きき酒 いい酒 いい酒肴⑥/「獺祭」 8割近く米を削るお酒  磨き2割3分との出会い

きき酒 いい酒 いい酒肴⑥/「獺祭」 8割近く米を削るお酒  磨き2割3分との出会い

今から10年ほど前。「多摩独酌会」というものに参加しました。地酒の蔵元が集まって、さまざまな銘柄を試飲する会です。

そこで、「どれが大吟醸か」というブラインドテストがありました。5本ほど、銘柄をかくした一升瓶が並んでいます。

その中で、これは!と驚いたお酒がありました。今まで経験したことのない滑らかな口当たり、上品で穏やかな吟醸香、甘み。

獺(かわうそ)に祭と書き「獺祭(だっさい)」と読むお酒です。この頃は、すっかり有名になったので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。山口県の岩国市で造られている地酒です。

◆名前の由来は

カワウソは捕えた魚を岸に並べる習性があり、その姿はお祭りをしているように見えるそうです。また、詩や文をつくる際、多くの参考資料等を広げちらす様子と共通することから、「獺祭」とは書物や資料などを散らかしている様子を意味します。

学者で俳人でもあった、正岡子規は、自らを獺祭書屋主人と号しています。日本文学に革命をもたらしたように、変革と革新の中からより優れた酒を創り出そうという志。そして地元の地名「獺越」にも「獺(カワウソ)」の文字があることから「獺祭」という酒名が付けられたそうです。

◆多様な精米歩合

私が独酌会で飲んだ獺祭は、磨き2割3分といって、山田錦というお酒用の玄米の8割近くを削ったものから造ったものだったのです。その当時、2割3分ときいて「80%近くもお米を削るなんて、罰当たりだ」と思いましたが、削ったものはほかの商品になっています。

このお酒は、最初25%精米の計画だったそうです。六昼夜かかって25%まで精米したあと、急遽23%に変更となり、その最後のたった2%を磨くために24時間かかったそうです。この7日間×24時間、都合168時間という精米時間は今もほとんど変わらないそうですし、仕込んだ山田錦すべてが2割3分として出荷できないそうです。

今では、あちこちのメディアに取り上げられているせいか、手に入りにくくなってきています。わが家の地下収納庫には、出荷時期をみて購入した獺祭のさまざまな種類が眠っています。精米歩合は50%、48%と45%(50%と39%をあわせたもの)、39%、23%とあります。お燗専用の「あたため酒」、シャンパンみたいな「発泡」、おりがうっすら浮いている「寒造早槽」など、どの種類も、なんともいえない心がなごむような上品な旨みがあるのです。

昨年10月、安倍晋三首相によって、ロシアのプーチン大統領の61歳の誕生日に、4月にはオバマ大統領にプレゼントされ、JALのファーストクラスのお客様にも提供されている獺祭。初めて飲んでから、10年たち、ますます美味しさに磨きがかけられて
いるように感じます。常に上を目指していく姿勢を見習わねば、と飲むたびに思います。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

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