4月から新年度がスタートしていますが、それは学会シーズンの到来でもあります。
▼会頭は川口陽子氏
既に公表されていますが2025年に開催される日本歯科医学会(日歯学会)学術大会における大会会頭に、東京医科歯科大学名誉教授で日歯学会副会長の川口陽子氏が就任しました。女性は初めてです。日歯学会には専門分科会25、認定分会21が構成学会として所属しています。時代の趨勢・反映に伴い、新たな学会や分科会が逐次承認されています。歯科基礎、歯科保存、補綴歯科、口腔外科、歯科理工、矯正歯科、口腔衛生などの歴史ある学会を始め、歯周病、小児歯科なども続きました。最近では、口腔検査、口腔内科、睡眠歯科、デジタル歯科が承認されています。臨床で関心が高い老年歯科、口腔インプラント、審美歯科なども貢献しています。いずれも、今後の研究成果が臨床に反映し、患者が恩恵を受け歯科保健に不安のない時代が来ることが期待されています。
こうした背景・歴史を振り返ると、やはり専門分科会の補綴歯科は独特でありました。「補綴を知らずして、歯科を語るな」との発言があった時代が懐かしくなります。もちろん、臨床において、歯科の基本的診療分野であり、その重要性は変わりません。社会的な課題になっている小児に関連した歯科医療の充実、地域包括ケアシステムに関係する老年歯科も、今後のさらなる研究が注目されます。認定分科会では、日本口腔リハビリテーション学会、日本口腔検査学会、日本デジタル歯科学会など、時代を反映した学会が、新たな潮流として今後さらに注目されそうです。
こうした時代の推移の中で、今回の川口副会長の会頭就任人事については、日歯学会の新しい時代の到来を示唆しているとの指摘もあります。日本歯科保存学会の次期会長は、6月の総会で林美加子阪大歯学部教授が正式に決定されるようです。こちらも、女性会長は初めてのことです。
▼日本学術会議シンポも
問題点を指摘 一方、昨年1月13日に日本学術会議が公開シンポジウム「歯学分野におけるジェンダー・ダイバーシティ〜課題と展望について〜」をオンライン開催しました。熊谷日登美日大教授(生物資源科)、樋田京子北大歯学部教授(口腔病理)、久保庭雅恵阪大准教授(予防歯科)、田村文誉日歯大教授(口腔リハビリテーション科)の4氏が講師。座長は、樋田教授と川口名誉教授が務めました。関係者によればポイントは以下の通りです。「世界経済フォーラム(WEF)が発表している2021年のジェンダーギャップ指数として、日本は世界156カ国中120位。主要7カ国(G7)では最下位」とした上で、「近年では、歯学部女子学生の割合が増加し、中には50%に達している大学もありますが、依然として女性教員の数、特に教授職など上位職における女性の割合は医学部に比べても顕著に低いこと、学会や歯科医療団体で役員に就く数も少ない」と指摘されたようです。
▼学会にも変化の兆しか
社会では「男女格差解消」が謳われていますが、今回の日歯学会人事は「男社会」と称された学会にも変化の兆し、女性研究者が活躍する時代が訪れたのかもしれません。小児歯科、矯正歯科をはじめ、基礎系の分野(分子免疫学など)でも活躍されている女性研究者がいるのも事実です。かつて保存学会の重鎮(某大学名誉教授)は「これからは女性研究者が活躍する時代が来るかもしれない。というよりあえて言えば、歯科は女性のほうが向いているかもしれない」と、たいへん興味深い発言をしました。歯科大学・歯科学会での課題かもしれません。研究領域の相違もありますが、対外的視点からすれば、男女格差解消が世界的な潮流になっています。
今回の日歯学会の動きは5年後、10年後などを見据えた、新しい歯科学会の到来を示唆するものでした。
◆奥村勝氏プロフィール
おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。