きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑲ / “團菊祭”そしてバロナーク
5月といえば、歌舞伎や伝統芸能がお好きな方は團菊祭という言葉を思い浮かべるかもしれません。明治時代の歌舞伎役者九代目市川團十郎(いちかわ・だんじゅうろう)、五代目尾上菊五郎(ごだいめ/おのえ・きくごろう)、初代市川左團次(いちかわ・さだんじ)の三氏が築いたのが「團菊左時代」です。写実的な演出や史実に則した時代考証などで歌舞伎の近代化を図る一方、伝統的な江戸歌舞伎の荒事を整理して今日まで伝わる多くの形を決定。ともに歌舞伎を下世話な町人の娯楽から日本文化を代表する高尚な芸術の域にまで高めることに尽力した方々です。この九代目團十郎、五代目菊五郎の功績を顕彰すべく歌舞伎座が始めたのが「團菊祭」です。
現在では、市川團十郎さん(逝去後、海老蔵さん)と尾上菊五郎さんが出演する五月の歌舞伎を指しています。
故十二代目市川團十郎さんは、2001年日本ソムリエ協会の名誉ソムリエに就任しており、ことのほかワインがお好きでした。中でも、バロナーク(写真下)が好きで、ご子息の市川海老蔵さんの披露宴でもこの銘柄をお出ししたそうです。ボルドーの五大シャトーで有名な「シャトー・ムートン・ロートシルト」を所有するバロン・フィリップ・ロートシルト社が、アメリカの「オーパス・ワン」やチリの「アルマヴィーヴァ」に続き、選んだのがフランスのラングドック・ルーション地方のリムー地区でした。そこで、バロナークが作られるようになったのです。
フィリピーヌ・ドゥ・ロートシルト男爵夫人が歌舞伎に興味があり、故市川團十郎さんと出会い親交を深めてらっしゃったそうで、バロナークといえば團十郎さんのワインというイメージができました。
昨年の夏、ワイン研修のために、一週間ほどボルドーに滞在しました。そこで、ムートン・ロートシルトのシャトーをたずね、素晴らしい醸造設備に驚き、案内してくださるスタッフの方たちのホスピタリティーにも心温まりました。使っているブドウは、大西洋品種80%(メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニオン)地中海品種20%(シラー、マルベック)という比率です。
深みと輝きのある美しいルビー色。ブラックベリーやラズベリー、樽由来のトースト系の香りがします。ムートンは価格的もなかなか買えないのですが、バロナークでしたら、割と気軽に購入できます。醸造過程や樽熟成においても全く同じ方法がとられているので、味わいはムートンに負けないくらい濃くて、バランスがいいワインです。教養と知性にあふれた中世の騎士のイメージです。ワイングラスではなく、銅酒器で豪快に飲むようなそんな力強さも感じられます。
“五月病”という言葉があるくらい、疲れがでてくる季節です。江戸から伝わる荒事を楽しみながら、力強いワインを楽しむのも、明日の活力につながるかと思います。
(世田谷区/広報・ホームページ部員/早坂美都)