ここのところ、歯科関連の記事で目立つのは、子どもの歯をめぐる格差問題。2018年6月6日の「読売新聞(福岡版)」朝刊は「口腔崩壊3割の学校に」という記事を掲載した。長崎県保険医協会が昨年、小中高校と特別支援学校にアンケートを実施したところ、3割の学校が「口腔崩壊の子どもがいる」と回答。佐賀県や福岡県の調査でも、ほぼ同様の結果が出たという。
また、5月3日の「読売新聞(千葉版)」朝刊は「歯科治療放置の子52%」と報じた。公立小中学校と特別支援学校の歯科検診で要受診と診断された生徒のうち、52.5%が未受診だった。
重い虫歯が10本以上ある状態を「口腔崩壊」と呼ぶが、この言葉がメディアで一般的に使われ出したのは、そう古い話ではない。筆者が調べた限り、全国紙で「口腔崩壊」が最初に登場したのは2010年3月21日の「毎日新聞」朝刊。「口腔崩壊/子供の虫歯、貧困で悪化!?」という記事だった。「家庭が貧しくて虫歯の治療に行けず、かみ合わせが悪くなったり、歯が抜け落ちたりする子供の『口腔崩壊』が問題化している」と報じた。
ただ、以降、紙上でこの問題が積極的に取り上げられるようになったわけではなかった。たまに一部の新聞が報じる程度で、多くの世間の目が向けられるまでの影響力はなかったのである。
◆親のデンタルネグレクト
その流れが一気に変わったのは、2017年9月2日のことだった。「NHKニュースおはよう日本」の「けさのクローズアップ」のコーナーで、「子どもの歯に格差」というテーマを取り上げたのだ。虫歯がまったくない5歳児は61%いるのに、その一方で口腔崩壊を起こしている子どもが少なくないことがわかってきたという。
番組では福岡、広島、新潟各県の歯科医師や大学教授が登場。二極化する状況や、大学と連携した小学校のフッ素水によるうがいなどの取り組みが紹介された。
このNHK報道を境に、新聞も頻繁に子どもの口腔崩壊を取り上げるようになった。各紙とも、その原因の一番に挙げるのは「貧困」である。母子家庭で、子どもを歯科医院に連れていく余裕が時間的にも金銭的にもない。中には、健康保険証がないという家庭も。子どもが歯の痛みを訴えても、乳歯だからそのうち抜けるといった保護者のデンタルネグレクトも少なくなかった。
◆歯科医療界全体で具体策を
全日本民主医療機関連合会や東京歯科保険医協会をはじめとする21都府県の保険医協会の調査によって、子どもの口腔崩壊の実態が近年、急速に明らかになってきている。次の段階で取り組まなければならないのは、歯科医療界全体で具体的な対策を打ち出すことだ。子どもが歯の治療を受けられなかったために、将来被る不利益は小さくない。貧困によって歯の治療を躊躇するような状況は、何としても変えなければならないのである。
【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。