患者のための医院譲渡「真心いただいた」協会が“守り神”に(小柳浩子さん)

患者のための医院譲渡「真心いただいた」協会が“守り神”に(小柳浩子さん)

患者のための医院譲渡「真心いただいた」協会が“守り神”に

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。

今回は、2024年で閉院した小柳浩子先生に、患者のために奔走した医院譲渡について聞いた。

―引退を決めた理由から教えてください。

数年前に自分の好きな義歯中心の治療に変え、患者さんに喜ばれながら楽しく治療して、並行して母の介護をしていました。その頃にコロナ禍で患者さんが激減し、同時に開業から20年が過ぎていたのでコンプレッサーバキュームの入れ替えを勧められ、そんな費用は捻出できない状況でした。その時に母が入院したり、母が入所していた介護施設のミスで大腿骨骨折をしたりと、精神的に沈んでいる状態でした。また、視力の衰え、ひどい痛みの五十肩、膝蓋骨骨折、帯状疱疹と、身体の不調が続き、年配の患者さんにも心配される始末でした。医院は、患者数が激減したままで赤字が続き、そんな時に母も亡くなり、「これ以上、頑張る必要はない」と閉院を決めました。ただ、患者さんの診療を継続して診てくれる優しい先生を探そうと、ネットで情報を集め始めました。

 

―譲渡はどのように進めましたか。

患者さんを不安にさせないよう、譲渡専門の業者さんに後継者を探してもらいました。ただ、昨年9月に依頼をしたものの、12月での閉院を決めていたので現実的には譲渡は難しいかもしれないと考え、医療機器の廃棄業者も同時に探しました。すると、諦めかけていた11月頃に、紹介業者さんが院内の見学を希望する先生を連れてきてくれました。誠実で物腰の柔らかい先生で、1時間ほど院内を見ていただきました。その後も3回ほどいらっしゃり、院内を気に入っていただき、正式に譲渡契約を結びました。私は良い業者さんを見つけられてとても幸運だったと思います。

―患者さんのための譲渡に奔走されたのですね。

これまで患者さんには真心をいただきました。信頼していただき、患者さんたちといろいろな不安なことや、喜び、悲しみを共有してきました。新たにお若い先生のもとで、安心して通っていただければこんなにも嬉しいことはありません。

―譲渡にあたり気を付けていたことはありますか。

業者さんから3年分の確定申告や減価償却に関する書類を求められることが多かったです。準備しておくと、使える場面があるかもしれません。

―これからはどのように過ごされますか?

今まで患者さんたちには、治療に加えて、医科の医療機関を紹介したり、また診療以外の面でも、生活に関わるいろいろな情報をお伝えしたりしてきました。今度は福祉の勉強をして障がいのある方々の手助けをして、将来的にはグループホームを作るのが夢です。

―協会との関わりを振り返っていかがですか。

勤務医をしていた時に、院長から保険医協会を勧められ入会しました。新規指導や、診療報酬改定のたびにわかりやすい解説と書籍「歯科保険診療の研究」(通称「赤本」)をいただき、お世話になりました。また、オンライン資格確認システムの導入やオンライン請求のやり方、支援金の申請方法まで、一人で付いていけずに困った時には協会に相談して、何とか乗り越えることができました。保険医協会が守り神になって23年間無事に診療を終えることができました。また、これから受け取る公的年金としては、国民年金しかなく、若い頃から少しずつ積み立ててきた保険医年金が生活の糧となるので、頼りにしています。これからも保険医協会の皆さまには新しい情報を先生方にわかりやすく教えていただき、歯科医療界が繁栄されますことをお祈りしております。

―ありがとうございました。

過去の連載はこちら<退き際の思考 歯科医師をやめる>