きき酒 いい酒 いい酒肴 No.37『ゴールドの輝きをはなつオーストリアのワイン』(機関紙2019年7月1日号/No.592号)
2019年は、日本・オーストリア友好150周年に当たる記念すべき年です。これを祝うべく、ウィーン・ミュージアム、ウィーン美術史博物館、オーストリア・ギャラリー・ベルヴェデーレが日本で特別展覧会を開催しています。開催地は東京都、大阪府、愛知県です。東京では上野の東京都美術館が、4月20日より7月11日まで「クリムト展 ウィーンと日本1900」が開催されています。足を運ばれた会員の先生もいらっしゃるでしょう。東京開催のあと、7月23日からは愛知県の豊田市美術館で巡回開催されます。
大日本帝国とオーストリア・ハンガリー二重帝国の間には1869年、日墺修好通商航海条約が締結され、友好関係がスタートし、日本は1873年にウィーンの万国博覧会に公式参加したのでした。
クリムト展に行かれた方はご覧になったかと思いますが、「ベートーベンフリーズ」という大作の複製が展示されています。これは、ベートーベンに捧げるクリムトのオマージュとして有名で、ベートーベンの交響曲第九番に沿って製作されています。「幸福への憧れ」、「敵対する力」、「詩」、「この接吻を全世界に」の大きな4つのテーマで成り立つ長い壁画です。この作品に接し、本物を見たくなり、先の連休にウィーンに行きました。「ウィーン分離派館」という建物の地下に展示してある壁画を見た時の感動もさることながら、上野で展示してある複製の技術力の高さに驚きました。しかも、展示室のスピーカーから、小さな音でベートーベンの交響曲第九番「歓喜の歌」が流れているのです。気持ちが大変盛り上がり、日本ならではの素晴らしい展示方法だと感じました。
ウィーン分離派館での展示は、地下ながら自然光に近い明るさです。クリムト独特のタッチ、きらびやかなゴールドの輝き、ゆったりとした空間と時間の流れを感じさせる巻物のような美しさ。分離派という変わった名前は、若手芸術家たちによって作られたものです。世紀末のウィーンで展示会場を持っていたのはクンストラーハウスという芸術団体だけでしたが、その保守性に不満をもつ若手芸術家たちがクリムトを中心に結成したのが造形美術協会、のちの分離派となるのです。
日本でも、クリムトの絵画がラベルになった美しいワインが見かけることがあります。オーストリアワインの多くは辛口の白ワインで、主にグリューナー・ヴェルトリーナー種(Grüner Veltliner)というブドウから製造されています。スパイス、リンゴやパイナップルのような果実の香りが感じられます。このブドウは、オーストリアでは最も生産量の多く、辛口から高貴な甘口まで、大変幅広いワインとなります。有名なワイングラスメーカー「リーデル」の本社もウィーンにあります。日本オーストリア友好150周年に当たる令和元年。世紀末を駆け抜けた若い芸術家たちの思いを感じながら、オーストリアの味わいを楽しむのはいかがでしょうか。
(協会理事/早坂美都)