歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.2】歯科業界マスコミの限界と期待

業界紙・誌ごとに背景やカラーがある

 その業界を展望・判断するには、〝業界紙・誌を読んで理解できる〞と言われている。論調・記事内容から課題も垣間見え判断される。医療情報の源泉の多くは厚生労働省(以下、「厚労省」)。その厚労省には全国紙やテレビ局などが加盟する厚生労働記者会と医療関係等の専門メディアが加盟する厚生日比谷クラブがある。

 その厚生日比谷クラブに歯科界からは、日本歯科医師会(日歯)、医歯薬出版、ヒョーロン・パブリッシャーズ、日本歯科新聞社が所属している。当然であるが、三師会を構成する日歯以外の日本医師会、日本薬剤師会、全国保険医団体連合会、薬事新報社、日本医事新報社などが所属している。クラブで得られた情報を基に配信記事を作成していく。歯科はさらに歯科記者会(原則:月1回会見開催・日歯会館)があり、前出の4社の他にデンタルダイヤモンド社、クインテッセンス出版、医歯薬新報などが所属している。日歯から新たな情報提供を受け、会見に臨んだ記者・編集者との質疑応答もされている。なお、現在は廃刊したが、会員であったデンタルタイム21、歯界報知も独自に情報を提供していた。

1990年代から歯科界マスコミに関係したが、当時の日歯会長は中原爽氏(日歯大)。以後、臼田貞夫氏(日大歯学部)、井堂孝純氏(大歯大)、大久保満男氏(日大歯学部)、高木幹正氏( 大歯大)、山科透氏(大歯大)、堀憲郎氏(日歯大)。改めてその経緯を振り返ると、歯科記者会・歯科マスコミの変化を痛感している。業界紙・誌には各社の背景や独自カラー・編集方針があり、互いにその特性を黙認していた。新聞系では影響力があった日本歯科新聞社の編集方針は〝読者目線〞。新聞社としての主張や掲載記事を通して、時には日歯に異論・問題提起する時もあった。それは〝日歯のための新聞ではない〞とする編集方針があったことがその所以かもしれない。現在はネット社会であり、業界マスコミの在り方も新たに問われている。

業界マスコミの限界

 編集部時代は、日歯代議員会・日歯連盟評議員会の傍聴席は満席であり、広報部員を派遣し取材させていた地方県歯もあり、業界組織である日技・日衛の広報担当者も傍聴に来ていた。

まさに、日歯代議員会(当時は年2回)は、歯科界が注目した議論の場であった。休憩時間での代議員同士の雑談、懇意にしている地方代議員からの情報提供などがあり、会場は〝緊張感〞のある雰囲気が漂っていた。こうした関係から生じる被取材者との相互信頼が構築されたが、同時に情感が伴う関係も始まり、この微妙な関係の整理もあり自分自身が問われていた。企業でもあるマスコミとしては、長年支援を得ている広告主、個人的関係の強い地区歯科医師会、歯系大学教授、県歯役員、有力読者を看過できないこともあった。直接影響を受ける営業・編集からして、〝業界マスコミ〞の限界を確認し始めた時期でもあった。

必要に応じてベテラン、中堅、若手の編集部員同士で熱い議論をかわすこともあった。現在はコロナ禍もあり日歯代議員会も静寂な中での開催であり、条件制約もあり日歯執行部との質疑応答は稀であり、〝日歯代議員会の報告会〞の感もなくはない。そこには、結果として業界マスコミの〝日歯広報化〞の懸念もある。

業界マスコミへの期待

 影響力のある全国版マスコミは、社会的に注目される事件なら一気加勢に取材攻勢をかけて本論に迫ってくる。事件が収束すれば去っていく一過性でもある。

しかし、業界マスコミはそうではない。日々の歯科界を巡る情報の中で、日歯からの情報は重要であるが、その上で、歯科記者会各社の編集部で議論を重ね、現状認識・課題など、ある種の緊張感を与える記事・特集を期待したい。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。