2018年7月6日、「毎日新聞(大阪版)」朝刊の「くらしナビ・ライフスタイル」のコーナーで「検診で『虫歯』親の過半放置」という記事が載った。ページの半分以上のスペースを使い、分量もかなり多い。なお、この日、東京版の同コーナーでは目黒女児虐待死に言及しながら、「『一日里親』子守る地域の挑戦」という記事を載せていた。
東京版、大阪版いずれも「子どもの命と健康をいかに守るか」がテーマだが、それぞれに特徴が出ていて興味深い。大阪版が今回の話題を扱ったのは、ひとつ入れたい情報があったからだと推察される。
それは、2013年度から歯科の調査をしていた大阪府歯科保険医協会が医科で組織する大阪府保険医協会と協力して、昨年末から今年初めに10万人規模の調査を実施したというニュースだ。初めて眼科、耳鼻科、内科、その他に対象を広げた。その結果、歯科だけでなく、眼科や耳鼻科でも学校検診で受診指示が出ても、多くが未受診だったという。
つまり、歯の問題だから軽く考えているというのではなく、なるべく医療にお金をかけたくない家庭が少なくない、ということだ。親の認識不足があるとしても、それ以前の問題として、貧困問題が重く深く横たわっているのである。
◆お金がなく治療中断
それは子どもの医療だけにとどまらない。成人の医療に関して貧困問題を取り上げたのは2018年5月24日の「東奥日報」朝刊だった。「経済的理由で患者治療中断/医・歯科医5割『ある』」という記事である。
青森県保険医協会が医科・歯科医療機関に対し、経済的理由と思われる患者の治療中断の有無を調査。5割が「ある」と回答した。中断したと思われる患者の病名は医科で多い順に高血圧症、糖尿病、脂質異常、精神疾患。歯科では、歯にかぶせ物や詰め物をする治療が最も多かったという。
青森協会は会見で「お金がないと言えないから治療を中断する」と述べた。
一方、週刊誌の場合、歯科と貧困を結びつけた記事は少ない。どうしても、「歯周病にどう対応すればいいか」といったハウツーものに偏りがちになる。だからといって、まったくないわけではない。
「サンデー毎日」の2016年4月3日号では「口の中から見える格差と貧困/子どもから老人まで広がる口腔崩壊って何だ!」という記事を掲載。冒頭で42歳の男性が20年ぶりに歯科診療所に駆け込んだ様子をレポート。奥歯は歯根だけが残っているような状態だったが、アルバイト生活で余裕がなく、歯科医にかかれなかった。生活保護受給を機に、やっと治療を始めることができたという。
歯科医療界だけでこうした問題に立ち向かうのは難しい。明らかに社会構造的な問題だからだ。といって、手をこまねいているわけにはいかない。垣根を越えて、知恵を出し合う時が来ている。
【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。