◆小児と同様に事故リスクが高い高齢者対策を
今回は、まず気になった事件記事を取り上げてみたい。
2017年7月、福岡県春日市の小児歯科医院で虫歯治療を受けた2歳の女児が死亡。今年、2019年3月7日に院長だった男性が業務上過失致死の疑いで書類送検されたと、各紙が報じた。治療後、痙攣を起こすなど、女児の容体が急変したにもかかわらず、適切な措置をしなかった疑いだという。
地元紙「西日本新聞」は3月8日の朝刊で、遺族の「何度も娘の異変を訴えたのに元院長は対応してくれなかった」というコメントを紹介。一方、元院長は「(急変は)治療による疲労と判断した」という。なお、死因は急性リドカイン中毒による低酸素脳症だった。
この事件に注目したのは、過去に同じ福岡県で同様の事故が起こっていたからだ。福岡市の小児歯科医院で2歳の女児が虫歯治療後に亡くなったのは2000年6月。やはり、麻酔によるショックが原因だった。
同医院では麻酔、研磨など、治療ごとに別の歯科医師が担当する分担医制を採用。この女児の治療に関わっていたのは、歯科医師ら6人。それに理事長を加え、7人が書類送検され、うち5人は不起訴。歯を削った歯科医師と理事長の2人が起訴された。
結局、歯科医師は無罪となったが、理事長に対しては「医師らを指導監督する義務を怠った」として罰金30万円の有罪判決が下った。当時の「朝日新聞」(2006年4月21日西部朝刊)は「医療行為をした医師が無罪で医療機関の責任者が有罪という異例の形」と報じている。
◆一次救命処置の重要性
いうまでもなく、判決がどうあろうと、患者の死亡事故はあってはならない。遺族の悲しみはあまりにも大きい。さらにいえば、歯科医師や医療機関側のダメージも小さくない。2000年の事故は判決まで、実に6年を要した。また、2016年に事故を起こした院長は五十代前半ながら、医院を閉院している。
近年、救命処置の重要性はより高まっている。前出の2例はいずれも幼児だったが、その一方で事故が起きやすい高齢患者の割合が増えているのだ。少なくとも、院内スタッフは誰もがBLS(一次救命処置)をできるようにしておくべきだろう。
◆雑誌の特集記事
最後に、雑誌の話題を。月2回発行の「プレジデント」が3月18日号で57ページにもわたる「歯医者のウラ側」という大特集を組んでいる。出版不況の中にあって、書店では売り切れが続出。久々のヒットとなった。
実は、約6年前にまったく同じ切り口の特集が別の雑誌で組まれている。「週刊ダイヤモンド」(2013年6月15日号)が「歯医者の裏側」という58ページの記事を掲載。サブタイトルも、ダイヤモンドが「もうダマされない!」。一方、プレジデントは「あなたは騙されていないか?大損していないか?」となっており、非常によく似ている。
次回は、こうした雑誌での歯科特集の軌跡をもう少し詳しく見てみたい。
【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。