きき酒 いい酒 いい酒肴No.21
『「秋晴れ」「秋栄え」菊正宗』
◆神戸市西宮の宮水
残暑厳しい九月です。この季節ならではの「秋晴れ」もしくは「秋栄え」といわれる日本酒があります。春にできあがった新酒は、夏を越し、秋になって熟成し、まろやかな味と芳香を放つよい酒となります。神戸西宮の宮水を使った日本酒特有の仕上がりです。宮水は天保時代に発見された鉄分の少ない酒造りに適した硬水で、カルシウム、リン、カリウムを多量に含んでいるのが特長です。
この宮水は、西宮神社(戎神社)の東南の一地区に湧出する水で、六甲山に源を発する戎伏流と法安寺伏流との混合によってできています。先日、神戸の菊正宗酒造に行った際、宮水をいただきました。京都伏見の軟水と比較して硬水といわれますが、飲み口がやわらかく口中でふわりとした感触でした。
◆杉材を使った樽酒がおすすめ
たくさんの銘柄を作っている菊正宗酒造ですが、中でも樽酒がおすすめです。樽酒は清酒を杉樽に貯蔵することによって杉材由来の成分を清酒に付与したものであり、杉特有の香りを楽しむことができます。熟成した原酒(アルコール分19~20度)を72リットルの杉樽(赤味樽)に詰め、香りのよい飲み頃に取り出して濾過の後、割水して瓶詰をします。
歴史的にも古い樽酒ですが、近年、健康への関心が高まる中、植物の葉、種子、花、樹木などに人間の健康を増進する有効成分が存在することが明らかになりつつあり、有効成分を利用されてきています。森林浴やヒノキ風呂、漢方、アロマセラピーなどです。
樽酒の香り(樽香)には、さまざまな成分が含まれていますが、その中でもセドロールという成分は、アロマセラピーで用いられる精油中の有効成分として、リラクセーションやストレス軽滅などの作用が知られています。
漢方薬の薬効成分のひとつであるβ―オイデスモールは、胃酸を抑える効果があることが知られていますが、このβ―オイデスモールが、樽香に含まれていることが明らかとなりました。今西二郎博士(日本アロマセラピー学会名誉理事)によりますと、「森林浴も広い意味でのアロマセラピーの1つであり、森林浴では、植物が生産するフィトンチッドという成分の香りにより、リラクセーション、疲労回復を起こします。フィトンチッドは、さまざまな成分を含んでいますが、中でも重要な働きをしているのがセスキテルペンとよばれる一群の物質です。これらの物質にはセドロール、エレモール、オイデスモールといったさまざまな成分が含まれる」そうです。
菊正宗では、樽酒中の成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC―MS)で分析したところ、多くの種類のテルペン類が含まれることが確認されたそうです。
テルペンとは、樹木や植物に含まれる物質で、通常の清酒にはまったくみられませんので、これらは清酒を杉樽に貯蔵している間に樽から自然にしみだしたものということになります。
樽酒は、まさに都会での森林浴なのかも知れませんね。
(協会理事/早坂美都)