映画紹介№32「ルーム~ROOM~」
「ママは17歳の時に学校の帰りに誘拐され」
「7年間、監禁されている」
映画はオーストリアのフリッツル監禁事件を基に描いた小説「部屋」を原作としたヒューマンドラマです。事件は、実の娘が18歳から24年間、父親に地下室に監禁され、肉体的、性的な暴力を受け、7人の子どもを出産。2008年に救出されたというものです。
「ぼく5歳になったよ。もう大きいよ」
映画は、監禁されている部屋で子ども産み、その子どもが五歳の誕生日を迎えたところから始まります。部屋にはトイレ、浴室、調理台、ベッド、クローゼットなど最低限の設備だけが用意されています。
「部屋の外は宇宙空間。TVの惑星と天国があるの」
「外に出ると死んでしまう」
子どもには母親だけがこの世界の住人だと教えてきましたが、もうごまかせない年齢になってきました。
外の世界を知らず、小さな暗い部屋で母親とTVの映像しか知りません。
「ドアの前で待つだけじゃ何も起こらない」
不思議の国のアリスの言葉に触発されて、逃げ出すことを決意します。
「あいつをだますの」
「モンテクリスト伯の脱出を真似するわ」
「死んだふりをするの」
「あいつは捨てる場所を探すわ。その前にトラックから転がって逃げ出す」
「そして最初に見た人に助けて!と叫ぶ」
そして脱出後、母子の世界は一変し、両親の離婚などの現実の変化に困惑し、新たな苦悩と再出発の日々が始まりました。
光に弱い目、弱い肌、雑菌免疫力低下のために、サングラス、日焼け止め、マスクを着用します。初めてのパンケーキ、初めての階段の昇り降りのリハも始まります。しかし、脱出して10日経っても、父親は犯人の産ませた子どもをまともに見ようとしません。押しかけるマスコミ、生活費のことなど想定していなかった問題が噴出してきます。
「ハッピーなはずなのに」
「ママは私の頭の中を知らない」
「ママが他人にはいつも優しくっていうから、あいつの犬を見に行ったのよ」
「どんな目で私を見る の?」
と、老いた母親を責めてしまいます。
マスコミは「子どもが大きくなった時、父親についてどう説明しますか」と質問してきます。
「部屋に帰ろうよ」
子どもが監禁されていた部屋を見たいといいます。
「これがあの部屋なの?」
「さようならイスさン、テーブルさん、ベッドさん」
「ママもお別れしてよ」
切ない心の高まりが流れる音楽でさらに高まります。
監禁ものの映画には、犯人の性格描写を克明に描いた映画「コレクター」などがありますが、この映画は脱出後の被害者の母子の苦悩、葛藤を描き、リハビリ、社会復帰を中心に人間の尊さを暖かく見つめます。
幸運を祈るお守りに、ママの抜けた歯を子どもが大事にしているのも面白いです。子どもの愛くるしい名演技に涙してしまいます。この作品で、主演女優のブリー・ラーソンは、アカデミー主演女優賞をとりました。
(協会理事/竹田正史)