国際観光都市「浅草」は未だ〝マスク人間〟の社会
新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として発令されていた「蔓延防止等重点措置」が去る3月21日に解除され、以後は収束への傾向を示し、今月で約8カ月以上経ちますが、11月11日には、「新しい波に入りつつある」と政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が発言し、第8波を迎えているとの認識を示しました。
ところで、国際的な観光地である浅草では、外国人を含めた観光客数は徐々に回復しつつありましたが、残念ながらまだ浅草は「マスク人間」の社会です。そんな中、「マスク着用・非着用」論なる新たな議論が起きています。欧米をはじめとする諸外国の多くが「非マスク」との情報も影響してか、「室内マスク・室外非マスク」論を支持する識者も出てきています。
マスクから教わったこと
こうした現状の中で、生活上の必需品と化しているマスクから、教わることがありました。
まず、秀明大学の堀井光俊准教授(英国ケント大卒)著の「マスクと日本人」(秀明出版会/2012年12月刊)。「不安に直面すると人間は何かしなくてはならない。行動により不安から完全に逃れられないにしてもそれに圧倒されなくても済む。安値でどこに行っても売っている上に、容易に装着でき社会的に抵抗もないマスクは、いわば不安を行動への昇華するための便利な道具なのだ。それは、象徴的に不安を吸収してくれるのである。要するに、マスクは現代の『お守り』なのだ」と指摘しています。
また、元日歯常務理事で深井保健科学研究所の深井穫博所長の論文(一部)ですが「『口をへの字に曲げた厳しい表情』『口を尖らせた不満の態度』など、口はある種の感情を象徴する部分となっています。顔の大きさや色、眼、鼻、口などの形態と配置や表情はその人を識別するための固有のものであると共に、感情を表現する『心の窓』ともなり、相手とのコミュニケーションに大きな役割を果たしています」と、口元の機能・意義を説明しています。
現在、私は「マスク人間」ですが、そこで気が付いたことがあります。マスク着用で周囲の人たちを気にすることなく話す自分がいるのです。やはり、自分の口元へのコンプレックスが働き、さらにその自分にも納得しているのです。
以上のような心理が脳裏をかすめたのは事実です。
マスクに求められること
マスク着用が一般化している中で、「聴覚障害者の約7割が『口元が見えない』ことでコミュニケーションに困っている」と三好彰氏(三好耳鼻咽喉科クリニック院長・仙台市)がネットで報告しているのを知りました。三好氏自身が実施した聴覚障害者へのアンケートでわかったようです。そこで「耳マーク」の付いたマスクを着用・普及を訴えています。マスク着用により聴覚障害者が困ることについて複数回答を求めたところ、「口元が見えない」(66.7%)、「相手の発音不明瞭」(66.7%)が最も多く、「声掛けに気付かない」(35.6%)、「口元を見てもらえない」(29.6%)。さらに対処法は「筆談」(63.0%)、「マスクをズラしてもらう」(26.7%)、「手話・指文字」(25.2%)の順であったようです。そこで、口元が見える透明マスクの普及への期待が半数以上あったようです。
また、全日本ろうあ連盟本部事務所の倉野直紀所長は、手話通訳を通して「ろうあ者は、相手と真正面に向かい、手話、相手の顔の表情、口元を見て理解します。歯科技工士のろうあ者がいることは知っていますが、やはり相手の表情と口元を見て理解しているはずです。口元が見えるマスクなら相手と深いコミュニケーションができます」と説明しています。
もう一つの事例として映画「アマノジャック・思春期」(2017年/岡倉光輝監督)があります。「下顎前突でいじめ・差別を受けコンプレックス抱えた生徒が、マスクで口元を隠す行為・精神的葛藤の恋愛」を描いた作品で、監督自身の経験からの作品です。
感染防止対策効果の議論とは別に、マスクから世界各地の文化・風習の違い、ろうあ・口唇裂・下顎前突者などの口元へのコンプレックのある人から、マスクに求められる点に違いがあることを学びました。
歯科関係者には、マスク着用者の隠された複雑な深層心理について、より一層、敏感になってほしいところです。
◆奥村勝氏プロフィール
おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。