<東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載>
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【教えて!会長!! Vol.77】「PEEK」について
― 医療技術評価提案書の最初の段階の結果が出されたそうですが。
坪田有史会長:11月4日に医療技術評価分科会が開催され、来年4月の診療報酬改定に向けて今年の6月に日本歯科医学会から厚生労働省に提出された日本歯科医学会所属の専門分科会、認定分科会が作成した医療技術評価提案書の第一段階の結果が出されました。この結果で、歯科関係全体では76項目が「評価の対象となるもの」とされ、来年の改定に向けて、学会が作成した医療技術評価提案書を初めて確認できました。なお、通常、最終結果は来年1月に発表されます。したがって、今回の「評価の対象となるもの」とされたすべての項目が、診療報酬で評価される訳ではありません。最大の障害は改定財源といえます。しかし、今回の結果により、各学会が保険治療で評価を望んでいる項目・内容の詳細が判明することと、行政側が考えている方向性を知ることができ、注目すべき結果といえます。
また、前回の最終結果で「評価の対象となるもの」の中には、4月の診療報酬改定時ではなく、その後に期中収載された「チタン冠」「前歯CAD/CAM冠」「磁性アタッチメント」がありました。これらは、材料自体が保険適用材料でないため、企業から各材料を保険適用材料として認可するように要望がなされ、中医協総会で審議・承認を得る必要がありました。そのため、4月の診療報酬改定から月日が経過して、保険収載されています。
― 今回、「評価の対象となるもの」の中で「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」がありますが。
坪田:今回の結果、(公社)日本補綴歯科学会から提出された医療技術評価提案書「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」が「評価の対象となるもの」とされました。この結果をみた複数の会員から「PEEK」とは?との質問を受けたので、ここで解説します。
PEEK材は、高機能プラスチックと称されています。まず、医療技術評価提案書に記載された内容の一部を紹介します。
医療技術の概要の項には、「大臼歯歯冠の歯質を大きく喪失した患者に対し、生体安全性が高く、高強度で破折リスクがない非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料として、CAD/CAMシステムを用いて歯冠修復物を製作し、治療する医療技術である(一部省略)」と示されています。
有効性・効率性の項では、「既存のハイブリッドレジンによる大臼歯CAD/CAM冠は、適用条件があるが、PEEKはハイブリッドレジンに比較して高い靭性値があり、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、歯質削除が少なくてもよく、咬合面やマージン部の厚みが小さくても使用できる。大臼歯CAD/CAM冠が使用できない最後臼歯においても、また第2大臼歯が欠損している場合にも、第1大臼歯に使用可能である。物性値としての硬度(ビッカース)はハイブリッドレジンより小さいが、摩耗性は同等であるというデータもあり、対合歯に対しては摩耗させにくく、過度の咬合力に対して緩衝作用もあるという特徴を有し、歯根に過度の負担がなく生理的で歯の寿命に有利であることが期待できる。さらに、吸水性が低く、変着色のリスクも少ない。PEEKは生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、医科分野では医療機器やカテーテル、体内インプラントなど生体埋入の実績もある(一部省略)」として、期待できることが記載されています。
― 実際にはどうですか?
坪田:実際に研究が進み、学会で様々な報告がありますが、臨床研究では、最後臼歯を含む大臼歯にPEEKによる冠を20症例に装着し、6カ月間の観察の結果、問題は生じなかったとの広島大学病院での報告があります。20症例、6カ月間の臨床研究の結果が、国民に広く臨床応用することを認めるエビデンスとして十分かどうかは賛否両論があるでしょう。現在、さらに複数の機関で臨床研究が進んでいると聞いています。
国内では、2019年にULTI-Medicalが薬事認証を取得し2021年から松風が販売を開始しています(商品名:松風PEEK)。現在は保険適用外ですが、PEEK材によるインプラントのアバットメント、あるいはインプラントの上部構造、クラウンのコーピング、ブリッジのフレームなどで、すでに臨床応用されています。しかし、現時点でPEEK材自体が保険適用材料でないため、来年4月の改定時での保険収載は時間的制約があり、難しいと思いますし、財源的視点から期中収載が望ましいと考えています。高機能プラスチックであるPEEK材の保険収載によって、金パラ原価割れの問題への一助、歯科用金属アレルギー患者への歯冠修復など、間接法歯冠修復の選択肢が増えることに期待します。
東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載)