映画紹介⑮「朝食、昼食、そして夕食~18COMIDAS~」
【2010年スペイン・アルゼンチン合作/ホルヘ・コイラ監督】
「あの音は何だ?」
「海老の唐揚げの音だ」
映画は18に及ぶ食卓を舞台に、誰にでもある「人生のひとコマ」を切り取った群像劇になっています。
舞台はスペイン。ガリシアの世界遺産の街、サンティアゴ・デ・コンポステーラ。
中年男2人がバルで朝から酔っ払って、山盛りいっぱいの海老の唐揚げを食べています。映画はこの2人の力強い朝食で始まり、昼食で盛り上がり、老人と若い恋人との切ない別れ話の夕食へとつながって行きます。
食卓では食欲と魂が開放され、運命と心が揺り動かされてしまうことがあります。
「朝からビール?」
若い妻は仕事に出かける夫に素っ気ない態度です。
「今日、仕事ある?」
若いカップルはベッドから這い出し、コーヒーをそそくさと飲み、バイトに飛び出していきます。
「朝食をする約束だよ」
脇役専門の男優は新しいテーブルクロスを窓ぎわに敷いて、トースト、生ハム、チェリー、コーヒーと恋人のために朝食の盛りつけをしています。
夫と息子を送り出したあと、若妻は手作りの昼食に昔の恋人を誘います。
「料理するの?」
「子どもがいるから仕方なく」
旦那は仕事、息子は学校。ふたりの昼食に緊張した空気が流れます。
八十を越えた老夫婦。部屋の隅の狭いテーブルで黙々と食べています。妻は夫の側で微笑んでいます。
「肉体美からして体育教師ならどう?」
「ゲイがバレるから?」
「あなたの夢をこの1週間見たの」
「旦那とは?」
「帰るなんていわないでくれ。最高のディナーを作るよ」
脇役男優は恋人のために夕食の準備を始めます。
「フルーツ・サラダは食べないの?」
「せっかく作ったのに」
「彼が兄さんのために料理したんだ」
「ワインを開けたよ」
「後は肉を焼くだけだ」
脇役男優は恋人にすぐ来るよう電話で催促します。
「あなたにとって奇妙で、変な女にうつるかも」
「兄さんには分からないだろうが、これが僕なんだ」
「何年も考え続けたんだ」
「僕は彼を愛している、だから彼を大切にする」
「1日中、考えていた」
「君が今朝ビールを飲んだわけを」
「数日、息子と旅に出たいの」
「いまテーブルに2人分のお皿を置いた」
「アルゼンチン風なパスタに」
「少々辛味のニンニクにオレガノ」
「君が息子とどこかに行きたいというのなら引き止めない」
「息子を愛しているし、今の生活が好きだ」
金持ち老人と若い恋人が高級レストランの夕食で別ればなしをしています。
「孤独で苦しむのは辛い」と弱音を吐いています
日常的な食卓の中で食べることについてなにかしら考えさせられ、なにかしら勇気づけられます。また、豪華な料理ではなく、ガリシアの人々が普段はどんなものを食べているのかよく分かります。
若妻のエスペランサ・ペドレーニョ、恋人ルイス・トサル、ゲイや脇役男優の熱のこもった昼食シーンは圧巻です。
(協会理事/竹田正史)