LA PIEL QUE HABITO ~私が、生きる肌 ~

LA  PIEL  QUE  HABITO  ~私が、生きる肌 ~

2011年スペイン/ペドロ・アルモドバル監督

 

「火傷の患者にとって」

「命を救われる以上に」

「顔を持つことが、重要です」

「表情筋と顔面神経をつなぎます」

 この作品は、神聖なる医術と、狂気・傲慢な形成外科医が織りなす官能をミステリータッチで描いた鮮烈な映画です。

 舞台は情熱の国スペインの古都トレド。主人公は最先端のテクノロジーを駆使し、完璧な肌の開発研究に打ち込む天才形成外科医の男です。

 映画は、いくつかのエピソードから成り立っています。1つは、形成外科医の愛する妻が義理の弟とできてしまい、2人は駆け落ち、その途中で交通事故に遭い、全身火傷を被ってしまう。妻は死を免れたものの、焼けただれた自分の顔、からだに絶望し、自殺してしまいます。

 2つは自分の娘が男にレイプされ、娘はそのトラウマから抜け出せず、精神を病み、母と同様に自殺してしまいます。

 3つは形成外科医は娘をレイプした男を誘拐し、密室に幽閉し、膣形成、乳房形成、全身の皮膚移植などあらゆる性転換を施術し、女に変えてしまいます。

 そして、もう1つはこの女を自分の妻そっくりに形成施術し、その女への偏愛とエロスの世界に堕ちていきます。

「遺伝子導入で多くの病気が治せるし」

「異常も発見できる」

 遺伝情報操作は学会の倫理委員会で禁止されています。しかし狂人と化したこの形成外科医はあらゆるモラルをうち捨てて、この禁断の医術に身を染めていきます。

「僕に何をした?」

「膣形成だ」

「まだ膣の組織が柔らかく癒着しやすい」

 どのエピソードにも巨匠アルモドバル監督の美意識と激しいエロスに満ち溢れていて、目を離すことができません。

◆医師や医療者の暴走に警笛

 映画は医師や医療者が個人的な感情や性的欲望や金銭的欲望で暴走すると、手のつけられない怪物、万能の鬼神になってしまうことに警笛を発しています。

「私に満足?」

「わたしは、あなたの創造物」

 大きな屋敷。高い天井にはシュールなダリ、裸のマハ夫人の大きな絵画。殺風景な施術室。大画面の監視モニターにはマハを想わせるボディ・ストッキングの女の容姿。スペイン的なエロスとバイオレンス、退廃と官能の世界を鮮烈に演出しています。

 この美しい女性が、実は男だと分かった時のショックは突然パンチをくらったような衝激です。

 アントニオ・バンデランスの冷たい形成外科医。エレナ・アナヤの披露したボディ・ストッキングに包まれた肌と姿態。エンディング・ロールの二重螺旋DNAの怪しい動きは示唆に富み、脳裏に焼き付く映画です。

(竹田正史/協会理事)