第12回 歯科矯正への保険適用今後の動向に注視を

◆訪問診療では医科歯科連携の認識深まる

2019年1月26日の「京都新聞」朝刊が「読者に応える」というコーナーで歯科矯正問題を扱っていた。2人の子を持つ母親から、歯並びの矯正になぜ医療保険が適用されないのかと、疑問が寄せられたのがきっかけだった。

小学校3年の長男が学校の歯科検診で矯正を勧められ、地元の歯科医を受診。検査料6万円余を支払った。そして、矯正の費用として27万円を提示され、母親はどうしたものいかと迷っていたのである。次男も歯並びが良くなく、さらなる費用が重圧となりそうだったからだ。

歯科矯正は、指定された疾患による噛み合わせの不具合を除くもので、大半が自由診療である。美容目的か治療かの線引きが難しいという点が、その理由になっている。だが、歯並びが悪いままだと、顎関節症を引き起こしたり、歯ブラシが届きにくい歯が虫歯や歯周病になりやすいこともわかっている。

若いうちに対策をとるのがベターなことは、いうまでもない。少なくとも、ある年齢までに治療すれば保険適用されるというルールを設けるべきだろう。ドイツや英国では18歳、フランスでは16歳までに歯科矯正を行えば、医療保険が適用される。

記事によると、山梨県では子を持つ女性や山梨県保険医協会が「保険適用拡大を願う会」を発足。県内の市町村議会に、子どもの歯科矯正への保険適用を求める意見書の採択を請願した。京都府でも、京都府歯科保険医協会や女性団体が同様の動きを見せているという。

これらは歯科医療関係者にとって歓迎すべき動きといえそうだが、前向きになれる記事をもうひとつ紹介しよう。

◆訪問診療における医科と歯科の連携

「日経ヘルスケア」2018年2月号で「医科・歯科・介護連携始めるなら今!」なる特集が組まれ、その中で「いいことずくめの歯科との連携」というリポートを9ページにわたって掲載。主に医科系の医師や病院に向けて書かれたもので、文字通り、歯科との連携を促す内容になっている。

現在、歯科系の診療科目を標榜する病院は約2割にすぎない。その一方で、歯科系診療科目のない病院のうち約8割は、外部の歯科医師の訪問診療を受け入れていた。つまり、一定程度、医科と歯科の連携は進んでいるともいえるのだが、記事はそれだけでは不十分だと主張する。

歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔機能管理の実施によって、入院期間の短縮、誤嚥性肺炎の予防、栄養状態の改善などにつながるという。さらに記事は、診療報酬・介護報酬改定で、歯科との連携に対する評価が拡充している点をメリットとして挙げる。

残念ながら、こうした連携によって歯科側が算定できる報酬はまだそれほど多くはない。

ただ、歯科へのニーズは確実に上向いている。この流れを歯科医療界として、しっかりつかむことが大切だ。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。