されたことが特徴といえます。
ベースアップ評価料を始め、新たな項目、算定要件、加算、施設基準や届出などが多数あり、複雑で理解が難しいものでした。会員からの保険請求関連の質問や疑問の電話による問い合わせは、一昨年、昨年と比較して2倍近い数と非常に多く、協会の電話は絶えず鳴り続ける状態でした。これらの対応は、本会の重要な会員サポートの一つですから全事務局員には、丁寧に行うようお願いしました。一方で人員不足、および労働環境整備のため会員に対しては断腸の思いでしたが、昨年9月1日より電話受付時間を、短縮させていただきました。この変更は、会員の先生方にご不便をおかけすることとなり、大変申し訳なく思っております。
そもそも今次改定について行政側は、改定から施行までに2カ月間の時間的な余裕が生じるため、医療機関サイドはさまざまな準備、内容の周知が進むことが期待できると説明していましたが、それに反した結果になったといえます。したがって、歯科保険医療機関の混乱、そして多大な影響が今だに続いている責任は行政側にあること、その対応を本会が少なからず担っていることに対し、遺憾である旨は厚生労働省側に既に伝えております。
政府は昨年12月2日に新たな保険証の発行を終了し、マイナンバーカードの普及のためマイナ保険証を取得させ利用させることに邁進しています。しかし、保険医療機関におけるトラブルは全く解消されていませんし、9種類もの資格確認方法があるため、受付業務が混乱しているとの報告も受けています。これらを受けて本会は、現時点で以下の要望を国会議員に要請しています。

・現行の健康保険証は存続をさせること。少なくとも、健康保険証の有効期限(最長25年12月1日)を延期させること
・患者および窓口業務の混乱解消のため、マイナ保険証ありの患者に紙の「資格情報のお知らせ」を、マイナ保険証なしの患者に「資格確認書」を送付する取り扱いを改め、マイナ保険証の有無にかかわらず「資格確認書」を送付すること

本会設立から51年、多くの会員、事務局員、関係各位に支えていただきました。これからも一層、会員が患者、国民に良質な歯科保険医療を提供するためのお手伝いを心がけ、さらなる発展を目指します。
なお、会長を拝命して以来長きにわたりご理解、ご協力を賜ったことに心から感謝申し上げます。今後も本会に倍旧のご支援をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会会長 坪田 有史(2025年 年頭所感)