映画紹介⑬「モネ・ゲーム Gambit」
【2012年米国・英国合作/マイケル・ホフマン監督】
「計画通り、すり替えた?」
「ああ絶対にバレないよ」
「ピカソも描けるの?」
舞台はイギリス・ロンドン、最高級のサボイホテル。主人公の男は美術の学芸員で鑑定士。自分の雇い主で思い込みと妄想癖の激しい美術コレクターには無能呼ばわりされています。
男はこの屈折した不快な感情を晴らすべく、雇主の所蔵する印象派の巨匠・モネの本物の絵「積みワラ」を贋作「積みワラ」とすり替えてしまうという設定のリベンジ映画です。
モネの「積みワラ」は1891年9月15日に完成しました。この題材の絵は「積み藁(夜明け)」と「積み藁(夕暮れ)」の2枚を描きました。「夜明け」の方はオークションを通して売却され、現在はこの男の雇主が所有しています。
一方、「夕暮れ」はパリの美術館に所有されました。1941年、ナチがこれを略奪し、ゲーリング総督の別荘、カリハルに飾られていました。
1945年に連合軍のパットン将軍がここを攻略し、テキサス州アルナゴ出身のブズナウスキー軍曹がこの絵を持ち出したといわれ、その後、絵は行方知れずになってしまいました。
男はテキサスに住む軍曹の娘、カウ・ガールと日本人絵画コレクターも仲間に入れて、この計画を実行します。
「1200万ドルといい切れ」
「絶対に譲歩するな」
贋作とは誰かが製作した絵画、彫刻、書物などの芸術品、工芸品などを模倣して作った物をいい、本物を知り尽くしてこそ、完璧な贋作ができあがります。
世の中、デジタル化が進み、切り貼り、コピー&ペースト・・・と、加工など容易にできる贋作・捏造の時代になってしまいました。騙されるほうが悪い風潮の嫌な世の中です。
「あなたは積み藁の夜明けの片割れだけをお持ちですが」
「夕暮れと両方をお持ちになっていれば、その価値はもっとが上がります」
と、巧みに収集欲を煽り立てます。
「これはモネのインパストの技法です」
「この指先を使った、いとも繊細なタッチ」
「本物に、間違いございません」
と、鑑定士は断言します。
しかし、もう1人の鑑定士は
「これは贋作です」
「インパストはモネの特徴だが」
「モネは重ね書きはしなかった」
思い込みの激しさから統合失調症が疑われるような性格の男は、1度、本物と鑑定されたものは、後ですり替えられたとしても、気がつくことはありません。人間が何かを信じ、思い込んだ時の病的な盲点をトリックに使った映画です。
映画は「泥棒貴族」のリメイクで、コリン・ファースとキャメロン・ディアスが演じ、素晴らしいモネの絵画を堪能できます。
贋作ものの映画には、オードリー・ヘップバーンの「おしゃれ泥棒」。 贋札ものの映画では「ヒトラーの贋札」などのすばらしい作品があります。
(協会理事/竹田正史)