きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑬ ヨードの香り「 アイラウイスキー」
お酒なのに、診療室で嗅いでいるような香りがする。そんな不思議な香りのウイスキーがあります。アイルランドのアイラ島という小さな島で蒸留されたウイスキーです。初めて飲むと、「消毒薬?」と驚かれる方がほとんどです。
近年、シングルモルトウイスキーの人気が世界的に上昇しています。NHKの連続小説の影響もあるのかもしれませんが、ウイスキー市場が世界的に縮小傾向にあるなか、直近五年で一五%以上、消費の伸びがあるのはこの消費不振の時代に驚異的な数字でしょう。
◆アイラ島とは…
アイラ島は、Isle of Islayと表記され、Isle(アイル)は島を表し、IslayはEye-la(アイラ)と発音します。島の位置はグラスゴーの西120㎞、北アイルランドアントリム州から35㎞にあり、面積は日本の淡路島とほぼ同じです。大西洋に面していて、沖合いを流れるメキシコ暖流の影響で気候は温暖湿潤、年間気温の変動が小さい島で、1830年頃には人口1万5000人に達していましたが、現在は約3500人です。今も減少が続いていて過疎化が懸念されています。
最近は島の魅力である豊かな自然や歴史遺産、伝統の農業、漁業、ウイスキーを関連させた観光に力を入れているようです。
どのようにしてウイスキーの蒸溜が始まり、なぜ主要な生産地域になったのでしょうか。まず地理的にアイラ島はアイルランドに極めて近く、アイルランドから蒸溜の技術が早い時期に伝えられたといわれます。
そして、ウイスキー造りに必要な大麦、水、燃料のピートが容易に手に入ったことも大きいです。ピートとは水苔、水草、へザーなどが湿原に堆積し炭化したものです。アイラのピートは燃えると強い薬品のような香りのする煙を発生します。
◆ウイスキー製造は貧困農家の生活糧
また、これも地理的要因ですが、エジンバラやグラスゴーから極めて遠隔のアイラには、ウイスキーに対する課税が導入されてからも徴税官は不在。大量のウイスキーが密造されていたようです。貧しい農家が生きてゆく手段でもあり、アイラでのウイスキー密造はスコットランドの他の地方より長く19世紀半ばまで続いていきます。19世紀後半から盛んになったブレンデッドウイスキー用に、グラスゴーやエジンバラのブレンダーはアイラモルトを重用します。そのピーティー、スモーキーで力強い性格は、ブレンドの特色を出し、隠し味の素としても必須モルトであり続け、現在はその独特の個性が愛好家を増やしているのです。
作家の村上春樹さんもその一人。彼の著書「ぼくらの言葉がウイスキーであったなら」では、アイラウイスキーの魅力を美しい言葉と写真で綴っており、私の大好きな一冊です。
◆歯科医師おなじみの独特の香り
身体や心の疲れを感じた時にアロマオイルはもちろんですが、歯科医師である私たちは、お馴染の消毒薬独特のヨード香に、案外ほっとするかもしれません。
(早坂美都/広報・ホーム ページ部員/世田谷区)