映画紹介⑲「アデル、ブルーは熱い色」
【2013年フランス/アブデラティフ・ケシシュ監督】
「ある男性が私には際立っ
て見えました」
「視線がその方に引き寄せられ」
「男性も私を特別な視線で
見ていました」
この映画は2013年の最大の問題作といわれ、映画史上にも残るであろと絶賛されている作品です。
舞台は冬も近いフランス北部の街。映画は朝寝坊し、路線バスに乗り遅れる高校生アデルの通学風景から始まります。
映画は「愛」と「実存」をテーマに、愛に興じるアデルとエマの物語となっています。国語の授業では、女性心裡を細かく描写した小説「アリアンヌの生涯」が輪読されています。
奔放なアデルの存在は心地よく、ほとばしるエマとの愛に心苦しむ姿には、瞬時も目が離せません。
アデルは堅実な父母のもと郊外の住宅街に住み、読書が大好きな文科系の高校2年生。団子鼻で前歯が2本飛出し、半開きの締まりのない顔立ちですが、ミロのビーナス風のギリシャ系美人です。クラスでは男の子に最も人気があり、1学年上の男子学生と寝てはみたものの、ただそれだけという物足りなさで長く続きません。
一方、エマは美術学校の四年生。青い髪を刈り上げ、まるで宝塚歌劇団の男役。前衛女流画家をめざしています。
「この個所をクレーヴ奥方と比べてみよう」「彼らの出会いが定められた運命だったことを考えてほしい」「誰かと偶然に出会い、自然に視線を交わすとき、ひとめぼれといってもよいが、どういう感情が生まれてくるだろうか?」と、国語の教師は生徒に問いかけます。
二人は偶然に出会い、アデルもレズビアンのエマにひと目惚れし、半生その愛に取りつかれてしまいます。
「女の方が好き?」
「男も女も両方とも試して
みた」
「やっぱ、女の方がいい」
映画はノーカット。途切れることなく愛し合う2人の激しいシーンをカメラが追っていきます。
「これ知っている?」
「サルトルよ」
「難しいけど、『汚れた手』 とか戯曲は好き」
「『実存主義とは何か』も必
読書だよ」
「人間は生まれ、存在し、 自らの行動を決定する動 物なんだ」
2人の環境は余りにも違います。エマの家では、食事は有名海鮮仲買から取り寄せた生牡蠣にワイン。アデルのほうは庶民的なパスタ。「好きなことを見つけるために大学に行くがいい」とするエマのインテリで富裕な両親に対して、職人的なアデルの父親は「絵で食べていくのは大変だ。芸術的な面もいいが、生活のためには堅実な職業につくことが大事だ」と、エマの芸術一辺倒に釘を刺します。
やがて、2人に破局が訪れます。
「いつからその男と寝てい
るの?」
「私をバカにして!」
アデルを演じるのはアデル・エグザルホプロス。エマは「マリー・アントワネットに別れを告げて」のレア・セドゥ。レズビアンの過激な描写が衝撃的、芸術的で、第68回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを獲得し、監督、主演女優2人にも同賞が贈られました。
(協会理事/竹田正史)